6.
「あの、女子高って、どんな感じなんですか?」
彼女は女子高に興味があるらしく、期待に満ちた声で尋ねてきた。
「え? ど、どうって――、そうだなあ……」
女子高の実態なんて、俺が知っているわけがない。しかし、何か言わなければ。俺は頭をフル回転させ、昴と想像を掛け合わせてみる。
「ええと、いつもいい匂いがしていて……調理実習が多いかな」
「……いい匂い?」
「うん。おかげで、毎日のようにクッキーやらケーキやらをもらうんだよ。おいしくて、つい食べすぎちゃうんだよね。ダイエットが大変だよ、あははっ!」
おそらくそう外れてはいない……はずだ。昴が通り過ぎた後には、よくバターや砂糖の甘い香りが残っているのだから。
「そうなんだあ……。いい匂い……」
彼女が鼻をひくつかせ、わずかに首を傾げた。その仕草に、ぎょっとする。
「あっ! で、でも、今日は柔道の授業があって……。シャ、シャワーが壊れていて使えなかったんだ! あ、汗臭かったかな!? レディの前で失礼だったね!」
「え、い、いえ! そんなこと……」
彼女は否定してくれたが、俺の冷や汗は止まらなかった。彼女と別れて家に着いたとたん、昴の部屋に潜入し、棚という棚を漁りまくる。
やつのことだ。たぶん、あれもあるに違いない……!
彼女に臭いと思われたくなくて必死だった俺は、背後から忍び寄る影に気づかなかった。
翌々日。
「? 山上さん、もしかして、どこか調子が悪いんですか……?」
「え!? ま、まさか。具合なんて悪くないよ!」
俺は顔を引きつらせながら、彼女の懸念を笑い飛ばした。
本当に、具合が悪いわけではない。先日、香水をくすねようと昴の部屋に忍び込んだ際、バレて痣だらけにされただけである。痛みが残っていて時折動きがぎこちなくなるせいで、彼女を心配させてしまったようだ。
「あ、あー、もしかしたらあれかな、テストが近いから、昨日は遅くまで勉強をしていてね。そのせいで血行が悪くなって、体が凝っちゃったのかもしれないな」
わざとらしく首や手首を回してみせる。やつは、見える部分には傷をつけないのだ――さすが常習犯である。
心の中で感心していると、彼女もまた感心したような声を出した。
「山上さんみたいに優秀な人でも、夜遅くまで勉強なんてするんですね……」
「――えっ、僕の成績、知ってたっけ?」
ぎょっとして問いかけると、彼女はううん、と首を振った。
「なんとなく、プリンスさんだから、何でもできるのかなって。私とは違って、勉強とか苦手じゃなさそう……」
そういうことか。昴のことを調べたのかと思って、心臓が止まりそうになった。
確かに、千和さんの想像通りだ。昴の成績は優秀である。具体的にどのくらい良いのかは知らないが、しょっちゅう同級生に勉強を教えているらしい。
一方俺は、中の中というこれ以上ないほど平凡な成績だった。そんな俺に、頭のいいやつの気持ちなんてわかるわけがない。こんな時どう答えるのが正しいのか……、俺は平凡な頭を発熱する勢いで働かせ、遠い昴の記憶を探った。
「そ……そうだね。勉強は……面白いと思うよ。知らなかったことを知ることができるし、やればやっただけ身に着くから」
そう。確か昔、昴はそんなことを言っていた。




