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27話・犯行予測

 

 里枝を守り、朽尾を捕まえるために三人は知恵を出し合った。


「社長は盗聴器に詳しいんですよね?」

「まあな、その辺の素人とは違うぜ」


 凛の問いに、嘉島は得意げに答えた。ドン引きされているとも知らず、むしろ胸を張っている。


「他人のカバンに気付かれないように盗聴器仕込むのって可能っすか」

「簡単だな。最近は超小型で性能も良い製品が多い」


 ノートパソコンを操作し、監視カメラ映像から怪しげなオンラインショップのページへと画面が切り替わる。そこにはずらりと小型盗聴器やカメラ、GPS発信機などが表示されていた。


「朽尾は吾妻のボディバッグに盗聴器仕込んでるんすよ。でも、吾妻と接触するのは週に一回タトゥースタジオに訪れる時だけ。そんなんで盗聴し続けられるもんですかね?」

「週イチで電池交換すりゃVOX機能かSVOS機能付きの盗聴器なら保つ」


 VOX機能は音声起動録音、SVOS機能は音声監視録音。どちらも無音時は一時停止またはスリープ状態で、音を感知すると起動する。待機中は電池の消耗を抑えられ、電波を発しないため専用機器による発見もされにくい。


 嵐は以前吾妻に『定期的に訪れている場所』を尋ねた。返答は『自宅』『大学』『バイト先のカフェ』、そして『タトゥースタジオ』だった。


 何度かに分けて刺青を彫る場合、施術箇所の肌を休めるために二週間ほど空ける必要がある。しかし、朽尾は経過観察のためと称し、週に一度見せにくるようにと吾妻に指示を出していた。手荷物を預かり、こっそり仕込んだ盗聴器の電池を交換していたのだろう。


「盗聴器ってその場で録音するだけじゃないの?」


 いまだ盗聴器がどんなものか理解していない凛は素直に疑問を口にした。


「対となる受信機で時々受信するんだよ。数十から百メートルくらい近付けば可能だよ。まあ、小型の盗聴器ならリアルタイムで聴くくらいしか出来ないだろうが」

「百メートル……」


 四六時中全ての音声が筒抜けというわけではないと分かって安堵したと同時に距離の近さに寒気を覚える。吾妻のバイト先のカフェも朽尾のタトゥースタジオもさほど離れていない。もしかしたら、時折音声を傍受するためだけにわざと近くをウロついていたのかもしれない。


「気付かれない程度の大きさならそれが限界だろうな。もう少し大きければ録音データが一定時間溜まったら自動で送信する機能も付けれるんだが」


 仕込まれた盗聴器はおそらく超小型。

 そのぶん機能は少ないと予想される。


「たぶん吾妻はカフェのシフトを把握されてるな。退勤時を狙って近くに来ていたかもしれねえ。バイト中はカバンはロッカーの中、自宅でも外しちまえば音声は拾えねえだろうし」

「ま、そんなとこだろうな」


 嵐と嘉島の会話に凛は顔色を青くした。

 男が男相手に好意を抱くこと自体はともかく、強過ぎる執着の果てに三人も殺している。タチの悪いストーカーを通り越し、凶悪な殺人犯と成り果てているのだ。


「ねえ、どうしたらいい? 里枝さんに危害を加えられる前に何とかしなきゃ」


 今こうしている間にも里枝に危険が迫っているのだ。凛は焦るあまり良い策が浮かばない。嵐はとりあえず目の前にいればブン殴って止めるか、という程度である。

 嘉島はしばらく考えてから、さも名案を思いついたと言わんばかりに手を打った。


「里枝って娘を(おとり)にすりゃいいじゃねえか」


 凛と嵐は眉をしかめた。

 明らかに不服そうな二人を嘉島は鼻で笑う。


「いいかオマエら。霊感だのなんだので得た情報なんざ法治国家じゃ何の証拠にもならねーんだ。だったら犯行の瞬間を押さえるしかねえ。現行犯で捕まえるんだよ」


 論理的には理解できるが心情的には抵抗があった。でも、他に方法が思いつかない。凛と嵐は嘉島の案に乗る以外に選択肢がない。何も知らないふりをして里枝を見捨てるという道だけは選べない。吾妻から依頼されたからではなく、里枝はもう見知らぬ他人ではないからだ。


「でも急がなきゃ。里枝さんが襲われるとしたら今夜だと思う」


 険しい表情で言い切る凛に、嘉島は「はあ?」と間の抜けた声を上げる。嵐は少し考え込んでから口を開いた。


「……なるほど。これまでの殺人は告白されたタイミングに関係なく毎週日曜の深夜から月曜に行われた。理由がわからなかったが、そういうことか」


 一人で納得したように何度も頷く嵐に対し、嘉島は困惑した顔を向ける。


「どういうことだ堂峰」

「タトゥー屋の定休日が月曜だからっすよ。アイツは休日の前に邪魔な存在を片付けてスッキリさせたいんだ」


 嵐が見せてきたスマホ画面には、朽尾のタトゥースタジオのサイトが表示されている。営業時間の項目には確かに月曜定休と記載があった。


「だが、クソアマは今までの相手と違って吾妻が好意を抱いている。普段なら次の日曜の夜から月曜に()っていただろうが一週間も放置してらんねえ、ってコトか」

「うん。朽尾はすぐにでも行動しそうな感じだった」


 カフェを出た後、凛は里枝が駅ビルの裏口に入るまで付き添った。朽尾が凶行に及ばないようにするためだ。


 次に里枝がひとりになる機会はアルバイトが終わった後。カフェ閉店後の帰宅時を狙われるとみて間違いない。



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