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日常エッセイ

水のすすめ

作者: 上条ソフィ

 昔から温かい飲み物が好きでした。コーヒー、紅茶、中国茶に始まり、大人になってからは緑茶もなかなかいいよねと常滑焼の急須を買ってみたり、ハーブティーにもはまりました。最近のお気に入りは、はと麦茶です。

 知人にはと麦茶をお勧めしてみましたが、いまいちの反応。ニッチな飲み物だとは分かっているので興味がない人はそんなもんだろうと思っていたら、その知人は面白いことを言いました。「私、お茶飲んでると飽きちゃうんだよね」と。じゃあ何を飲むのか聞くと、「白湯」との答え。知人は朝に鉄瓶でお湯を沸かしてステンレスのボトルに入れて、一日かけてそれを飲むんだそうです。温かい飲み物といえば味がついているものと思っていた私は、「めっちゃエコじゃん!」と思わず膝を叩きました。

 よく考えたら水は最強なのです。


 まず、コスパが最強です。

 水道水は、よほどのことがないと止まりません。むしろ、水道水が止まったらかなりの緊急事態です。「水どころじゃねえ」というほどの支障が他にも出ているはずですから、そちらを優先させるべきでしょう。

 基本的に水は出るものとして、では味のある飲み物を作りましょうとなったら、茶葉やコーヒー豆などが必要になってきます。当たり前ですが、これらはストックが切れたら飲めません。買うには水代にプラスして茶葉代がかかりますし、ストックするにはスペースも必要です。その点、蛇口は家に備え付けられていますから、スペースは元から確保されていますし、蛇口をひねれば(今はこういうお宅は少ないでしょうが)水は出るので、ストックする必要はありません。


 お茶やコーヒーは奥が深く、沼れば沼るほどいろいろなアイテムが増えていく『構ってちゃん』です。特にコーヒーは淹れ方が多種多様。基本のペーパードリップから始まり、フレンチプレス、マキネッタ(直火式のエスプレッソメーカー)、サイフォン、コールドブリューなど多岐に渡ります。急須で入れるスタイルもあるようです。一時期コーヒーにどハマりしていた時は、真剣にサイフォンを買おうか迷ったものです。でもあんな大きなガラス製品、一般家庭のキッチンに置いておいたら危なくて仕方がないのでしぶしぶ諦めました。あと欲しかったのは家電量販店で買えるものとは桁が一つ違った高級電動ミル。「店でも始めるの?」と突っ込まれてこちらも諦めました。だって、豆の挽き方で味が全然変わるって言うし! と思ったのですが。

 その代わりに他のコーヒーグッズを買ったので、結局キッチンのスペースを取る羽目になりました。こうしてどんどん物は増えていくのです。


 グッズだけでもこうなのです。コーヒーは、豆の焙煎法によっても味わいは変わります。浅煎り、深煎り、その中間。私のお気に入りのお店は百グラム単位で好きなローストに焙煎してくれるという太っ腹なお店です。そしたらいろいろ試してみたくなっちゃうよねえ、となります。

 こだわればこだわるほどお金もスペースもかかる、困ったちゃんなのがコーヒーです。


 昨今の物価高の影響で、お気に入りのコーヒー屋さんや紅茶屋さんから次々に流れてくる値上げのお知らせに世知辛いものを感じています。コーヒーや紅茶はそのほとんどが輸入品なので仕方がないとは思うのですが、その点でお財布に優しいのは断然水道水です。


 ちなみにですが、私はレストランで水代を請求してくるような店は好きではありません。海外の水道水が衛生基準に達していない地域や、硬水すぎて料理の味を邪魔するような地域なら仕方ないと思いますが、蛇口からそこそこ安全でそこそこ美味しい水が出てくる国内で、わざわざ海外からペットボトルの水を取り寄せてサーブする必要があるのか疑問です。そんなところばかり海外かぶれしないでおくれよ、と思います。どうせ料理は水道水で調理しているのですし。


 また水は、歯に優しい飲み物でもあります。

 水であれば茶渋はカップにつかないし、歯にステインもつきません。歯医者さんでステインクリアのための特別な(そして別料金の)クリーニングや、ホワイトニング(歯に染みるらしいと聞いているので怖くて手が出せない)をしてもらう必要もありません。


 最近読んだ歯医者さんが書いたある本に、こんな怖いことが書いてありました。基本的に、水道水以外の飲料を飲むと口内のpHは酸性に傾くんだそうです。口内のpHが酸性に傾くと歯のエナメル質が脆くなり、虫歯になりやすくなります。緑茶や紅茶であっても水道水より酸性寄りだそうで、コーヒーはさらに酸性。もちろん無糖の場合です。


 さらに、ペットボトルのお水も物によっては酸性なのだそうです。特に炭酸飲料を発売しているメーカーの水は、炭酸飲料を作るためにあらかじめ水を酸性に調節しており、その水をボトリングして販売していると、ペットボトルのお水でも酸性の場合があるのだとか。ただしこれは海外の例なので、日本はまた違う基準があるのかもしれませんが。試しにサントリーの天然水のラベルを見てみたら、pH7と記載されていました。pH7は中性です。今まで気にしたことはなかったけど、さすが日本のメーカーです。きちんと明記されているのが素晴らしい。気になる方は今度お水を買った時にラベルを見てみることをおすすめします。


 さて、国内のペットボトルの水は大丈夫そうね、と思ったのも束の間。なんと、無糖の炭酸水も実は酸性なんだそうです。砂糖たっぷりの炭酸飲料は歯に悪そうなイメージがありますが、無糖の炭酸水が酸性とは衝撃的。この驚きの事実を歯科衛生士の知り合いに話したら、「まあ、炭酸水って二酸化炭素が入ってるからね」と冷静なコメントが返ってきました。そうです。『酸』という字がちゃっかり入っているのです。


 なぜこんなに酸性かどうかを気にするかというと、私は歯医者さんが好きではないからです。クリーニングなら仕方なく受けますが、歯をキィンと削られると魂がゴリゴリ削られたような気分になります。昔、飼い犬をワクチン接種に連れていくと、そのあとしばらく部屋の隅っこで一心不乱に毛繕いをしていましたが、それと同じような気持ちになります。

 ただ酸性の飲料を飲んだからといって即座に歯が溶けるわけではありませんし、酸性に傾いた口内環境は唾液の作用で中性に戻っていきますから、気にしすぎる必要はないとは思います。


 そして最後に水のいいところは、ノンカフェイン、ノンアルコールであることです。

 カフェインが入ってないので夜の眠りを妨げることもないですし、アルコールも入ってないので酔っ払って色々やらかしてしまうこともありません。それに水というのは大量に飲もうと思ってもそうそう飲めるものではありません。

 飲み会でビールジョッキを次々と傾ける人を見て、この人のお腹の中は一体どうなっているんだと常々思います。アルコールだから体外に素早く排出されるのでしょうが、一旦はお腹の中に入ります。どこに、そんなに入るの?

 ジョッキに入った水を何杯も飲める人はいません。想像してみてください。もし飲み放題のメニューが水オンリーだったら、何杯飲める、もしくは飲みたいでしょうか。せいぜい三杯当たりが限度なのではと思います。一杯一千円の高級水だろうと、水は水です。

 水分は摂れば摂るほどいいというものではありません。水分の過剰摂取は腎臓に負担がかかります。水として飲める量、「もうこれ以上はいいや」となるあたりが、水分摂取の適量なのだと思います。


 お茶にはいろいろな効能があり、緑茶のカテキンやウーロン茶の抗酸化作用などはよく知られています。「健康茶ブーム」というのは、現れては消えていくサイクルを繰り返しています。血糖値が下がるとか、血圧が下がるとか、痩せるとか。私もマテ茶とかルイボスティーとかローズヒップティーとかにハマりました。ですが、そういった謳い文句のお茶は効能もあやふやなものですが、たとえある人にとっては本当に体に良いとしても、他の人にも同じく効果的だとは限りません。カリウムが多く含まれているお茶はカリウム摂取を制限されている人にはマイナスですし、子宮収縮作用があるお茶は妊娠中は控えた方が良いです。その点、水は多くの人にとって一番害が少ない飲み物です。子どもから老人まで安心して飲めるのが水です。


 水の最大の欠点は、飲んでも別に楽しくないしテンションも上がらないことでしょうか。

 ストレスできぃっとなったときに、「さ、白湯でも飲んで落ち着きましょう」とお湯を沸かすことができるのは、ヨガティーチャーくらい。意識高い系でもなんでもない一般人である私は、疲れたときやストレスがかかった時はやはり味のついた飲み物を飲みたくなります。緑茶のほっこり感も、紅茶の香り高さもいいけれど、コーヒーを淹れる時間は特に幸せな気持ちになれます。『嗜好飲料』とはまさにこのこと。


 それに加え、嗜好品は社会生活を円滑にする役割も担っています。

 親しい人とカフェでコーヒーを飲みながらおしゃべりしたり、飲み会で普段話さない人と話をしたり。誰かと時間を共有するには、カフェイン飲料やお酒は結構重要なアイテムなのです。

 そういった場面で水だけを飲んで楽しい気持ちになれるか? と考えると、まあ間が持たないよね、と思います。砂漠で遭難していたらありがたい気持ちになれるかもしれない。修行僧になったらなれるかもしれない。でも普通に生きていたら、多分楽しくないでしょう。


 地域によって水道水の質と味はまちまちです。私は名水とはかけ離れた地域に住んでいますが、浄水器のフィルターを通せば十分かなと思っています。

 水も飲みつつ、コーヒーや紅茶なども楽しんで、ほどほどの水生活をしていこうと思いました。

「水」がテーマの『夏のホラー2025』に参加しています。『四㽷(しすい)村の黒い水』は今週中に完結予定です。

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