異世界転生おばさん「コツがあるのよ、コツが」不敵な笑顔でチート無双
「あら、どうも。ここ、貴方の家?」
昨晩飲みすぎたらしい。幻覚が見える。
こりゃ完全にまだ酔ってる。
見たこともない黒髪のおばさんが俺の家のリビング兼ダイニングで、勝手に茶を啜ってるなんてさ? あるわけないもんな?
「勝手に色々触って、ごめんなさいね」
――――現実かよ。
いや、今はそのツッコミじゃない。
今の俺が言うべきは……!
「あんた誰!? なんで勝手に入って来てんの!?」
そう! これだよ、これっ!
俺が決めゼリフを放った直後、おばさんは右頬に手を添えて首を傾げ、困ったように笑った。
「神様が、この家に住めって。あっ、自己紹介してなかったわね、武田 塔子です。福岡県出身で、ちょっと前にトラックに轢かれ死にました」
「タケ……? トラッ? 死……死人!?」
「あっ、違うわね。違う世界で死んで、ここに転生しました? って神様が言えって」
神様だと? は? いや、確かにこの世界は十柱の神によって作られ護られているが。稀に加護やレアなスキルを得たときには、神と対話出来るとも言われてはいるが、そんなの本当に一握りの人だけで…………この平凡そうなおばさんが? テロテロの白いシャツと、テロテロの長めのカーディガン、タイトな黒いズボン。なんかぽってりした感じの無害そうなおばさんが? いやいやまさか。これはあれだよ、あれ。詐欺だ。神それぞれに宗教とか何個もあるから、それの激しめの迷惑系勧誘――――。
「あ、神様からバルくんにスキル与えたって言われてたんだった!」
「俺の思考遮って何を言うかと思ったら、あははは! 悪徳宗教勧誘でもそれは流石に…………は?」
【NEW:異世界人の保護者】
ちょっと待ってくれ。
アホな嘘をつくおばさんだなぁとか思いつつ、念のためステータスを開いたら、俺のスキル一欄に意味がわからないスキルが増えていた。
「え、ナニコレ」
「バルくんにこの世界のこと色々教えてもらいなさいって」
「……俺、おばさんに名前教えてないよな?」
「ええ。バルトロでバルくんって呼んであげなさいって神様が」
「なぁ、その神様の名前って……」
嫌な予感しかしない。
「「マッスリオ神」」
「――様って言ってたかしら?」
声が重なった。
最悪だ。ほんと、最悪。
「で、あのムキムキおっさん、何だって?」
「バルくん、若くて将来有望だけど仲間がいないし丁度いいよって」
「あのなぁ、俺は仲間がいないんじゃなくて、ソロなの! ソロ! 分かる!?」
「あらあら、うふふふ」
おばさんが楽しそうに笑って、お茶を飲むかと聞いてきた。
「話聞けよ! あと、それ俺のだろ! 飲むっ!」
とりあえず、リビングでおばさんの向かい側に座って茶を飲んだ。
妙に美味かった。
「バルくん、朝ごはんはチキンサラダとミルクスープでいい? パンは何個?」
「ふぁぁぁぁぁ……んー、三個ぉ」
「まぁまぁ! そんな寝癖付けて……顔洗ってらっしゃい」
「ん……」
…………いや、まて。おかしいだろ! とか、三日前の俺なら言っていただろう。
数日前、俺は二十三歳になった。
友人たちと飲みながら、神に祈った。
それが定番だから。誕生日は神に祈る。もしかしたら、聞き届けて叶えてくれるかもしれないから。
『とにかく、衣食住のサポート出来るやつが欲しい。マジで、ダンジョン内で餓死しかけるの嫌だ! 硬い干肉も飽きた! かぁちゃんの温かいミルクスープとか飲みたい!』
友人たちに大爆笑された。
かぁちゃんって! と。
その翌日から────かぁちゃんレベルで俺の世話を焼くおばさんが家にいる。
一日目は盛大に拒否した。
警吏に突き出そうとしたが、受理拒否された。
そして、異世界人の保護者になったんなら、ちゃんと保護者をしろと怒られた。
その日の帰り道に、おばさんの服を買い、ついでにダンジョンに潜るための食材色々を買い揃え、台車を借りて持ち運ぼうとしたら、おばさんがストレージに全部入れた。
あらあら、便利ねぇ! なんて笑いながら。
ソレ、S級スキルなんだが? なんで持ってるの? ってか、他には何を持ってるの!? ねぇぇぇ!
で、俺は諦めた。
あと、おばさんの飯が美味かったから、飯係として雇っていると思うことにした。
三日経って、かぁちゃんレベルの対応になってるが。気にしたら負けだと思うことにした。
「今日はダンジョン連れて行ってくれるんでしょ?」
「おん、いふいふ。ふぉーこふぁんふぁ――」
「食べのも飲み込んでから話しなさい!」
「ごめん、かぁちゃ…………トーコさん」
くっそ! やらかした! ハッキリかぁちゃんって言っちまった!
おばさんは向かい側に座って、ニコニコしている。
「うふふふふ」
「きしょいぞ?」
「えー、息子と年齢変わんないし、かぁちゃんでいいわよ?」
「ぜってーヤダ! それより、ダンジョンの話だろ!」
昨日の夜に、食い扶持は自分で稼ぎたいが、どこか働き手を募集しているところはないだろうかと聞かれた。
このおばさん、神からありえないほどのスキルをもらっていやがっている。
こんなお人好しで警戒心のないおばさんだ。絶対に悪用しようとするやつに騙されて、悲惨な目に遭ってしまうこと間違いなし。
それなら、俺が依頼を受けてダンジョンに潜るときに荷物持ちとしてついてくるほうがマシなのでは? と考えた。
それに、荷物持ちしてもらうんだから、分け前はちゃんと払う。それが収入になるんじゃないか? と話すと、思いのほか食いつかれた。
今日は近くにある初心者向けのダンジョンで、ダンジョン内でのルールなどを教えていくつもりだ。
「ねぇねぇ、バルくんバルくん」
「二回も呼ぶなや。なに?」
「装備とかは、何かいらないの? 剣とか魔法の杖とか!」
「……初心者向けだし、今日は戦わねぇし要らねぇ」
魔法でバリア張れるから、初心者向けのところにいる魔獣程度なら全く問題ない。
取り合えず、俺の指示で動くことと、勝手な行動はしないよう約束させた。
「――――分かったか!?」
「はぁい」
おばさんが口を尖らせて渋々返事した。
全く可愛くない。
ただ、なんだか罪悪感はある。
「……胸当てと、盾は買ってやるから」
「ほんと!? やった! バルくんありがとう!」
このときの選択が、おばさんの命というか、俺の命を救うことになるとは、まだ知らない。
ふんふんとよくわからない鼻歌を口ずさみながら、おばさんは俺の後ろを歩いてくる。
初心者向けダンジョンに入って、下階層に向かうタイプと、上に向かうタイプがあると話す。
おばさんの世界にはダンジョンもなければ魔獣もいないらしい。ただ、ゲームとかアニメとかいう物語でなんとなくシステムが分かるらしく、すぐにダンジョンのことを理解した。
「あそこらへんに魔力溜まりがある。目を凝らして見ると、空間が歪んで見えるはずだ」
「あらほんと。モヤモヤしてるわねぇ」
とてとてと近付いて行って、魔力溜まりを触ろうとしたおばさんの首根っこを掴んだときだった。
魔力溜まりからヌッと出てくるホーンラビット。臆病で激弱だが、額に生えた角で突かれれば、大怪我をすることもあるし、刺さりどころが悪ければ死にも至る。
「ウィンドサ――――」
「あらまぁ、えいっ」
おばさんの周りに風の球体でバリアを張ろうとしていたが、おばさんが動くほうが少し早かった。
ダンジョンに来る途中で買ってやった、新人冒険者用の四十センチほどの丸い盾。
それを、ホーンラビットが出かかっている魔力溜まりに向けて「えいっ」と蓋をするかのように押し付けたら、ホーンラビットが押し戻され、魔力溜まりもバジュンと消えてしまった。
「……は?」
「あら、バルくんが言ったように、魔力って魔力同士でぶつけると消えるのね!」
「……………………は?」
確かに、昨日の夜だかに魔法や魔力について聞かれて、同程度の力で打ち消し合うことが出来ることは話した。
魔力を使う防御や攻撃は、相手より少し多めの量を瞬時に判断して使用する方がダンジョン内での活動が長く続くとも。
「いや、魔力溜まりの量を打ち消せるほど…………おば……トーコさん、魔力量聞いても?」
他人のステータスを聞くことはマナー違反なのだが、これは仕方がない。聞くべきだろう。
スキルは何も知らずにおばさんが勝手に話したためいくつかは知っているが……。
「MPよね?」
「あぁ」
「いち、じゅう、ひゃく……四十八万ね?」
「よんじゅ…………」
中堅の中でもかなり強い方だと言われてる俺で、五千だぞ? 四十八万って……。
「これ、年齢言ってるみたいで嫌なのよねぇ。増えないかしら?」
「おばさん四十八歳なの?」
「女性に年齢は聞かないのっ!」
「おばさんが最初に言ったし」
「トーコさんっ!」
「あ、ごめ…………って、そういう話じゃなくてさ!」
トーコさんいわく、なんとなく魔力溜まりの魔力量が分かったから、同じ量より少し多めの魔力で盾を包んで、体当たりのようにしてみた、ということだった。
「あの一瞬でか!?」
「うふふ、コツがあるのよ、コツが」
「いやいや……いやいやいや! ダンジョン初めてだろうが!」
怒ると、トーコさんが頬をぷくーっと膨らませて何やらプチプチ言い出した。
「もぉ、なに?」
「だって、私がケガしたらバルくんがケガするんだもん」
「……は?」
「保護者って、監督責任があるでしょ? 損害を発生させた保護対象者を監督すべき地位にある者が負う責任とか何とかムキムキの神様が言っていたわよ?」
慌てて、ステータスを開きスキル【異世界人の保護者】の詳細確認。
トーコさんがケガを負ったり、状態異常になった場合は、保護者である俺が肩代わりするらしい。
保護対象者がレベル20になれば、監督責任からは解放される、と…………。
盾、買っといてよかった。
「……え、めちゃくちゃ恐ろしく俺に損しかないんだけど? ってかなんでレベル20」
「二十歳が成人だからじゃない? そういえば、いいこともあるって言ってたわよ――――あら、可愛いわねぇ。エイッ」
「……いや、可愛いって言いながら消し飛ばすなよ」
さっき消した魔力溜まりから三十センチ横にズレたところに新たな魔力溜まりが出来始めていた。
そこから先程より小さなホーンラビットが顔を出してキョロキョロとしていた……のを、また盾で押し潰して消滅させていた。
「そうそう、私だけで倒してもバルくんにも経験値が割り振られるのと、私のMPとか魔法が使えるようにも出来るって言ってたわよ? えっと、確かね……ポチッとすればいいって」
「トーコさん、説明聞いてるようで聞いてない風なの、なんなの。ちゃんと聞いときなよ」
「ゲームの専門用語で説明されても、ちんぷんかんぷんなのよねぇ」
ステータスを開いて、何をポチッとしたのかと思えば、まさかの俺のステータスにトーコさんのMPと魔法一覧が表示されるようになっていた。
「マジで四十八万あんじゃねぇか。魔法は……なんで極大魔法とかまで網羅されてんだよ……これ、大魔法使いの魔法数だぞ。どうやって手に入れるんだよこれ……」
「コツがあるのよ、コツが」
何のコツかと問えば、ムキムキ神をノセるコツらしい。
「きゃーすごーい、ダブルバイセップスしてぇ! 最高ぉ、キレてるぅ! よっ、肩にメロン! って拍手してたら、色々くれたの」
ほほほほほって笑ってるが、結構腹黒いなこのおばさん。
てか、あのムキムキ神そんなにチョロいのかよ。
そして一番気になるのは、肩にメロン。なんだよそれ、意味わかんねぇすぎる。
「なぁ、ちょっとトーコさんのMP借りてやってみていいか?」
「いいわよぉ。だって私には使えないし」
「あ……」
そうだった。今日は別に戦闘しようとかじゃなくて、下級の魔物をみたりダンジョンの雰囲気を掴むために来たんだった。
「魔法の使い方教えてないもんな。帰ったら、簡単なやつから練習しょう」
「ありがとう、バルくん!」
さて、この先にフロアボスがいる開けたところがあるから、そこでちょっと試すか。
たぶん、スキルの権能に頼るタイプだから、俺がどっちを使いたいかを思い浮かべるだけで、魔法とMPが勝手に切り替わってくれるはずだ。
五分ほど歩き、フロアボスである中型スライムのいる広場へ。
「きゃぁぁぁ! スライムだわぁ! 可愛い! ほんとうにいるのねぇ。 ねぇねぇ、あの上で寝たら気持ちよさそうじゃない?」
「まぁ、ぷにぷにはしてるが、溶けるぞ?」
「酸性なのね……ちぇっ」
スライムは知っている、溶けるだけで性質を理解。
知ってることと知らないことにムラがあるな。どういう生活をしていたらこうなるんだ?
「じゃ、借りるぜ。MP使われて、気持ち悪くなったり、頭痛がしたりとかあったら教えてくれ」
「はーい」
まぁ、スライムなら核を撃ち抜くだけでいいだろうから、俺が持っていなくておばさんが持っているものというと……これか。
スライムの核を指差し、狙いを定める。
「神の代理者として悪意あるものを滅する、ホーリーアロウ、トリプル――――」
聖属性の詠唱って、マジで恥ずかしいんだよなぁ。
俺は使えないし、詠唱は誰かが使っていたのを聞いただけだったが、使おうと思ったら、脳内に浮かび上がり自然と詠唱出来た。
なるほど、使う側が慣れないと、脳みそ弄られているみたいで、気分が悪いなコレ。
ホーリーアロウはというと、三本の矢が金色の光を放ちながらクルクルと回転し、スライムのコアを見事に破壊。
俺が出すファイアーアロウより少し太く回転も早かった。これはトーコさんの魔力の多さなのか?
熟練度でも変わるが。そこは追々検証するしかないな。
「へぇぇぇ! なんちゃらかんちゃらで、ホーリーアロウ、っていうのね、もしかして数字ってクワドラプルとか、えーっとディカプリオ? あ、ディカプルか、で指差し、するのねっ!?」
さっきスライムがいた場所をトーコさんが指差しながらこちらを向いたが、声が出なかった。出せなかった。
本人が気付いていないのも、怖い。
差した指の周囲に、目に見えるかギリギリの小さな矢が四本出現し、ディカプルと言った瞬間にそれが十に分かれた。たぶん、あれ四十本ある。
あとはあれを射出すれば、自身から一メートル離れたところで実物大の矢になるはずだ。本人のイメージがそれくらいなら。
「トーコさん、キャンセルって言って」
「え? キャンセル?」
…………よかった、消えた。
あれが飛んでたら、ダンジョンの壁が壊れる。ただ壊れるだけならいいが、威力によっては壁を何枚も突き抜けたり、壁の向こうにいる他の冒険者さえも攻撃しかねない。
これは、本格的に魔法の使い方を教えないとまずい。
そして今ので分かった。トーコさんは詠唱破棄が出来る。
マジでなんなんだよ、このおばさん!
なんで出来るんだよ? って聞くと、どうせ『コツがあるのよ、コツが』とか適当吹かすんだろ?
マジで、俺これ、無事に来年の誕生日も迎えられるのか!?
明日ってか、今この瞬間から俺の人生に不安しかねぇぇぇぇ!
―― おわり? ――
最後までお付き合いありがとうございます!
ブクマや評価いただけますと、作者が大喜びで小躍りします(*´艸`*)
こちらの作品は、たなかくんハイパーくん(ややこしいなオイ)にタイトルいただきましたーヽ(=´▽`=)ノ
あんがとぉぉぉ!
たなかくんハイパーくんの作品は(ややこしいな②)くっころが好き☆
https://ncode.syosetu.com/n6621mg/
短編で読みやすいよ!




