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ニセモノ王子(プリンス)  作者: 鍵の番人


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1/4

1.

 俺は決してストーカーではない。

 断じて、ストーカーなんかじゃない。


 俺はそう心の中で繰り返しながら、電柱に隠れつつ彼女の姿を追っている。




 ふわふわボブの彼女の名前を、俺は知らない。だが、ここから二駅先にある山吹高校の生徒だということくらいは、制服を見ればわかる。


 なぜ、面識のない女子の後をつけているのか。それは、この辺りが物騒なことに由来する。


 俺の住む閑静な住宅街に、最近、痴漢が出たのである。街灯が少なく人通りもないせいか、昔から時々思い出したように出るのだが、そんな場所を、彼女は一人で歩くのだ。


 塾に向かうときはまだしも、帰りは暗い。変態が陰に潜んでいても、近くに行くまで気づけない。

 と、いうわけで、俺は仕方なく、彼女を遠くから見守ることにしたのである。


 ――そう。ただ見守って、無事に駅の構内に入るのを確認するだけだ。彼女の前に現れるつもりもないし、そもそも、認識されるつもりもない。彼女とどうこうなろうなどとは、考えたこともないのである。


(――あ、そういえば……!)


 ふと、あることを思い出して俺は息をのんだ。


 俺も彼女と同じ駅を使って学校へ行く。だから、この道はまさに通学路だ。彼女が今差し掛かろうとしている、長い間無人のままの石垣のあるお屋敷。その敷地に沿って続く排水溝の蓋が、今朝見たら壊れていたのである。


 穴の大きさはそれほどでもない。だが、もし偶然、足を踏み入れてしまったら?


 塾へ向かうときはまだ明るかったから、彼女は気づいたかもしれない。だが、気づいていなかったら大変だ。こう暗くては足元なんかよく見えないし、しかも彼女は、歩きスマホの真っ最中だ。大体、もし気づいていたとしても、塾が終わるまで覚えているかは不明である。


 俺の気持ちを知ってか知らずか、彼女はふらふらと穴の方へ寄って行った。目は、スマホの画面にくぎ付けになっている。


(まずい……!)


 俺は慌てて背後まで近づいた。


 どの位置なのかはっきり覚えていなかったことが悔やまれる。だがおそらく、そろそろのはずだ。

 側溝に落ちたら、きっと怪我をしてしまうだろう。落ちるところまではいかなくても、足を取られたら転んでしまうかもしれない。


 想像したら、心臓がきゅっと縮んだ。


(ど、どうしよう、どうしよう……!) 


 俺は、焦り――、とうとう、足を踏み出した。



「――待っ……、待って!」

「……え?」

「危ないから……!」


 ――そうしてつい、彼女の腕をつかんでしまったのだ……。




「ちっ……、痴漢!?」


 案の定、彼女は驚き、悲鳴を上げた。


「いやあっ、離して……っ!」

「え? いや、待って! あの、俺は、痴漢じゃ――」

「誰か助けてっ! 警察……っ、警察を呼んでくださいっ!」

「――け、警察はやめてええ!」


 パニックに陥った彼女は、俺の話を聞いてはくれなかった。手を無茶苦茶に振り回して、叫ぶ。あまりの振り回しぶりに、細い腕がとれてしまうんじゃないかと心配になったほどだ。


 だったら俺が手を離せばよいのだが、そうしたら彼女は一目散に駅に逃げ込むだろう。


 駅員に(すが)りついて俺を指さす彼女と、警察に連行される俺の姿が脳裏に浮かんだ。


(ひいいっ!) 


 それだけは、何としても避けなければ……!


 彼女に負けず劣らずパニックを起こした俺の頭は、暴投とも言える答えをはじき出した。


「――じ、実は俺、……じゃなくて僕は、お、女なんだ!」

「――へっ……?」

浅緋(あさあけ)高のプリンスとは、この僕のことさ!」


 史上最悪の思い付きだと、上ずった声で名乗りながら思った。


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