【BL】季節の気持ち:クリスマス
(冬の目線で)
高校3年生の冬休み。受験前のくせして皆が俺の家に大集合していた。
「今日は皆でクリスマスしよっ!」
春と俺は推薦で春から大学に行くことが決まっている。秋はA判定だろうけど、夏は大丈夫なんだろうか?こんな時期だってのに……
「なんで?」
「なんでって冬の誕生日でしょうよ。そうとう祝いたい人、1人いるしね」
秋がチラッと夏の方を見る。
「秋ちゃん!それはナイショのやつ!」
二人のテンションが思いの外高いんだけど、夏は受験のこと頭に入ってないんだろうか?
自分の人生がかかっているんだぞ??そもそも塾とかでクリスマスとかやらないのかよ。
毎年、クリスマスは一人で過ごしていたから、皆がいきなりやってきて驚いてしまった。
俺が生まれた日がなんだってんだよ。
夏は、後ろ手に隠した俺へのプレゼントにソワソワしているようだった。…どうでもいいけど、俺はお返しなんてなにも用意してないぞ??
クラッカーのパーン!っという音がすると、無機質な俺の部屋にカラフルなくるくるが宙を舞う。
「と、いうわけで、冬の家でクリスマスパーティー!!イエーイ!」
走り出したらテンションが高いままの春がカバンからごそごそと何を取りだした。
「からの、ポッキーゲーム」
カバンから赤い箱を取り出していそいそと準備を始めている。
「をい……………」
なにが俺の誕生日祝いだよ。いつもの腐女子会じゃねーかよ……
「ポッキーゲームってなに?」
無知な夏が、かかんにゲームに挑もうとして、初めて聞くゲームの説明を秋から受けようとする。メガネを光らせた秋が、夏の背中に回り込んだ。
「それはね。まず夏が、ポッキーを咥えるでしょ」
夏の背中から夏の頭を両手で固定した秋が、「冬、来なさい?」という顔をしている。
「夏はそのままでいてね」
「え?」
いまから何が起きるのか分からない夏だけが、ポッキーを咥えたままでキョトンとしている。
「チッ……………」
きっと、秋はこないだ俺が公園に呼び出した事を、「私と春の時間を潰したわよね?」と思っているのだろう。これは一種の貸しを返す行為にあたるらしい。
俺は、夏の正面に座ると夏が咥えていないほうのポッキーの端を噛んだ。
……サクッ
20センチほどあるポッキーの端を噛むと、夏の顔がドキッとした顔に変わるのが分かる。
……………サクッ
俺は無表情のままポッキーを食べ進めた。
…………………………サクッ
「………………っ」
真っ赤な顔をした夏のまつ毛がバシバシという音を立てているのが分かる。
……………………………サクッサクッ
鼻先が当たりそうな位置まできたときに、夏の頭が沸騰したのか側頭して倒れた。
「あれ?いいところだったのにぃー」
腐女子1号の春がスマホのカメラを構えたまま、悔しそうにしている。
俺は口を離した夏の残りのポッキーをただムシャムシャと食べる。
当の本人は、秋の巨乳の胸の中でキュウと言っていそうな顔で意識を失っている。…………うらやましいぞ。
すると…なにを思ったのか春が立ち上がった。
「私も秋ちゃんとやりたい!!」
春が何を言い出すかと思えば、自分たちもポッキーゲームがしたいらしい。
勝手にしろよ、もう。
「あらあら、じゃーそれは家でね」
「じゃ!秋ちゃんの家行く!!」
今日は俺の誕生日だから、と断るのかと思いきや、秋はあっさり春と手を繋ぐと俺の家を出ていこうとしている。
「じゃ、夏くんよろしく」
二人がコートを着込むと本当に帰っていってしまった。なんでだよ…。
俺のベッドに夏を寝かせて、俺はみんなが持ってきたワンホールのケーキにフォークを立てる。
「……二人で四人分は多いだろ」
イチゴのタルトが甘酸っぱく口に広がる。
「………………んー」
もうすぐ日付が変わりそうなあたりで、夏が意識を戻したらしい。
「あれ?みんなは?」
俺のベッドから、布団を押しのけ起き上がるとキョロキョロし始めた。
「帰った」
「えぇ?!誕生日会は?」
「知らん」
もともと俺は3人が来ると思ってなかったわけで、夏だけ置き去りにして二人きりにされても困る。
「あ!!あと3分しかないじゃん!えと……あの!!誕生日おめでとっっ」
部屋の時計を確認した夏が、俺の隣へとやってきた。
「うん……………………」
なんか、気恥ずかしいな…。
「僕は、こんな時間まで冬の家にいて大丈夫?」
うちの両親が、俺の誕生日祝いをするとでも思っているのだろう。自分が邪魔じゃないか?と問われる。
「親は今日帰ってこないから大丈夫……」
「え?誕生日なのに?」
「うん。毎年そうだから………」
俺の親には俺を祝う以外に大切な事があるんだ。だから、親が毎年この日は家にいたことがなかった。
「そうなんだ…………寂しくない?」
「もう、慣れた…18年間そうだったし」
「そうなんだ」
夏が空気の重さに耐えられず黙るから、俺も黙ることにした。
「………………。」
「………………。」
正直、何を喋ったらいいのかもわからん…。
と、思っていると夏が俺に疑問をぶつけてきた。
「こないだ、なんで泣いてたの?」
こないだというのは、おそらく秋頃に公園で会ったときの話なのだろう。
「え、べつに…」
秋からいろんな助言をもらったけれど、何であの日の自分が泣き出したのか、いまいちよくわかっていないんだ。
「冬にとってさ、どうしたら男は恋愛対象になる…?」
夏が俺の隣でモジモジしながら聞いてきた。
「ならないよ」
そもそも男は好きにならない。それは、いまでも即答できる。できるんだけど…。
「……そうだよね」
落胆した夏に俺は、素直に打ち明けることにした。
「だって、俺おっぱい好きだし……」
「え…………………そこ?」
俺のひと言に夏が顔をあげると俺の方を不思議そうに見つめ返してきた。
「男は皆そうだろ……夏は胸ないじゃん(春と同じくらい」
春は、女子なのにまったく胸がないタイプの女子だ。もちろん男子な夏も当たり前だけれど胸がでてくることはない。
「あ、そっか。………ん?」
すると、夏が何かを思いついたような声をあげた。
「なに?」
「こないだ公園で会った日、秋ちゃんから春と付き合う事になった経緯を冬から聞かれたって………………もしかして、冬って秋ちゃんのことが好きだったの?!」
夏が「僕、ひらめいちゃった!」と言いたげな顔をする。
「なんで過去形なんだよ」
返す言葉に詰まった俺は、夏が「好きなの?」ではなく、「好きだったの?」という言葉がどうしてもひっかかってしまって、聞き返した。だけだというのに…
「ああ゛!!やっぱり!だから、あの日冬が泣いてたんだ!!」
夏はどうやら俺が秋を好きだと勘違いしてしまったようだ。
「は?」
俺はなんだか、無性に腹が立ってきた。
そんな俺の気持ちを1ミリも理解できない夏が俺に頭を下げる。
「ごめん!!!…………なさい!今日も僕のせいで秋ちゃん帰っちゃって!!なんなら、春ちゃんが秋ちゃんに告白したいって言ってきた時も応援するね!とか言っちゃったから冬を悲しませる結果になっちゃって!!本当にゴメン!!」
なんで、俺は秋に告白もしてねーのにフラれたみたいな扱いを受けているんだ???
「何言ってんだ……べつにそんなんじゃねぇ」
本人が否定しているのに、夏の暴走が止まらない。
「そっかそっか…冬は秋ちゃんのおっぱいが好きなんだぁ………」
「(語弊がある言い方すんなっ」
「……おっぱいかぁ………………」
夏がどこか遠くの空を見つめている。いや、俺の部屋の天井なんだけど。
俺は、とりあえず話を変えることにした。
「夏は、自分でスる時とか…想像するのは、やっぱり男なの?」
思春期の男子として気になることを聞いてみた。
「え?冬以外でなんて想像しないけど」
天井を見つめるのをやめた夏が恥ずかしげもなく淡々と語る。
「なんでソコで俺なの…?」
「そりゃ好きだからですぅ」
夏が少し拗ねたような顔をする。
「俺の胸とか触ったら…興奮すんの?」
まさか、ネタの全てが俺だとは思わなかった。女でシてた時代がいつまでか聞けばよかったか。
「え?あー僕は攻められたい側だから、あくまでも想像上の冬を汚したりしてないんだからねっ」
よかった。俺が、夏に手を出されているわけではないらしい。
「へー?たとえば?」
「え?たとえば…?」
そういわれて、想像した夏がまた赤い顔になってうつむいた。
「なんだよ。勝手に想像してるわりに言えないのかよ」
俺は、夏ににじり寄った。
「待って待って!!違うの!本当に変なことしてないからっ」
俺が近づいてきた事によって、夏が慌てて後退するも、部屋の壁にあたってもう後ずさりできなくなってしまった。
「なんで言えないの?」
よくよく考えてみたら、腐女子が好きそうな壁ドン状態になっているような気がする。
「ぁあぁ…………ごめん…友達なのに気持ち悪いよね……………」
すると、夏がいきなり泣き出した。ただ、夏の頭の中の俺がどんな風なのかを聞きたかっただけなのに。
「え……泣かれると俺が困るんだけど…」
俺は夏の涙を拭う。
「よくよく考えたらさ、僕は自分の気持ちだけを冬に押し付けすぎだよね……冬の気持ちも考えずに」
三角座りになってめそめそ泣いている。好きな気持を諦められないからお前は困ってるんじゃないのか?俺がココで「俺のことは諦めろ」って言ったら、お前は簡単に諦められるのか??
「べつに俺は夏が気持ち悪いとか、迷惑なんて言ってるつもりはないけど」
「でも!冬は、秋ちゃんが好きでっ」
夏の妄想はどうやら強情らしい。
「秋のことは、そーゆー意味で好きなわけじゃない」
「あ、あ、秋ちゃんのことは、性欲的に好きで……?」
秋のことを恋愛感情ではない。と言うと、混乱した夏が無理矢理自分を納得させそうとしている。その答えもどうなんだ??
「なんなの?夏は、俺のことが性欲的に好きなの?」
好きが叶わずに恋が出来ない場合は、体だけ満たされていたら恋は成立するとでも言うのか?
「え?!違うよ!!もっとピュアラブだもん!」
「……ピュアラブって、なに?」
あまりにも夏の言いたいことが分からなさすぎて、眉間にシワがよった。
「えっと、だから、ほら!寒い日に冬の手を温めてあげたりとか…冬が泣いてたら慰めたりとか、その、なんかピンク色でふわふわってしてて……」
どんだけ抽象的なんだよ。それは、普段のお前が俺にしたい事なだけでは??ピュアラブとは、友達の延長線みたいなものなのか?
「それだけで、夏の恋は完結するの?」
「そ、そりゃキスとか!したいよ………っ」
めずらしく夏が俺に怒鳴ったので、内心ビックリはしたものの、俺はさっきイチゴのタルトを食べた口で夏にキスをした。
「…………………え、いまの何?」
夏の中での時間が止まってしまったかのように、まばたきすらしないで、夏がぽかんとしている。
「イチゴ味のふわふわ、じゃない?」
名称を聞かれた気がしたので、抽象的に答えた。
「え、そうじゃなくて……なんで?」
「誕生日プレゼント」
俺は、夏にもっともらしい事を言って誤魔化そうとした。
「え、え?」
夏は理解が追いつけなくて目を回し始めている。
「夏が俺に誕生日プレゼントをくれただけ」
「冬が僕にじゃなくて?」
今日はクリスマスだから、確かにその発想でもよかったのかもしれない。でも、それだと俺の中にはまだ理由がないんだ。
「うん。俺の誕生日だから、夏が欲しいものを俺から貰っただけ」
「ん?うん?え?どーゆーこと??分かんない分かんないっっ!冬は、今日持ってきた僕からのプレゼントはもういらないってこと??」
「え、欲しいよ」
俺の理由はただのこじつけだから、貰えるものがあるなら普通に欲しいよ。
「あ、よかった。僕、2時間も考えて選んだんだから、貰ってくれないと困る」
とりあえず、よくわからないまま自分達がキスした事実を1回横に置くスタイルらしい。俺は、夏から誕生日プレゼントを受け取った。
「うん。ありがと」
中身は後で確認することにしよう。
「…………………。」
「…………………。」
また、俺達の間に沈黙が訪れる。
「えっと、僕達って付き合ってるの?」
率直に夏が俺に質問をする。
「俺が今、付き合おうかって言ったか?」
「言ってない」
「じゃ、付き合ってないだろ」
質問をしてみたけれど、普段の態度となにも分からない俺に納得をする夏。
「あ、うん。そうだよねっ(いまのキスって結局なんだったんだっけ…?キス…した、よね?」
俺は夏に合格祈願の御守をプレゼントした。
「クリスマスプレゼント??」
「え、いや、何かないかなって思ったら、俺は推薦でもう大学行くことが決まってるから、お前にやるよソレ」
「えぇ!!冬の合格お墨付きの御守?!ご利益ありそう!!」
「いや、逆にもう用済みすぎて何の効果もないかもしらんが」
「あるよ!だって、冬の私物だし!」
「そんなに嬉しいんかよ…変なやつ」
「へへへっ」
モヤモヤした気持ちを『好き』だと錯覚してしまえたら、恋は出来る。でも、それは男女の話だけ。俺は…自分が本当に好きだといえるだけの自信がないから、いつか鈍感な夏が気付いて「もしかして冬って僕のこと好きなんじゃない?」って言うまで自分が好きな気持ちに蓋をすることにした。