表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/20

エピローグ 懐妊したポンコツ妻は夫から自立出来なかった

「……片付いたか?」


「はい、ようやく」


「ちゃんと苦しんで逝ったんだろうな?」


「それはもう、もがき苦しみながら。見るも無残な姿で」


「それならいい。レプリカと本物のすり替えも抜かりはないな?」


「もちろんです。レプリカには普通の防御魔法の呪詛よりも強力なものを仕掛けてありましたからね。法的に認められているもの以上の呪詛ですから、見つかる訳にはいきません」


「よくやってくれた。ご苦労だった。従僕を装って偽聖女を上手く宝物を盗むように誘導した暗部の者にも、充分に褒美を取らせ労ってやってくれ」


「かしこまりました」




◇◇◇◇◇




その事件が各主要新聞の一面で報じられた事により、国内とそして同じ信仰を国教と定める国々が一時騒然となった。


無理もない。

国教会の大司教と聖女である聖なる乙女が元第二王子であるロレイン公爵所有の宝物を盗み出し、その防御魔術により命を落としたというのだから。


庇護者のロレイン公爵の屋敷で暮らしていた聖なる乙女が、欲に目が眩んで伝説の宝物を盗み出した。

しかも聖職者である大司教の命により。


しかしその宝物には盗んだ者に制裁を与えるという呪詛が掛けられていたのだ。

それ自体は珍しい事ではない。

国宝や伝説級のアイテムには、盗難防止の為に呪詛が掛けられているのはよくある事だ。


問題はその呪詛に掛けられた盗人が大司教と聖女であったという事なのだ。


ロレイン公爵家から盗み出された宝物が追跡魔法により大司教の部屋から見つけられた時、誰もがまさかと思った。


温厚で人徳者と名高いロドリゲス大司教が宝物を盗んだ犯人だという事になるのだから。


呪詛は盗んだ者に掛けられる。

その心に邪念があればあるほど呪詛の力は強まり、最悪の場合死に至らしめるというのだ。


そして、発見された宝物の側には呪詛により呪い殺された大司教と聖女の亡骸があったという。


苦しみで顔を醜く歪ませた二人。

それだけでこの二人が聖職者でありながらよほどの邪念があった事を、調査に当たった専門家である魔術師たちは認めざるを得なかった。


その正式な報告を受け、国教会は大司教と聖女の失態をロレイン公爵セドリックに深く陳謝したという。


セドリックは宝物は無事に戻ったのだからと、この謝罪を受け入れた。

しかし国教会の人選に疑問が残るとし、後任の大司教選定など、国として介入する事を認めさせた。


それにより後任の大司教は、“神託”……大司教が夢で見た事を“神託”とする不確かなものに以前から異を唱えていたセバスチャン司祭が務める事になった。

もちろんその人選に、セドリックが深く関わった事は言うまでもない。


少なくとも、セバスチャンが大司教である内は再び聖女を選定するという事はないであろう。


たった一人の聖女を祀り上げるより、各地にいる多くの治療魔術を使える者の処遇を改善して効率よく治療に当たらせる方が人々の暮らしの為になるというセバスチャンの方針をセドリックは支持した。


そして兄王と議会の承認を得て、国教会だけに頼らない医療制度を確立したのであった。



と、これからの説明を新聞を読みながらルナが詳しくしてくれた。


ユニカはため息を吐きながら言った。


「こんな結果になるだなんて……これは予知夢でも見なかった事だわ……というかこの頃予知夢を見なくなったのよね、なぜかしら?」


ユニカのその言葉を受けて、ルナが何でもない事のように言う。


「期間限定の能力だったんじゃないですか?ユニカ様は魔力をお持ちではありませんが、御身内には高魔力保持者が沢山おられる訳ですし、一瞬だけ先祖返りのような能力が目覚めて珍しい経験が出来てラッキー♪くらいに考えておけばいいんじゃないですかね?」


ユニカは新聞を畳みながらルナに言った。


「なるほど、確かにそうね。予知夢なんて、ちょっとレアな体験よね。それにこんな素敵なアパートに住む事が出来たんだから無駄ではなかったわ」


細かい事にこだわらない、ユニカらしい単純さにルナは微笑んだ。


そして内心、ディアナとロドリゲスがセドリックの策略にはまり、呪殺された事をユニカには絶対知られないようにせねばと思った。


主君であるセドリックがそう決断したように。


セドリックはこの世界が巻き戻り後で、ユニカは二度目の人生を送っている事を告げないと決めた。


欲深い人間の悪意によって一度は殺された事など、ユニカが知る必要は無いと考えたのだ。

特にお腹の子への影響がどう出るかわからない妊娠中なら尚更だ。


ユニカが夢で見たとされる過去の記憶は巻き戻り直後の17歳から殺される日のものだけ。

そして当の本人に殺された瞬間の記憶がないのであれば、あえて辛い真実を伝える必要はない。

セドリックはそう考え、ルナとククレ、そして前回ユニカと共に命を奪われたクロエに固く口止めをしたのだった。


ユニカの性格をよく知る三人はそのセドリックの考えに従った。


全てはユニカとお腹の子のために……

全員が同じ思いだった。



「セドリック様はお元気かしら……とても多忙な日々をお過ごしなのでしょうね。体調を崩されないか心配だわ」


ルナが肩を竦めながらユニカに答える。


「閣下は身も心も頑丈なお方ですからね、きっと大丈夫でしょう。むしろ一気に片付けて後はゆっくりしようという魂胆が見え見えですよ?」


「そうなの?セドリック様がゆっくり休めるならそれでいいのだけれど……」


ユニカは窓の外を見ながらお茶を口に含んだ。


考え事をしている時に遠くに視線を向けるのはユニカの癖のようなものだ。


ルナはユニカに尋ねた。


「もし閣下が明日にでもお迎えに来られたら、奥様は公爵邸にお戻りになられますか?」


「え?」


「クソ聖女は居なくなりました。国教会側の人の出入りがなくなり、お屋敷は元の平穏さを取り戻しました。クソ聖女が来てからというもの、閣下もお屋敷には一切帰られなかったので、お屋敷は今や主人不在で寂しいものですよ」


「……やっぱりセドリック様はディアナ様とは一緒に暮らしていなかったの?」


「はい。初日に顔を合わせただけです。閣下は地方巡察など理由を作ってはお屋敷に戻られませんでしたからね。よっぽどクソ聖女の事がお嫌いだったのでしょう」


前にディアナと対峙した時にシシーが、セドリックはほとんど王都に居ないと言っていた事はどうやら本当のようだ。


予知夢の中では公爵邸でディアナと仲睦まじく暮らし、ユニカに離婚を言い渡した筈なのに。何が変わってしまったのか。

一緒に居なかったのであれば、セドリックがディアナと恋仲になっていないとそう考えて良いのだろうか……。


そうであって欲しいと、自分の都合の良いように解釈してしまっているのではないだろうか……。


ユニカにはわからない事だらけだった。


でも、わかっている事もある。


それは自分の気持ちだ。


覚悟して離れてもやはりセドリックの事が好きなのだ。

お腹の子の誕生を二人で喜びたい、その気持ちだけは確かなものだった。


「今、閣下が忙しくされているのは全て、一日でも早く奥様をお迎えに行きたいからだと思いますよ~」


ルナがニヤニヤ笑いながら言う。


「……本当?」


「ええ。この前、奥様に会いたいと言って貰えて閣下は本当に嬉しかったみたいですよ?そして今度はちゃんと本来の姿で奥様を抱きしめたいとお考えなんでしょうね~」


「え?それってどういう意味?」


「さぁ~?あ、そろそろ洗濯物を取り込まなくっちゃ~」


その言葉の真意を尋ねるも、ルナは惚けてはぐらかしながら部屋から出て行った。

と、思ったが、ルナは慌てた様子で部屋に引き返して来る。


「お、奥様っ!!」


「なあに?どうしたのそんなに血相を変えて。洗濯物がまだ乾いてなかった?」


「ち、違いますよ!洗濯物なんてどうでもいいんです」


「どうでもよくはないわ、せっかくクロエが洗ってくれたんだもの」


「それはそうですねって、今はそれどころじゃありませんよ!噂をすれば来られましたよ!まったく、地獄耳なんじゃないですかねっ?」


「来た?誰が?」


ユニカがきょとんとして尋ねると、部屋の入り口の方から久しぶりに耳にする声が聞こえた。


「誰が地獄耳だって?」


「「……!」」


ユニカにとって聴き慣れた、低く落ち着いた大好きな声。


その声の主がこのアパートの自室の扉の所に立っているのが俄には信じられず、ユニカは呆然として見つめた


それを他所にルナが頭をかきながら答える。


「いやですわ閣下ったら、言葉の綾ですよ~オホホホっ」


「まぁいい。とりあえず茶を頼む。城から直接来たから喉が渇いた。あ、お茶はクロエに淹れて貰ってくれよ」


「はぁい、わかってますよぅ」


ルナは頬を膨らませながら部屋を出て行った。


後には二人だけが残される。


いまだに呆然としているユニカに、突然現れたセドリックが声をかける。


「ユニカ」


「……セドリック様……?」


「他に誰がいるんだ?少し会わない内に俺の顔を忘れてしまった?」


ユニカはぶんぶんと首を横に振った。


そしてまたセドリックの顔を一心に見つめる。


顔を忘れるなんてとんでもない。


一瞬だって忘れた事などなかった。


彼と別れても平気なように、一人で生きて行けるように自立しようと思った。


結果一人では何も出来ず皆に支えて貰っての自称自立は叶った。


だけど、やっぱり、離れたくなんかない。


許されるなら、結婚式で神と皆の前で誓ったように一生添い遂げたい。


許されるなら、セドリックの側で……


ユニカの頬を涙が伝い落ちる。


セドリックが優しく微笑みながら両手を広げた。


「ユニカ、遅くなってごめん。約束通り迎えに来たよ」


「……離婚を言い渡しに来たのではなくて……?」


「とんでもない。例えユニカに自立したからもう離婚したいと言われても、俺は絶対に承諾しないぞ」


「今でもわたしだけ……?」


「今も昔も変わらずユニカだけだよ。俺の腕の中はユニカ限定だ」


「っ……セドリック様っ……!」


思わずユニカは踏み出していた。


変わらない言葉が聞けて、たまらずセドリックの胸に飛び込んでいた。


加減も考えず飛び込んだユニカをセドリックは軽々と受け止める。


そして力強く、でも優しく抱きしめてくれた。


その時何故かユニカはシシーの事を思い出したが、胸がいっぱいでそれどころではなかった。


「……ようやく、ようやく本当に取り戻せた……」


セドリックが呟くように言った。


それはユニカも同じ思いだった。


ようやく、ようやくこの腕の中に戻って来られた。

随分と長い時を越えて辿り着いたような気がする。


公爵邸を出て、セドリックと離れて暮らしたのはほんの数ヶ月の事だというのに、もう何年も前から今日という日の為に旅をしていたような気がした。


「……自立は諦めて、一生妻として側にいてくれる?」


直に耳に触れるセドリックの声に、

ユニカは大きく頷いた。


「はい……一生、お側に居させて下さい」


ユニカは顔を上げてセドリックを見つめた。


ずっとセドリックに伝えたかった事がある。


喜びを分かち合いたかった事がある。


夢の中ではそれが叶わなかった。


けれど今、それを越えてもう一度やり直すのだ。


――もう一度?


一瞬アレ?と思ったが、今はそれを考えている場合ではない。


きっと喜んでくれる。


これは予知夢で見たわけではないが確信できる。


ユニカは深く深呼吸して、セドリックに告げた。


「あのね、あのねセドリック様。じつはね………」




            終わり



これにて本編は完結です。


何の気無しに設定したGGLが予想外に皆さまに楽しんで頂けたというこのお話☆


私生活のバタバタ、そしてなんと例のアレに感染してしまうというイレギュラーな事が多々ありの異色の投稿となりましたが、おかげさまで何とか本編を書き終える事が出来ました。


これもひとえに読者様皆さまのおかげでございます。


次回からは番外編にて、本編で描ききれなかったエピソードを綴ってゆこうと思っております。


まずはアパートのその後と、ユニカの出産ですね。


それから本編ではあまり描けなかったセドリックとのイチャイチャ。


そしてGGL☆


残念ながらシシー先生と違い、ましゅろうにGGLを描ける能力がない為にお話としては書けませんが、とある読者様のアイデアであらすじだけはご紹介出来るなとヒラメキました。


番外編の方でシシー先生の各作品、もしくは新作のあらすじを書かせていただきますね。


やっぱりまずは代表作の『終の住処、グループホームの中心で愛を叫ぶ』でしょうか♪


あと数話、番外編でもお付き合い頂けると光栄です。


よろしくお願いします!



       キムラましゅろう


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 本編面白かったです。 また、番外編も楽しみにしています。 シシー先生の作品が待てず、おっさんず・・・in the skyで空港の中心で愛をさけんでいるところ見直してしまいました(^^♪ …
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ