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ポンコツ妻、アパートのオーナーになる

婚家のロレイン公爵邸に『聖なる乙女』を迎える事が決まり、屋敷から出るように言われたユニカ。


その事を予知夢により事前に知っていたユニカは、かねてより準備していた新しい家へと移った。


どんな家なのかは着いてからのお楽しみとされていたので、ユニカはドキドキしながら辻馬車を降りた。


王都の市街地から少しだけ外れた場所にあるその家は屋敷と呼ぶには小さく、しかし個人宅にしては大き目の不思議な家だった。


しかも門扉のところに書かれているのは……


『ユニークアパートメント』


──え?アパート?


ユニカはルナとクロエの方を振り向いた。


二人はニッコリと微笑んでいる。


説明はルナがしてくれた。


「ここが今日から奥様がお住まいになる新しい家でございます!何か生計を立てられるようにとのご要望でしたので、古い無人のアパートを買い取りました!」


ルナのその言葉にユニカは目を輝かす。

夫セドリックの側を離れる事により沈んでいた気持ちが一気に浮上した。


「すごいわルナ!面白そう!」


「さすがは奥様!そう言って頂けると思っていました!」


ルナが嬉しそうに笑い、そしてこう告げた。


「とりあえずは中へ。お疲れになられたでしょう?お茶を飲まれながら細かい説明をいたしますね」


「さ、ユニカ様」


ルナとクロエに促され、ユニカはドキドキわくわくしながら、木造二階建てのアパートの中へ足を踏み入れた。


中は古いがとてもよく手入れをされ、ピカピカに磨き上げられていた。


経年した木材独特の風合いがどこか懐かしい、ノスタルジックな感じのする内装だった。


そう、まるで祖父母の家に来たような、そんな雰囲気だ。


ユニカは一目でここが気に入った。


「素敵!!わたし、ここが気に入ったわ!」


その言葉にクロエが吹き出す。


「まだエントランスしかご覧になってませんよ」


「それだけで充分にわかるくらいここが素敵って事よ」


「ふふ。さ、ユニカ様。お部屋へご案内しますわね」


そう言ってクロエは先ん出て歩いてゆく。


ユニカは辺りをキョロキョロ見渡しながらそれに続いた。


一階の突き当たりに、ユニカ専用の部屋は用意されていた。


ドアには金のプレートで『オーナールーム』と書かれている。


部屋の中に入るとユニカはこれまた感嘆の声を上げた。


「わぁ……!」


中は4部屋分が一つになった広さがあり、

背の低い壁やパーティションでそれぞれの空間ごとに区切られていた。


部屋の中を進みながらルナが教えてくれる。


「ここは奥様だけが使用出来るお部屋です。トイレ、キッチンにバスルーム、居間にダイニング、寝室にクローゼット、どれも小振りですがきちんと揃っておりますよ」


「素敵……暮らしやすそう」


「公爵邸に比べたら十分の一くらいのスペースですよ?」


「広さは関係ないわ。この小ぢんまりした感じがいいのよ」


ユニカが嬉しそうに言うのを見て、ルナは微笑んだ。


「お気に召して頂けてようございました」


「大変だったでしょう?ありがとう。ルナ、クロエ」


居間へ移動して、早速お茶を口にする。


馥郁(ふくいく)とした香りと適度な熱さが淹れる者の腕前を物語る。


「美味しい……やっぱりクロエが淹れてくれるお茶は最高ね」


「ありがとうございます。茶葉だけは公爵家で使っていた物と同じものを使用しております」


「わぁ贅沢ね」


「美味しいお茶は良き人生に欠かせませんからね」


「至言だわ」


感心するユニカを見て笑いながら、ルナがアパートについて話し始めた。


「ではアパートについてご説明いたしますね。まずは名称から、『ユニークアパートメント』のユニークはユニカ様のお名前から拝借して考えました。入居者は個性派揃いでユニークな人間ばかりですからピッタリな名称かと」


「なるほど!」


「それから入居者は安全性の事も考えまして全て女性です。来客などでの男性の立ち入りは認めますが、居住は女性のみと定めております」


「なるほど!」


「入居者の居住エリアは2階部分。全部で4室あり、すでに満室です。間取りはトイレ付きの2DK、シャワールームは共用、他の住人に迷惑をかけなければペットも飼育可としております」


「なるほど!素敵!」


「それから……

奇しくも入居者第一号になった201号室の方の事なのですが……」


「何か問題でも?」


「いえ、特に問題という事はございませんが、入居者は全員女性と申し上げましたが、その方だけは女性であって女性でない…と申しましょうか…でも見た目は女性で、しかし本当の性別は男性で、だけど心は女性で、なのに話し方は中性的で……」


「?何?なぞなぞ?」


「いえそういう訳ではなく……要するにですね、

オネェ様ではないけれど、まぁ世に言う“男の娘”というやつですね」


「オトコノコ……あぁなるほど!」


「ご了承して下さいますか?」


「もちろん、何の問題もないわ。その方の心は女性なんでしょう?」


「ええ。そのようです」


「じゃあ他の入居者も大丈夫なのではないかしら」


「他の方たちも何も気にされていないようです」


「良かったわ」


ユニカは満足そうに頷いた。


「奥様ならそう言って下さると思っておりました」


ルナがそう言うと、ふいにユニカが「それ」と指摘した。


ルナが首を傾げながら言う。


「何でございましょう?」


「その“奥様”という呼び方は相応しくないわ。これからはユニカと呼んで」


それを聞き、ルナはあっさりと答えた。


「それは出来ません」


「何故?」


「あなた様はロレイン公爵夫人であらせられるからです」


「でもじきにそうでなくなるのよ?」


「少なくとも今は公爵夫人です。もし離婚なさったら、その時はお名前でお呼びさせて頂きます」


「まぁ……ルナがそうしたいならいいけど……。でも他の人にはわたしの身分は隠しておいてね」


「もちろんです」


ルナはその後、簡単に他の住人の事も話してくれた。


内緒のあだ名付きで。


「202号室の方は壮年の女性でハンナさんという方です。ワタシは彼女をこっそり、“マッチ売りの熟女”と呼んでおります」


「マッチ売りの熟女!少女じゃなくて?」


「マッチを製造販売する商店で働いているそうですから」


「なるほど!」


「それから203号室の方は、“髪を切ったラプンツェル”。204号室の方は“不眠症の茨姫”です。ネーミングの理由は本名がラプンツェルさんとオーロラさんと仰るからです」


「なるほど!?」


確かにユニークな人間揃いだと、ユニカは興味をそそられまくりだ。


早く住人たちに会いたい!と楽しそうにするユニカを、クロエとルナは微笑ましそうに見つめていた。


クロエがルナに囁く。


「ルナ、ユニカ様のためにアパートを見つけて、そして面白い人選をしてくれてありがとう。公爵様と離れて、落ち込まれる日々が続くのではないかと心配していたの」


その言葉に、ルナは肩を竦めて小声で呟いた。


「いや……ワタシは指示された通りにしただけですからね」


「え?」


ルナの声が小さ過ぎてクロエには聞き取れなかったようだ。


「ルナ!クロエ!見て、裏庭に畑もあるわ!」


窓の外から裏庭を見ていたユニカが嬉しそうに告げる。

クロエがそれに答えた。


「新しく雇い入れた下男のロビン(55)が畑を用意してくれました。ユニカ様、ご実家に居らした頃は趣味で野菜を作っておられましたでしょう?」


「また土いじりが出来るのね!その場で()いで食べられるのね……!」


田舎育ちのユニカは感極まった様子で言った。



──至れり尽くせりにして貰って自立と言うなんて片腹痛いと思われるかもしれないけど、これからはわたし自身が頑張っていかないと!とりあえずは美味しい野菜を沢山作って、ルナやクロエやアパートの皆んなの健康はわたしが守るわっ!!


と、明後日の方向にやる気を示すのがユニカの特徴なのでスルーして頂きたい。


とにもかくにもユニカは今日より、

初めて父親や夫の庇護下を離れて自立(?)するのだ。


辺境伯の娘として育ち、

臣籍に降りた元第二王子に嫁いだ生粋の貴族令嬢であるユニカ。


そんな彼女がこれから市井で、民草に紛れてどう生きていくのか……………不安しかないが、まぁなんとかなるだろう。


………なるのか?



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― 新着の感想 ―
[気になる点] >まぁ世に言う“男の娘”というやつですね えぇー、ほんとでござるか? オネエじゃなくて? [一言] >自立(?)するのだ。 自立(笑)の予感・・・!
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