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第四話 全身に雷が落ちた様な衝撃って本当にありますのね


 お茶会当日。

 八歳から十四歳までを対象にした貴族の子女が集まった王太子主催のお茶会は、一言で言って盛況だった。

 むしろ、あまりに人が一点に集中しまくるので、エミリエンヌは引いた。ドン引きした。


「お、王太子殿下、はじめまして~!」

「ああ、今日もとても素敵な髪の色をしていますね。まるで太陽の想いを直接浴びているかのようですわ……!」

「空に吸い込まれるようなその瞳も、とても麗しいですわあ」

「あ、あああああああの、わ、わ、わたくし! 国王陛下の補佐をしておりますバレーヌ侯爵の娘でございますっ。お目にかかれて光栄ですわ、殿下」


 などなどなどなど。

 しまいには、「ご趣味は」「どの様な方が好みか」「好きな食べ物はあるか」「今度贈らせて頂きたい」「むしろ私を選んで」「何言ってんの私よ」「はあ? 引っ込んでなさいよ」という表現を遠回しに露骨に出した会話に発展していき、我先にと競うに至っていた。遠くから見ていると、花の密に群がるアリの様である。参加していた子息が取り残されて可哀相とまで思ってしまうほどだ。


 しかし、エミリエンヌはすでにさっさと草むらに避難しながらその光景を見守っていた。


 王太子に近付かないという珍獣の様な反応に加え、エミリエンヌは腐っても公爵家の令嬢である。取り残された男子に群がられても対応に困るだけだ。婚約をする気などさらさらないのだから、切り捨てるセリフしか出てこない。それは流石に子供相手に可哀相だと、前世の己が告げてきている。

 それに案のじょう、他の令嬢からはライバルの筆頭と見られてしまっていたため、刺々しい試練の嵐だったのだ。――当然、そういった令嬢の全ての顔と家柄は把握し、後で家族に報告するが。彼女達は果たして、次に会ったらどのつらを下げて目の前に現れてくれるのか。今からとても楽しみである。

 ともかく。

 よって、エミリエンヌは探した。父が助言してくれた「人だかりが少ないところ」を。

 そして、そこは簡単に見つかった。


「ああ、あそこですわね」


 確かに、白い丸テーブルに一人、少年が静かに座っていた。

 そばに立つ二人は、背丈を見る限り、やはり彼と同じくらいの年齢だろう少年にエミリエンヌには見える。遠目からすると、くだんの少年は髪から服装まですっぽろ真っ黒で、まっくろくろすけにしか見えない。

 ただ、ここに参加しているからには高貴な出であるはずだ。例え、このお茶会に興味はなくても、参加しているのだから間違いない。はずだ。


 ――護衛は、草むらあたりにいますわね。


 このお茶会は、貴族の――ましてや王太子がいる集まりである。護衛は万全にそこかしこに配置されていた。

 貴族子女が自由に行き来出来る様に配慮はされていたが、不審者が紛れるには難し過ぎるほどの絶妙な配置のされ方だ。警備の総括者である父の指導が行き届いているのだろう。現に、父は、遠く――本当に遥か遠くから見守っている国王の傍にいて、お茶会の状況を見守っている。

 エミリエンヌがそちらを向くと、「エミリー」と手を振りまくっているのが見えた。エミリー、というのは幻聴かもしれないが、父なら確実に名前を呼んでくれているだろう。

 しかし。



 ――なんでしょう。あの黒い少年の周りだけ、少し手薄ですわ。



 もちろん、誰かが襲い掛かってきても充分対処出来るほどの警備網ではある。

 だが、あの黒い少年の場所だけ他に比べて少し薄いのだ。まるで、少し差を付けられているかの様に。

 変な感覚に囚われたが、父が言う「人が少ない場所」はあそこである。

 ならば、あそこが一番安全だ。父が、危険(あふ)れる場所に娘を誘導するはずがない。


「……どんな人なのかしら」


 疑問に思いながらも、エミリエンヌは軽い気持ちで近付いた。まさか、それが後の己の運命を大きく変えるとも知らずに。

 今までエミリエンヌは前世を含めても、大きく感情を動かされる恋をしたことはなかった。せいぜいゲームに出て来る主人公やサブキャラが「カッコ良い!」と叫ぶくらいであった。

 故に。まさか。



「ごきげんよう。ここ、よろしいかしら、――」

「――――――――」



 真っ直ぐに貫いてくる深い空の瞳に、心臓ごとさらわれるとは思わなかったのである。



 微かに目をみはる空の瞳は、昼と夜が綺麗に混ざり合った様な深い色合いを伴っていた。

 濡れる様に艶やかな黒髪は星々さえ眠る静かな夜の如く。シンプルでありながらも所々に細かい刺繍を施された漆黒のコートは、落ち着いた品のある空気をかもし出していた。

 年の頃は、恐らく十歳。エミリエンヌと同い年くらいではないだろうか。

 エミリエンヌをじっと見つめてくる双眸そうぼうは、瞬きが多い。いきなり話しかけてきたエミリエンヌに驚いているのだろう。背後に控えていた少年達も、少しだけ緊張した面持ちを表し、さりげなく腰に差している剣を確認していた。

 そう。エミリエンヌは警戒されている。静かに紅茶を楽しんでいたところに、突如現れた美人。その美人過ぎるこの要望に骨抜きにされない御仁であれば、大抵は警戒される。そんな容姿をしている自覚はあった。

 だが、それよりも何よりも。



 ――顔おおおおおおおおっっっっっ! 良すぎいいいいいいいいいいいいいいいいいっ!!!!!



 顔面を両手で覆って、エミリエンヌは天を仰ぎながら崩れ落ちた。芸術的なまでの見事な崩れっぷりに、目の前にいた少年達がぎょっと空気を飛び上がらせたのが肌で分かった。

 だが、その反応ですらエミリエンヌを追い詰める。顔を隠した指の隙間から見えた黒髪の少年の顔は、驚きと焦りと不安と少しの心配を宿らせていた。



 ――しかも、こんないきなり崩れ落ちた不審者を、心配する様な顔! さいっこうううううううう!



「はあああああああああああ……っ!」

「っ⁉ お、おい。何だ。どうした。頭が狂ったのか?」

「――――――――っ!!!!!」


 心配そうな声で辛辣しんらつな言葉を選んでくる。最高の逸材。

 更に、このエミリエンヌの耳を直接震わせる、脳髄のうずいに響くほどのイケメンボイス。

 今、エミリエンヌは空高く輝く太陽に吠えたけりたくなった。


「……かっっっっっっっっっっ!」

「か、……か?」

「かっこっっっっっっ、よ、……すううううううううううううううううう、ぎいいいいっ!」

「か、っこう? ……は?」


 そんな間の抜けた声すらカッコ良い。

 低すぎず、けれど高いわけでもなく。絶妙な音程を保つその声はまさに至高の宝。今、エミリエンヌは完成されたイケメンという名の美に虜になった。

 黒髪に昼と夜の混じり合った紫紺の瞳。しかも全身が黒で統一された衣装。更には心を何度もサンドバッグ並みに叩きのめしてくる最高の声音。



 今、エミリエンヌの前には、前世から引き継がれた最も好みの外見と声が燦々《さんさん》と輝きながら降臨していた。



「……おい。お前。ちょっと」

「顔が、良いいいいいいいいいいいいっ!」

「……は? 顔?」

「……フェル様。顔が良いですからね」

「っ! フェルっ! さまっ!」

「うおっ⁉」


 護衛らしき少年の一人がぼそっと呟いた名前に、またもエミリエンヌは反応してしまった。

 顔だけでなく声だけでもなくましてや衣装のセンスだけでもなく。



 名前まで、好み中の好み。語呂が良い。名前からしてセンスに溢れているから、ここまで全てがセンスに溢れているというわけか。



 今、エミリエンヌは昇天した。



「な、名前までカッコ良い……! 好きいいいいいいいいいい……っ!」

「は? ……は、なま、……は?」

「そんな、戸惑いまくってドン引きする声すら良いいいいいいいいい……っ!」

「こ、こえ……。……は、はあ。……ど、どうも?」

「フェル様。お礼を言うところではないと思います」

「ふぇえええるうううううううう! な、名前えええええええええっ!」

「おおうっ⁉ お、おい、アル! こいつ、頭がおかしいぞ⁉」

「そんな素直で率直な感想を即座に吐き出す性格も良すぎますわあああああああ!」

「……」


 どうしろと。


 そんな声無き声がフェルという少年から聞こえてきた気がしたが、もはやエミリエンヌには何ら意味が無い。ストッパーにすらならない。

 まさか、ここに前世でプレイしてきたゲームのキャラよりもどストライクな人間がいたとは。エミリエンヌもまだまだ修行が足りない。こんなに好みなキャラがいるのならば、前世で友人の勧めに従って少女漫画を読んでいれば良かった。

 しかし、後悔しても後の祭り。


 ならば、今を楽しむべし。


「……失礼致しました、推定フェル様」

「推定かよ」

「私……わたくし、クラルティ公爵家の長女、エミリエンヌと申します」

「――」

「よろしければ、貴方様のお名前をお伺いしても?」


 すっきり頭を切り替え、淑女として完璧なカーテシーを披露しながらエミリエンヌは自己紹介する。

 途端、目の前の少年が息を呑んだが、それはエミリエンヌの美しさに、ではどうやら無いようだ。


 何故なら、彼はエミリエンヌが名乗った途端、さっと表情を引いてしまったからである。


 まるで触れてはいけない禁忌に直面してしまったかの様な警戒のされ方だ。

 もしかして、公爵家に恨みか逆恨みか叩きのめされた怒りでも抱いている者なのだろうか。だとすれば、懐柔策に切り替えなければならない。

 だが。



「……俺は、フェルディナン・ドール・シャノワーヌ」

「――。え」

「この国の第二王子だ」



 端的に紹介してきた彼の瞳からは、先程までの昼と夜が溶け合う綺麗な光が消え去っていた。



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