9.
――しかし、全て白状して土下座した俺を、椅子にふんぞり返った姉貴は軽く一蹴した。
「何をしてくれてるんだ、うすらトンカチ。僕の評判が落ちたらどうするつもりだ」
足を組み、傲岸不遜な態度で俺を見下ろす。こいつはプリンスというより女王様だと、俺は認識を改めた。
「うう……。ひょ、評判が落ちたとしたら、素がバレただけじゃ……うぐっ」
「勝手に僕を騙っておいてどういう神経だ、ウルトラへたれ。ほんとに反省しているのか、ハイパー無能」
「くぅ……!」
なぜかいつも七語で罵倒してくる昴の勢いが止まらない。しかし、しばらく俺をいじめると溜飲が下がったのか、やがてため息をついて声音を落とした。
「――それで? その憐れな子羊に文化祭を案内してやれって? うちの不詳の弟が騙してごめんねって謝って? ――はあ。それで何が解決するんだ、腐れトンチキ」
「だ、だって、彼女がそうして欲しそうだから……」
「……はああああああ」
昴はこれ見よがしにため息をついた。それから、ちっと舌打ちをする。
「あほ馬鹿間抜け! ほんっとにお前は何もわかってないな。その子が求めているのは、そんなことじゃないだろう」
「ええ? でも――」
本物の昴であれば、文化祭も案内できる。俺なんかより、昴と仲良くなれた方が彼女も嬉しいはずだ。嘘がばれたら俺は軽蔑されるだろうが、彼女が喜んでくれるなら構わない……。いや、すごくきついけど、俺が悪いのだから耐えるしかない。
「それに、お前が落とし前をつけないでどうする。お前の少ない美点はなんだ。馬鹿正直で素直なところだろう?」
「――そ、それは、どう考えても短所だろ!」
おかげで地味でつまらないと言われるし、馬鹿にされることも多い。千和さんのことだって、歩きスマホが危ないなと思って見ていたら、いつの間にか好きになっていたという単純さだ。
……一応釈明しておくと、軟弱な体を鍛えようと人知れず公園で筋トレしていただけで、誓って痴漢でも変質者でもない。
しかし昴は、ふふんと笑った。
「やっぱりお前は何もわかっていない。自分が悪いと思ったら悪いと言える、できないと思ったらそう言える――、それは僕にないところだというのに。……まあいい。とにかく、お前は単純馬鹿なんだ。四の五の言ってないで、誠心誠意謝ってこい」
「いや、でも……っ」
部屋から蹴り出そうとする昴に抵抗し、俺は床にしがみついた。
「でも、謝るだけなんて……! 俺ができる償いは、これくらいしかないんだ……!」
彼女は、騙されていたことに傷つくだろう。プリンスどころか、こんな何のとりえもない男と無駄な時間を過ごしたことを悔やむかもしれない。だからせめて、憧れの人との橋渡しをするくらいはしてあげたい。
だが、昴は俺の気持ちをわかってくれなかった。
「この、ボケナスメガネが……。……お前のしたことは、その女の子のためなんだろ。それがわかんないような子なら、お前からフッてこい」
「――はあ!?」
「そんな計算高くてプライドも高い女、僕だってお断りだ」
「ち、千和さんは、そんな子じゃない!」
彼女を馬鹿にするような言葉にカッとなる。
思わず立ち上がった俺を、昴はどうやったのかクルリと回して、部屋の外へと叩き出した。
「だったらいいだろう。ああ、もうひとつ言っておく。僕は、お前の代わりもごめんだ」
ドアの隙間から顔をのぞかせ、べえと舌を出して捨て台詞を吐いた。
「――っ? 何を……!」
何を言って。
俺の代わりなんて頼んでいない。もともと俺がしていた昴の代わりを、本人に戻したいだけなのに。
俺は抗議しようとしたが、目の前でドアを閉められては言い募ることもできなかった。
けんもほろろに追い払われた俺は、とぼとぼと待ち合わせ場所に向かった。




