第十一話 私のフェル様は、とてもかわいらしくて負けず嫌いなんですのよ
「……というわけで、本日はフェル様と一日中かくれんぼをいたしましたの。血眼になって私を探して駆けずり回る私のフェル様は、とてもかわいらしくて負けず嫌いで……凛々しかったですわあ」
少し遅い夕食を終えた後。
エミリエンヌは、本日のフェルディナンとの会話の成果を家族全員に報告していた。
もはやフェルディナンの可哀相で無残な敗北記録を暴露するに等しいものだったが、エミリエンヌの家族は全く気にすることはなかった。
「そうかいそうかい。殿下と仲良くやっている様で何よりだよ」
「そうねえ。旦那様から、玉座の間でのやり取りを聞いた時はすこーし心配していたけれど……エミリーなら、うるさい外野は力技でねじ伏せるわよねえ」
「うんうん。流石は我が愛しの妹。大丈夫。父上から聞いた害虫の息子のことは把握したからね。今日、早速学園で色々と説教をしておいたよ」
「まあ、さすがですわ、お兄様! 私も今日はかくれんぼで、殿下が全力でかけっこをする姿を城内の至る所で見せつけましたの。まさか、今までひっそりこっそりしっとり過ごしていた殿下が、これほどまでに体力にあふれにあふれて元気いっぱいの殿下だなんて思いもしなかったことでしょう」
――これで、病弱説はある程度払拭出来ましたわあ。
にっこりと最後に付け加えたエミリエンヌの言葉に、家族もにっこりととても良い笑顔で頷く。
父曰く、フェルディナンは六歳の時から極端に表に出なくなってしまったそうだ。
家族仲は、至って良好。義母とも兄とも特に問題はない。
だが、ある時を境に家族との接触も最低限となった。
部屋にこもりっきり。勉強はしても外には出ない。最低限の人とは接するが、理由が無ければ滅多に人前に出ない。
そのせいで城内からじわじわと、フェルディナンは病弱ではないか、成人を迎えられるかどうかも危うい、だからこそ誰にも迷惑をかけない様に外に出ないのではないかと尾ひれ背びれをたっぷりと付けて国中に噂が広まったそうだ。加えて、王位には全くもって相応しくないと。余計なお世話である。
しかし、エミリエンヌが見たところ、フェルディナンはまるで病弱ではない。むしろしなやかに筋肉が付いていると、あの素晴らしくセンスの良い黒のコートの上から見て取れた。
長年多くの騎士達を鍛えている父も同意見の様で、「あれは絶対能力を隠しているねえ」と悪戯っぽくエミリエンヌに囁いてくれた。
これは、父も何か一枚噛んでいる。
確信したエミリエンヌは、まずフェルディナンと何かしら目立つ様に追いかけっこに近いことが出来ないかと考えた。
そして見事、フェルディナンは術中にはまったというわけだ。
父を通して国王から、フェルディナンは割と負けず嫌いだとのお墨付きももらったので、彼のやる気を触発する様な刺激を与えたのだ。
その結果が、かくれんぼしたフェルディナンを即座に発見する作戦である。
エミリエンヌは魔法の達人だ。ついでに言うと、母仕込みでかつスパルタ家庭教師執事のシモン仕込みのおかげで索敵魔法の力は国でもトップクラスに入る。
どれだけ気配を消して隠れようとも、あっさりとフェルディナンの姿を捉えることが出来るというわけである。
それなりに気配を断つ力があるらしきフェルディナン。対抗するには魔法しかない。そして、フェルディナンはどちらかと言うと魔法ではなく、剣寄りの才能であるとも事前に調査した。
そして、あっさりとエミリエンヌに発見されたというわけである。
更に、案の定売られた喧嘩を買ってくれたフェルディナンは、晴れて姿を魔法で消したエミリエンヌを必死になって探し回ったというわけだ。
おかげで、全力で駆け回るフェルディナンを目撃した使用人達が、「殿下って……すっごく元気なのね」と認識を改め始めたのである。
「しかし、そうすると次に懸念されるのは、『引きこもり王子は責任感が足りない』『王族のくせに何たる体たらくよ』などと心無い罵声を浴びせられることだねえ」
「そうですわね。そこはもちろん、考えておりますわ。フェル様には次なる試練を叩き付けます」
「ほーう? 具体的には?」
「お父様。フェル様は、剣の実力はどれくらいですの?」
真っ直ぐに斬り込んでみると、父は一瞬目を見開き、次にはにんまりと唇の端を緩めた。
「……彼が六歳の頃から、密かに謎の青年Aを装わせた私の自慢の部下に向かわせ、夜の秘密の特訓を付けさせていたからねえ。かなりの腕前ではあると思うよ?」
「わかりましたわ。では三日後、お父様がいる時にフェル様を騎士団の訓練場へ向かわせますわ」
「わかったよ。では、準備しておこう。私だけ」
「あらあら。他の皆様にはお教えしておかないのかしら?」
「殿下が剣をそれなりに振るえるのを知っているのは、それこそ私と稽古を付けさせた部下だけだからね。その部下もがっつり変装させたから、剣を交えなければ殿下にも気付かれないだろう」
「そうだね。父上の言う通り、何も知らない方が、『殿下って……すごく強い?』『頼もしい……』とインパクトを絶大に叩き込めるから。良いんじゃないかな」
「そういうことですわね。……ふっふっふ。『フェル様、いつの間にかみんなからの見る目が変わる作戦』、楽しみですわあ」
「そうだねえ。エミリエンヌがとっても張り切って色々計画してくれるから。私達も楽しくて楽しくて仕方がないよ」
「ありがとうございますわ、お父様」
「どういたしまして。ふっふっふっふっふ」
「うっふっふっふっふ」
「あっはっはっはっは」
「ふーっふっふっふっふ」
笑いが止まらない。
エミリエンヌが次々と繰り出す試練を乗り越えた後、フェルディナンは一体どうなっているだろうか。
その光景を想像するだけで楽しくて、エミリエンヌはしばらく父と謎の笑いの応酬を繰り広げて、めくるめく想像を落ち着けさせるのだった。
「フェルディナン育成計画始動! ですわ!」
「……俺の知らないところで、何かよからぬことが始まっている気がする……」(ぶるっと寒気を覚えた)
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