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リセット  作者: 茉凛
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制服と、崩れた予定

鏡に映る着る予定のなかった制服の自分を睨んだ。全く食欲はなかったが、母はいつもの朝ごはんを食卓に並べた。

「いらないっていったじゃん。」

「なに言ってんのっ!初日なんだからしっかり食べていきなさい。」

私は、無でごはんと味噌汁を口の中に入れた。

「そうか、今日からだな学校は。」

父は、ソファーでコーヒーを飲みながら言った。

「そうなのよ。」

私が答える前に母が答えたので私は何も言わない。

「まぁ、まぁ梓気持ちは分かるが、意外と楽しいかもよ。ほら、最悪って思っていたらちょっといいことあったら普通より倍楽しく感じない?」

七つ年上の姉は、ジャケットを羽織ってもう会社に行く前という感じだった。

「入学式で最悪だと思ったの。もうだめなの。」


ちょうど三日前私は、行く予定のなかった高校の入学式に行っていた。同じ中学からこの高校にいく人は同じクラスには男子しかいない。よく少女漫画であるようなキラキラの高校生活が待っているという夢物語は少しも想像がつかない。私は今から3年間希望の大学に行くためだけに頑張る。別に友だちができなくてもいいかもしれない。そう思った。両親は、私が第一志望の高校に不合格し、第二希望の高校に合格したと聞いた時、別に悲しい顔などしなかった。むしろ、「お疲れ様。」と優しく背中をさすってくれた。それが余計につらかった。私がどこの高校に行こうと父と母はどうでもいいのだと感じた。姉の由紀はもっとひどく、私が第一志望の高校に落ちたと小さな声で言った時、お風呂上りにパックをして、アイスを食べながら、そして携帯の画面を見たまま10秒後位に

「お疲れ。でも、第二希望に受かったんじゃん?よかったよ。おめでとう。」

私が言ったタイミングも悪かったのかもしれないが、私は家族から関心がないのだと思い知った。私にとって第二希望はあくまで二番目で一番目でない。正直第一希望の浦田高校に落ちた理由がいまだにわからない。幼稚園から中学まで私はすべて受験をして入学した。。幼稚園の時は何をどんな風に話しかは、はっきりとは覚えていない。だけど、「梓ちゃん今から知らない大人の人と話すけどお行儀よくしていてね。」といつもよりおめかしした母に手を引かれていったのはぼんやりと覚えている。私は言われた通り行儀よくしていたら目の前の大人たちが鋭く、私の心を見透かすように見てきた。数カ月後に、真新しい新品の匂いのする紺色の服を母は私に笑顔で差し出してきたのも覚えている。何がどうやって受かったかはわからないが、それでも幼いながらに、その紺色の服を着て母に連れられて近所を歩くと、知らないおばさんたちが

「まぁ、あの三つ葉学園に通ってらっしゃるのね。」と買い物袋片手に母と私に微笑みかけてくるので、なんだかすごい事をしているみたいで嬉しかった。周りのクラスの子たちもスーパーでよく見るおもちゃコーナーで大声で駄々をこねるような下品な事をする子は一人もいなかった。みんな先生の言う事を聞いていた。小学校受験はもっと鮮明に覚えている。その時は父と母と三人でいつもよりきれいな恰好で試験に向かった。小学校受験は、試験の2か月位前から、よく母と面接の練習をした。その時、母はいつも褒めてくれた。私は母の笑う顔が見たくて面接の練習を頑張った。受験当日も「梓ちゃんならきっと大丈夫よ。」とやさしい笑顔で言ってくれた。仕事が忙しくあまり構ってもらえらかった父よりも私はどちらかというと母にべったりだった。でも父の事は嫌いではない。いつも穏やかな顔で話しかけてくれるからだ。その時父は、「梓緊張しなくていいからな。」と頭を撫でてくれた。ペーパーテストは楽勝だった。いつも幼稚園でやっている文字を書いたり小学校一年生レベルの算数の問題が出た。面接も母との練習通りの質問がメガネをかけたおばささんがしてきた。私はそれに上の歯がすべて見える位でも不自然でない笑顔で答えた。自信はあった。だって母が褒めてくれたから。予想通り私は、星川小学校に入学する事ができた。星川小学校も制服だった。白と紺のチェックの柄だった。制服はステータスだ。その制服を着て歩く事で自信が湧いた。私服に赤や黒のランドセルを着た小学生とは違う気がしていた。近所で買い物帰りにお隣のおばさんとたまたま会うと、「梓ちゃんはお勉強ができてお上品でうらやましいわ。うちの健司も見習ってほしいわ。」と高らかに笑いかけてきたとき、違う気がしたというのは、気ではなく確信に変わった。やはりそうなのだ。そこらへんの泥遊びや砂遊びをする子たちと一緒にしてもらっては困る。小学年も高学年になるころにはそんな風に感じていた。そして中学校受験。それまでとはやはりかなり違っていた。ペーパーテストは小学一年から六年までの学んだ事がまんべんなく出た。初めて受験対策という本を本屋で数冊買った。そして、「塾に通ってもいいのよ。」と母は言ってくれたが私は通うつもりはなかった。これまで幼稚園と小学校と受験を突破してきた確かな実績がある。私は自信に満ち溢れていた。それでも、油断はできなかった為、授業中は、無駄なおしゃべりなどはせず、少し黒板が見えにくい時は、前の席の人と席を変わってもらった。

「山川ってなんでそんなに勉強頑張るの?」

席を変わってもらった山田にそう言われた時、なんでなんて考えたこともなかったと気付いた。当たり前だったから。私は、その時、山田の目を見ずに

「行きたい中学があるの。」

と言った。

「へぇー。中学受験すんだな。すげー。頑張って!」

案外に山田っていいやつかもしれない。いつもは、昼休みになると真っ先に外に行ってドッチボールをしていって正直心の中で馬鹿にしていたが、素直に嬉しかった。だが、私は真顔のまま「ありがと。」と小さな声で言った。

それが小学校の時最初で最後に話した山田との会話の記憶だった。私は、学校が終わると、特に先生に問題の質問などがなければ早歩きで帰りの支度をしていた。放課後ぺちゃくちゃと話す組と塾に行く組に分かれていた。わたしは、そのどちらでもない。日頃授業を真面目に受けて、自分の分からないところを把握し、先生に質問する。そして家に帰ってみっちり復習して覚える。それすら習慣化すれば塾に行く必要などない。塾の先生に自分がどこが苦手なのか分析してもらう必要はない。だって、自分の事は自分が一番分かっているから。家に帰って、手を洗って、少し早めのご飯を食べる。母は私の栄養を考えていつもバランスの良い食事を用意してくれた。そして、すぐにお風呂に入り、上がると勉強を始めていた。気が付くと十二時というのは割と当たり前の事だった。でもあまりだらだらと勉強するのはかえって効率が悪いと思っていたので夜中の一時には寝る事にしていた。朝も一時間早起きして勉強をしていた。たかが中学受験と言われるかもしれないが、受験を突破してみせる事は私の生きがいになりつつあった。そうして迎えた中学校受験当日。忘れ物がないか何度も確認して、母と一緒に受験会場まで向かった。私の希望する橋本中学は面接が試験に含まれていなかった。母は、中学校の駐車場で待ってくれた。

「梓が頑張ってるのお母さんちゃんと知ってるわ。だから自信もってね。リラックス。」

そう背中を押してくれた。

結果は合格だった。そして成績は主席だった。

嬉しくて嬉しくて、ジャンプした。今日はごちそうね。母は私の好物のコロッケをたくさん作ってくれた。父と姉も喜んでくれた。私が頑張って結果を出すと家族が喜んでくれる。褒めてくれる。とても幸せな気持ちになった。

橋本中学校では、勉強だけでなく、学生生活にも積極的に参加した。中学一年から三年までクラスの委員長になった。生徒会長にも立候補しようかとも少し思ったが、そこまで目立ちたくはなかった。何より学生生活に力を入れすぎて勉強が疎かになるのが嫌だった。中学3年の時、担任の宮川先生に何度も「山川さんは生徒会長に立候補すべきよ。」と言われたが、私はその助言を受け入れる事はしなかった。クラスの委員長として、同じクラスの人たちに少し疎まれていたかもしれなかったが、そんな事はどうでもよかった。それでも、そんな私にいつも話しかけてくれるあゆみの事は大好きだった。あゆみは私とは正反対であまり勉強もしないし、学校行事にもそんなに積極的ではなかったが、それでもクラスでは成績は上位だったし、何より私の味方でいてくれた。中学三年生は親や先生に無条件で反抗したくなるお年頃だが、私は反抗などしようと思わなかった。それでもクラスの一部の人間は我慢する事なくむき出しに反抗する。そういう人間から私は特に嫌われていた。先生の言う事をきちんと聞くので、クラス委員の私は当然言うことを聞かない生徒を注意する。すると、休み時間に私に聞こえるか聞こえないかの声で私の悪口を言う。別に悲しくなどなかった。でもあゆみはそんな時、隣に座ってその声を遮るかのように、他愛もない会話をしてくれた。そこで「大丈夫?」とか「気にしなくていいんだよ。」とか言われるのは嫌だったので、何事もなく接してくれる事が嬉しかった。私の事をとてもよくわかってくれる子だった。そんな事で少し人間関係は一部はちょっと面倒なところもあったが、私はほぼ成績をトップで三年間過ごすことができた。もちろん受験対策は中学一年生から続けていたし、学校で受ける模試でも第一志望だった浦田高校は余裕でA判定だった。なのに、なのになんでなのだろう。もう、あの受験の日には戻れない。もう一度やり直せたら。そんな事を考えながら入学式に出席していた。希望の高校に行けなくて、家族の反応が思っていたのと違う事で、私はふつふつと家族を否定したくなった。今なら中学生の時反抗していたクラスメイトの気持ちがわかる。誰もわかってくれない。こんな気持ちだったのか。そのクラスメイトと今の私ならきっと友だちになれたかもしれない。私が通う羽目になった麻田高校は六クラスあった。まだクラス分けはされていなかったので名前順で席が割り振られていた。私は山川なので最後の方なのはわかっていた。席につくと緊張している子、明らかに高校デビューという感じの子、俯いている子、眠そうにしている子、色んな表情の子がいた。私はそのうちのどんな子なのだろうか。やる気がなさそうな子なのか。ボーっとそんな事を考えていた。五〇代位の女性の校長がありきたりな事を話す。

「新入生の皆さん。麻田高校にご入学おめでとうございます。並びに新入生のご両親の皆様本日はご出席ありがとうございます。そしてお子様のご入学おめでとうございます。私はこの麻田高校で新入生の皆様と出会えた事に感謝します。」

そんな事言って、校長なんて学校の生徒の顔なんて覚えやしないくせに。すると隣に座っている男子に声をかけられた。

「もしかして…山川?だよな?山川梓」

自分の名前を呼ばれてびくっとなった。もしかして中学生のクラスメイトかもしれない。麻田高校は偏差値は特に低くはないが、中学生の私を知っているクラスメイトなら少し驚くかもしれない。ばれたくない。私は、ひっそりと高校生活を過ごし、希望の大学に行くのだ。ここでかき乱されてはたまったものではない。そう思い、前も向いたまま何も答えなかった。

「絶対そうじゃん。久しぶりだな。俺だよ。俺。山田。小学校の時クラス一緒だっただろ。覚えてない?」

「えっ?」私は思わず声のする方を見た。

「ほらー。やっぱり山川じゃん。まさか同じ高校とは驚いたよ。でも知り合いがいてよかった。」

「あ…う、うん。」私はぎこちない返事をした。中学校のクラスメイトでなく予想外の登場人物に動揺した。三年ぶりに見た山田は、小学校の時の面影は少しあったが、声をきかなければ絶対に気づいていなかった。男子の三年間の成長ってこんなにもすごいのか。なんだか人間の生命力に私は感動した。山田は、逆になんで私に気づいたのだろう。私はあまり小学生の時と見た目が変わっていないという事なのか。

「いや、でも違ったらどうしようかと思ったよ。山川の唇を合わせる癖でもしかしてそうかもって思ったんだ。」

「そうなの?」私は小声で聞き返す。

「うん。やっぱ中学校三年間の成長ってすごいんだな。」同じことを考えていた山田を私は凝視してしまった。

「なに?なんか変な事言った?」山田は口角を上げて聞いてきた。というか、私の唇を合わせる癖ってなんだ。そんな癖自分にあるなんて知らなかった。

「まぁ、また今度ゆっくり話そうぜ。」そう言って、山田は姿勢を戻してまっすぐまだ終わらない校長の話を聞き始めた。なんだか気に食わない。なんでか分からないけど。


 「ねぇ、私って唇を合わせる癖ある?」台所でオレンジジュースをコップに注ぎながら母に聞く。

「え?そうかしらね…。あ~でも確かにそうね。その癖あるかもしれないわ梓。」

「あんたしょっちゅうそれやってんじゃん。」会社の飲み会帰りでちょっと酒臭い姉が会話に参入してきた。

「ほら、今も。」と指をさされて姉に言われた。

「でも、どうして?誰かに言われたの?」母は少し首をかしげて聞いてきた。

「う…ん。ちょっとね。確認したかっただけだから気にしないで。」そういうと、母はやさしい顔で頷いた。

「なになに~?もしかしてもう恋の予感?」

酒に酔って悪がらみしてくる姉には慣れている。私はそれには答えず手にもったオレンジジュースを手に自分の部屋に向かった。麻田高校の授業は月曜日からだからあと二日後からだ。この土日が永遠に終わらなければいいのに。二日間ずっと祈っていたが、こういう時こそあったゆう間に時間は過ぎて、月曜日の朝を迎える事となった。


 学校初日やはり私は憂うつな気持ちをぬぐえずにいた。麻田高校は家から自転車で約十五分程だ。第一志望の浦田高校はバス通学で約一時間ほどかかる予定だったから、唯一そこだけよかった思える点だ。あまり通学に長い時間をかけるのは好きではない。バスの中で勉強など時間を有効に使える点など利点もあるかもしれないが、私はバスの中で勉強すると気持ちが悪くなってしまう体質なので好きではない。麻田高校に行くまでの道のりでちょうど桜の木が満開で、信号待ちの時に桜の花びらが風で散ってゆく。こんなにも清々しく美しい桜とは正反対の私の憂うつな気持ち。はぁと小さくため息をつく。

「頭に花びらついてんぞ。」

声のする方を見ると二日ぶりの山田が居た。

「えっ?」自分の頭の上の触るとひらひらと一枚の桜のはなびらが自転車のかごの中に入っていった。

「おはよう。一緒に行こうぜ。」そう言うと山田は颯爽と自転車をこぎ始めた。私もそれに慌ててついていく。


学校の下駄箱に入るとすぐに廊下に紙が数枚張り出されていた。クラス分けのようだ。

「出てんじゃん。クラス分け。何組だろ。」ぼそりとつぶやく山田を横に私もそのクラス分けの紙で自分の名前を探す。山川梓。あった。一組のようだった。そのすぐ隣に山田慎吾の文字もあった。

「え、まじ同じクラスとかうけるな。」山田は鼻で笑って私を見た。

「まあ、まあこれも何かの縁ってことでよろしく!」ポンと肩をたたいてすたすたと山田は歩いて行った。私は急に触られて少し驚いて少しの間そこに立ちつくしてしまった。十メートル位歩いてついてこない私に気づいた山田は振り返った。

「何してんだ?授業は始まんぞ。」

「うん…。」私は小走りで山田の後を追いかける。まだ山田とまともな会話をしていない気がする。うんとそんな返事しかしていないが山田はあまり気にしていないようだ。


 「みなさんおはようございます!一組の担任となりました内田由美子と言います。初日で緊張して言う子もいると思うけどリラックスしてくださいね。どうぞよろしく。」四十代位のベテラン感がただよう女性教師が担任のようだった。パチパチと数人が拍手する。

「では、自己紹介をしましょうか。」と内田先生が言った。大体三十人位いるようで、男女比は半々位だった。後ろ姿で顔がまだ見えない子も数人いたが知り合いはやはり山田しかいないようだった。しかし、もう既にグループとやらはできつつあって早くも私は出遅れた感があったが、そもそもグループでつるむつもりはさらさらなかったので関係ない。別に仲良くなれなくてもいいが、勉強や学校生活に支障がでるいじめなどには遭いたくなかった。悲しいとかではなく、ただただ面倒くさいからだ。でもこの環境は私には好都合だと思った。希望の大学に行くために無駄なおしゃべりや人間関係からはずれて勉強に集中できると思った。頭の中でいかに三年間を効率的に無駄なく過ごすかぐるぐると考えていたらもうすぐ私の自己紹介の順番だ。

「山川梓です。初日で緊張していますがどうぞ一年間よろしくお願いします。」私は感情のない声と顔で当り障りのない挨拶をした。別に誰も特に目立った反応はしていない。ある意味ほっとした。

「山川さんよろしくね。」内田先生は一人ひとり自己紹介をするたびにその人の名前を読み上げて相槌をうった。

「それでは、最後になりますが、どうぞ。」内田先生が山田に挨拶をふる。がたっと椅子から立ち上がり、

「山田慎吾って言います。みんなと仲良くなれたらなって思います。よろしくお願いします。」さわやかな笑顔で挨拶をしていた。すると数名の女子がコソコソと「かっこいいね。」と言っていた。そうか。冷静に考えると山田はイケメンの部類なんだと改めて気付いた。もしかすると、今後山田はクラスの人気者的存在になるかもしれない。唯一の知り合いである山田とあまり話していると目立った女子から反感を買うかもしれない。そうすると私の平穏な高校生活はなくなり面倒な人間関係に巻き込まれる。困る。そうなってとても困る。高校受験だけでなく大学受験も失敗したときには本当にもう立ち直れない。今だってまだ立ち直ってはないのだから。という事はこのクラスでとりあえず一年間自分の勉強に集中できる学校生活を送るためには唯一の山田とはあまり話さないようにしたほうがいいのかもしれない。そう思って、ちらりと挨拶を終えて座った山田を見る。その視線にすぐ気づいた山田はこちらを見る。何も言わず首だけかしげてくる。私も何も言わず小さく首を横に振る。これは今日家に帰って早急にどうするか考えなければならない。そう思った。数少ない友人のあゆみの相談でもいいかもしれない。とりあえずまだ私の学校生活での過ごし方が定まってない今日という一日が無事に終わりますように。ぎゅっと目をつぶって祈った。


 「どうだった?梓初日は。」母が、学校から帰って部屋着に着替えた私にカフェオレを注いだコップを差し出して聞いてきた。

「ありがと。うん…。ちょっとまだわかんない。色々決めなきゃいけない事もあるし。」

母は、私の目を見て何か言いたげだったが、何も言わずに「そう。」と言った。深くは聞いてこなかった。

「知ってる子は居たの?」

「同じクラスに一応一人いた。小学校のクラスメイト。」

「小学校!?それは懐かしいわね。」

「まあねー。」私は鼻息を荒くしてコップに注がれたカフェオレを飲んだ。

「見えた。見えたよ。梓。」するとおそらく話の一部を聞いていた姉がリビングに入ってきた。

「あら。今日飲み会って言ってなかった?」

「うーん。ちょっと最近飲みすぎて胃が荒れてるからやっぱり断ってきた。そんな事より、私は見えたよ。」

「何が?」私と母の声が重なる。

姉は含み笑いをして口を開かない。私はあゆみに相談しようと思っていた事を思い出して部屋に戻る事にした。

「ちょちょちょ、まだ言ってないけど?」

「聞いても言わないじゃん。」たまにどっちが姉でどっちが妹かわからなくなる。姉を見ているとなんだかもっと楽に生きてもいいような気がするけど生まれ持った性格上無理だ。

「梓、その小学校のクラスメイト君と付き合うでしょう。」右手の人差し指を立てて言ってきた。

「はぁ?」私は何を姉が言っているのか全く理解できなかった。

「え?その小学校のクラスメイトって男の子なの?」母が目を大きくして聞いてきた。

「うん…。まあそうだけど。」私は何故か小さな声で答える。なんだかこれ以上ここにいても無意味な会話しか生まれない気がして、「ご飯できたら呼んで。」と言って二階の自分の部屋に行こうとする。

「楽しみだねー。これからのキラキラな高校生活。」と姉が言ってきたが何も答えずとりあえず部屋に向かった。部屋に入ってベットに座って考える。しかしなんで姉はクラスメイトが男子って分かったのだろう。姉はそういう変なところで勘が鋭いところがあるから油断できない。別に小学校のクラスメイトが男子という事実は隠さなくてもよかった事だが、特に聞かれもしなかったから言わなかっただけだ。そう言い聞かせる。スマホの画面であゆみのSNSのトーク画面を開く。

「聞いてほしい事がある。」五分後、すぐにあゆみから返事が来た。

「なに?てか梓今日学校初日だったっけ?」

「そう。その事。」

「何かあったの?」

「別に何かあったって訳じゃないけどさ、同じクラスに小学校のクラスメイトが居て。」

「うん。クラスメイトって男?」

「そう。」

「へぇー。いいじゃん。知り合い居て。」

「それはそうなんだけど、ちょっとさ五分で終わるから電話してもいい?」

「いいよー。ちょっと今帰り道だから家着いたらこっちから連絡する。」

「はーい。」

一五分後あゆみから着信があった。

「で、そのクラスメイト君となんかあったの?」あゆみは第一声で突っ込んできた。

「え?」私は思わず抜けた声で聞いた。

「だってそれしかないじゃん。」とあゆみは笑った。

 私はそれに答えず、

「それが、何かもしかして面倒な事になるかもしれないの。私はね、希望の大学に受かるためにそのためにこの高校生活を頑張ろうと思ってるんだけどね、そのクラスメイトしかクラスに知り合いいなくて、そいつと話してたらなんか目立った女子とかに目付けられそうで面倒だなって。」

「考えすぎじゃん。」あゆみはまた笑う。

「そうなの。考えすぎなのは分かったるけどそういう性格だから前から。」

「でもさ、なんでそのクラスメイトと話したりしてたら目を付けられるの?イケメンって事?」

「たぶん。」

「たぶんって何?」あゆみは声を大きくして笑う。

「ちょっとこっち真剣なんだけど。」私はちょっとむっとして答える。

「ごめんごめん。でもさ、とりあえず普通に過ごしてみたら。急に梓がそのクラスメイト避けたら逆になんか目立ちそうだし、他の男子と同じように接してみればいいよ。とりあえず最初の一カ月はそれでいこ。」あゆみはゆっくりとやさしく答えてくれた。

「わかった。」私は小さい子みたいに棒読みで言った。


 嫌でも翌日はやってきた。でもとりあえず一か月の学校での過ごし方の方針は決まった。私はもしあゆみに相談せずに今日を迎えていたらきっと山田を避けて逆に変に目立っていたと思った。普通に他のクラスメイトと同じように接すれば何も問題はないと言い聞かせる。学校に着くと、授業開始の一〇分前だった。まだちらほら席に空きはあり、それぞれが何人かで固まって話していてざわざわしていた。別に誰もこっちを見ていない。息を整えて、自分の席に向かう。山田はもうついていた。

「おはよっ。」山田は短く挨拶してきた。

「おはよう。」私も答える。私が席に着いたと同時位に女子の三人位が山田の席にやってきた。なんてタイミングが悪い。私はからまれないようにカバンの方に顔を向け教科書など机にしまう作業をした。

「ねぇー。山田君ってどこ中?」

「青葉中!」

「へぇー。」女子三人組は声をそろえて答える。

苦手だ。私が苦手とする人種の女子だ。一瞬で悟った。

「知り合いとかいないの?」髪が肩につく位のパッチリ二重の女子が聞く。まずい。山田頼むから私の名前は出さないで。そう祈った三秒もたたないうちに山田がこちらを見て

「こいつ同じ小学校のクラスメイト。」と言った。きっと山田は何も悪気なくただ聞かれた事に対して事実を言っただけだと分かっている。でもそれでもこの祈りが伝わってほしかったが無理だったようだ。

「そうなんだー。」声が聞こえてきた、そちらを見るか迷ったが、「普通に接すればいいよ。」というあゆみの言葉が頭をよぎってゆっくりと見上げる。女子三人組は私を上から下までゆっくりと嘗め回すようにじろじろと見てきた。何となくわかる。「こいつと山田君の関係性って何?」そんな声が聞こえてきたような気がして驚くが、やはり女子三人の口元は一人も動いていない。幻聴?少し自分が怖くなったが、あながちその言葉は今目の前の女子たちの頭の中に当てはまっていると思った。

「久しぶりに会ったんだよな。こいつ山川梓。」

「へぇー。」山田はその女子三人組が聞いてもいないのに勝手に私の自己紹介をした。ひぇー。私は思わず悲鳴を上げそうだった。でも何もここで言わないのはさすがに感じが悪すぎる為、

「よろしくお願いします。」と同級生に言う言葉遣いとは思えないような丁寧な口調で言った。

「うん。よろしくねー。」女子三人は意外とあっさりと答えてくれた。少しほっとしたが、あんまり目は笑っていないようにみえた。そのあとは、私の方を三人組は見る事なく矢継ぎ早に山田に質問していた。私が会話に参加する隙などなかった。

 「皆さん初日お疲れ様でした。緊張などで疲れた人も居ると思うのでゆっくり休んでまた明日からがんばりまようしょう。では、日直の方挨拶お願いします。」担任の内田先生が終礼で話すと、出席番号の最初の二名が「起立、ありがとうございました。」と言った。クラスメイトも声が揃っていなかったがバラバラと挨拶をした。なんとか学校生活初日が終わった。早いような遅いような一日だった。そういえばまだ山田と今朝挨拶と言えるレベルか分からないか話した女子三人組以外とまともに自己紹介などした人がいない事に気づく。普通だったら早く仲良くなれそうな女子を見つけなきゃと焦るだろうが、学校生活に楽しい思い出作りに私は来ていないのでどうでもよかった。でも何かあった時に質問とかできるくらいの知り合い程度の女子は必要かと思った。休みの日に遊んだりとかしなくていいから学校で少し話すくらいの子だ。山田以外に。終礼後のざわついた教室でボーッと考えていると、

「一緒に帰ろうぜ。山川。」と山田が言ってきた。別に構わないが二人で帰っているところを見られて変に誤解されるのはとても困る。

「いいけど、部活とかの説明会もう今日からあってるみたいだけどいいの?それに新しい友達とかとは話さなくていいの?」私はあくまで山田を気遣ったような事を言って遠回しに断ったつもりだった。私は山田からそうだな。という言葉を聞きたかったが、「いい。今日はもう帰る疲れた。」と即答した。もうこれ以上断る言葉も出てこず、「わかった。」と言った。誰も私たちが帰るところ見てませんように。私はそーっと存在感を消して教室を出た。特に今朝の三人組には見られたくなかったが、もう彼女たちの姿は教室にはなかった。自転車を押しながら校門まで早歩きで歩く。

「なんでそんなに急いでんの?」

「別に急いでなんかないけど。」山田より二メートル位距離がある事にそう言われて気付く。山田と一緒にいるところあまりクラスメイトに見られたくない。とはとても言えない。とりあえず校門まではいち早く出たかった。校門のところまで出ると後ろを振り返る。山田がゆっくりと自転車を押しながらこちらに向かって歩いていた。遅いっ!思わず声を出しそうになる。その私の気持ちを見かねたのか山田が自転車に乗って校門まで来た。「行くぞ。」そうやってあっという間に私を追い越していった。

「ちょっと待って。」私も自転車に乗って山田を追いかける。

「それにしても今朝の山川うけたわ。」自転車を漕ぎながら山田が言う。

「うけたって?」

「顔に苦手です。って書いてあったぞ。」

「だって、山田が話を私に振るから。」

「俺も苦手なんだよ。あーゆー女子。」

「うそ。にこにこしてたじゃん。」

「いや、笑うしかないだろ。不愛想にしたところでいい事ないし。まぁ、今度からも今朝の女子に話しかけられた時は山川にも話ふるから。」と山田は笑った。

「絶対やめて。」私は強めな声で言った。その後も他愛無い会話をしてそれぞれの家の方向に分かれる曲がり角まであっという間にきた。

「んじゃ、また明日な。」

「うん。また明日。」山田はぐんぐんと自転車を漕いでいった。私は山田の後ろ姿を何故か見届けて自分の道を方向へ体を向けて自転車のペダルを漕いだ。

 家に帰ってさっそく初日から出た現代文の課題をした。まだ授業という授業ではないが、油断はできない。しっかりと高校一年生の今の時期から分からないところ、苦手なところを見つけてつぶさなければいけない。母に夕食ができたと呼ばれるまでとても集中して机に向かった。

 二日目、三日目と代り映えのない同じような学校生活を過ごして授業が始まって最初の土日がやってきた。どんなにこの日を待ったことか。特に予定などなかったが何故か平日より早めに目が覚めてしまった。二度寝をしようと思ったが、なかなか寝付けず体を起こす。もう大分春を感じる季節になっていた。あゆみに連絡しようか、そう思ったが、あゆみはあゆみで新しい高校生活できっと友だちがもうできて遊びの約束しているかもしれない。そっとスマホの画面を閉じる。一階に降りると、ソファーで姉が仕事着のまま寝ていた。本当にだらしない。こんな社会人にはなりたくないと思った。いつからだろう。まだ幼い時は姉を尊敬する気持ちが大きかった気がするが、もしかするとこの年齢特有の家族を嫌がるという事象が私にも起こっているだけなのかもしれない。リビングのテレビをつける。姉が起きないように音量を下げる。そんな私の努力もむなしく「うーん。」という姉の唸り声が聞こえる。見ると目をこすって目が覚めたようだ。

「ちゃんとベットで寝なよ。」私は、姉に背を向けたまま言う。姉はまだ寝ぼけているのか私の投げかけには答えず、

「今何時~?」と腑抜けた声で言う。

「六時。」

「えっ~もうそんな時間~?」どうやら姉は夕方の六時だと思っているようだ。

「朝の六時。土曜の朝の六時だよ。」

「なんだもう~。」姉は足のつま先から腕まで精いっぱい伸びをしてようやく体を起こした。

「起きるの早いね。どっか出かけんの?」語尾があくびになりながら姉が聞いてきた。

「別になんもないけど目が覚めた。」

「そう~?」姉は聞いてきたくせにいかにも興味がないという感じだった。

「お風呂入って寝まーす。」少し体がよろつきながら洗面所に向かっていった。私は相変わらず姉に背を向けたままテレビを見た。土曜の朝のテレビはいつもの情報番組はほとんどなく、旅番組などが多かった。私は何も考えずボーッと次々にチャンネルを変える。

「もうすっかり季節も春になりましたね。本日の旅は桜がテーマになります。」今人気が上がりつつある女性タレントが朝から満面の笑みで言っていた。その女性タレントは桜が満開のスポットを巡りながら桜に合う和菓子を食べていた。それを見ているとひとりで今日は桜でも見に行こうかという気分になった。普段はインドアだが不思議とそう思えた。そんなことを考えていると急に眠気が戻ってきた。まだ少しだけ寒さが残る朝のリビングで少し縮こまってテーブルに顔をうずめる。少しだけ仮眠してお昼前には近くの公園にでも行こう。現実逃避しよう。公園に行くことが現実逃避になるのか不明だがそう思った。気付くと小さな掛布団が背中にかかっていた。少し寝るつもりが右のほほがじんじんと痛んだ。もしかしてかなり寝てしまったのかもしれない。リビングで。早朝の姉と同じような事をしてしまった事に少しため息をつく。まだ眠い目をこすりながら時計を見るとちょうど十二時の五分前だった。寝すぎた。確実に寝すぎてしまった。やはりまだ慣れない高校生活で疲れているのかもしれない。そう思いながらあたりを見回すが家族の姿はまだ誰も見当たらない。でも台所の方を見ると、母の姿は見えないが、つい先程まで人が居た気配は残っていた。かすかにいい匂いもただよっている。ゆっくりと立ち上がり、寝起きで口の中が乾燥していた。朝は牛乳を飲む事が私のルーティンである。朝というかもうお昼だが。台所の冷蔵庫を開けてコップに牛乳を注ぐ。すると庭でおそらく洗濯物を干していた母がリビングに入ってきた。

「あら、今起きたの?珍しいわね。お母さんが朝起きたらリビングに梓がいるからびっくりしたわ。」母はくすりと笑いながら台所で手を洗う。

「何か早く目が覚めたからリビングに降りたけど誰もいなくて退屈でテレビ見てたらいつの間にか寝てたみたい。」

私はまだ目が完全に冷めてないので、もごもごと答えた。

「朝ごはん食べる?それか今から昼ご飯作るけど?」母は、冷蔵庫の食材を見ながら聞いてきた。

「うーん。昼ご飯でいいや。ちょっと着替えてくる。」

「了解。お昼ご飯作るわね。」

母は、もうメニューは決まっているのかフライパンに油を注いでいた。私はジュ―ッと油がフライパンの上で少しはねるのを見た。

「チャーハン作るから。ほら着替えてらっしゃい。」

その場から動かない私を見て母が言う。

「はあい。」私は小さく返答して自分の部屋へと向かう。まだ少し外は寒さが残っているので着慣れた茶色のセーターに着替える。下にスキニーのパンツをはいてリビングへ向かうと食卓につややかなチャーハンが並べられていた。具には母の特性のチャーシューと細かく刻まれたネギと卵。それらを見ると先にお腹がぐーっと反応した。

「できたわよ。」母は、コップに麦茶を注いで言った。

「さっと顔だけ洗ってくる。」私は、少し小走りで洗面所に向かった。顔を拭きながらリギングに行くと既に母がテーブルに座っていた。「そういえば、お姉ちゃんはまだ寝てるのかしら。」母が、チャーハンを見ながら聞いてくる。

「今朝までリビングのソファーで寝てたみたい。私が朝降りたときちょうど目が覚めてお風呂に入ってたよ。」

「そう…。あの子もねー、そろそろ男の人の一人や二人くらい紹介にでも来てほしいんだけど。」母は独り言のように斜め上を見て言った。そういえば、姉は三年前に高校の時から付き合っていた彼氏と別れたきりおそらく男の人はできていない。ああみえて心は乙女でまだその当時の彼氏の事を引きづっているのだろうか。

「確かに心配だよね。妹の私でも心配になる事よくある。色んな意味で。」チャーハンをスプーンですくって言う。

「そういえば、お父さんはゴルフ?」

「そうよー。今日は三週間ぶりだとか言って張り切って行ったわ。」母は目を細めて言った。何だか落ち着く。やはり母と過ごす何でもないこの時間が好きだ。私は二口、三口とチャーハンを食べ進めていく。

「今日梓は何するの?新しいお友達とお出かけ?」きっと母は私にまだ友だちなんかできていない事わかっているはずだ。私が一人で公園に桜を見に行くといったら一緒に行くとでも言うだろうか。でも今日はちょっとなんかのんびり一人で過ごしたい気分だった。私は、口の中のチャーハンをゆっくりと食べるふりをして答えを考えていた。

「そう。新しい高校の子と約束があるの。」自分でも予想しなかった言葉がするりと自分の口から出てきて驚いた。

「そう。たのしんでらっしゃい。」母は、ゆっくりと答えたが、少し目が大きくなるのを私は見逃さなかった。やはり母も予想していなかったのだろう。チャーハンを一粒残らず食べて小さくご馳走様でした。と言う。食べ終わった食器を台所へ持っていきいかにも待ち合わせまで時間がないというような感じで洗面所に向かって歯を磨く。自分でもなんであんな嘘をついたか分からない。母に余計な心配をかけたくなかったのだろうか。母にはきっと嘘だとばれているのかもしれない。娘の嘘に気づいてもそれを信じたふりをしてくれる母はやさしい。歯を磨きながら、新しい高校の子と約束がある。という言葉を頭の中で繰り返し並べた。いくら考えても山田の顔しか思い浮かばない。でも会うすべなどない。連絡先など知らないし、学校からの分かれ道は知っているけどそこからどこらへんに住んでいるかなんて知りもしない。休みの日まで山田の事を思い出すなんて自分が自分でないような気がした。とりあえず母には人と会うという事にして公園に行こう。そう思った。口をゆすいで玄関まで向かう。

「遅くなるの?」母が台所から問いかけてきた。

「夕飯はうちで食べるから。」私は言った。

「了解―。」母が食器を洗いながら言った。

私は勢いよく玄関のドアを開けた。自転車で公園まで行こうかとも思ったが少しでも時間稼ぎのために歩いていくことにした。土曜のこの時間帯だからきっと家族連れも多いのだろうか。ちょっと憂うつな気持ちになりつつも今朝みた桜をイメージしながら少し目を閉じる。家から歩いて一〇分のところにれんげ公園はある。予想以上に早く着いてしまい、やはり自転車で来なくてよかったと思う。想像よりも人は少なくほっとした。元気そうに数人の子供たちが滑り台の周りを走り回っていた。桜の花は咲いていたが前日の雨のせいもあってもう地面に結構花びらが散ってしまっていた。それでも来てよかったと思った。スマホで桜の木に近づいて花びらを一枚とる。そういえば、学校初日頭の上に桜の花びらがついていたことを思い出す。そして同時に山田の顔も浮かんだ。なんでなんだ。なんだか自分が山田に恋してるみたいな感じでとても嫌な気分になった。きっとまだ高校生活で山田としかまともに接触していないからこうなっているだけだとブンブンと首を横に振る。近くのベンチに座る。何かお菓子でも持ってくればよかったな。いつもはインドアな為外での楽しい過ごし方など知るはずもなかった。時計を見るとまだ家を出て三十分も経っていない事に気づく。なんであんな嘘母にいったのだろうか。少し後悔した。やっぱ友だちがこれなくなったと言って家に帰ろうか。いや、そんな事したら母がきっと優しいけど悲しそうな顔をするのが頭に浮かんだ。あとなんだっけ。公園でする事なにがある。自分で自分に問いかけるがやはり何にもする事なんて浮かんでこない。一人でカフェにでも行ければいいが、公園は一人で行けるくせにお店などには行けないと思った。また小さくため息をつく。やはりあゆみに連絡してみようか。そう思いスマホを開くと誰かからメッセージが届いていた。山田からだった。

「今日って何してる?よかったらお茶でもしない?」これはどの山田からだろうか。でも友達追加していないユーザーからのメッセージと表示されている。いくら考えてもあの山田しか知り合いは居ない。何故か心臓がどきどきしている。誰もこちらなど見ていないのに顔を下に向けたまま目だけ周りを見渡す。深い深呼吸をしてその山田からのメッセージに返事をする。

「山田って山田慎吾だよね?」私はとりあえず分かっていたが念のため確認を取った。するとすぐに

「そうだよ(笑)」と笑っているスタンプと一緒に返事が来た。今からお茶はできるけど、というか夕方までの時間つぶしにはとてもとてもありがたいけど、家を出る前についた嘘が本当になりつつあることがとてもおもしろかった。携帯の画面に反射して微笑む自分の顔が映る。いやこれは決して山田と会えるから嬉しくて笑っているのではなく、ついた嘘が本当の事になりつつあることがおもしろいだけだ。すぐに口角を下げて冷静になる。もう答えは決まっていたが少しだけ返事するのを待って、

「いいよ。ちょうど今外に出かけてるから。」そう返事すると今度は着信がかかってきた。まさか電話がかかってくるとは思っていなかったので携帯を落としそうになった。

「もしもし。」私は小さな声で言った。

「もしもし山川?今どこいんの?俺も今外出ててさ。」

一人で公園に居るとはキャラじゃないし恥ずかしくて言いたくなかったので

「駅前の本屋。」と電話越しに答えた。

「了解。俺ちょっとコンビニ寄っていくからまた近くまで来たら言うな。」

「うん。分かった。」そう言って電話を切る。もともと山田と会う約束をしていたみたいに二人とも自然に会話をしている事に気づく。なんでだか不思議だった。まあでもとりあえず夕方までの時間つぶしができたと思った。

れんげ公園からたぶん駅前の本屋まで自転車で五分位だ。コンビニに山田は寄ると言っていたけど少し小走りで駅へ向かった。

 駅前の本屋について少し息を整える。別に山田から連絡があった時に本屋に居なくても近くで暇つぶしているとかいくらでも言い訳などできたはずなのに山田がつく前に本屋に居る事にしたかった。参考書のコーナーにゆっくりと向かった。山田と電話を切ってちょうど十五分過ぎくらいだった。まだ山田からの連絡はない。そういえば高校もまだ特に塾など通う予定などないからさすがに参考書位は数冊買っておくべきか。というか最初から今日は本屋に来ればよかったのか。そう思って棚に並べられた数学古文英語などいろんな参照書を見る。どれがいいのかさっぱり分からなかった。とりあえす「楽勝英語マスター」という安っぽい題名の参考書を手に取りパラパラとめくる。ます英語を生活に取り入れる事から始めましょう。最初のページにそう書いてあった。日常に取り入れるってここは日本だ。と一人で突っ込みながら読み進めていると、

「ごめん。待った?」という声が後ろから聞こえてきた。山田と分かっていたがゆっくりと後ろを振り向き

「ううん。参考書探してたから大丈夫。」少し目を泳がせてしまったのが自分でも分かったが、

「ならよかった。」と山田は笑った。

「やっぱり参考書のコーナーだと思ったよ。山川の事だから。多分今時の女子高生ならきっと雑誌のところにいるけどな。」

「悪かったわね。今時じゃなくて。」少し私はむっとして答える。

「嘘だよ。俺もちょうど参考書ほしいと思ってたんだけどどれがおすすめとかある?」山田が私の身長に合わせて少し背筋をかがめて近づいて聞いてきた。山田の顔が近づいてちょっとびくっとなった。

「いや、私もそんな参考書詳しくないから悩んでたの。」動揺しているのがバレないように参考書を指で辿って答える。

「へぇー。山川って塾とか言ってなかったからてっきり参考書とか買いまくって勉強してるのかと思ってた。小学校の時。あれ全部自分で勉強してあの成績だったの?ほんとスゲーな。」山田が真剣な顔をして褒めてきた。

「まあね。」私はまたすぐに目をそらしてまた参考書を探すふりをした。山田ってやっぱりというか完全に自然にモテルタイプの人間なんだとその時悟った。とても自然に純粋な気持ちで言ってくれていると顔と表情と言葉それが伝わる。羨ましくなった。私はどちらかというとあまり感情表現が上手くないほうだから教えてほしい位だった。そんな事を考えていると

「そういえばこの本屋のすぐそこのケーキ屋さんでもいい?お茶するところ。お昼は食べてる?」山田は私が心の中で山田の事を褒めているなんて思ってもいないように首をかしげて聞いてきた。

「うん。山田って甘いもの好きなんだ。」

「えー知らねえの。俺スイーツ男子だぜ?」山田は親指を自分に指さして言ってきた。

「知らないし。」私は苦笑いを浮かべて答えた。

私はとりあえず自分の直感を信じて二冊英語の参考書を買うことにして、レジに向かった。

「それ分かりやすかったら教えて。俺も買う。」

「いいよ。貸すから。」私は山田に顔は向けずに答えた。

「えー貸してくれんの。いいやつだなやっぱ山川は。」頷きながら山田は言う。だからなんでこんなに自然に人が喜ぶことを言えるのだろう。この後のお茶でどうやったらそうなれるのかぜひ聞いてみようかと思った。

店に入ると、ちょうど食後のデザートを求めてかカップルや親子でテーブルは埋まりつつあった。若い女性の店員に案内された席は窓際だった。メニューを開く。ショートケーキ、チョコレートケーキ、モンブラン、いちごのパフェ、抹茶のパフェたくさん種類があった。でもさっきチャーハンを食べたばかりで正直あまりお腹は減っていなかった。ドリンクのメニューのところに目をやる。ホットハニーラテにすることにした。

「私ケーキはいいや。飲み物だけで。」

「えー、まじか。俺は遠慮なくケーキセット頼むけどいい?」

山田は嬉しそうにメニューを見ながら言う。

そんな山田を少し可愛いと思った。自分の中に芽生えつつある微かな感情にその時もう既に気付いていた。でも気付かないふりをして浮かんだ感情をもみ消した。私は頭の中に浮かんだ感情を忘れるように聞いた。

「というかなんで私の連絡先知ってるの?」「あー。何か知り合いかもって設定画面のところに山川の名前があったからさ、いきなり連絡してごめん。」

「別にいいんだけど。」私は注文したハニーラテを息で冷まして一口ゆっくりと飲んだ。

「でも山川もどうせ暇してただろー?」山田はフォークでモンブランのクリームにゆっくりと切り込みを入れた。図星すぎて言葉が出ない。私は何も答えずハニーラテをもう一口飲んだ。

「でもほんとなんだかんだ山川と同じクラスでよかったよ。とりあえず高校生活うまくやっていけそう。ありがと。」山田はまっすぐした目で嘘偽りない笑顔で言ってきた。ずるい。山田はずるい。本当は私も嬉しいと言いたかったがうまく言葉が出ずに、

「こちらこそよろしく。」とぶっきらぼうに言ってしまった。それでも山田は嬉しそうにモンブランを口にはこんでいた。他愛もない会話を山田と続けて時計を見ると十六時をちょうどすぎた頃だった。

「もうこんな時間…。」私は独り言のように言った。

「ほんとだな。そろそろお店出るか。」山田はそう言ってかばんから財布を出した。

「いくらだろ。」私はテーブルの伝票に手を伸ばそうとしたけどその前に先に山田がその伝票を取った。

「俺が誘ったし、俺におごらせて。」山田は当たり前の事を言うみたいにさらりと言った。

「先にお店出てていいから。」山田はそういうとレジにスタスタと向かった。店の外で待ってるとすぐに山田が店から出てきた。

「今日はありがとな。急な誘いに乗ってくれて。また月曜からよろしく。」

「ううん。こちらこそおごってくれてありがと。」私は少し俯いて言った。山田と帰り道を分かれた後もさっきカフェで過ごした山田と過ごした時間の余韻に浸っている自分に気づいた。家に帰る前に気持ちの整理をつけたくてれんげ公園に寄って帰る事にした。お昼前とは少し薄暗くまた違う顔をしたれんげ公園がそこにあった。もうお昼滑り台の周りを走り回っていた子供たちも親の姿ももうなかった。ベンチに座る。この感情は抑えるべきだ。私はキラキラな甘酸っぱい恋の思い出を作るために高校に入学したのではない。あくまで高校生活は希望の大学に入って安定した会社に入社するというゴールの通過点に過ぎない。その通過点で失敗するわけにはいかない。きっとあゆみに言ったら、「恋愛しながら勉強すればよくない?」と言うはずだ。私はきっと器用にできないと思った。もしかすると自分は恋愛にのめりこむタイプかもしれないと思った。姉がそうだから。姉と血がつながっている以上その可能性も大いにある。きっと私もそうなのかもしれない。だからやっぱりこの感情は誰にも言わずに忘れよう。山田はただの小学校のクラスメイトで今はたまたま高校のクラスメイトなだけだ。それ以上でもそれ以下でもない。私は静かに目を閉じて決心する。ゆっくりと立ち上がって家に向かった。家を出る前に言った通り夕ご飯にちょうどいい時間になっていた。

「ただいまー。」私は何故か夜遅くまで遊んでいて怒られないかそわそわしている女子高生のように小さな声でいった。まだ十八時にもなっていないというのに。

「おかえりー。ちょうど今ご飯作ってるから。」母は家を出る前と変わらない台所の位置に立っていた。リビングに入るといい匂いが充満していた。

「お父さんとお姉ちゃんは?」

「お姉ちゃん一度起きてきたけどすぐまた寝たのよ。ちょっと様子見てきてくれる?お父さんはゴルフの後そのまま飲み会だってー。」少しあきれたような表情を母は浮かべて言った。私の家族は母と私がまともで父と姉は問題児だと思った。私は母の気持ちを悟ったというような目をして「わかった。」と言って二階の姉の部屋に行った。

「お姉ちゃん?いつまで寝てるの?もう夕方だよ?」コンコンと部屋をノックするも反応はない。部屋にカギはかかっていないようだった。

「入るよ?」私はそっと部屋のドアノブを回した。ベットがこんもりとしていて姉はまだぐっすり寝ているようだった。

「お姉ちゃん?ほら起きてー。」布団にくるまった姉の体をゆするが今朝と同じような「うーん」という唸り声が聞こえるだけだった。

「もうっ…」私は鼻息を荒くした。久しぶりに姉の部屋に入った気がした。小学生までは同じ部屋だったが、姉が高校生になった時に別々の部屋になってからお互いの部屋の事はあまり知らなかったからなんだか新鮮な気分になった。相変わらず起きない姉を横目にドレッサーの上のメモ書きに目をやる。

「どうして私じゃダメだったの。誰かおしえて。」黒いボールペンで書きなぐったように書いてあった。何かいけないようなものを見たような気がしてすぐに目をそらす。姉を見るがやはりまだ起きていないようだった。なんだか気まずくなって

「下に降りてるからねー。ご飯もうできるよ。」そう言って小走りで部屋を後にした。あのメモ書きはきっと数年前の彼氏の事だろうか。姉は何も考えてないふりをして本当は悩んでるのだろうか。頭の中で忙しくぐるぐると考えた。姉の知らない部分を見たようで心臓が高鳴った。たまたま見ただけだし私は悪くない。そう思うが何だか急に姉が心配になってきた。

「どうしたの?お姉ちゃんは?」私は困った顔をしていたようで母は心配そうに聞いてきた。

「まだ寝てたよ。でも多分そのうち降りてくると思う。」私は少し棒読みで答えた。

「じゃぁ先に食べてましょうか。」母はやさしくため息をして食器を並べた。今日の夕飯はハンバーグのようだった。大皿に乗ったサラダを取り分ける。

「そういえば今日はどこにお出かけしたの?」母が自然に聞いてきたもんだからうっかり「山田とお茶してた。」と口を滑らすところだった。きっと山田と言ってもその時点では女子の友達だと思われるかもしれなかったが、なんだか山田の事となると慎重になる。

「うん。駅前のケーキ屋さんでお茶してたよ。」

「あら、そうー。お母さんもあのお店気になってたの。今度行ってみようかしら。」

「うん。おいしかったよ。友だちはケーキセット頼んでたけどおいしそうだった。」

「あら、いいわね。」母は微笑んでサラダを口に運ぶ。別に母にならこの気持ち打ち明けてもいいのかもしれないと思ったが、ぎゅっと口をつぐむ。すると予想外に姉が二階から早く降りてきた。しかも割と顔は寝起きという感じでもなかった。

「ちょっと由紀―あなた寝すぎよー。せっかくのお休みなんだからお出かけとかしなさいよ。」

「うんー。でも休みの日は寝るに限るわー。」もしかして私がドレッサーのメモ書きを見たのバレているのかもしれないと一瞬思ったが、いつもの姉の返答に安心した。

 日曜日は珍しく家族みんなで外食した。最近市内にできたステーキ屋さんに行った。あっという間に日曜日は過ぎて次の月曜日あっという間にやってきた。六時にセットしたアラーム音ですぐに目が覚めた。

 目が覚めていつもの食卓を囲む。ボーッと牛乳とパンを交互に口に入れる。一昨日の土曜日浮かんだ山田への感情は忘れると決めた。私は勉強の為、自分の将来の為に学校に行く。呪文のように頭の中で繰り返す。

「いってきます。」私は玄関で台所に向かって言った。

「梓。お弁当忘れてる。」母が小走りで玄関までお弁当袋を持ってきてくれた。

「あぁ、ありがと。」私は短く言う。母を見るとなんだか心配そうな顔をしていた。それともいつも母は切なそうな顔をしている気がしてきた。私は母から差し出されたお弁当袋を通学バックにつめて改めていってきます。と言った。

「気を付けて。」母は語尾が少し掠れた声で言った。

 自転車を漕ぎながら今日も平和な一日で終わりますように。そう祈った。何故だろう。第一志望の高校に受かっていたらもっと気持ちよく学校に行けていたのだろうか。きっとそうだ。やっぱり第二志望の高校だからどこか通う事に後ろめたさがあってそう思うのだろう。嫌になる。やっぱり嫌だ。まだ数日しか高校生活は始まってないのにやっぱりうまくいかない気がしてきた。信号待ちの時、ふぅーと口から息をはく。そういえばここの信号待ちで初日は山田と会ったんだっけ。そう思った瞬間に今朝決心したはずなのに守れていない自分に嫌気がさす。また山田の事を思い出しているではないか。怖い。自分が怖くなった。ひょっとして私がいつもの自分と違うのは山田が居るからでないか。山田と同じ高校でまた同じクラスにならなかったらもっと勉強に集中できそうな感じだったのかな。違う。山田のせいではない。自分が受験に失敗したせいだ。朝から自分に嫌気がさして憂うつな気持ちは拭えないまま校門まで来た。下駄箱まで行くと先生たちが朝の挨拶を生徒たちにしていた。まだ先生の顔はまともに覚えていないが担任の姿は見当たらなかった。

「ほらー。スカート短いぞ。」見た目はあきらかに体育の先生らしき男の先生が女子生徒に言っていた。スカートを短くする理由は何だろうか。パンツを見せたいのだろうか。スカートが短い女子生徒に限って階段を上る時、スカートのすそを手で押さえてそしてやたら後ろを振り返って気にする。気にする位なら私位スカートひざ下にすればいいのに。

「えー。短くないし。普通じゃん。」注意されていた女子生徒はタメ口でその男性教師に言っていた。高校生にもなって敬語もろくに使えないのか。心の中であきれながら私は横目でそのやり取りを見て廊下を歩く。こんなに心の中で人をさげすんだりする自分はあまり好きでない。でもここにいる生徒たちと自分が同じだと思いたくなかった。違うと感じる事で心の平穏を保てているようなものだった。自分のプライドの高さに改めて気づく。

 教室に入ると、先週より教室はざわついていた。大きな声で話している生徒がちらほらと居た。私の知らないうちにすっかりクラスメイトはそれぞれで仲良しグループを作っていたようだ。私は自分の机にまっすぐと視線を向けて歩いた。私に話しかけるものは誰もいない。前の席に座る男子数人は先週の日曜日遊んだ話で盛り上がっていた。隣を見るが山田の姿はなかった。なんだかほっとした。山田が居ると予想外の事がいつも起こるから臨機応変に対応できずに困る。家に出る前にトイレは済ませたはずなのに急に尿意を感じた。授業が始まる十分前。まだ時間はある。私は小走りで女子トイレへと向かった。女子トイレはこの階には三つもあるがどこも混んでいるようだ。ついてない。私はわざわざ一番教室から遠いトイレまで来たのにそこのトイレも二人ほどトイレ待ちをしていたが時間も時間の為そこで用を済ませる事にした。

「山川さん?だよね?」後ろから声がするので振り返ると見たことがない女子が話しかけてきた。誰だろう。私は誰かと私を間違えているのかと思ったが私の名前を確かにその子は呼び掛けていた。私は当然その子の名前が分からず、

「えっと…。」と返答に困っていると

「同じクラスの麻田です。麻田美和。」その子は手を差し出してきた。これは握手をしようって意味なのか訳が分からずおそるおそる右手をそっと差し出した。その子はゆっくりと私の右手を触ってにっこりと笑った。そしてよろしくね。と続けて言った。

「よっ、よろしく。」私は明らかにコミュ障みたいな返事をしてしまった。きっと今の私をみてまさか中学校時代に学級委員とかするようなタイプの人間だとはだれも思わないだろう。

「どこのトイレも混んでるよねー。一番遠くまで来たのに結局並んでるし。でも山川さんと話してみたかったからよかった。」綺麗に磨かれた眼鏡越しにその子はこちらを見ながら言ってくる。同じことを考えていた。なんだか急に仲良くなれそうな気がした。クラスメイトに一人くらいは質問できそうな子をつくる。その目標が思ったより早く達成できそうで嬉しくなった。

「私も同じこと考えてた。」

「あっ、トイレ空いたよ。」その子は手でドアの方を指さして言った。

「あ、うん。またあとで。」私は手を軽く振ってトイレの中に入った。

急いで用を済ませて手を洗うけど声をかけてくれたさっきの子の姿は見当たらない。腕時計を見ると授業開始の五分前。教室から一番遠いトイレだと思い出して、小走りでトイレを後にする。廊下にはまだちらほらと生徒たちがおしゃべりを楽しそうにしていた。私は彼らの間をするすると通り抜け教室めがけて一直線に進んでいく。ちょうど教室の前まで来た時、ほとんどの生徒が席に座っていた。前から入ろうとも思ったが、目立ちたくなかった為後ろからそっと入った。ちょうどその時山田も後ろの入り口に入りかけていた。私はその後を追うように静かに教室に入っていった。私の存在に気づいた山田は

「おっさっそく遅刻か?」と笑いながら言ってきた。

「違うよ。トイレに行ってただけ。」手で早く前に行ってとジェスチャーしながら言った。前を見ると担任の内田先生はまだ少しざわついている教室を前に遠い目をして窓の外の景色を眺めていた。ちょうど席について一息もしないうちにチャイムが鳴る。それと同時に日直が「起立、礼」と言った。すると窓に目をやっていた先生も正面の机に立ち、

「皆さん、おはようございます。それでは出席を取ります。」とやはりベテラン感が漂いながら慣れたように言った。一人ひとり名前を呼んでいく。みんなそれぞれはい。と返事をしていく。途中で麻田美和さんと呼ぶ内田先生の声にびくっとなって、はい。と返事のする方を目で追う。声のする方は廊下側の前の方で私の席からはかなり遠い。気付かないはずだ。逆になぜあの子は私の存在を知ってい居たのだろうか。最初の自己紹介の挨拶の時だけで私の事を覚えていたのだろうか。だとしたら記憶力がずば抜けていいという事なのだろうか。いまいちあの子が私を知ったきっかけが分からなくて不思議な気持ちになる。もしかして山田の事が好きでそれで近くで話している私の事を知っていた、とか。また無意識に山田を関連付けていた。もうっと思わず大声を出しそうになってのどの直前でぐっと抑える。なんで山田と同じクラスなんだ。しかも隣の席。席替えはしないのか。せめて席くらい遠くになりたい。そう思った。そんな私の声が届いたのか内田先生が「さっそくですが、そろそろ席替えをしたいと思います。今日の放課後くじ引きで決めますのでみんな授業終わっても帰らないように。」すると教室の後ろの方から「今日予定あります先生―。」と女子生徒の声が聞こえてきた。すると内田先生はそんな対応にも動じず「すぐに終わりますから。」と小さな子にでも話しかけるように微笑んで「では朝礼終わります。」と言ってスタスタと教室を出て言った。やった。これで山田とは隣の席でなくなる。余計な事考えなくて済む。と思った。横目で山田を見るが、なんだかちょっと残念そうな顔をしていた。

「俺、結構この席気にいってたのになー。」独り言なのかそれとも私に言っているのかどっちか分からなかった。

「隣に山川もいるし。」私は聞こえてきた言葉が山田から発せられた言葉か疑いたくなったが山田の口からの言葉だった。どういう意味だろう。知り合いが居るから安心するって意味だよ。と心の中で冷静なもう一人の私が言ってきた。そうだ。それしかない。何期待しているのだろう、私は。その山田の独り言か私に言っているのか分からない発言に反応していいいのか分からなくて聞こえていないふりをして教科書を出したりした。すると、

「ざーんねん。」と言って私の頭に手を置いてポンポンとしてきた。私は咄嗟に山田を見るが、こちらは見ておらず教室の時計を見ていた。山田はどういう気持ちで私の頭を触ったのだろう。あれか。山田は典型的なモテルタイプだから別に意識していないのか。異性とか別に意識していないんだ。そうだ。そう思って高鳴る鼓動を落ち着かせようとするが、どんどん大きくなっているような気がして変な汗が出る。そうだ。私が男子に慣れていないだけなのかもしれない。今時の高校生は男女関係なくこんな風に接するのだ。私の目まぐるしい葛藤に山田は微塵も気づいていないようだった。逆に気づいてこの行動していたらプレーボーイ過ぎる。そのあと山田は何も言わずふらーっと教室を出て行った。トイレだろうか。そんな事はどうでもいいが。まだ頭に残った山田の手の感触が何だかこそばゆい。前髪を整えるふりをしてその感触を消そうと頭をこする。でもまだ残っていた。大きくて優しい手。でも今日の席替えで席が遠くなればこんなこともなくなるだろう。自分が望んだ席替えなのに少し寂しくなっている自分に気づく。私は気持ちを落ち着かせる為に水筒のお茶を飲んだ。

 学校が始まって最初の週に比べて今日は時間が過ぎるのがとても早く感じ、席替えがある放課後は案外と早くやってきた。日直が終礼の挨拶をして席替えの事を忘れてすぐに帰ろうとすうる準備をするクラスメイトがちらほらほらと居たが、放課後予定があると文句を言っていた女子が率先して「今日席替えだよー。」と呼び止めていた。真面目何だかどっちかわからないと思った。そんな事を考えていたらすぐに内田先生は教室にやってきた。手にはくじ引きをする箱のようなものをもっていた。てっきり生徒主導で席替えをしなければいけないと思っていたがこれなら本当にすぐに終わりそうな感じだった。内田先生は「では言っていた通り席替えするので出席番号早い順から紙を取りに来て下さい。」先生はそう言うと、用意していた模造紙を黒板に広げて磁石で止めていた。そこにはランダムに番号が振られていた。出席番号の最初の男子がガタっと席を立って黒板の前のくじ引きの箱の前までいく。するとみんな順序よくくじを引きに席を立っていた。みんながそれぞれ引いたくじが何番だったか席の近くの人と話しながら模造紙の番号と照らし合わせていた。

「これって明らかに俺ら不利だよな。残り物に福があるって事か。」

隣で山田が頭をかきながら小さく嘆いていた。

「そうだね。」

私はとりあえず山田の席から離れられば正直どこでもよかった。でも授業に集中できそうな前の席ができればいいなと思った。私の前の前の席の女子が席を立って私もくじ引きを引きに前までむかう。神様どうか山田と席が遠くなってもうあの感情が忘れますように。一瞬目をつむって手をくじの中に突っ込む。当然手には二枚の紙の感触しかなく、その内の一枚を手に取る。山田はこの紙しか選択肢はないのか。なんだか少し気の毒で後ろを見るも、山田は早くといった表情でこちらを見ていた。すぐにどいてくじの番号はまだ見ずに席に戻る。

「では、みんな自分の番号のところに移動してくださいね。もし目が悪いとかでどうしても席が前がいいとかあればそれぞれで話し合って変わってもらっていいですから。それでは席替え終わります。」先生はそう言うと黒板の前の席で何か作業をし始めた。「最悪だよ。俺一番前の席だよー。」「いえーい。うっしろー。」それぞれがガタガタと机と椅子を運びながら移動し始めた。私の席は前らへんと祈ったのもむなしく真ん中の列の真ん中らへんという教室の中心らへんの席だった。何とも微妙な席である。山田はどこの席だったのだろう。ちらりと横を見るが、山田はじっとくじ引きの紙を見ていた。

「うける。この席だわ俺。」山田は鼻でふっと笑いながら私に言ってきた。

「よかったね。」私は机と椅子を持ち上げながら言った。どうやら山田とはそんなに遠くではないけど今よりかは大分離れた席になれたようだった。ほっとした気持ちになった。これで明日からもっと大学受験に合格するという目標に向かって集中できる。本来の私に戻れる。机と椅子を運び終わると私の前の席は麻田さんのようだった。まだ彼女は私が後ろだと気付いておらず帰りの準備をしていた。声をかけるべきか迷った。でもなんて声をかけよう。奇遇だね。とかだろうか。席前後になれて嬉しい、これからよろしくね。とかだろうか。私も山田みたいに器用に愛想よく答えられたらどんなにいいだろうか。私は無意識に後ろの山田の方を見ていた。山田は何かボーっとした表情をしていた。その顔をみてようやく我に返る。とりあえず今日はもう帰ろう。そう思い前を振り向くと麻田さんはかばんを抱えてこちらを見ていた

「まさか後ろの席が山川さんだなんて!よろしくー。」

麻田さんは微笑みながら近づいてきた。

「私もびっくりしたよ。こちらこそよろしくね。」意外とすんなりと愛想の良い言葉が自分の口からするりと出てきて驚く。元々自分は学級委員長などしていたことを思い出す。こんな簡単な挨拶など自分は楽勝にできていた中学時代が頭をよぎる。いいぞ。この調子。高校受験に失敗してなんだか自信を失いつつあったけど、クラスメイトに挨拶ができる知り合いを作る事なんて余裕だ。

「よかったら途中まで一緒に帰らない?」麻田んさんは言う。

「もちろん!帰ろうー。」

するりするりと出てくる言葉になんだか感動した。よかった。やっぱり私が変だったのは山田が近くにいたからだ。そう思った。私は麻田さんと今日一日の事を話しながらゆっくりと校門まで歩いた。どうやら帰る道も途中までかなり一緒のようだった。

「とゆうかなんて呼べばいい?中学校の時とかは友だちになんて呼ばれてた?山ちゃん?あずあずとか?」

麻田さんはどう見ても私のキャラじゃないような明るい陽気なキャラクターのような呼び名を例にあげた。私は思わず吹き出してしまった。

「え?なんか変な事いった?」

麻田さんは本当に気付いていないような不思議な顔をした。私は中学校時代あゆみ以外のほとんどに山川さんか山川と言われていた。あゆみだけが梓と呼んでくれていた。ここはあえて山ちゃんって言われていたという方がおもしろそうだと一瞬思った。でも本当に一瞬思ってすぐに消えた。梓って呼んで。というのも何だか腑に落ちない。麻田さんと正直そこまで仲良くなりたいと思っているわけではないからだ。私は学校ですれ違った時や授業の合間の休み時間に気休めに話す位の相手が欲しいだけだからだ。

「中学校の時は山川さんとかだったかなー。」私はくだけた感じで答えた。そのくだけた感じが逆効果だったのか「そうなんだ…。」といって何故か麻田さんは黙った。何か勘違いされているのか。もしかして中学校時代は一人も友だちがいなかった可哀想な奴みたいな感じだろうか。それはそれでなんか嫌だと思った。ほとんど合っているがそれでもあゆみはいたし。でもここであゆみの事を話すのも違う気がする。

「私は何て呼べばいいかな?」私はわざと大げさに動いて聞いた。

「私はみーちゃんって呼ばれてた。」麻田さんは眼鏡を少しずらしながら答えた。全く想像できない。私が麻田さんをみーちゃんと呼んでいる光景を。頭の中で想像してみたが何かの劇かショートコントにしか見えなかった。「へぇー。そうなんだ。」私はみーちゃんって呼ぶね。と言えずにただの相槌しか返答できなかった。しばらく無言が続いた。

「そっ、そういえば今朝トイレで私の事覚えてくれたのって何で?席も遠かったし!めちゃめちゃ記憶力いいとか?」私はこの微妙な空気を変えたくて言う。すると何かすぐに言うのをためらっている感じがした。私が質問して一〇秒後位にこちらを見て、

「実はね、梓ちゃんの隣の席だった山田君っているでしょ?山田君幼稚園の時同じクラスでよく遊んでたの。」

「幼稚園!?」私はまさか山田と麻田さんが幼稚園の同級生と予想外すぎる事実に驚いた。とゆうか幼稚園の同級生を覚えている麻田さんはやはり相当記憶力がいいのだと思った。私の顔と名前を覚える事など簡単な事なのだろう。それとも山田に特別な感情を抱いているかのどちらかなのだろうか。幼稚園の同級生と言う事は私と山田より知り合い歴は長いとう事か。

「へぇー。すごいね。幼稚園ぶりに会ったの?」私は少し大げさに驚いて言った。

「うん。そうなの。でも向こうは私の事覚えてないみたい。」麻田さんは少し目を伏せて言う。

「じゃぁ、その幼稚園の同級生の隣に居たのが私で覚えてくれたって事?」私は首をかしげて聞く。

「確かにそれで梓ちゃんの事覚えてたのもあるけど話してみたいなーって直感で思ったから覚えてたの。」

麻田さんは嘘か本当か分からない事を言ってきた。でも表情を見てもどちらなのか読み取れなかった。私は麻田さんの顔の中心を見て「ありがとう。」と言った。何のありがとうか自分でも分からなかった。結局お互いの呼び名をなんて呼ぶことは決めずにそれぞれの道へ帰った。麻田さんと別れの挨拶をしてしばらく経って麻田さんが私の事を「梓ちゃん。」と呼んでいたことに気づく。私も美和ちゃんと呼べばいいのだろうか。何だかまだよくも知らない子と一緒に途中まで帰るという重労働をした私は肩こりを感じて首をひねる。

 席替えをして一か月がちょうど経った。あれから一か月経ったとは、時の流れの速さにぞっとする。桜の花びらもすっかり散って、学校の庭の木には緑の葉っぱがつき始めた。席替えをして以来、前ほど山田とは話さなくなった。それでもすれ違った時に山田は話しかけてくる。「数学の課題むずくなかった?」とか「掃除当番ってあれどうやって決めてんのかな?」とか当り障りのない会話だ。私はそれに普通に答える。山田からは以前休みの日に食事に誘われたがそれ以来特に誘われることはなかった。山田もきっと唯一の知り合いの私がたまたま同じクラスでたまたま隣の席だったから話しかけていただけだ。分かっていたのになんだかいい気分はしなかった。麻田さんとはお互いに下の名前でちゃん付けして呼び合っている。でも麻田さんは常に一緒に無駄に行動したがる女子ではないようで、そんなにべたべたした距離感でなくてほっとしている。私が求めていた関係性を向こうも欲しているのかもしれない。麻田さんと山田が話しているところは私が見ていないだけかもしれないが、一か月経った今でもまだ一度も見かけたことはない。その日いつものように終礼が終わり、帰りの準備を颯爽と済ませた。麻田さんはいつも私と一緒に帰ろうと誘ってくることはしなかった。「また明日ね。」と言われる事もあれば、「今日一緒に帰らない?」と誘ってくれることもある。今日はどうやら誘ってこない日らしく、少し急ぎ気味で私に「お疲れ、また明日。」と言って駆け足で教室を出て行っていた。私は頷いて手を振り麻田さんの後ろ姿を見送った。私もかばんに教科書をつめて教室を後にした。学校の駐輪場に行くと、山田の姿がそこにあった。私はすぐに山田の存在に気づいたが、何も言わず自転車のカギを開けた。その音に気づいたのか

「山川じゃん。ちょうどいい。一緒に帰ろうぜー。」と言って近づいてきた。私は声は出さず普通の顔で頷いた。

「もう大分慣れた?」山田はまっすぐ見ながら聞いてきた。

「そうだね。クラスの雰囲気には慣れたかな。」

「俺もぼちぼちだなー。」

「でも友達たくさんできてそうじゃん。楽しいでしょ、学校。」

私は休み時間や廊下で男子数人あるいは女子と笑顔で話している姿を何度も見かけていた。

「そうでもないぞー。普通。」

山田は頭をかきながら面倒くさそうに言った。

「そういえば、麻田さんって知ってる?」

「麻田さん?誰?」

私は何故か麻田さんの話題を出してしまった。

口にした後にあれから麻田さんの口から山田の事は一度も話題に出てこなかったことを思い出す。何でもないと言えばよかったものの、

「山田の事知ってるみたいよ。幼稚園の同級生とか。」と頼まれてもいないのにペラペラと話してしまった。

「幼稚園…?!誰だろ同じクラス?」山田は斜め上を見ながら言う。

「そう。私の前の席の眼鏡かけた子。」

「麻田なにさん?」

「麻田美和さん。」

「アサダミワ…」山田は宇宙人みたいに片言で言う。私は思わず鼻で笑う。

「えー、幼稚園かぁー。覚えてないなー。」

「よく山田と遊んでたって。」

「ちょっと親に聞いてみる。」

「うん。」

もしかして余計なことをしてしまったかもしれないと思ったが思ったところでもう話してしまったし遅い。もし麻田さんに勝手に話したことを問い詰められたら素直にごめん。と言おう。麻田さんが私に怒るイメージは少しも湧かないためそう思った。


 家に帰ると、珍しく母はソファーで横になっていた。

「おかえり。梓。ちょっとお母さん頭が痛くてね。ご飯今日出前でもいい?」

「うん。出前じゃなくてもスーパーとかで何か買ってこよっか?」

「そうねー。どっちがいいかしら。でもこれからスーパーとなるとまた時間もかかるし、今日に限ってお父さんもお姉ちゃんも家で食べるって今朝言ってたから出前にしましょ。」

母は時折咳もしながら小さな声で言った。

「大丈夫?病院は?薬は飲んだ?」

私は母に近づき言う。

「昼過ぎに具合良くなったから油断して病院行かなかったの。そしたら15時過ぎに急にまた頭が痛くなって病院は行けてないの。家にあった鎮痛剤なら飲んだわ。」母は目を閉じたまま言った。

「わかった。無理はしないでね。寝室でもう寝てきなよ。」

私は母の体を優しく触って言う。

「いいの?」

「もちろん。家事とかやっとくから寝てきて。」

私は、出前の寿司やピザなどのちらしがないか電話の下の棚を漁る。

「ちらしならテレビの上の棚にあるから。」

母は重そうに体を抱えて、二階に上がった。

「わかったー。」

私は二階にゆっくりとあがる母を横目で見て探す。寿司のちらしが先に出てきたが値段に目がいってなかなか手を伸ばそうと思わなかった。とりあえず父とは姉が何時に帰って来るか確認しよう。そう思って携帯に手を伸ばすがプルルルルと家の電話が鳴った。

「もしもし」

「あぁ、梓か。お母さんは?」

受話器の向こうから父の声が聞こえた。

「お母さん、具合悪くて今寝てて、だからご飯ないから出前取ろうと思ってて、」

「あぁ、そうなのか。悪いんだけどお父さん急に接待が入って夕飯がいらないって連絡なんだけど、母さん大丈夫か?」

「そうなんだ。了解。うん、今寝たところ。明日病院行くと思う。」

「悪いな。飯は適当に出前でも頼んで。お金はあるか?」

「うん。大丈夫。」

「なら、すまんがよろしくな。」

「はーい。」

父がご飯はいらないという事はこれは姉もどうせ外食かもしれない。そしたらわざわざ出前なんて頼まなくても近くのコンビニで私のご飯だけ買えばいい話だ。姉にSNSでメッセージを送る。

「今日家でご飯食べるの?」私はあまり姉からすぐに返信が来ると期待していなかったが思いのほか早く返信が来た。

「そうよー。今日のごはん何―?」姉は母が具合が悪いとはもちろん知らないので聞いてくる。

「お母さん、具合悪くと今日ご飯まだないの。出前頼もうと思うけど外で食べてくる?」

「そうなの?心配だね。お父さんは今日は?」

「外で食べてくるって。」

「了解。まだ出前とか頼んでない?今ちょうど駅前だからお弁当買ってこようか?」寿司もピザの気分でもなかったからとてもありがたかった。

「いいの?適当に買ってきてくれると嬉しい。」

「りょうかーい。すぐ買ってくるからあとちょっと待っててね。」

「ありがとう。」

私はそっと携帯をテーブルに置く。珍しく姉が頼りになるときもあると思った。時計を見ると一九時の五分前だった。私はリビングのソファーに座り姉の帰りを待った。


 ちょうど一九時のゴールデン番組が始まって一五分すぎた頃玄関のドアが開く音が聞こえた。

「ただいまー。」姉は駆け足でリビングに入ってくる。

「早かったね。」私は姉の手に下げている袋をもって言う。

「ちょっと急いで帰ってきたから。お母さんは?寝てる?」

姉はリビングを見渡しながら聞く。

「二階で寝てるよ。」

「そう。ちょうどお弁当割引だったからよかったー。」

そう言って鮭弁当とのり弁当を袋から出した。

「飲み物麦茶でいい?」

「うん。ありがとー。」

姉はジャケットを椅子に掛け洗面所へと向かった。姉はのり弁当で私は鮭弁当を食べる事にした。久しぶりにスーパーのお弁当を食べる。それほどいつも母は私たちに手作りのご飯を作ってくれているのだと改めて思った。お箸でご飯の上の鮭をほぐす。久しぶりに姉と二人きりなご飯な気がした。姉は何を話すわけでもなく携帯をいじりながら、そして同時にテレビにも目をやってのり弁当を口に運んでいた。

「のりべんやっぱおいしいわー。」

姉は携帯に目線を向けたままいう。

「梓のその鮭一口ちょうだーい。」

姉は私が返事するのを待つ事なく、わりばしを私の方に向けてきた。私は無言でお弁当を差し出した。

「梓もこっちのおかずなんかいる?」姉のお弁当の方を見るがほとんど一口食べた感じのおかずしか残っておらず、首を振った。

「おいしいのにー。」

姉は私がただ遠慮していると思っているようだ。その時、なぜかふと前姉の部屋で見たドレッサーのメモ書きを思い出した。今目の前の姉を見てもやはり過去の恋愛に傷ついて落ち込んでいるイメージは湧かない。何かの間違いだったのか。でも確かに私はあのメモ書きをこの目で見たから間違いない。そんな事を考えていると私の視線に気づいて姉が首をかしげてくる。

「やっぱほしくなった?」姉は自分のお弁当を差し出して言ってきた。

「いい。大丈夫。」私は自分のお弁当の鮭をわりばしで割いてご飯を口に入れた。

お風呂に入ってもう寝る準備をしていた十一時前に玄関のドアがゆっくりとひらいた。

「ただいまー。」低くて小さな声が玄関から聞こえてきた。

「おかえり。」私はマグカップをもっていう。

「おう。起きてたか。母さんは寝てるか?」

「うん。二階に寝てるよ。」

「そうか。」

父を見ると手には何か袋を持っていた。

「なにそれ?」

「母さんに買ってきたんだ。」

父は栄養ドリンクとプリンとバニラアイスを帰りがけ家の近くのコンビニで買ってきたみたいだった。父なりに母が具合悪いのに外食だったから後ろめたさから買ってきたのだろう。父は少し苦い笑いを浮かべて言ってきた。

「冷蔵庫に入れとくね。お母さんきっと喜ぶよ。」私は父からその袋を取って冷蔵庫の中にしまった。


翌日母がまだ具合悪いことを考えて朝ごはんとお昼の弁当をコンビニで買う時間も考えていつもより早めに目覚ましをかけた。私はアラームを止めてリビングに降りようと階段に向かうがリビングはすでに明かりがついていた。リビングのドアを開けると母がキッチンにエプロンをつけて立っていた。

「具合は?もういいの?」

「うん。もうよくなったわ。念の為病院は行ってくるわ。」

母は鍋のみそ汁を混ぜながら言う。

「よかった。」

いつもの光景が我が家に戻った。母はいつも私たちを陰ながら支えているが母がこの家のこのキッチンにいないだけでなんだか昨晩は変な感じだった。父も私と同じく母がまだ具合が戻ってない事もみこしたのか少し早めにリビングに降りてきたが母の姿を見て気の抜けた表情をしていた。姉は一晩寝てすっかり昨晩の事を忘れていたかのように、大きなあくびをしながらゆっくりとリビングに入ってきた。食卓にみんな揃う。テーブルに並べられた牛乳をまずは一口飲む。

「そういえば、冷蔵庫に昨日お父さんが買ってきた栄養ドリンクとかあるよ。」

私は思い出したように言った。

「あぁ、あれお父さんが買ってきてくれたの。」母は目を大きく開いて言った。父は新聞に目線を向けたまま「あぁ。」と言った。もうちょっとなんか言えばいいのにと私は思ったが母はなんだか嬉しそうに微笑んでいた。

「昨日ご飯はどうしたの?」母は続けて聞く。

「お姉ちゃんが駅前の弁当買ってきたの。」

「そうー。由紀ありがとうね。」

母は味噌汁のお椀をもっていう。

「うん。いいよーん。具合良くなったみたいでよかった。」

姉はご飯を口に入れたままもごもごと言った。


 制服に着替え、学校へと向かう。少し汗をかく季節になったなー。とまぶしい太陽を見て思う。最初の中間テストももうすぐとなってきた。私は毎日の授業をちゃんと聞き、家に帰っても当然のように予習復習をしている。今のところ学校の授業でつまいずいているところはない。でも油断はできない為、まとめノートを作って自分が認識できていない苦手なところを見つけなければいけない。悶々と考えながら自転車をこいで学校にあっという間についた。下駄箱に行くと山田が居た。

「おはよ。」

山田は私に気づいて

「おう、おはよう山川―。」

そう言って下駄箱からスリッパをパンっと雑に床に置く。私も下駄箱にローファーを直しスリッパを出そうとした時、山田は思い出したように口を開いた。

「そういえば、昨日言ってたことだけどさ。」

「昨日?」私は何の事かわからず目を泳いがせて言った。

「もう忘れたのかよー。昨日、山川が麻田美和って子が俺と同じ幼稚園って言ってただろ?あれ親に聞いたんだけど、母親知ってる。ってだけ言ってそれ以上何も教えてくんなかったんだよ。」山田は口を尖らせて言った。

「そうなんだ。」

私は昨日の母親の事ですっかり自分からその話をしていた事を忘れていた。

「なーんか、気になるよな。今度話しかけてみようかな。」山田はポケットに手を突っ込んでいった。

「うん。そうしなよ。何かわかるかもよ。」

私は他人事のように言ったが内心なんだか嫌な予感がした。自分から麻田さんと山田が話すきっかけを作ったくせに。麻田さんと山田が話しているのを頭の中で想像してすごくモヤモヤした。なんで昨日の自分は頼まれてもいないのに麻田さんと山田を近づけるような事をしたのだろうか。昨日に戻れるなら絶対この話題を言わないのにと床をじっと見つめて後悔した。


 その日の放課後家に帰る前にトイレに行きたくなった私はまた今朝の事を考えていた。でも今日はあの二人話している様子はなかった。ハンカチを握りしめ教室に戻ると、山田が麻田さんの席のところにいて話していた。私は何故か入り口の陰に隠れた。なんで私がコソコソしているのか全く分からないし不自然だと思ったけどそうせずにはいられなかった。耳をそっとこらして会話を聞こうとするが放課後のざわざわとした雑音で聞こえるわけもなかった。私は何故かまた女子トイレへと帰った。どんな顔して教室に戻ればいいのか分からなかったからだ。でも、このまま女子トイレに居て時間つぶすのも退屈だ。多分まだ二人は話しているだろうと思ったが、ゆっくりと教室に戻った。あえて下を向いて自分の机へと向かったが、そこには麻田さんの姿しかなかった。ほんのついさっきまでいたはずの山田の姿はどこにもなく、麻田さんも座って机の中を漁っていて先程誰かと話していたような感じはなかった。あれは私の見間違いだったのだろうか。「さっき山田と話してたよね。」と何でもない事を聞くように聞けたらどんなに楽だろうか。

「いいよ。帰ろう。」

麻田さんが振り返って笑顔で言う。

「え?」私は何の事か分からず聞き返す。

「だから一緒に帰ろうっていま言ったよね?」麻田さんは少し下がった眼鏡を上にあげて言った。その時私は無意識に一緒に帰ろう。と言っていたみたいだった。一緒に帰ろうといったものの、二人とも何故かしばらく無言だった。横目で麻田さんを見るが真顔でもなく笑顔でもない顔をしてまっすぐ見て自転車を押している。なんで何も話さないんだろう。それは私も同じはずなのに麻田さんが何も話そうとしない事が妙に奇妙に感じた。麻田さんは特におしゃべりなタイプじゃないから別に変ではないはずだが。私はこれ以上の沈黙に耐えれずに、

「中間テストもうすぐだね。」と言った。

「そうだねー。赤点とか取らないようにしなきゃ。」麻田さんはようやくこちらを見て口角を上げた。

「美和ちゃん絶対赤点とか取らないでしょ。」私は大げさに手を振って言った。

「そんな事ないよ。中学校の頃数学とか理数系が苦手で赤点何個かとってたよ。」麻田さんは首をすくめていう。

「ほんとにー。ぜんっぜん想像できない。」私は目を大きくして言う。アハハっと乾いた笑顔をして麻田さんはまた前をみて真顔でもない笑顔でもない表情に戻った。絶対さっき山田と放課後なんか話してなんかあったに違いない。私はあの現場を見たら誰が考えても分かる事を名探偵のように心の中で言っていた。聞けばいいのだ。さっき山田と何話してたの?そのわずか何文字かを言えずに何度も唾をのんだ。すると私の心の声が聞こえたのかどうかわからないが麻田さんが言った。

「さっきね、山田君と話したの。幼稚園ぶりに久しぶりに、高校入って初めて。」

「へぇー。」

私は妙に棒読みになってしまい、見ていた事がバレてしまったのかとヒヤヒヤした。

「よかったね。」私は自分でもどういう意味で言ったのかわからない言葉が口から出てしまいまた一人でヒヤヒヤし、少し背中が汗ばんだ事に気づく。

「うん。」麻田さんはその二文字だけ言って、何をどんな事を話したか言わなかった。なんでその出来事だけ言うのか。私は現場を見ていたから知っているっつーの。とチラチラ横目で麻田さんを見て次の言葉を待っているアピールをしたが、麻田さんは気付いているのか気付いていないのかこちらを見なかった。そんな事をしていると麻田さんと私の帰り道が分かれるところまできてしまった。肝心な事は何も聞けなかった。山田に聞けばいいのか。そう思うも絶対に聞けないと思いながら唇をぎゅっとつぐんだ。麻田さんははっと気づいたように、

「じゃぁまた明日ね。」と言って手を振って、私の返事を待つ事なく振り返って自転車に乗ってさっと姿が見えなくなった。私は麻田さんの姿が見えなくなってようやく「また明日。」と小さな声で呟いた。


 その日家に帰っても山田と麻田さんが教室で何か話していた光景が頭から離れなかった。

「今日のご飯は肉じゃがです。」母の声がキッチンから聞こえてきた。

「ふん。」私は気の抜けた返事しかできなかった。母は私の様子に気づいたのか

「どうかした?」と優しく聞いてきた。私は何も言わずただ首を振って、

「着替えてくる。」と言って二階に行った。

肉じゃがを口に運んでもやはり考えてしまう。山田との帰り道に私が麻田さんの話題をしなかったらこんな事になっていなかったのだろうか。いや、いずれ麻田さんから山田に声をかえていたに違いないからどちらにしろこうなっていたのか。ただそれが早まっただけだ。ぐるぐると頭の中で忙しく色んな私が問いかける。今日は父と姉は帰りが遅くなるらしく母と二人きりの食事だ。

「梓、大丈夫よ。」

母はテーブルの端を見ながら言ってきた。

「大丈夫だから。ね?」母は今度はちゃんと私の目を見て言ってきた。そして副菜のサラダを取り分けて私の前においてくれた。

「あなたはちゃんとやってるわ。もっと自信もっていいのよ。お母さんはちゃんと見てるから。」

母は、きっと私が高校生活が上手くいっていないと思って言ってくれたのだろう。ある意味うまくいっていない。勉強以外の事にあまりにも気を取られている。「ありがと。」私は深く息を吸って肉じゃがを口いっぱいに頬張る。なんだか鼻の奥がつんとしてきた。これは何の涙だ。私は母に気づかれないように鼻をすすってまだ肉じゃがでいっぱいの口の中ご飯をいれた。口に入れすぎて目に涙が浮かんでいると思われたくなかったが多分母は気付いたのか、そっと目を伏せて味噌汁を口に含んだ。


 お風呂に入り、ボーっとテレビを見ていた。今日は夕食後の勉強はあまり集中できなかった。時計を見ると一二時になりかけていた。もう今日は寝よう。とりあえず布団に入ろう。そう思い二階に上がる。明かりをけして布団に入るけどこれでもかというほど目はギンギンに冴えていた。何回寝がえりを打っただろうか。どうしても寝付けなくて水を飲みに一階に向かう。リビングに行くと姉がリビングのテーブルに頭を伏せて寝ていた。手にはチューハイの缶をつかんでいて、横にはもう一本飲み終えた缶があった。飲んできた後に家でも飲む。社会人になったら私もこうなるのだろうか。台所に行き冷蔵庫から水を取り出しコップに注ごうとした時、

「なんで…私じゃダメだったの…なんで。」とすすり泣き声が聞こえてきた。私はすかさず声のする方を見るが姉の顔はテーブルに伏せたままだ。寝言にしてははっきり聞こえた。そっとそっと姉に近づく。やはり寝てるようだった。よく見ると頬には涙のようなものがきらりと光った。泣いてる?私は口パクで声には出さず言った。私は姉が起きないようにそっと二階に行った。何だか疲れてそのあと布団に入ると気付くと次の日の朝だった。起きた瞬間からやはり山田と麻田さんの光景が蘇った。自分が嫌になった。


 会いたくないと思っている人に限って会う。今朝通学途中私は山田と出くわした。

「おはようー。」山田はいつも通りの山田だった。昨日の事を聞いていいものか悩む間もなく「昨日話した麻田さんと。」と言ってきた。

「え?へーそうなんだ。」私はあからさまに慌てて言った。

「うん。」山田は報告だけしてやはりどんな事を話したとか詳細を言ってこなかった。麻田さんも山田もなんで詳細を言ってこないのか。知りたいのはそこなのに。話したことは知っている。だって現場をこの目で見たから!と言えたら楽なのに私も言えるはずもなく、何もやはり聞けなかった。


 その後も私は二人の口から話した詳細が聞けるのも待っていたが一向に話してはくれなかった。私が聞いてこないというのが一番の原因なのかもしれないが。それでも言わないのはやはり何か隠しているとしか思えない。分かったのはあれ以来二人は話していない。という事だけだ。二人の口からそれぞれの名前が出る事も一度もなかった。気付くと中間テスト一週間前となった。私はいつもより二時間多めに自宅で勉強していた。睡眠時間はいつもより二時間少なくして頑張った。中間テストの三日前、自分の部屋の勉強机で寝てしまった為あと一時間頑張れるように、ホットココアを作りに一階に降りたが、リビングの明かりがついていた。誰かまだ起きているのか。そっとドアを開けようとすると

「大丈夫だから由紀。」と母の声が聞こえてきた。母が姉の事を由紀と呼ぶことはめったにない。いつもはお姉ちゃんと呼んでいるからだ。そのあとすぐにおそらく姉のすすり泣き声が聞こえてきた。私が前に聞いた声と同じだ。そっと存在感を消して二階に戻ろうとしたがやはりドアに耳をそっと立ててしまった。

「結婚しようなんてそんな簡単に言う?」

「そうねぇ。言わないわ。」

「だよね?健太がやっぱりまともじゃないんだよね?」

おそらく健太というのは姉が以前高校から交際していた人だ。

「私は結婚したかった。健太と。それほど好きだったし、そう言ってくれたの。なのになんで…」また姉のすすり声が聞こえてきた。

「大丈夫、大丈夫。」母が小さな声で言っている。

「もう私一生一人。」姉はしゃくり声で言う。

「またいい人見つかるから。由紀は明るくておもしろくて太陽のような子よ。素敵な人絶対見つかる。」

「違うの。健太がいいの。」姉は小さい子みたいに言う。

「由紀、ダメよ。もう健太君は戻ってこない。過去には戻れないの。前を見ましょう。お母さんと一緒に。ね?縁がなかったの。本当の人とは出会った瞬間に分かるわ。お母さんもそうだったから。お父さんと出会う前に大失恋してもうだめだと思ったのよ。もう生きていけないってね、でもお父さんに会った。そして由紀と梓が産まれた。今はあの人と別れてよかったとしか思わないわ。だから由紀、もう前を見るの。泣くのは今日で終わり。」

すると姉の泣き声は聞こえなくなった。

「もう寝ましょう。」母が立ち上がる椅子の音が聞こえて私はあわてて足音を立てないように二階に上がった。


 中間テストの当日はすぐにやってきた。山田と麻田さんの事があってかなり寝不足でテスト勉強も集中できなかったが、毎日の授業や日頃からの自宅での予習、復習のおかげもあって、私は学年で三番目の成績を納める事ができた。実を言うと、あんまり自信はなかったが、テスト結果の順位が発表された一週間後私は自分の名前が3の隣にある事に一安心していた。順調。あの二人の事でテスト前集中できなかったのに三番目の成績を修める事ができたという事は、もっと集中できていたら学年一位も取れたかもしれないと思った。そう考えたら、早くこのモヤモヤを解消しなければいけない。やっぱりどちらかに何があったのか聞くまいか。どうするべきか。どちらに聞く方が良いのか。やはり山田だろうか。麻田さんはあまり本心を語らないタイプだとこの数カ月学校生活の付き合いで分かった。私も全く人の事を言えないが。むしろ私は本音など高校生活ではまだ言ったことなど誰にもない。山田に何でもない事を聞くみたいに聞いたらすんなりと何でもない事みたいに言ってくれるかもしれない。そうだ。やはり山田に聞くんだ。テスト結果の紙が張り出された廊下の前で呪文のように自問自答していると、

「やっぱさすがだなー。尊敬するわ。」

見ると山田だった。

「ありがと。」私は、顔は山田の方を向けずに横目で言った。

「でも気付いてたー?俺も名前あんだよ。」と山田は笑いながら三十の数字のところを指さした。見ると山田慎吾と書いてあった。

「へぇー。すごいじゃん。」私は素直に驚いて褒めた。正直勉強できるイメージはあまりなかった為とても意外だった。

「学年三位の奴に言われてもなんか小馬鹿にされてる気分だわー。」山田はわざとらしく口をとがらせて言った。

「そんな事ないよ。本当にすごいって褒めてんの。」私は本心からそう言った。おかしいな、さっき本音など高校生活で言った事ないはずだったのに山田の前では言える事に気づく。

「まぁ、テストもひとまず終わった事だし、

今日ファミレスでお疲れ様会でもしない?」

これはチャンスだ。あの事を聞ける絶好のチャンス。私はうん。と即答した。

「じゃ、放課後な。」山田はポンッと私の肩を触って教室に戻っていった。


 放課後、山田が私の席にやってきた。運よく麻田さんは終礼が終わると同時に何やら用事があるらしくお疲れ。と足早に帰っていった。だから山田と麻田さんが会う事は避けられた。

「駅前のブルーでいいよな?」

「うん。」

山田は学生たちがよく利用しているファミレスの名前を出した。あのざわざわとした雰囲気なら余計に何でもない事みたいに聞けそうだと思った。ブルーに入り、同じ制服だけど見たことない生徒が数名いた。きっと彼らもテストのお疲れ様の会でもするのだろうか。

「何頼むー?とりあえずポテトでいい?」

山田はメニューを見ながら聞いてくる。

「うん。それとドリンクバーも。」

「そうだな。あとは…俺ハンバーグ定食にする。」

「私はエビドリア。」

「よし決まりだな。すいませんー。」

山田は右手を挙げて店員を呼んだ。何だか聞けそうな気がする。このまま何でもない事みたいに聞こう。麻田さんと何かあったの?言葉はしっかりと頭に浮かんでいるのに、のどの奥まで出てきているのに口が開かない。聞いたらどうなると私は思っているのだろうか。山田に嫌われるとか思っているのだろうか。とりあえずドリンクバーで飲み物をついでこよう。

「山田は何飲む?」

「あっ、えっとメロンソーダで。」山田はさわやかな笑顔で言ってきた。

「おっけー。ついでくる。」私は席を立ってイメトレする。麻田さんと何かあったの?二人あれ以来何も話してないよね?話したって言ってた割には。ちょっと気になったから聞いてみただけだよ。別に話したくないなら無理に言わなくいいからね。ほら、言える。あとは声に出して言うだけだ。私は右手に山田のメロンソーダ、左手に私のオレンジジュースをもって山田が待つテーブルに戻る。すると、私が口を開く前に

「あのさー、こないだ麻田さんと話したっていったじゃん?」

「う、うん!」

私は思わず生唾を飲んで目を大きくして答えた。まさか山田からその話題をするとは思っていなかった。

「やっぱりさ、誰かに聞いてほしいんだよな。山川聞いてくれる?」山田は目の前に私がいるのにどこか遠い目をして聞いてきた。

「うん。私でよければ。」私はついできたオレンジジュースのストローを勢いよく吸って少し咳き込む。そんな事山田は気に留めないくらい目に迷いが映っていた。山田は何を言おうとしているのだろう。

「麻田さんと俺、幼稚園の同級生って言っただろ?何気なくさ、母親にきいてみたけど教えてくんなかったから、特に意味はないけど、麻田さんに放課後聞きにいったんだ。そしたらさ…」山田は急にしゃべるのをやめた。私は暫く何も言わずに待っていたが一向に喋り始めなかった。またどこを見てるのかわからない遠い目をしていた。すると山田が注文したハンバーグ定食を中年の店員の女性がもってきた。

「とりあえず食べようか!」

私は続きが聞きたくてたまらなかったが、ぐっとこらえて言った。山田は無言でうなずいて鉄板の上でジュージューと鳴るハンバーグにナイフで切り込みを入れた。一口食べて山田はまた急に話を始めた。

「俺が放課後麻田さんのところに行って、幼稚園の同級生なんだよね?って軽い感じで挨拶がてら言ったら、麻田さん俺とは目を合わせずに黙って下を向いてたんだよ。そして急にごめんなさい、ごめんなさいって震えながら謝ってきたんだよ。俺何が起こってるのさっぱりわかんなくて何も言えずに慌ててたんだ。で、もう一回聞いたんだ。俺たちってなんか幼稚園の時にあったの?って、そしたら小さい声でゆっくり全部話してくれたんだ。俺の父親と麻田さんの母親が不倫して今はその二人と麻田さんが暮らしているって事。」

一瞬時が止まったような気がした。ざわざわとしたファミレスのはずなのに何も聞こえずシーンとしているような気がした。ただ目の前に困ったような顔をした山田が居た。私が一ミリも想像していなかった事を話していたのだと知った。てっきり二人は特別な感情をお互いに持っていて…そんな甘酸っぱい青春ストーリーを正直に言うと想像していたが、そんな楽しいものは全くなかったようだ。しばらくして私の注文したエビドリアがすでに届いている事に気づく。おそらく随分前に届いていたようで、スプーンですくうときに少し力が必要だった。口の中でエビをかむ。あんまりおいしいと思わなかった。山田はそのあとも少しずつ詳細を独り言みたいに話してくれた。山田の両親が離婚していた事は正直知らなかった。そんな家族の話も特にしてこなかったから当然と言えば当然なのかもしれない。山田の両親は共働きで、山田が年長の時、特に母親の方が仕事が忙しかったらしく、父母の会や授業参観に父親が行くことも多々あったらしい。その時に麻田さんの母親と仲良くなったらしい。仲良くなったのは体までも及んでしまったらしい。二人は人目を忍んでこっそりと密会していたらしい。山田の母親は山田の父親が浮気している事にうすうす勘づいていたが、仕事が忙しくそれどころでなかったらしい。何より山田の父親が一時の火遊びをよそでしているだけだと山田の母は思っていたらしい。でも山田の母親の思惑とは違い、山田の父親と麻田さんの母親は深く深く愛し合っていたらしい。もうその二人がお互いを運命の相手だと思い始めたらしい。山田の父親はやがて家に帰ってこなくなり、その後山田の父親の名前が書かれた離婚届が家に届いたらしい。その時もまだ山田の母親は、自分の夫とママ友が浮気して、しまいに再婚しようとしているとは気づいていなかったらしい。山田の父親の浮気相手がママ友だと知ったのは、ママ友たちの噂話を偶然聞いてしまった時らしい。ママ友と言っても山田の母親と麻田さんの母親は会ったら世間話をする程度で特に仲が良かったわけではなかったらしい。でも連絡先は知っていたのですぐに麻田さんの母親に連絡すると、「ごめんなさい。もう離れる事はできない。本当の人だと思ったの。」とまるでドラマの中のセリフを麻田さんの母親は言ってきたらしい。それが原因で山田の母親は体調を崩し、しばらく自動車で一時間程度のところにある山田の母親の実家で半年程暮らしたそうだ。その時に橋本から山田という母方の苗字に変わったらしい。私はそのあとの小学校で山田と出会ったから橋本慎吾という名前だったとは知らなかった。

「俺さ、正直言うと父親の事憎んでたんだよな。母さん苦しめたの知ってたし、違う女の事好きになって母さん傷つけて許せなかった。今どこで何してるかなんて知ろうとも思わなかったし知りたくもなかった。だけどな、、どこかで思ってたんだ。親父は幸せになれるわけないって。母さん裏切って違う女と一緒になったところで幸せになれるわけないってな。でも違ったんだよ。親父は幸せにその女と今も暮らしていたんだよな。麻田さんと三人で。まるで本当の親子みたいに。自分の父親がよその子の父親づらしてるってなんかおもしろいよな。」

山田はおもしろいと言っているわりに、全く笑顔ではなくむしろ表情は引きつっていた。麻田さんの母親は未婚のまま麻田さんを出産してシングルマザーで女手一つで麻田さんを育てていたらしい。つまり麻田さんは父親という存在を知らなかった。でもある日突然その存在が最初からあったように溶け込むように山田の父親はすっと入ってきたらしい。最初は幼いながらに麻田さんは戸惑ったらしいが、母親のあんなに幸せそうな表情を見ると悪い人ではないとその時思ったらしい。今では山田の父親の事を「お父さん」と呼んでいるし、何も悪い事をしているという意識はなかったらしい。でも中学生の時、「お父さん」と呼んでいる人が幼稚園の同級生のお父さんだと知ったらい。

「俺さ、母親に麻田さんの事言った時、知ってるけどその人がどうしたの?ってすごい剣幕な顔して言ったんだよ。その時何となくだけど勘でもうこの話をしないほうがいいんじゃないかって思ったんだ。そしたらこれだろ。もう絶対に口が裂けても同じクラスに親父と浮気した女の子供がいるなんて言えない。というか言ってはいけないと思った。」

私は山田が話す間小さな声で相槌をしていたが、あんまり山田の方を見る事はできなかった。こんなに詳細にあまり人には話したくない事を私に話してくれた事は嬉しかったが、同時に私がこの事を山田が知るきっかけを作ってしまったことの重大さにじわりじわりと感じ始めていた。山田は私にムカついていないのだろうか。淡々と語る山田がなんだか少し怖くて私は手元のエビドリアに口をつけるわけでもなくフォークで何度もさした。

「俺の親父が悪いだけで麻田さんは何も悪くないんだよな。だから余計どうしたらいいかわからないし、麻田さんに謝られてもなんか違うし、だって麻田さんは普通に生活してたら勝手に知らない男が今日からお父さんですってなったわけだろ?逆に麻田さんに迷惑かけてるくらいなんじゃないかって思うけど、でも幸せに親子として三人で暮らしてんだよなー。俺が当たり前に手に入れていたはずの幸せを違う人にとられているんだよな。あれ以来なんかなんて言ったらいいか分からないし、近づけない麻田さんに。多分向こうはもっと俺に近寄れないと思う。」

すっかり冷めきったハンバーグはまだ一口しか食べられていない。でも山田はすべてを話し終わったかのか、その冷めきったハンバーグを思い出したように食べ始めた。食べ進めるフォークは止まる事はなかった。私も残ったエビドリアを無心で口に入れた。私たちのテーブルにはナイフとフォークのカチカチと言う音だけが聞こえていた。


 あの後、特に会話をする事なく、山田と私はファミレスを後にした。山田は私に言えた事がそれとも人に話せた事が余程気持ち的に楽になったのかリラックスした表情をしていた。

「怒ってないの?」

私はたまらず聞いてしまった。

「怒るって誰に何を?」

山田は私の方に顔を向けたが目線は合わせてこなかった。

「私の事。私がきっかけ作ったから。その事を山田知るきっかけを。」

山田は口角を上げるが口は開かずに首を振った。

「なんで山川に怒るんだよ。いずれにしてもこの事俺は知るべきだったし、逆に早く分かってよかったよ。ありがとう、山川。」

私が山田の立場だったらこんな風に言えるだろうか。世の中には知らなくてもいい方が幸せな事がたくさんある。もし私がまだ知らない何か真実があって知らない方が幸せならば、私は知らないで済む方を選ぶと思う。山田は本当にこの事実を知った方がよかったのだろうか。山田はありがとうとお礼を言ってくれたがなんだかその気持ちを素直に受け止める事はできなかった。


 あれ以来特に山田から父親の話題は一度も出る事はなかった。麻田さんには山田から話を聞いたという事を言った方がいいのだろうか。麻田さんは何も悪くないよと言ってあげたほうがいいのだろうか。少しでも私が自分がきっかけを作ってしまったという罪悪感から逃れたくてそう言いたいだけなのかもしれない。そんな事を考えながら変わらない高校生活を一日、一日と私は解消される事のないモヤモヤを抱えながら過ごしていた。夏が過ぎ、秋も過ぎ、通学途中に息が白くなる季節になり、マフラーと手袋とカイロが手放せない季節になった。私は想像していたよりうまく学校に馴染めていた。特に誰からも嫌がらせを受けるわけでもなく、変に目立つわけでもなく、平穏に日々を過ごすことが出来ていた。もう高校生活の一年目が終わろうとしている事に焦りも少しあった。希望の大学へ入学できるのか、安定した会社に入社できるのか。普通に結婚して幸せになれるのか。遠い未来の事を考えると、なんだか少し気が遠くなる。


 高校生活もあっと言う間に二年目に突入しようとしていた。一年目が平穏に過ごせたのはやはり目立たずにいたからだと改めて気付いた。中学生の時は学級委員長など無駄に頑張っていたから敵も多かったのだと悟った。二年目になると、クラス替えも同時に行われる。麻田さんとは一年間あくまで学校のクラスメイトという枠を超える事なく知り合い程度の付き合いだった。学校以外では一度も遊んだりする事はなかった。一度だけ麻田さんからテスト勉強を一緒にしようと誘われた事があった。別に嫌な気持ちにはならなかったが、何か山田の父親で現在は麻田さんの父親の事をもしかしたら相談されるのかと少し考えた。でも自分がきっかけを作ってしまったのだからそれくらい聞いてあげる義務はあるのかもしれないと思った。でも正直言うと、どんな風に言っていいかもわからないから、できれば避けたかった。その勉強会をすると約束した当日私はまさかの高熱を出してしまって、ベットから立ち上がる事はできなかった。すぐに麻田さんに連絡して、熱が出ていけなくなった。申し訳ないと連絡した。すぐに返信が来て、お大事にね。と来た。もしかして嘘だと思われているかもしれないと思ったが、それでも麻田さんの複雑な家庭事情の相談事から避けられた事には変わりなかったのでどこかほっとしてしている自分が居た。


 高校二年生の春、クラス替えが発表された。クラスメイトが誰と一緒がいいとか特に希望はなかった。山田とも麻田さんとも同じクラスになりたいとは正直思わなかった。二人を見るたびにあの事が頭をよぎるからだ。できれば忘れたかった。でも山田とも麻田さんともまた同じクラスになってしまった。知り合いが居るというのは楽なのかもしれないが、私はそうは思わなかった。高校二年目の担任は若い男性の数学の先生だった。高校一年目の女性の先生はあまり生徒に干渉しないタイプだったが、この男性の先生は知り合いの生徒が居たのか教室の前の席の男子と楽しそうに手を叩いて話している。こうして見ると一瞬生徒にも見えるくらい童顔な印象だった。チャイムが鳴ると

「はい。みんな席についてー。」

と手をパンパンと大きく叩いて教壇の上に立った。

「みんな、おはようございます。このクラスの担任になった坂口裕也と言います。今日から高校生活二年目が始まるわけだけれども、みんなの担任になれて嬉しく思います。これから楽しい思い出たくさん作っていこう。よろしく!」

と緊張する様子もなく教室全体を見ながら堂々と大きな声で話していた。パチパチと数人が拍手する音がした。

「はい。みんな拍手―。」と場を盛り上げる為が坂口先生は自ら拍手した。すると、席の後ろの方から先生すべってるよ~。といかにもお調子者というような男子が発言した。

「おい。川口―!今日はお前だけ追加でグラウンド一周なー。」とすかさず坂口先生は言った。

「ちなみにバスケットボール部の顧問もしております。」

とピースサイン片手に教室に生徒に語り掛けた。さっき発言した男子はおそらくバスケットボール部なのだろう。その二人の事を知っているのか何人かは笑っている。一年目のクラスと違ってちょっと暑苦しい教室だと思った。私は特別誰かに干渉したくはないので面倒だと思った。楽しい思い出作りもいいが、大学受験勉強の妨げになるのは非常に困る。早くも波乱な一年になりそうな予感にため息をつく。最初はやはり名前順で席が割り振られている為、やはり私の隣には山田の姿があった。春休みを挟んでみる数週間ぶりの山田は髪を切ったせいかなんだか横顔の印象が違った。

「元気そうな先生だな。」

山田は小さな声で言ってきた。

「そうだね。」

「山川苦手そう。」と山田はくすりと笑った。

私は山田の目を見てそうだよ。というように鼻でため息をまたした。

昼休みになるとトントンと肩を叩かれた。振り返ると麻田さんが居た。

「また同じクラスになれるなんて、嬉しい。」

麻田さんは上品に笑った。

「私も。よろしくね。」と言った。表情がひきつっていないか不安だったが、麻田さんは満足そうに微笑んでいたのでたぶん私の感情はバレていない。麻田さんと山田はまた同じクラスになったことにお互いどう思っているのだろうか。山田の口からあれ以来あの話題は出ていないし、麻田さんの口からももちろんあの話題は出ていない。一旦はお互い落ち着いたという事なのだろうか。いや、落ち着くのだろうか。私が山田だったら離婚した自分の父親が今は同じクラスの同級生の父親なんて知ったら普段通り過ごすことなんてできないと思う。麻田さんは悪くないのかもしれないが、少なくともいい感情はもたないし、麻田さんを見るたびに父親の事がよぎってしまうと思う。麻田さんは山田が何とも思っていないと思っているのだろうか。一度謝ったからそれで問題ないとでも思っているのだろうか。第一麻田さんの母親や山田の実の父親であり今は麻田さんの父親はこの事を知っているのだろうか。はっきり言うと私はこの事に一切関係がないといったらそれまでだが、多分自分がたまたまこの二人を引き寄せたきっかけを作ってしまったと思っているから他人事と思えないのだと思う。どうにかして解決させたいと思うが、何をどうしたら解決になるのかも分からない。何でこんなに私がこの事を考えているのかも自分で分からなくなりつつあった。


 「おかえりなさい。」家に帰ると母がいつも通りキッチンからいい香りをさせて言ってきた。

「ただいま。」

私はすぐに二階に行かずに制服のままリビングのソファーに座る。

「手洗ってきたら?」

母はリビングからオレンジジュースを注いで私に渡してきた。

「うん。」

私はもらったジュースをリビングのテーブルに置いて洗面所へ向かう。鏡に映る私は何か疲れていた。

「そういえば、クラス替えはどうだった?担任の先生は?」

後ろから母の声が聞こえた。私は手をゆっくりと丁寧に洗い、答えを考えていた。よさそうな若い先生で、もう何人か友だちできたよ。とでも言ったら母は安心するのだろうか。同じクラスになりたくなかった人とまた同じくクラスだった。なんて言ったら母は驚くだろうか。私はうがいをして、手をふき、リビングに向かった。そしてまたリビングの前のソファーにだらりと座った。

「まあまあ、ふつうだよ。」

テレビは夕方の情報番組で司会の男性がお笑い芸人と楽しそうに話していた。あくまでそれを見ているように母に見せかけて、それ以上は何も聞いてほしくなかった。

「そう。」と小さな声で母は言った。キッチンの方を見るとお鍋の前でお玉で何を作っているかはまだ分からないが具材を混ぜていた。

ごめんね。お母さん。本当は誰かに言いたかった。他人の複雑な家庭事情の一部を私は背負っていて、なんだかそればかり最近考えていると。母に聞いてほしかった。母は何て言うだろうか。あなたがそんなに悩まなくてもいいじゃない。二人が話すきっかけを作ったのかもしれないけど、それって偶然でしょ?それにその事その二人はあなたを責めたりしているの?ちがうでしょ?だからあなたは何も深く考えなくてもいいのよ。普段通り学校生活を楽しく過ごせばいいの。そう言ってくれるだろうか。そう母に言われたら私はもう悩まなくて済むのだろうか。せっかくクラスが違うだろうと思っていたがまさかどちらとも同じクラスになるなんて。誰が大体このクラス分け決めたのだろうか。ぐるぐると忙しく頭の中で考えた。ゆっくりと目を閉じた。「ご飯できたわよ。ビーフシチュー。着替えてらっしゃい。」母の声が聞こえて、私は目を閉じたまま、はぁいと言って重い腰を上げて二階の自分の部屋へと向かった。


 次の日の朝はすぐやってくる。私は、もう高校生活二年目で授業初日を迎えようとしていた。

「早いねー。もう二年生か。」

姉はいつもと同じようなジャケットを羽織って言う。

「もう大分JKって感じ?」手を顎に当てて名推理でも言ったかのうように続けて言ってきた。

私は相変わらず大した反応はせずに食卓に並べられた朝ごはんを口に入れた。

あれから姉の恋愛事情がどうなったかは分からないが、母に慰めれているのをこっそり聞いて以来、リビングで缶チューハイを飲んだまま寝たり、リビングのソファでそのまま寝たりという事はほとんどなくなった。姉なりに立ち直ったという事なのだろうか。おそらく私が姉の恋愛事情について知っているとは一ミリも気づいていないと思うので、よかったね。などと言う事はできないが。


 二年目の初日を迎えて私はもう見慣れた下駄箱に向かって歩くが下駄箱も変わったのだと気付く。

「間違えんぞ。山川!そこ一年。」

振り返ると山田はニタニタと笑ってこちらを見ていた。今ちょうど気付いたところ!と言いたかったが口をそっと閉じた。

「おはよう。」

私は何事もなかったように言った。

「おはよぉ。てかねみー。」

山田は後ろ髪を手で掻いて大きなあくびをしていた。

教室に着くと、高校生活に大分慣れてきた二年目という事もあってか、それともこのクラスメイトの性格が元気な人が多いのかどちらか原因かわからないが、とてもざわざわとしていて朝から憂うつな気分になった。五分も経たないうちに坂口先生が大きな声でおはようー。と教室に入ってきたのをみて、この先生が原因でもありそうだと思った。

「はい。みんな席ついてー。出席とるぞー。」という声と共に出席簿を見ながら坂口先生は朝井、麻田、と呼び始めて

「あれ?麻田今日は休みか?何も今朝は連絡なかったなー。誰か聞いてるか?」と教室を見渡すが誰もさぁ。といった感じで知らない様子だった。当然私も知らないし、横目で山田をちらりと見るが、まっすぐと前を向いて無反応だった。一言連絡した方がいいのかと思って、朝礼が終わった後、かばんの中でこっそりと麻田さんに連絡をした。

「今日体調が悪くてお休み?」するとすぐに麻田さんから返信が来た。

「そうなの。ちょっと微熱ぎみで咳も止まらないから初日なのに休むことにした。」

と具合の悪そうなスタンプと共に送られてきた。

「そうなんだ。お大事にね。」私はそっとスマートフォンをかばんにしまった。

私は誰に聞かれてでもないが、なぜか隣の山田に

「麻田さん微熱だって。」と無意識に言ってしまった。はっとしたが山田は

「そーなんだ。早く治るといいな。」と感情のない顔をして席を立って教室の外へと行ってしまった。余計なことを言ったのかもしれないと少し後悔したが、授業が始まる前に戻ってきた山田は

「やっぱ教室変わってまだ慣れないな。」といつもの山田の感じで声をかけてきてほっとした。

次の日も麻田さんの姿は教室にはなかった。出席の時に坂口先生は、

「今日も麻田は体調不良で休みだそうだー。」と言った。

教室は特に誰かが反応する事なく、坂口先生は出席を続けて取っていた。今日は来ると思っていたので何だか少し心配になった。昨日はそんなに大したことないって言っていたのに。私は何故か横目で山田を見るが、案の定特に反応をしていなかった。連絡してみようかと朝礼後かばんの中でスマホを触るが、やはりスマホをかばんの中に置いた。


 高校二年目では、文系と理系に分かれるが、私は、理系コースを選んだ。山田と進路については一度高校一年生の時に話した事はなかったが、理系コースにすると言っていた。私も元々理系コースに行くとは決めていたので、決して山田と一緒にしたという意識もなかったし、同じクラスになるとは思っていなかった。山田は何か将来やりたい職業はあるのだろうか。今度聞いてみよう。大学受験まであと二年。本腰を入れて受験対策をしていかなければ希望の大学に入れるとは思っていない。一度高校受験で挫折をこれでも味わっているので油断はできないとひしひしと思う。私は特になりたい職業はまだ決まっていないが、行きたい大学ならある。そこに行けば将来幸せになれると思うから。


 その日の放課後、自転車置き場に行くと、山田の姿があった。何やらクラスの男子と楽しそうに話していたので、私は声をかける事なく、自転車のカギを開けて自転車のサドルにまたがって校門へと向かった。すると後ろから、

「おーい。山川!」

と声がするので振り向くと、山田が自転車に乗ってこちらに向かってきた。

「おつかれ。」

私は思わずきょとんとして言った。

「何その顔?」山田はプッと笑ってきた。

「いや、だって…」と私が口ごもっていると、「一緒に帰ろうぜ。」と私を置いて颯爽と自転車を漕いでいった。

私は無言で山田に置いていかれないように自転車をこぎ進めた。

「ちょっとさー、この後時間ある?お茶でもしない?」

「いいけどー。別に。」

「なら、久しぶりのあそこいかね?前言ったケーキ屋。」

「うん。」

私と山田は一列になって自転車を漕いで会話をしていた為、お互いの顔が見えなかった。駅前にあるのに、私は山田と行って以来ここのケーキ屋には来ていない事に気づく。名前さえも知らなかったが、「ミント」というケーキ屋らしい。

入り口のドアを開けると平日の夕方という事もあってテーブルの席は空きがちだった。


「なんか、懐かしいな。」


山田は店内を見渡し行った。


「私も同じこと考えてた。」


「不思議だな。」山田は私の目を見て言ってきた。不思議だなというのが、懐かしい感じがするから不思議なのか、同じことを考えたから不思議なのかどちらなのかは分からなかった。それでも私は、うん。としか返事ができなかった。


私たちは窓際の席を案内された。確か前来た時も窓際の席だった気がする。


「何食べようかなー。夕飯前だから控えめにしないとな。」


山田は嬉しそうな顔でメニューを開く。私は、ショートケーキセット、山田はチョコレートタルトセットを頼んだ。注文してケーキが届くまでも山田は小さな子供みたいにメニューを暫く眺めていた。


「山田ってさ、将来何になると考えてるの?」


私は聞こうと思っていた事がすんなりと口に出て自分で驚いた。どうやら私は麻田さん関連についてだけ緊張して普段通り言えなくなるみたいだと分かった。


「何で急にそんな事聞くんだよ。」山田は含み笑いをした。


「いや、ちょっと聞いてみただけだけど。」私は窓の外に目をやった。


「特に、決まってないかなー。でも何となく理系がいいなかって思った。」


「そうなんだ。」


ちょうどその時、頼んでいたケーキセットがそれぞれ届いた。ショートケーキの上に乗った赤く染まったイチゴを私はまっさきにフォークでさした。


「えー。山川先に好きなのを食べるタイプ―?」


「えっ?」


私は、フォークにさしたイチゴを口に入れて咀嚼しながら言った。


特に、意識していなかったが、そうかもしれないと思った。


「俺は、一番最後に食べる派だな。」


山田は自分の注文したチョコレートを一口の半分ぐらいをフォークでそっと切り込みを入れて、口に運んでいた。


「逆になんで最後に食べるの?」


「そんなの決まってんだろ。」山田はそう言って、コーヒーとチョコレートケーキを交互に食べて何も言おうとはしなかった。そんな山田を見て私も手元のショートケーキを食べる事に集中する。もう、あと一口でケーキを食べ終えるという頃に、


「好きなものは最後までとっておきたいからだよ。その方が頑張れるだろ。」


私は山田の言う「頑張れる」がよく分からなかったが、レモンティーを飲みながらうなずいた。私は、急に思い出したかのように、


「理系って事は国公立目指すって事じゃん?塾とか通おうとか思ってるの?」


「んー。今すぐには特に考えてないかなー。分からない事は山川に聞こうと思ってるし」山田はピースサインをしてケロっと笑った。


「私より大人に聞いて方がいいんじゃない?」私は何故かぶっきらぼうに言ってしまった。本当は嬉しくて、顔が赤くなっていないか不安だったからばれないように下を見て答えた。




家に帰って、スマホに麻田さんからメッセージが届いている事に気づく。


「いきなりごめん。今晩電話できる?」


と書いてあった。ちょうど10分前にきていた。


「うん。いいよー。体調は大丈夫?」


「ありがとう。うん。その事もちょっと話したくて。」


「了解。都合いい時言ってー。」


「わかったー。」


そのやりとりをした30分後麻田さんから着信があった。


「もしもし?」


「山川さん、突然電話なんかしてごめんね。驚いたよね?」


「ううん。そんな事ないけど…体調大丈夫なの?」


「体調は、別に悪くないの…実は。」


「えっ?…仮病って事?」


「そう…なるね…。」


「何か学校に行きづらい事でもあるの?」


そう言うとスマホの画面の向こう側からは何も聞こえなくなった。


「ちょっと家族の事で色々あって…。」


「かぞく?…」


すぐに頭によぎったのは山田の顔だ。直感で山田が関係していると悟った。


「それって山田が関係してたりする?」


私は思いのほか躊躇なく山田というワードを出すことが出来た。


「どうしてわかるの?」


たぶんよっぽど鈍感な人じゃない限り、この状況を知っていたラ分かると思う。と頭の中で言葉は浮かんだが、そっと喉の奥にしまった。


「いや、前山田のお父さんと麻田さんのお父さんの事聞いてたし…。なんとなくそうかなって思っただけ。」


私は、恐る恐る発して答えた。


「そう…だよね。なら山川さんに余計に話しやすい。実はね、山田君のお母さんに私と山田君が同じ学校って事がばれちゃったみたいなの…。」


「えっ?」私は思わず椅子から立ち上がって大きな声でリアクションしてしまった。


思わす後ろを見るが、自分の部屋という事を思い出す。


「ごめん。おっきな声出しちゃって。」


「ううん。それでね、お父さんとお母さんが色々もめてるみたいで、山田君にも会いずらいし、その影響でちょっと気分もすぐれなくて、だから仮病ではないんだけど、って感じ。熱とかは全然ないから体調的には普通に学校に行けるんだけどね。」


「そうなんだ…。」


「山田君学校で変わった様子なかった?」


麻田さんが休んでいるここ2日間の山田の様子を思い返してみるが何か変わった様子は特になかったと思う。


「いや、特にそんな感じはしなかったけどね…。」


「そっか。」


「うん…。」


そこから私と麻田さんはしばらく黙ったままだった。


それから私と麻田さんは電話でする必要のないどうでもいい会話をした。天気がどうとか、学校の課題の話だ。お互い上の空で言っているのがわかった。数分後電話を切ってスマホをそっと机の上に置く。麻田さんが休んでいたこの二日の間を記憶の限り山田との会話や様子を目を閉じて頭に浮かべてみるが、やはりそんなに何か悩んだ様子などは見受けられなかった。本当は家で何かあったけど、何もないふりをしていただけかもしれない。


 翌日、学校にはやはり麻田さんの姿はなかった。昨日は明日も行くかどうかはわからないと言っていたから、金曜日だし、来週の月曜日から来るのかもしれない。メッセージは麻田さんには送らない事にした。いつも通り担任の坂口先生は出席を取っていく。隣の山田の様子を横目で一瞥するが、昨日と変わらない山田がそこにいる。昨日麻田さんから聞いた話を言うべきか。いやでも私が言うべき内容でもないし…。緊張して口の中の水分がなくなっていくのが分かった。とりあえ水分を口に含みたかった。かばんの中の水筒と取り出し、ふたを開けて麦茶を口に含む。


「今日も麻田さん休みだな。」


隣から山田の声がして思わず吹き出しそうになった。私は軽く咳き込んで


「そう…みたいだね。」と答えた。


「体調そんなになおんねーのかね。」


山田の顔を見るが、クラスメイトを心配している以上の感情は読み取れなかった。ふん。と私は返事にしては小さすぎる声で反応する。


「なんか聞いてる?」


「ううん。何も。」


私はちょっと不自然な位に即答してしまい、生唾を飲む。


「そっかー。」山田はそう言うとふら~っと教室の外へと言ってしまった。山田はお母さんからあの事を聞いているのだろうか。その日はあんまり授業には集中できずに、山田の姿が見えるたびに、びくっと小さく体が反応してしまっている事に気づく。山田はその日今朝麻田さんの事を話しかけて以来私に話しかけてくることはなかった。たまたまかもしれないが、私が麻田さんから聞いたことを見抜かれているような気もして何だかモヤモヤした。




 次の月曜日の朝、麻田さんは予想通り学校に姿を見せた。坂田先生は出席を取る前、麻田さんのところにきて何やら話しかけていた。話している内容までは教室がざわついていて聞こえなかったが、おそらく体調の事を聞いていたのだろう。学校には体調不良を理由に欠席しているとそういえば前の電話で言っていた。そんな事に気を取られていると、チャイムが鳴り、いつも通り出席を取り始めるいつものクラスの光景が始まった。


「山田。」


坂田先生の声だけが教室に響く。


「あれ?山田~は今日休みか。特に連絡なかったが誰か知っているものいるか?」


私は少し驚いてしまい、椅子をガタリとたててしまった。それに反応した坂田先生が


「山川知ってるか?」と聞いてきた。私は数秒黙って、


「いえ…何も」と蚊の鳴くような声で答えた。


「そうか…。」


その時私を見つめる麻田さんと目が合う。


麻田さんは何か言いたげな目でこちらを見つめてまたすぐに前を向いた。出席確認が終わって、一限目が始まる少しの休み時間、私は麻田さんと話がしたくて、麻田さんの席へと向かうが、それより前にすぐに教室から足早にどこかへ行ってしまった。すぐに廊下へ出るも、もう既に遠くの方へ行ってしまっている麻田さんの後ろ姿を見つめるしかなかった。




 山田が学校を休んでちょうど一週間が経った。山田が学校を休んで二日目、三日目は、朝の朝礼の時に坂口先生は、クラスメイトに


誰か聞いてないかー?と呼びかけていたが、4日目以降は何も聞かずに、「山田は休みだそうだ。」と言うだけだった。スマホを見るが、当然山田からのメッセージは来ていない。私からも何もしていないし、今日は来ると思っていたから何も聞かずにいた。私は、かばんの中で山田に「今日も休みみたいだけど大丈夫?」とメッセージを送った。その日一日終わって、スマホを見るも、山田からのメッセージは届いていなかった。私はスマホの画面をそっと閉じて教室を後にした。


自転車置き場に行くと、ちょうど麻田さんが自転車のカギを開けていた。気付かないふりをしたかったが、距離的に無理そうだったので、「お疲れ。」と聞こえるか聞こえないか位の声で言った。聞こえずに済んでそのまま帰るという事にはならず、咄嗟に顔をこちらに向ける麻田さんと目が合う。「おっ、おつかれさま」と少し動揺した感じがした。このまま当然一緒に帰る流れになるかと思ったら、麻田さんは「じゃぁ」と言って私の目の前を自転車でするりと通り抜けて言った。


「何か知ってるの?」


その声を紛れもなく私の口から発せられたものだった。麻田さんはびくっとして、そのままフリーズしてしまった。こちらを振り向くことなく、ただ固まっていた。私は、かばんを握りしめ、誰かに魔法をかけられたかの様に固まってしまった麻田さんの隣までゆっく


りと向かった。近くまで行っても麻田さんは、こちらを見ようとせず、困った顔をしていた。


「もしかして、山田から何か聞いてる?」


私が聞いてようやく目線を私に麻田さんは合わせてくれた。


「知らない…って言っても信じないよね?」


「そんな事ないよ。」


麻田さんは深く深呼吸して笑った。私は、何もおもしろい事は言っていないのになぜ今目の間で彼女が笑っているのか理解できなかった。


「すごいよ。梓ちゃんってホント。まっすぐだよね。汚れてないとゆーか。ビー玉みたい。」


「へ?」


私は余計訳が分からず戸惑った。


「本当は知ってるの。山田君が休んでいる理由。」


さっきまでとは打って変わって彼女は口から言葉があふれ出して、状況を説明してくれた。


昨晩、麻田さんの両親がリビングで話している声が聞こえたらしく、山田のお母さんが倒れたらしい。ストレスが原因らしいが、その原因は別れた元旦那の子供と自分の子供が同じ学校に通っているという事を知ってから具合があまり良くなかったらしい。


「山田のお母さんが倒れた事、どうして麻田さんの両親は知っていたの?」


「それはわからないの。途中から話をこっそり聞いたからそこは話してなかったの。」


「そうなんだ。」


「なんか、ほんと私のお母さんってひどい事したんだよね…。山田君のお母さんの気持ちを考えたら…」そう言って麻田さんは俯いた。少し目に涙を浮かべているように見えた。私は麻田さんの背中をそっとさすった。


「この後ちょっと時間ある?お茶でもしない?」


自分でも放課後に誰かを遊びに誘う行為をしている事に驚いた。麻田さんは黙ってうなずいた。私たちは駅前にあるケーキ屋さんのミントへと向かった。


お店に入ると、平日という事もあってか、あまりお客さんはいなかった。人がいない方が落ち着くのでよかった。


席について、しばらく麻田さんはメニューを見て、同じページを何度もめくっていた。たぶん、頭の中はどれにするかではなく、山田や山田のお母さんのことを考えているのだと感じた。


「ここのお店、モンブランがおいしいそうだったよ。前山田が注文してた。」


麻田さんは「山田」というワードに反応して勢いよく顔を上げて私をまっすぐ見た。


「へぇ、山田君と来たんだ…。梓ちゃんもモンブラン頼んだの?」


「ううん。私はその時飲み物だけだったの。だけど今日は私も甘いもの食べたいからモンブランにしようかな。」


「じゃぁ、私も。」


ようやくいつもの麻田さんの笑顔になった。でも店員の人が注文を聞いて店の奥に行くと、また不安そうな顔に戻ってしまった。そして、まだケーキセットで注文したカフェラテがきていないので、目の前の水を一瞬で飲み干してしまった。でもまだ喉が潤ったという顔はしていなかった。


「私の分もいる?」


私は自分の分のお水をそっと差しだした。


「でも…。」


「そんなに喉渇いてないから大丈夫。ハニーラテも頼んだから大丈夫だよ。」


「ありがとう。」


麻田さんは私が差し出した水を一口飲むと、テーブルにゆっくりと置いた。


「山田は、麻田さんに対して怒ったりなんかしてないよ。」


麻田さんは目を大きく見開いて、こちらを見つめた。


ちょうどその時店員の女性がケーキセットを持ってきてくれた。


「とりあえず食べよっか。」


テーブルに並べられた濃厚そうな茶色のモンブランのケーキを見つめて言った。


「そう…だね。」


私と麻田さんはくすりと見つめあって笑った。


一口フォークで切り込みを入れると、まだ食べていないのに絶対おいしいのが分かった。


「すごいっ!今まで食べたモンブランの中で一番おいしい!」


麻田さんは私より先に食べ始めていた。私も追いかけるように口に運んだ。口の中に濃厚でほどよい甘さのクリームが広がった。


「ほんとにおいしいね。」ケーキと一緒に頼んだハニーラテとよくマッチしてフォークを持つ手が止まらなかった。




「さっきの話だけど…」


 あと一口分のモンブランが皿に残った時に、麻田さんはモンブランを見つめたまま言った。


「山田の事…だよね?」


私が言うと黙ってうなずいた。


「実は、前、ここのお店に来たときね、山田の気持ち聞いてて、その時は実の父親だった人がクラスメイトの子の父親になってるって事に混乱してたみたいだったけど、そこに麻田さんに対する怒りとかは全くなかったよ。ただ、混乱しているって感じで、どうやってこの現実を受け止めて行こうか山田なりに考えているって感じだったから…。」


もっとオブラートに包めばよかったかな。山田は全く気にしてなかったよ。過去の話だし切り替え早い人みたい!とてでも言えばよかったかな。ちょっと怖くなって言い終わった後、前を見ずにハニーラテをとりあえず口にした。一口飲んで、ゆっくりとコップをテーブルに置こうとすると




「そう…なんだ」


麻田さんは私の胸元らへんを一点に見つめてからあと一口のモンブランを一瞬で口に入れてしまった。あわてて食べたからか、少し苦しそうな顔をしてカフェラテで流しこんでいた。


「でも、お母さんが体調を崩してからは何にも話してないよね?この事…」


「うん…。」


確かに山田のお母さんが倒れてからは何も聞いてないが、今もあの時に聞いた気持ちかどうかはわからない。だけど…それでも、山田は麻田さんを恨んだりとかそんな感情は抱いていないとなんとなく感じた。


「とにかく、山田と話さないと分からないよね…状況とか。山田に今朝連絡したけど返信は来てなくて」


そう言って自分のスマホの画面を見るも、やはり山田からは何も連絡は来ていなかった。


「そうだね…」


何だか気まずい空気になってしまった。


「とにかく、山田から返信があったら麻田さんにも連絡するね」


私は、最大限に明るい表情で言ったが、目の前の麻田さんはぐっと口をつぐんで、こくりと頷くだけだった。これ以上、この話をしても終わりが見えないとお互い気付いたのか、それからはいつもの世間話をした。なんでもない事を話して少しでも麻田さんの気がまぎれればいいなと思った。麻田さんは私に気を使ってかそれ以降は楽しそうに振舞ってくれた。私たちは二時間もしないくらいお店に滞在してお店を後にした。




 家に帰ると、母が夕飯をよそってくれると言ったが、さっきケーキと甘い飲み物でお腹はパンパンだった。ちょっとさっき友だちとお茶してきたからまた後で食べるね。そういって洗面台へ手を洗いに向かった。


「ラップしておくから梓のタイミングで食べてね。」


そう言って母は肉じゃがにラップをかけて冷蔵庫にしまってくれた。


「はーい。」私は腑抜けた声で手を洗いながら洗面台から返事をした。自分の部屋に戻り、ベットに座ると、体がとても疲れている事に気づく。なんだかんださっき麻田さんと山田の事について話した事がとても体力を使っていたのだと気付いた。すると急に瞼が重くなってきた。十分だけ。そう思い、ベットに横になって目を閉じた。目を覚ますと、十分どころでなくかなり寝てしまったのだとなんとなく感じた。スマホの電源ボタンを押して時間を確認すると、二十一時を過ぎていた。スマホのロック画面に山田から着信履歴が表示されて、慌ててスマホを落としそうになる。私に対するメッセージは既読になっていたが、それに返答はなく着信が入っていた。ちょうど三十分前位に着信が入っていたようだ。私は少し震える手で山田にかけなおす。プルルルルとコール音だけが鳴り響く。七コールを過ぎて、着信を切ろうとスマホから画面を話すと、


「もしもし」と低い声が聞こえてきた。


「やっ、山田?ごめん着信気付かなくて電話したよね?」


私は少し声が上ずり高くなってしまって、急にはずかしくなった。


「うん。ごめんな。返信してなくて…電話で話そうと思ってたんだけど、今から駅前の公園まで来れたりしないよな?ほんと無理はしなくていいんだけど。」


「いいよ。」


山田が言い終わる前に私は食い気味で答えた。


「おっ、そっか。ありがと。じゃぁ一五分後位には公園につけるから。」


「わかった。私もその位だと思う。」


「おけ、ならまた後で。」


「うん。」


そう言って電話を切る。


数時間寝てしまったせいで、顔がすこしてかってしまっていたのでパウダーを顔につけてリップを付けなおした。鏡越しの嬉しそうな自分と目が合う。あれ、あたしなんでこんな楽しそうなんだろう。きっと今から楽しい話とかはおそらくないはずなのに。一瞬考えるも時間がないことに気づき、かばんをもって階段を急いで降りる。


「あら、まだ制服だったの?」


リビングでくつろいでいる母に聞かれ、


「うん、ちょっと疲れて寝ちゃってたみたい。」


「ちょっとさっきのお茶していたお店に忘れ物してて、一緒にいた友だちがもってくれているみたいだから取りにいってくる。」


咄嗟についた嘘にしては上出来だった。


「え~?明日じゃダメなの?もう九時過ぎてるわよ。」


母はリビングの時計に目をやって言う。


「うん、ちょっと明日の授業で必要なものだから。」


「そう…。気を付けて。」


母はめったに私が出かけない時間に出かけようとしているからかとても心配そうにしていたが、そんな事すらどうでもよくなる位私は逸る気持ちを抑えられなかった。


「すぐ戻るから。じゃ、」


リビングのドアを閉めてから


「いってらっしゃーい。何かあれば連絡するのよー。」とリビングのドアの向こう側から声が聞こえた。


「はーい。」


私は玄関のドアを開けながら後ろに向かって言った。自転車で公園に向かう途中、最初なんて声をかけるのかそんな事ばかり考えていた。もういきなり本題から話してくるのだろうか。それとも麻田さんと山田の事関係なしに私を呼び出したのだろうか。それはそれで緊張するしどうしよう。焦る気持ちと一緒に自転車を漕ぐスピードも速くなる。私は無意識にいつもより早いスピードを出していたのか、予定より五分も早くついてしまった。少し息を切らして周りを見渡すも薄暗い街灯がチカチカ光るのみで誰も見当たらなかった。なんだか夜の公園は気味が悪くて、早く山田来ないかなーとスマホを見るもまだ連絡はない。


「おっ、早いな。ごめん待った?」


そう思った瞬間後ろから声が聞こえて振り向くと山田が自転車を漕いでこちらに向かっていた。


「全然大丈夫。私も今来たから。」


私は乱れた前髪を整えながら答えた。


「てか制服で来たのか?悪いな。なんか急に呼びだしてしまって。」


山田は学校を休んでいるし当然私服だった。


制服の女子高生と私服の男子。周りから見るとちょっとおかしな感じがするかなと思った。


「すぐ話終わるから。でも直接話したくて。とりあえず座る?」


山田は公園のベンチを指さして言った。


「うん。」


私と山田はベンチに向かってぎこちない感じで歩いた。こんな夜遅い時間で会う事が初めてでお互いなんだか緊張しているのが分かった。私は、山田と少し距離をあけてベンチに座った。


「あのさ…」


「うんっ!」


私は食い気味で答えてしまった。


「やっぱおもしろいな山川はっ」山田は吹き出しながら言った。もうっ!私は、そう言ってそっぽを向いた。


「ごめんってー。」山田は私の肩をそっと叩いて言った。


私はびくってなり振り向く。


「話なんだけど…」


山田は急に話し始めた。


「結論から言うと…、俺転校する事になった」


私は、頭が真っ白になって何も言えなかった。


「そうなんだ…。い、いつ?」


「それが来週。」


「来週!?」


私は思わずベンチから立ち上がって言った。


「急に決まったんだけどな、俺も驚いてる。まぁ、転校の理由は、あの事なんだけどな。」


「あの事…。」


私は何の事が分かっていたけど何て言えばいいのか分からなかった。


「母さんがさ、体調良くなくて。俺のクラスメイトに親父の子供がいる事が原因なんだけど。母さんなりに人生やり直して前向きに生きていたのに、やっぱりな、消したい過去だった事がよぎるんだろうな…。俺があの時母さんに麻田さんの事言わなきゃこんな事にはなってなかったかもしんねーけどなー」


山田はあーと言いながら立ち上がった。私は黙って聞いているしかなかった。


「で、もう今週は学校行かないし、みんなにも別れの挨拶できないからせめて山川には会っておきたいと思ってな。色々ありがとな。」


山田はそういって右手を差し出した。薄暗い街灯に照らされた山田は何だか別人に見えた。


「いや、こちらこそ、ほんとありがと。」


私は左手を差し出して山田に手を握った。


新しい高校は隣の隣の町にある男子校らしく、家から一時間半はかかるらしい。自転車通学でなく電車とバスを乗り継いでいくと山田は嫌そうな顔をしていった。私はひたすら黙ってうなずいて聞いていた。


「わりぃ。ちょっと話すつもりが三〇分も話しちゃったみたいだな。」


「ううん!大丈夫!びっくりしたけど、がんばろお互い!」


私は精一杯明るい笑顔で言った。


「ありがと。山川もがんばれ!」山田はくしゃっと笑って言った。山田と公園で別れをつげ、自転車に乗って自宅へ帰る。自転車を漕ぎながら鼻水が垂れてきそうになってあわてて吸い込む。どうやらショックを受けているみたいだ。視界もぼやけてきてちょうど信号待ちで止まった。何で、山田は転校しなきゃいけなかったのかな。こうなるべくしてこうなったのかもしれないけど、でも山田も麻田さんも悪くない。正直に言うと悪いのは、不倫をした山田の本当のお父さんと、麻田さんのお母さんだ。好きで結婚しても離婚する男女なんて世の中大勢いるし、よくある話だ。でも、今回ばかりは「よくある話」で片づけられない。だってそのせいで大切な人が傷ついている。私にとって山田は大切な人なんだ。目と鼻から一気に液体が流れだす。もう来週から学校で会えなくなる。想像したら悲しいなんてものじゃない。良い大学に行くために勉強だけに集中するはずが、大切な人もできたし、他人の家庭事情に首を突っ込む私にしては絶対あり得ないような事が起こっていることに改めて気付く。信号が青になる。鼻をすすって声をあげて泣きながら自転車を漕ぐ。すれ違うサラリーマンや大学生らしきカップルたちの視線を感じるが、そんな事どうでもよかった。自転車を漕ぐスピードと共に声が大きくなってどうにもならなかった。家の数メートル前で自転車から降りて、呼吸を落ち着かせる。家に着くころには、大分落ち着いていたが、まだひっくとしゃっくりのような余韻が残っている。きっと顔はひどい事になっている。スマホを見ると十時半の少し前だった。すぐ帰るといってちょっと遅くなってしまった。家の明かりはさすがにまだついていた。家族に顔を見られずに部屋に入る方法をぐるぐると考えているともう玄関の前まできてしまった。私は、そーっと玄関のドアを開ける、リビングからはテレビの音が聞こえてくる。玄関の鏡を見るとやはりひどい顔をしていた。この顔を見られたらさっきまで泣いていたのがまるわかりだ。私は、そっと靴を脱いで、そっと階段を上ってリビングのドアの隙間から「今、帰ったよ。」と言って、すぐに階段をかけのぼった。すでに部屋に入ってから階段の下から「おかえりなさい。」と母の声が聞こえてきた。「夕飯は結局いらないの?」母が聞いてきた。ここで何も言わないと絶対に母は階段を上がって私の部屋に入ってくると思った。「いらないよー。ごめん。」いつも通りの声を心がけ部屋から叫んだ。すると返答したにもかかわらず、階段をギシギシそっとのぼる人の足音が聞こえた。まずい。私は制服のままベッドにダイブして、布団をかぶった。コンコンと母が部屋をノックしてきた。私は、布団の中から「はい。」と言った。「大丈夫?忘れ物は無事に受け取れた?」母はやさしく聞いてきた。「うん、大丈夫。」私は相変わらず布団の中から言うので、きっとこもった声で母の耳には伝わっていると思った。「そう。ならいいけど。お風呂入ってもう寝なさい。お母さんももう寝るね。」そう言って部屋には入ってこなかった。ドアの前に人の気配がなくなったのを感じた後に、「はぁい」と小さく呟いた。




 次の日、坂口先生はクラスの出席を取った後、深刻な顔して口をひらいた。何を今から話すのかきっとこのクラスでは私だけが知っていると思った。


「山田の事なんだが…突然の事でみんなも驚くだろうが…家庭の事情でな転校する事になった。それでもう来週には転校するそうで、今週もその準備で忙しくて来れないそうだ。みんなにはお別れの挨拶ができないそうでな…」


坂口先生は少し目が赤くなっていた。クラスメイトもまじ?急だなとざわついていた。私はすっかり緊張して固まってしまっていた。目だけ麻田さんの方に向ける。麻田さんは坂口先生の方を見つめて、しばらくして顔を伏せていた。


「みんなも急で驚いただろうが、山田の分もこのクラスで残りの学期も頑張ろう。山田も新しい環境で頑張るからな。」


ホームルームが終わった後、クラスメイトは「知らなかったなー。」「最近きてなかったしねー。」「誰か聞いてなかったのかな」とその話題でもちきりだった。「家庭の事情ってなんだろうな。離婚?」「さぁ…」みんな山田の事何にも知らないのだと改めて思った。麻田さんはそのクラスの空気に耐えれなくなったのか席をたってどこかへ行ってしまった。追いかけるか迷ったが、椅子をガタっとたてるだけで私は動く事ができなかった。「山川さん何か知ってる?」特に事務的な事以外話した事ないような派手なグループの女子が聞いてきた。「確かに。そういえばよく山田と話してたよね。」クラスメイトの視線が一気に私へと注目する。「知らない…です。」と言って私は俯いた。一瞬教室は静まり返ったが、「そうだよねー。」とみんなクラスの人気者の山田が私みたいな地味な女子に何か話しているはずないというような反応で一気に注目が私から離れた。本当は知っている。でも絶対に誰にも言いたくなかった。山田は私を選んで話してくれたのだ。クラスメイトに私たちの関係性が分かってたまるか。なんだかモヤモヤとしながらも一限目の古文の教科書を出して毅然とした態度をした。前を見るもやはり私の事も見る人はもう誰もいなかった。




 山田が転校して一年が経った。私は高校三年生の終わりを迎えていた。大学受験まで残り三カ月を切っていた。あれから山田とは、山田が高校を転校したての頃は連絡をとっていたが、連絡は自然と途絶えていき、今は全く連絡はしていない。麻田さんとは山田が転校して以来、麻田さんからぱったりと山田の話はなくなった。敢えて山田の話をしていないのか、それとも本当に山田の事は忘れているのか、麻田さんの表情からは読み取れなかった。山田が転校してから、私は本来の自分を取り戻しつつあった。学校では最低限の学校行事をして、それ以外は勉強に励んだ。家に帰っても、学校が休みの日も私は机とにらめっこをした。すると順調に偏差値は上がっていった。母も私の変化に当然気付いた様で、何かに吹っ切れたように勉強する私を少し心配していた。私が第一希望にしている大学の現状の判定はB判定だった。高校三年の担任は前田先生という英語が専門の若い女性の先生だった。


「うん。この調子なら山川さんが第一志望にしている大学は合格圏内だと思うよ。ただB判定だから油断はせずにこれからも頑張っていきましょ。」


「はい。」


前田先生はまさに優等生という感じの先生で、まっすぐに真面目に生きてきたんだなーと分かった。中学生までの私ならきっと前田先生のような大人になれたかもしれないけど、今の私では多分無理だ。


放課後の面談を終えて、私は手袋とマフラーをつけながら靴箱へと向かった。白い息がふわっと出る。「さむっ」私は小さく呟いて小走りで自転車置き場へと向かう。


「梓ちゃん!」


振り向くと、麻田さんがぽつんと立っていた。


「わぁ、なんか久しぶりだね。」


高校三年のクラスは違うクラスになっていたので、麻田さんとは自然に疎遠になっていた。


「久しぶりに一緒に帰らない?」


「うん」


私たちは待ち合わせしていたかのように自然に歩き始めた。


「受験勉強は順調?」


「そうねー。希望の大学はB判定だから油断はできないって感じかな。」


「えー!すごいね。さすが梓ちゃん。確か都立大学だったよね?あそこレベル高いのに尊敬するよ。ホントに。」


「そんな事ないよー。そっちはどんな感じ?」


「それがさー、私大学行くの辞めたの。」


「えっ!?」私は思わず立ち止まって麻田さんを見つめた。


「そんなに驚く?」麻田さんはくすっと笑った。


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