あのクソまずいお弁当がもう食べられない
「おばあちゃんが亡くなった」と母からの電話。
そのときの俺は特に何も感じず、大学の友人と次の日の朝まで対戦ゲームをしていた。
葬式の日。棺の中に入れられた、いつもよりもシワシワ度が増しているおばあちゃんを見て、俺は「人ってこうも呆気なく死ぬんだな」とかそんなことを思っていた。
そういえば、つい最近まで、あのクソまずいお弁当を嬉しそうな顔で作っていたな。
たしか二ヶ月前のことだっただろうか。
朝起きると、いつものようにおばあちゃんが台所にいたんだ。
それで、俺のためにお弁当を作っている。
俺が小さい頃から好きだったから、となぜか白米のかわりにカステラを詰めていた。おかずは、醤油まみれの具なしお好み焼き、オリーブオイルに漬かった明太子、砂糖の加減をこれでもかと思うくらい間違えてしまった玉子焼き、ごぼうとパセリの珍妙サラダ、唯一まともなうさぎさんの形に切られたりんご。
俺はそれをいつも、吐きそうになりながら食べていた。いや、マジでクソまずくて、毎日、顔面から涙がビシャビシャ流れ出ていたと思う。
でも、そんなクソまずいお弁当がもう食べられないのだと思うと、なんだか泣けてくる。
葬式中、俺は顔面から涙をビシャビシャと垂れ流した。
次の日、俺はスーパーでお弁当を買った。
ゴマ入りご飯、鮭の切り身、きんぴらごぼう、たくあん、甘さ控えめの玉子焼き。実に普通のお弁当を味わった。
……普通すぎる。何か、物足りない。
俺ははじめてあのクソまずいお弁当を欲していた。ゲテモノ飯が大好きってわけでもないのに。
「ああ、あのクソまずいお弁当が食べてぇ……」
あのクソまずいお弁当には俺とおばあちゃんのストーリーがぎっしりと詰まっていた。
年取るのって早いな~
なんて思いながら書きました。