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第十三話 フェル様は剣がお好き。存じておりますわ


 甲高い金属音が、ぶつかり高め合いながら青空の向こうへと跳ね上がっていく。

 その合間に威勢の良い咆哮ほうこう野垂のたれ死にそうなほどのうめき声も聞こえてきたが、それは騎士団の訓練場では日常茶飯事だ。特に、団長が訓練を率先して指導している時は、呻きは更に三倍になる。

 エミリエンヌが半ば諦めかけているフェルディナンを引きずる様に連れてやってくると、そこには兄の姿もあった。凛々しいたたずまいは、まさしく美しき武神。絵になる光景である。


「さあ、フェル様。着きましたわ」

「そうだな。お前が引きずってきてくれたおかげでな」

「フェル様は剣がお好きですか? 私は好きです」

「それ、俺の答えを求めていないよな?」

「そんなことはございませんわ。フェル様は剣がお好き。存じておりますわ」

「俺の答え、全く求めていないよな?」


 フェルディナンが色々と淡々と突っ込んでくるが、エミリエンヌは気にしない、振り返らない、かえりみない。何故なら、父から全てを聞いて、剣をがむしゃらに習っているのを知っているからだ。

 そこまで己を目立たせたくない理由を探るのは追々するとして、まずは如何いかにしてフェルディナンを訓練に引っ張り出すかだ。



「フェル様。わたくし、無性に剣を振るいたくなりましたわ」

「へえ、……お前、剣が出来るのか?」



 食いついた。

 何だかんだ、興味無さげにしながら、剣を振るうエミリエンヌにそわっと気配が浮足立った。瞳も子供らしくきらりと嬉しそうに輝いていた。

 その真っ直ぐな好奇心に、何て素直で可愛いのだろうと、エミリエンヌは崩れ落ちた。


「ああ……流石はフェル様……っ。私の心のツボを的確に外さず余すことなく押さえて刺し貫いてくる……。私、フェル様に死ぬまでに何度殺されるのでしょうか」

「おい待て。矛盾してるからな。何だよ、死ぬまでに何度も殺すって」

「フェル様ならば可能ですわ……! 私を何度も悶え殺しながらも、フェル様のカッコ良さを余すことなく堪能たんのうしてからでないと死ねないという私の猛烈なる欲望によって、死の縁から甦ってくるための原動力になって下さいますから!」

「こええよ。お前、ほんと、こええよ。マジでストーカーオブストーカーだからな」


 はああああああああっと悶え苦しむエミリエンヌに、フェルディナンは素晴らしく冷静にツッコミを入れてくれる。いつでもどこでも逃げずにツッコミを入れてくれる彼は、本当に付き合いが良くて、心根が優しい。最高の未来の旦那様だ。



「はあ……まずは、剣のことでしたわね」

「……。ああ、そうだったな。そういえば、剣の話をしていたよな」

「剣に関しては、昔から興味がありましたの。五歳くらいの頃に剣をぶんぶん振り回して、兄と父に全力で止められるくらいには才能がありましたわ」

「それって、才能無いって言われてねえ?」



 かなり正確に突っ込まれたが、当然エミリエンヌは気にしない、振り返らない、顧みない。失敗は成功の元。エミリエンヌは断然魔法寄りの腕をしているが、十歳になったのだ。体も大きくなった。剣を振るえるに違いない。

 故に、フェルディナンとの甘い甘い二人だけの世界に終わりを告げ、エミリエンヌは優しくて頼もしい父と兄の下と向かう。


「お兄様、お父様」

「やあ、エミリー」

「エミリー! ああ、我が愛しのマイスイートエミリー! お前がここに来るのは……珍しくも何ともないか。いつも魔法でみんなをなぎ倒しているからねえ」


 はっはっは、と豪快に父が笑い飛ばすのに合わせ、ところどころから苦笑の声が漏れ出る。中には、その時を思い出しているのか痛そうな顔をしている騎士もいた。普段使っている魔法はまだ序の口なのにとエミリエンヌは思うが、人それぞれなのだろう。

 フェルディナンを振り返ると、もはや彼は全てを達観したかの如き遠い目でエミリエンヌを見つめていた。そんな遠い目をする彼も素敵過ぎると、エミリエンヌはご満悦である。


「お兄様。今日はどんな訓練をしていますの?」

「二対二だよ。集団戦はこの前やったし、一対一なんて、そんな甘い状況になんて戦場はなってくれないから。今は、如何にして他の者達と協力して、最低限の人数に持ち込み、上手く連携して戦うかを想定しているんだよ」


 兄の説明に、ふむ、とエミリエンヌは頷く。

 騎士道と言えば一騎打ちが美学とされているが、戦争になるとそんな理想とは程遠い。

 如何にして勝つか、生き延びて勝利を持ち帰るかを極限の状態で強いられることもあるだろう。その中で様々な策を練るだろうが、今回は比較的余裕があるうちの一つを訓練しているのかもしれない。

 しかし、二対二。

 何て都合が良いのか。恐らく、エミリエンヌとフェルディナンのために用意していてくれたのだろう。彼らも、エミリエンヌの計画は事前に聞いている。


「じゃあ、お兄様! 私とフェル様のお相手をして下さいませんか?」

「はあっ⁉」

「ああ、いいね。じゃあ、僕のパートナーは……父上かな?」

「もちろん、良いよお。いやあ、エミリーと戦うのは久しぶりだねえ。フェルディナン殿下とも初対戦だから楽しみが倍増だなあ」

「はあっ⁉ い、いや、お、俺……は」

「それに」


 ぎらっと、父の目が不吉に輝く。その輝きは喉を食い千切る様な鋭き牙を連想させ、フェルディナンが、ひっ、と声なく悲鳴を上げていた。


「我が愛しの娘の婚約者になったからには……一度は義理の親子として手合わせをしたいと思っていたのですよ。……もちろん、受けて下さいますよねえ?」

「……い、いや、その」

「受けて、下さい、ますよ、ねえ?」


 満面の笑顔で真っ黒な圧を加える父に、フェルディナンが「はい」と蚊の様に細く鳴いたのだけが聞こえた。父に圧されて恐怖に歪むフェルディナンの顔も最高であった。



「お前の家族、恐すぎないか? むしろ、お前の血脈が酷すぎるのか?」

「まあ! 父も兄も、私にはとっても優しくて甘い、自慢の家族なのですわよ!」

「……。そうか。家族が自慢……それは良い家族だn……」

「ですので、父のあの真っ黒な圧も、私への惜しみなき愛の一つなのですわ!」

「……前言撤回しよう。自慢すんな。いや、……愛なら良い、のか?」



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