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閑話休題 日支夫、不名誉な称号を得る

 国に戻った日支夫は、諸見里から理不尽なほどに怒られた。それを見かねて、挙兵した王が「まあまあ」と諸見里をなだめるしかなかったほどである。


 日支夫のぬか床は他の三人が管理していたので、数週間いなくても全く変化がなかった。


 こんなに長い間いなかったのに、まるで自分が無価値なようでつらかった。

 だが一方で、変わらず自分を受け入れてくれた日常をありがたくも思った。



 生還のゴタゴタが終わったら、今度は誰しもが誘拐された時のことを聞きたがった。


 正直日支夫としては、話したくない。まさかノリノリで人間を裏切るような行為をしていただなんて、口が裂けてもいえない。それに本当のことを話せば「ここより待遇がよかった」というのがバレる。そんなこと言おうものなら、即座に王宮内での居場所がなくなるだろう。

 もし王宮から逃げて銀河に合流したとしても、魔族のために漬物を作ったなんて知れたらドン引きされるし、本当にこの世の中に居場所がなくなる。だから日支夫は話す内容にはとても注意した。


 だが数日も経てば、意識が変わってくる。色んな人からチヤホヤされ、大注目の日々。日支夫は気が大きくなっていた。



 その日、日支夫は糀次と樽を洗っていた。そんな時にスカーレット王女がやってきて、日支夫に魔王城での日々について尋ねられた。

 この頃には日支夫はネタとしてイキイキと生還譚を語るのだった。


「やはり魔物は恐ろしいのでしょうね。とても強いと聞きますわ」


 スカーレットは糀次にしな垂れかかった。姫的には「だから単騎特攻した糀次はカッコイイ」という話に繋げたかったのだろう。日支夫の話を面白がりつつも、糀次と話したいという下心が見え見えだった。

 だから日支夫は一発かますことにした。


「いやー、そうでもなかったぞ。漬物食ったらオークがあっさり死んだし」

「えっ!」


 その場にいる誰もが目を見開いた。

 驚くとは思っていたが、驚きすぎて日支夫が逆にビックリした。


「日支夫殿、その話を詳しく!」

 いつも塩対応のオリヴィアが、珍しく日支夫の話に食いついてきた。


「いや、そのまんまだけど。魔王に作らされた漬物を試食したら、ゼネスってオークが死んだんだ。アレには俺も参ったよ」


 日支夫はタハハと笑っていたが、オリヴィアはさらに怖い顔つきになった。


「おい、ゼネスとはまさか、四天王のゼネスのことか?」

「ああ、そうそう。そう言ってたな。四天王のくせに弱すぎだろって。あまりにも瞬殺すぎて、俺マジでビックリしたもん」

「あのゼネスを瞬殺!」


 スカーレットが倒れそうになるのを、ウルルが必死に抱きとめた。


「日支夫さん、その話本当ですか? 僕、初耳なんですけど」

 これまで散々日支夫の適当な話を聞いていた糀次でさえも、信じられないという表情で尋ねた。


「ああ、言ってなかったもん。今回初お披露目のとっておき話だぜ!」

 漬物関連になると諸見里がうるさいので、日支夫はこの件を黙っていたのだ。


「いいか日支夫殿。その少ない脳みそでも、しっかり聞いてくだされよ」

「悪意が酷いな」


 ひと呼吸おいてから、オリヴィアが語り出した。


「これまで魔物を倒せた実例は、十件もない」

「はあ? 人類ザコすぎだろ!」

「無礼な! 人間と魔物の戦力差がありすぎるのだ。その討伐歴だって、集団で、ようやく一体倒している」

「そんなに強いのかよ、アイツら!」

「唯一オークが倒せた事例は、街一つ犠牲になった」

「はあ? あの雑魚が?」


 日支夫は捨て漬けを食べて歓喜していた下っ端オークのことを思い出した。

 どう見ても、そんな強いようには思えない。むしろ人語を喋る家畜程度の認識だった。


「そんなオークの最上位を倒すだなんて史上初だ! しかも四天王とあらば即表彰ものだぞ!」

「マジかよ! 俺スゲーじゃん!」

「だから言っているのだ! 日支夫殿、本当に嘘はついておりませんな?」

「本当だって! だってその件で、俺めっちゃ魔王に嫌われてるから!」

「あ、それは本当です。魔王さんが日支夫さんのこと、ゴミムシみたいな目で見てましたから」

「酷えな!」


 糀次のフォローもあって、日支夫がゼネスを倒したことは本当だろうとの裏付けが取れた。



 この噂は一気に王宮に広がり、街内だけでなく、世界中にあまねく広がっていった。勇者がリアルに魔物を倒したことは、人類に大きな感動と喜びを与えた。


 この貢献から、日支夫は王宮より褒章を受け取ることになった。かしこまった場でバッジを受け取るだけなので、別に面白くもなんともないのだが。そして「オーク殺し」の二つ名も賜った。


(正直クソだせぇ……)


 だが厳かな場でそんなこと言えないし、日支夫は黙っていた。


(まあ二つ名があっても、別に困らないか。普段から呼ばれるわけじゃないし)


 実際二つ名を賜ったことで、日支夫の生活は何も変わらなかった。

 ただ来年発行の教科書や歴史書にこの二つ名が記載されることになるのだが、この時の日支夫はまだ知らなかった。



 そしてこの二つ名はますます有名になり、ついに魔王城にも届いた。


「あのボンクラが! 勝手なことをほざきおって!」


 魔王をはじめ、魔族一同に多大なるヘイトを集めていたことを、日支夫はまだ知らない。

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