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3話・嵐の能力

 

 智代子は何度も何度も頭を下げ、御礼を言いながら事務所を辞していった。十九時には上の子の習い事が終わり、迎えに行かねばならないのだという。

 彼女が事務所に滞在した時間はわずか二十分。凛が心を読んで必要な情報を得るため依頼者から長々と聞き取りをする必要がないので短時間で済んだ。


 叔母の智代子が帰った後も里枝はなぜか事務所内に残っており、凛が相手をしている。同性で年齢が近いからか、二人はそこそこ仲が良い。いま凛が着ている派手目な服は里枝から貰ったお下がりだ。変装用として重宝している。


「凛ちゃん、叔母さん大丈夫そう?」

「とりあえずは。でも、心の奥底にダンナさんへの不満が溜まってるから心配かも」

「やっぱり? 叔父さんは事故のことを忘れたがってるんだよね。叔母さんと意見が合わなくて、家の中がギスギスしてるみたいで」


 事故を忘れる=順也くんを忘れるという意味ではないのだが、まだ気持ちを切り替えられていない智代子には夫が理解できない。両親が仲違いしていては上の子にも悪い影響が出てしまう。なんとかしたいと里枝が思うのも無理はない。


「あたしの言葉じゃ気休めにしかならないし、また不安定になるかもしれないけど」

「そぉ? 叔母さん晴々とした顔になってたよ」

「欲しがってる言葉を伝えたから嬉しくなったんだと思う。でも、根本的な解決にはならない」


 凛が心を読んだ限り『亡き我が子の声が聞こえる』という智代子の話を夫は信じていない。精神病院への通院を勧めたのも夫だ。夫婦間の亀裂は部外者にはどうしようもない。


「んで、オマエが残った理由はそれだけじゃねーだろ? サッサと言えよ」


 それまで無言で座っているだけだった嵐がようやく口を開いた。低い声と切れ長の眼に凄まれて、里枝は「きゃあ、こわい」とワザとらしく肩をすくめてみせる。嵐は不快を隠しもせずに鼻を鳴らして足を組み替え、顎をしゃくって話すよう促した。横柄な態度の嵐にベーッと舌を出してから、里枝は真剣な表情に戻って話し始めた。


「順也くんの事故現場を見に行ってほしいの。さっき凛ちゃんが指摘した通り、叔母さんは暇さえあれば現場に行って泣いてるんだよね。……まるで取り憑かれてるみたいに」


 その言葉に、嵐がぴくりと反応した。


「あのオバサンには何も憑いてねえぞ」

「そうなんだ?」

「ああ、さっき視て確かめた」


 話をする前に凛が嵐に確認していたことだ。

 今回の事件はどちらが担当すべきかを。






 嵐には霊感がある。


 幽霊や思念などを感じ取る能力があり、弱いものならば自力で祓える。寺生まれでもなく修行をしたわけでもなく、気付いた頃には当たり前のように()えていた。曾祖母が霊感の強い人だったらしい。両親は理解を示さず拒絶したが祖父母は信じて受け入れ、嵐を引き取って心得や注意すべきことを教えた。


 もともと負けん気が強い性格である。元々高い能力を更に自己鍛錬した結果、幽霊や残留思念を力づくで排除できるようになった。






 智代子には霊が憑いているわけではない。我が子を突然失った悲しみから抜け出せておらず、精神が不安定になっているだけ。だから、凛は智代子が欲する言葉を伝え、カウンセリングの真似事をしてこの場をとりあえず凌いだ。


「だが、なにかある」


 強い口調で嵐は言い切った。

 第六感とも言うべき勘で何かを感じ取っている。


「じゃ、ここから先はアタシからのお願い。事故現場を直接確かめて、問題があったら何とかしてほしいの」


 そう言いながら、里枝は自分のカバンから可愛らしいピンクの封筒を取り出し、テーブルの上に置いた。すぐさま嵐がひったくり、封筒の中身を確認する。


 一万円札が二枚。

 これが凛と嵐に対する一件あたりの依頼料だ。


 智代子からの相談分は既に受け取っているが、里枝からの依頼は別件となるため追加料金がかかる。


 胡散臭い霊能者や祓い屋、はたまた宗教団体などに相談すれば最終的に幾ら搾り取られるか分かったものではない。高価なものを買わされたり、思わぬ金額を請求されたり。それで解決すればまだしも、大抵は困っている人を食いものにする詐欺なのだ。


 その点、凛と嵐は明朗会計。

 どんな相談内容でも報酬は一律二万円。


 宣伝は一切しておらず、口コミまたは紹介での客がほとんどで評判は良い。里枝のように身内を紹介するくらいには信用も得ている。


「毎度ありィ」


 万札を指に挟み、嵐は口の端を上げて笑った。その笑顔があまりにも禍々しくて、里枝と凛は乾いた笑いをこぼした。


「嵐くんって、ホントその辺にいるチンピラにしか見えないよねェ~」

「うっせぇな! 殴ったろかこのアマ」


 テーブルを挟んで睨み合う二人を眺めながら「仲が良いなぁ」と凛は暢気に考えていた。伊達眼鏡は服の胸元に引っ掛けたまま。視界に入った人の心を無差別に読んでしまうため、他人と過ごす時には欠かせないアイテムだが、嵐と里枝に関しては必要ない。霊能力があるせいか嵐の思考は読めないし、里枝は思考と言動がほぼ一致しているからだ。


「さっき智代子さんの心を視て場所は分かったから、近いうちに行くね」

「今から行くならアタシも着いてく」

「バァカ、俺らも暇じゃねーんだ。今夜はもう予定が詰まってんだよ」


 現在の時刻は十八時四十分。

 二十分後には次の依頼人が来る予定だ。


「んじゃ、なる(はや)でお願い」

「わかりました、なる早で」

「終わったら教えてね~!」


 里枝は笑顔で凛とハイタッチをし、嵐には舌を出してから帰っていった。騒がしい彼女がいなくなり、事務所内がしんと静まり返る。


「クソアマ。事故現場は俺の管轄だっつーのに何で凛に頼んでんだよ」

「なあに、妬いてるの?」

(ちげ)ぇわ!」


 ぶつくさ文句を言う嵐にからかうような言葉を投げると全力で否定された。凛からすれば、仲良くじゃれ合っているようにしか思えなかった。


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