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18話・規則正しい不審死

 

 吾妻を見送ってから、凛は嵐に向き直った。

 先ほどの指示の意図を確かめるためだ。


「どうして直接聞いちゃダメだったの?」

「勘って言いたいところだが」


 嵐がズボンのポケットから取り出したのは、手のひらに収まるサイズの黒く細長いものだった。


「なにコレ」

「盗聴器を見つけるための機械」

「ええ!?」

「紹介とはいえ新規の客は警戒してんだよ。興味本位で潜り込む奴もいるし、実際過去に盗聴器仕掛けられたこともある」

「そうなの?」


 凛は驚きのあまり大きな声を上げた。今の今まで、嵐がそんなものを所持していることや依頼人を探るような真似をしていたことさえ知らなかったのだ。


 ちなみに、過去に盗聴器や隠しカメラを仕掛けた犯人は事務所のオーナー嘉島である。彼はこの密室とも言える事務所内で若い男女が間違いを起こさぬよう善意で見張ろうとした。盗聴、盗撮が趣味なのかもしれない。毎月家賃を回収しに直々に足を運んでいるのは隙あらば新たな機器を仕掛けるため。今のところ全て嵐が発見&処分している。


「吾妻は盗聴器を持ってる」

「えええ!?」


 嵐の手にある機械は、本来であれば盗聴器を発見するとランプが光って警告音が鳴る仕組みだ。今は相手に悟られぬよう音が鳴らない細工を施してある。


 凛は血の気が引くのを感じた。恐らく吾妻が身につけていたボディバッグに仕込んであるのだろう。


「だから心を読ませたの?」

「ああ。で、どーだった?」

「吾妻さんは盗聴器のことなんか考えてなかったよ。何も知らないと思う」


 つまり吾妻が自分の意志で所持していたのではなく、第三者によってカバンに盗聴器が仕込まれたということだ。


「たいへん。吾妻さんに知らせないと!」

「なんて言うつもりだよ。それに、アイツの前で下手にその話をすれば仕掛けた相手にも伝わっちまうぞ」


 今の段階では何もできない。盗聴器と不審死事件の関係性はまだ不明。無関係だとすれば、吾妻が現在進行形でストーカー被害に遭っているということになるが、凛と嵐は警察ではない。依頼と関係のないことにまで首を突っ込む義理はない。


  しかし、表層の意識だけならともかく、同意なく触れて深い思考や記憶を読むなどしたくはなかった。嵐のやり方について、凛は少し憤りを感じていた。


「うちに相談しに来たことはバレてるよね」

「ああ。だが、俺たちは具体的な解決策は何も示してねえからな。警戒もされてねえだろうよ」


 確かに『呪われているわけではない』『吾妻に非はない』としか伝えていない。ただ悩みを聞いただけ。盗聴器の向こうにいる誰かに怪しまれないよう嵐が仕向けたのだ。


「まずはアイツの右腕にまとわりついてる黒いもやの正体を探ろう」


 嵐によれば、吾妻の右腕には黒いもやが絡みついてるという。


「黒いもやって、呪いとは違うの?」

「いずれは呪いレベルになるかもしんねえが、今はまだそこまで強くねえ。ただの執着だ」


 前回見た黒いもやの正体は、死んだ我が子を無理やり現世に縛り付けるために智代子が一年近くかけて生み出した執着の念だった。つまり、吾妻も誰かに強く執着されてはいるが、まだ月日が経過していないということだろう。


「執着してるのって死んだ三人じゃないの?」

「吾妻に女の霊は憑いてなかった」

「じゃあ、誰の執着?」

「それを今から調べるんだろが」


 嵐は壁際に置かれたロッカーからノートと筆記用具を取り出し、テーブルに放り投げた。知り得た情報を書き出せ、という意味だ。仕方なく凛は鉛筆を持ち、先ほど吾妻に触れて得た情報を記していく。


 まず、被害者の三人について。


 山本 マミ。二十歳。大学の同期。

 死亡日時は四月三日深夜。

 自宅付近の歩道橋の階段で転落死。


 白井 リコ。十八歳。バイト仲間。

 死亡日時は四月十日深夜。

 帰宅途中にある公園の池で溺死。


 寺田 ユイ。二十三歳。カフェ常連客。

 死亡日時は四月十七日深夜。

 車で単独事故を起こして死亡。


 女性同士に交流はない。亡くなった日も場所も異なるため、警察では独立した事故として処理されている。ただ、不自然な点があった。三人の死はちょうど一週間おきに起きており、死亡推定時刻が決まって深夜なのだ。単なる偶然の一致にしては揃い過ぎている。


「亡くなった三人共に関わりがある人なら違和感に気付くだろうけど、バラバラの事件だと思えば何とも思わない、かも」

「だろうな」


 三人と接点を持つ吾妻は、告白されたこともあり他人事とは思えないようだった。彼は彼女たちの告白を断りながらも「この先も変わらぬ付き合いをしよう」と誠意を込めて伝えている。もしかしたら、自分が告白を断ったせいで彼女たちが自殺したのではないかと恐れる気持ちもあっただろう。


「そういえば、なんでアイツは告白を断ってんだ。カノジョがいるのか?」

「他に好きな人がいるみたい」

「へえ」


 直接触れたため、凛には吾妻の想い人が誰なのか分かっている。依頼人の秘密を勝手に暴露するわけにはいかない。それに、なんとなく嵐には言いづらくて凛は相手の名前を伏せた。嵐も特に興味はないのか、相手を詮索することはなかった。


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