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ニセモノ王子(プリンス)  作者: 鍵の番人


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8/12

8.

「へえ、喫茶店かあ……」


 彼女はうっとりした様子でつぶやくと、そのままの調子で尋ねてきた。


「それって、一般公開もしたり……?」

「え? ああ、うん。確かそうだと思うけど」


 俺はもちろん誘われたことはないが、親は招待券をもらっていたと思う。そう言ったとき、千和さんの意味ありげな視線に気が付いた。


「……? 千和さん……?」

「……あの、それ……、私、行ったりしちゃだめですか? ……もし良かったら、少し、案内してもらったりとか……」

「――え……っ?」


 本音を探るような、怯えるような――千和さんの口調。

 こんなふうに言われたら……、昴なら、二つ返事でOKしたはずだ。


 しかし、俺は。


 この事態を想定していなかった俺は、返答に詰まってしまった。


 彼女が浅緋の文化祭に来たら、俺の嘘がばれてしまう。俺がプリンスではないと知られてしまう。

 案内なんてもってのほかだ。昴の物真似は、本物の前では通じない。


「――あっ、冗談です! 冗談ですよ! 山上さん、お忙しいですもんね! ……それに、私一人のためになんて、そんなずうずうしいこと、私……!」


 血の気を失った俺を見て、千和さんは慌てて付け足した。傷ついたような表情で、真っ赤になって下を向く。


「――っ」


 今度は逆に、カッと頭に血が上った。


 最低だ。

 最低なことをした。


 予想できたはずだ。こんな話をしたら、誰だって期待してしまうと。誘ってくれたのかと、勘違いしてしまうと。


 それなのに。


「あの……っ、千和さん、違うんだ。そうじゃなくて……、そう! 先約があって、それで……!」

「い、いいんです! それ以上言わないで下さい、わかってますから。……私が、勘違いしちゃっただけなんです。だから、今のは忘れてください……!」


 これ以上無言でいたら、さらに彼女を傷つける。そう思って取り繕ったが、さらに墓穴を掘っただけだった。


 千和さんは笑っていたが、ショックを受けているのは明らかだった。それからはどうにも会話が進まず、気詰まりな雰囲気のまま、駅で別れた。




 それから数回、千和さんに会ったが、彼女の笑顔や声に陰りがあるのを、どうしても感じずにはいられなかった。


 文化祭の件もそうだが、きっとその前から千和さんは気づいていたのだろう。

 俺のどこかに嘘があることに。


 正体を隠そうとすればするほど、彼女との間に壁をつくらざるを得ない。彼女が仲良くなろうと歩み寄ってくれる分、俺は後ろに下がらなければならない。それを拒絶と受け取られても不思議ではなかった。


 もう、これ以上は無理だ。


 俺は悩みに悩んだ末、ふと、姉貴に打ち明けてみようかと思い立った。


 今までは、昴に相談しようなんて考えたこともなかった。敬遠して、近寄ろうともしなかった。しかし、文化祭のことを聞いて思い出したのだ。


 昴がクッキーづくりを始めたのは半年くらい前。かんしゃくを起こして一度は投げ出したものの、それからも一人で練習を続けていたのだろう。昴から甘い香りが頻繁に漂っていたのは、きっとそのせいに違いない。


 昴は天才なんかではなかった。ただ、できるまで努力をしただけだ。勉強も、運動も、お菓子作りも、すべて。


 俺みたいに、途中で諦めるわけではなく。


 そう思ったら、素直に相談してみようという気になった。プリンスなどと崇められているのも、ただ見かけが華やかだからというだけではないのかもしれない。



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