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第14章 継がれぬ名、継がれる意志

いつも応援ありがとうございます。


第14章「継がれぬ名、継がれる意志」では、

主人公・桐生結鶴が、自らの「出自」や「名」に正面から向き合い、

ある大きな決断を下します。


継がなかった名。拒絶された血筋。

けれど、そこにある“意志”だけは、確かに生き続けている。


これは、家でも、立場でもなく、

自分の中に灯された「医療を守る意志」そのものを選び取る章です。

 水曜の朝、桐生会の広報課が静かに動き出していた。

 法人関係者の端末に、一斉に届いたメール。

件名:【報道対応についてのご留意】

本日、医療業界紙『Medix Chronicle』において、

当法人に関連する記録技術システム“YUNO”に関し、

「記録の透明性と倫理責任の未確立性」に関する記事が掲載されました。

本件は、久我メディカル社法務部よりの意見提出に基づく取材によるものと判明しております。

 

 その記事は、明らかに「正確な批判」を装った“社会的信用の切り崩し”だった。

 

【特集】「AIと記録の狭間で」

―開発者の個人責任と記録の信頼性は誰が担保するのか

「現場を補助する技術」が、いつの間にか「診断補助に近い誤認」を招いていないか。

法人の中で独立した開発体制が、“ガバナンスの緩さ”を許容しているのではないか――。

 

 記事の末尾には、匿名関係者の証言という形で、

 YUNOを「試験段階で未成熟な構造」と断じる文言が添えられていた。

 

 結鶴は、その記事を読み終えたあと、無言でスクロールバーを戻した。

 一語一句、読み返すように。

 

 陽斗が研究室に入ってきて、開口一番、低い声で告げた。

「……久我、やる気だよ。“名誉棄損も辞さない構え”って法務が言ってきた。

 訴訟は確定じゃないけど、プレッシャーとしては十分」

 

 「論理」ではない、「印象」の戦い。

 いよいよ、“構造”だけでは防げない領域に踏み込んできた。

 

 結鶴は、YUNOの画面を見つめながら言った。

「これは、私が“記録を語らせた”代償かもしれない。

 でも、誰かが声を出した記録に、私は応えたかった」

 

 陽斗が、机の端にそっと記事を裏返して置く。

「君は、“誰かの声”の責任を引き受けたんだ。

 なら、今度は俺たちが“君の声”を支える番だよ」

 

 その言葉に、結鶴は頷いた。

 だがその直後、スマートフォンが震えた。

 表示された名は――母、桐生志帆。

「お願いだから、もうやめて。

結鶴、あなたは家を離れたのに、どうして“桐生の名”を揺らがせるの?」

 

 静かに、嵐が動き出していた。


 その夜、結鶴は久しぶりに桐生家の応接間にいた。

 母・志帆と、姉・詩織がそろって座るのは、何年ぶりのことだったろう。

 出された煎茶は、まだ温かかったが、口に運ぶ者はいなかった。

 

 最初に口を開いたのは、詩織だった。

「お願い、結鶴。

 このまま進めば、“私たち”だけじゃなく、“家全体”が世間からそう見られる。

 桐生会の中で、もうあなたの存在は“リスク”になってる」

 

 声は静かだったが、緊張が漂っていた。

「医療の現場は、何より“信用”なの。

 あなたが正しいことを言っていても、

 外から見れば“家族が対立している”だけにしか映らない」

 

 母・志帆もまた、強い語気を避けるように語りかけた。

「あなたが、自分で選んだ道を歩んでいるのは分かってる。

 だけど、“桐生”という名がどれだけのものを背負っているかも、知ってるでしょう?」

 

 結鶴は、茶に手を伸ばすことなく、まっすぐに二人を見た。

「“桐生”が背負ってきたものは、否定しない。

 でも今、私が見ているのは、“その背負い方が生んできた沈黙”なの」

 

 志帆の顔に、初めて強張りが走った。

「それは――“あの人”への批判なの?」

「違う。“構造”そのものの話。

 誰が悪かったかじゃない。“仕組みが誰を黙らせてきたか”の話よ」

 

 詩織が苦しげに口を挟んだ。

「私たちは、間違ってるの?」

「間違ってるとは言ってない。

 ただ、私の“正しさ”とは、違うってこと」

 

 その言葉に、母は静かに息をついた。

「あなた、ほんとうに……あのとき、“結婚”の話を断った理由、

 “誰かに縛られるのが嫌だった”からだけじゃないのね」

 

 結鶴は頷いた。

「“構造の中で誰かを守る”ことと、“構造そのものを変える”ことは違う。

 私は、後者を選んだの」

 

 会話はそれ以上、続かなかった。

 お互いが、お互いを理解しているだけに、これ以上踏み込めない距離があった。

 

 帰り際、玄関先で母がふと口にした。

「あなたの名前、“結鶴”って、父がつけたのよ。

 “結び直すための鶴”――縁が切れても、またどこかで繋がるようにって」

 

 その言葉が、どこか胸の奥に残った。

 名は継がなかった。

 けれど、その意味だけは、いまも守りたかった。


 桐生本部の理事長応接室。

 あの日と同じ椅子、同じ絨毯、同じ光。

 だが、そこに立つ自分はもう、かつての“孫娘”ではなかった。

 

 祖父・清澄は、背筋を伸ばして座っていた。

 机の上には、一枚の封筒。

 差出人は「久我メディカル 法務部」。

 文言は伏せられていたが、それが何を意味するか、見ればすぐに分かった。

 

「……社会は、構造よりも名前を見たがる。

 そして、構造を変えようとする者ほど、名を失う」

 清澄は、静かに語った。

「おまえは、ずっと“仕組み”を見ていたな。

 家でもなく、人でもなく、“その下にあるもの”を」

 

 結鶴は頷いた。

「だから、“桐生”という名前は、私には眩しすぎたんです。

 誇りよりも、“何かを守るための沈黙”の象徴に見えてしまった」

 

 清澄はわずかに目を細めた。

「それでも、“おまえの中に流れる血”が、

 あの構造を疑い、記録を残し、問い直そうとしている。

 ならば――“名を返す気はあるか”」

 

 その問いは、強制でも命令でもなかった。

 ただの確認のように、淡々と投げかけられた。

 

 結鶴は、答えるまでにほんの一呼吸を置いた。

「私が欲しいのは、“桐生”という名前じゃありません。

 欲しいのは、“桐生という構造”に対して、

 “変えようとした一人”として認められることです」

 

 清澄の眼差しが、わずかに鋭くなった。

 だが、怒りではなかった。

 それは、かつて“見習い”に向ける医師の目だった。

 

「桐生という家は、“崩れる”ことより、“変わる”ことを恐れてきた。

 そして、変わる者を“外”に出すことで、自分たちを守ってきた」

 彼は静かに封筒を机の脇にずらした。

「――もし、“桐生会”そのものが変わる時が来るなら、

 その先頭に立てるのは、“中に戻った者”だと思わんか?」

 

 結鶴はその誘いに、即答はしなかった。

 ただ、こうだけ告げた。

「私は、“戻る”んじゃない。“問い続ける”。

 中でも外でもなく、“その境目に立ち続ける”と決めたんです」

 

 清澄は微かに目を伏せたあと、再び目を開いた。

「……あのとき、“結婚”を断ってよかったな」

 

 それが、桐生清澄なりの“了解”だった。

 

 部屋を出ると、廊下の奥にいた秘書が小さく頷いた。

 祖父が怒鳴り声ひとつあげなかったのは、何ヶ月ぶりかもしれない――

 そんな目をしていた。

 

 桐生の名は返さない。

 だが、“信念”は受け取らせてもらう。

 結鶴の胸の奥に、静かな光が灯っていた。


 研究室に戻った結鶴は、静かにコートを脱ぎ、YUNOの操作端末の前に座った。

 その画面には、使用再開された南3病棟の稼働ログがリアルタイムで流れていた。

 PEEP設定、湿度、吸気圧、オフライン操作時刻。

 そのどれもが、淡々と数字を刻んでいた。

 

 けれど、今の結鶴にとって、それは“過去を記録する装置”ではなかった。

 “組織が何を大切にしているか”を映し出す、構造の鏡に見えていた。

 

 ふと、杉原から共有フォルダに上がった資料に目が留まった。

 理事会から提出要請があった、「YUNOの意義に関する提言草案」。

 表紙のファイル名は、誰かが付けたらしい。

『理念文案:記録は構造を問う』

 

 開いてみると、冒頭に結鶴がかつて語った一節が引用されていた。

「記録とは、過去の罪を暴くためではなく、未来の判断を支えるためにある」

 

 その下に続くのは、技術本部・現場技師・医療安全管理委員会からの共同意見。

 “YUNOは、装置というより倫理補助構造であり、責任の所在を明確にするツールではなく、

 責任の孤立を防ぐ支えとして評価されるべきである”。

 

 結鶴は、ディスプレイに向かって静かに呟いた。

「これは、“継承”とは違う。“更新”だ」

 

 桐生の家を継ぐつもりはない。

 だが、“桐生会という構造”に、新しい問いを残すことはできる。

 それが、自分の選んだやり方だ。

 

 陽斗が控えめにドアをノックしながら入ってきた。

 その手には、再印刷された草案の紙束があった。

「さっき、南3病棟の主任看護師からメッセージがあった。

 “記録があることで、逆に判断しやすくなった。

 間違えることを怖がらなくてよくなった”って」

 

 結鶴は受け取った資料に目を通しながら、そっと笑った。

「それが、記録の本当の目的なのよね。

 “人が委縮しないように”残すこと」

 

 その夜、結鶴は提言草案に最後の追記をした。

『本システムは、診断支援装置ではない。

責任を押しつける構造でもない。

医療という行為の中で“迷わないために”、

記録が人の背中をそっと押す仕組みである』

 

 桐生の名は背負わない。

 だが、“桐生会が何を残すべきか”には、最後まで関わる。

 

 継がれなかった名が、残した意志が、

 構造の深部に静かに沁みていく音が聞こえるようだった。


 週末の研究室は、窓からの光が柔らかく差し込んでいた。

 外はまだ肌寒い風が吹いているが、

 この小さな部屋の中には、不思議と温度があった。

 

 陽斗が、作業台の上に資料を広げている。

 結鶴はYUNO端末のチューニングを終え、椅子を回転させてその様子を見ていた。

 

「……仮に、全部終わったらどうする?」

 陽斗の声は、不意打ちのように落ちた。

 

「“戦う理由”がなくなったら、君は何をするの?」

 

 結鶴は、すぐには答えなかった。

 その問いは、誰からも問われたことのない場所を突いてきた。

 

「私は……」

 彼女は少しだけ目を伏せた。

 

「“終わること”を、考えたことがない。

 ずっと、何かを“止めないために”動いてきたから」

 

 陽斗は手を止め、真っ直ぐに彼女を見た。

「じゃあ、“守りたいもの”は、何?」

 

 その問いに、結鶴は静かに答えた。

「“言えなかった人の声”。

 “残らなかった記憶”。

 “誤解された判断”。

 全部、“あのとき誰かが残してくれていれば”って思ってる人の、背中」

 

 その声はかすかに震えていた。

 けれど、言葉の芯は揺るがなかった。

 

「私はそれを、自分のためにやってる。

 誰かの役に立つより前に、“私はそれを見過ごせない”から、やってる」

 

 陽斗はそっと椅子を動かし、彼女の隣に座った。

「それ、ずるいな」

「え?」

「そんな理由聞かされたら、

 俺、君のためにもう引き下がれなくなるじゃん」

 

 結鶴は小さく笑った。

 泣くほどでもない、でも胸の奥がほどけるような笑みだった。

 

「ありがとう。でも――

 “引き下がらない”って、君が決めたことだから」

 

 陽斗はうなずいた。

「うん。君が“逃げなかったから”、俺も逃げないだけ」

 

 その日、ふたりは黙って作業に戻った。

 言葉はもう必要なかった。

 ただそこに、並んで立つ二人の姿があった。

 それが、彼らなりの「協力」という形だった。


 土曜の夕刻、桐生会本部の中庭にある小さな談話室。

 そこは、理事や医師たちが時折使う控えの間だったが、

 今は、結鶴と剛志だけがその静けさの中にいた。

 

「母さん、きつかったろ」

 剛志が差し出した湯呑は、昔ながらの渋い緑茶の香りがした。

 結鶴は、受け取りながら少しだけうなずいた。

「きついっていうか……たぶん、悲しかったんだと思う。

 “構造を守ってきた”っていう自負があったからこそ、

 私がそれを“問う側”になったのが」

 

 剛志は頷きも否定もせず、湯をすすった。

「俺も、ずっと板挟みだったよ。

 “現場を守る”って名目で、たくさんのことを見過ごしてきた。

 でも――あの報告会で、お前のログを見た時、思ったんだ」

 

 「“これは嘘じゃない”って」

 

 結鶴は驚いたように彼を見た。

「……言ってくれたらよかったのに」

「俺は“兄”だけど、“桐生”でもあるからな。

 どこまで言っていいのか、わからなかった」

 

 その言葉に、ふたりの間の沈黙がほんの少し緩んだ。

 

「お前が、“桐生を継がない”って言ったとき――

 正直、悔しかった。

 でも今は、それを言えるほど、お前が何を選んだのかがわかる」

 

 結鶴は目を伏せながらも、ゆっくりと返した。

「剛志兄さんが、“桐生の中から守った人”だってこと、

 私はちゃんと知ってる。

 だから今度は、“私のやり方”で、外から支える」

 

 剛志が、やわらかく笑った。

「……初めてだな、こうやって“妹”として話すの」

「初めてよ。ずっと“理事長の孫と、医局長の息子”だったから」

 

 ふたりは、ようやく“名前のない関係”に戻っていた。

 その夜、剛志から届いたメッセージは短かった。

「父さんに、話してみるよ。

“桐生の名じゃなくて、桐生の意志を残すべきだ”って。

お前がそうやって立ってくれて、俺も言える気がするから」

 

 結鶴は画面を閉じ、小さく息を吐いた。

 家族としての対話は、まだ始まったばかり。

 でも、それは“血”ではなく“理解”から始まる再構築だった。


 理事会・上席役員会議。

 いつもの定例報告とは違い、その場には桐生清澄が自ら出席していた。

 そのこと自体が、すでに特別な意味を持っていた。

 

 議題はひとつ。

「記録支援装置YUNOの本格運用可否に関する最終評価」

 結鶴の名は議題には出なかった。

 だが、会議に集まった誰もが、それを“彼女の物語の結末”と見ていた。

 

 報告書は杉原、技術報告は阿久根が提出。

 剛志も診療統括の立場から、現場としての有効性を短く述べた。

 

 それらの発言を静かに聞いていた清澄が、

 報告が一巡したところで、初めてマイクを取った。

 

「本件に関して、法人代表理事として、私見を述べます」

 

 室内の空気が変わる。

 それは、緊張ではなく、“判断の時が来た”という空気だった。

 

「記録とは、診断の代行でも、責任転嫁でもない。

 それは、“判断という孤独”を支える、構造的な営みだと私は考えます」

 

 その言葉に、誰かが小さく息を飲んだ。

 

「今回、桐生会の名のもとに、ある技術者がそれを提示した。

 だが、彼女は“名”を継がず、構造に問いを向けた」

 清澄の目がゆっくりと会場を見渡す。

「私は、それを“異端”とは思わない。

 むしろ、それを容れることこそが、桐生会という組織の“成熟”だと信じたい」

 

 わずかに間を置き、彼は続けた。

 

「よって、本件における倫理的・社会的責任が問われる際、

 当会としての最終判断責任は、法人代表である私が負います。

 ――この技術を受け入れるかどうか、その問いも含めて」

 

 会場が静まり返った。

 それは誰かの賛同や反対ではない。

 “逃げ場のない責任”を引き受ける者が現れたという、確かな空気だった。

 

 会議の終了後、阿久根が小声で結鶴に報せた。

「再来週、最終決議の臨時理事会。

議長裁定権を理事長が一時返上。

可決には過半数の賛成が必要。

……勝負は、つく」

 

 結鶴はゆっくりと頷いた。

 その視線の先には、端末に表示されたYUNOの起動画面。

 

 記録は、構造を問う。

 だが今、構造そのものが“問いに応えよう”としている。

 ――それが、変化の兆しだった。


 臨時理事会を翌週に控えた夜。

 桐生会本部の理事長室に、結鶴はひとり呼ばれていた。

 応接の間ではなく、執務机の前――

 かつて“家族”としては一度も通されたことのない場所だった。

 

 清澄は、分厚い書類の束をゆっくり閉じた。

「ここは、“桐生の外”の者は入れない空間だった。

 だが、今の私は、おまえを“外”の者とは見ていない」

 

 それは、褒め言葉ではなかった。

 ただ、ありのままを述べるような口調だった。

 

「おまえがこの会に残すものは、“技術”ではなく“姿勢”だ。

 それは、記録にも、構造にも、そして組織にも問いを返すものだ」

 

 結鶴は静かに口を開いた。

「私が問い続けたのは、“誰が間違えたか”ではありません。

 “間違えても、やり直せる構造かどうか”を、見ていたんです」

 

 清澄はうなずいた。

「その問いに、私はようやく答える番が来たようだ。

 桐生という名は、守るために使われすぎた。

 これからは、“変わるために使える名”であってほしい」

 

 数秒の静寂が流れたあと、清澄は口元だけで笑った。

「――おまえの名、“結鶴”というのだったな」

 

 結鶴は驚いて目を上げた。

 それは祖父が、彼女の名を初めて“個人”として呼んだ瞬間だった。

 

「“縁を結び直す鶴”。

 誰かが切った糸を、もう一度拾うように、繋ぎ直していく。

 その名は、おまえにふさわしい。

 ……いや、“あの男”がつけたにしては、良い名だ」

 

 結鶴の胸に、静かな熱が生まれた。

 涙ではない。

 けれど、それは確かに“報われた何か”だった。

 

「ありがとうございます。

 でも私は、“名”を返すつもりはありません。

 そのかわり――“意志”を受け取って、次へ渡します」

 

 清澄は頷いた。

「それでいい。

 桐生の名が残るなら、それで十分だ」

 

 部屋を出るとき、清澄は背を向けたままこう言った。

「結鶴。

 この会が、おまえのような者を内側に迎えられるかどうか。

 ――それが、明日の決議の本質だ」

 

 その言葉が、ずっと探していた“父性”のように聞こえた。

 

 結鶴は一礼し、ドアを静かに閉じた。

 手のひらには、何も持っていなかった。

 けれど、確かにひとつ、“継がれたもの”があった。


最後までお読みいただき、ありがとうございました。


この章では、結鶴が“桐生の名”という重荷を下ろし、

“それでも私の中には、何かが確かに宿っている”と気づくまでが描かれました。


名が消えても、組織に無視されても、

結鶴の中にある「問い続ける力」は失われない。


この物語が描くのは、制度改革や内部告発だけではありません。

それらを支える「誰かを思い、問い、支え続けようとする意志」の物語でもあります。


次章、彼女は“最後の問い”を投げかける覚悟を持って歩み出します。

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