後ろの席のツンツン幼馴染は、俺が「心を読む」ことができるなんて知らない~考えていること全てお見通しなので、ツンデレ幼馴染をからかうのが楽しすぎる~
「今日も眉間にシワを寄せてどうしたんだ、小鳥遊」
古典の授業を終え、くたびれた体をほぐそうと腰を曲げていると、後ろの席に座っている一人の少女と目があった。
小鳥遊夏目。彼女は俺の幼馴染であり、俺にとって女の子で唯一の友人だ。
「うるさいわね。あなたの身長が無駄に高いせいで黒板が見えないのよ!」
「ああ、それで席替え以降ずっとむっとしているのね」
桃色の髪には似つかわしくない性格をしていて、なんていうか、俗に言うツンデレ属性というやつだ。
切れ長の瞳に高い鼻梁。まあ、可愛いと言ったら可愛いので、そこらへんが少しもったいないなといつも思っている。
そんな俺だけれど、どうして彼女がツンデレだ! なんて断言できるのか。
誰もが疑問に思うはずなのだけれど、答えは簡単で俺は『人の心を読む』ことができるのだ。
理由は自分でも分からない。
ただ、昔から少し意識をすれば文字が空中に浮かび上がってくる。
例えるなら漫画によくある吹き出しに似ている。
なんなら今も小鳥遊の頭の横あたりに浮かび上がっている。
『悠斗くんの後ろ姿が気になって授業に集中できかった……!』
と、このように。
「ああ……そうか。ごめんな、黒板見えないなら俺から先生に訊いてみるよ。俺と席交換できないかって」
あからさまに落ち込んだ素振りを見せると、
「べ、別にそこまで大事にしなくていいから! 本当に面倒くさいわねあなた!」
とは言っているが、
『悠斗くんの姿が見えなくなるのは絶対に嫌だ! やっちゃったー……私……、どうにか誘導しないと!』
と、このように彼女は考えているらしい。
昔から彼女はそうなので、俺の中で彼女は見事ツンデレとみなされたわけだ。
もちろん、彼女には俺の持つ能力は言っていない。
異世界系でよくある変な脳力とは違って証明のしやすいものではあるが、俺は彼女に教えようとは思っていない。
だって、今の環境が面白いんだもの。
よくゲームで「今回のアプデで環境思い切り変わって別ゲーになったな」ってのがあると思う。
今の居心地のいい環境が変わってしまえば、俺も困るし彼女も困ってしまうだろう。
というか、小鳥遊の方が致命傷な気がするし。
「だから、今のままでいいから! それよりもほら、昼休みでしょ!」
「あれ、もしかして弁当作ってくれたのか?」
小鳥遊はリュックからお弁当袋を二個取り出して机の上に置いた。
別に嫌ではないのだが、ただただ珍しいなぁと思う。
まあ、もちろん理由は分かっているのだが。
「罰ゲームで陰キャの悠斗に一週間弁当を作ることになったのよ! いいから受け取りなさい!」
『最近、悠斗くんおにぎり一個で昼ごはん済ませてるから栄養面が心配なんだよなぁ。だからお弁当を無理やり渡しているんだけど、やっぱり違和感あるかな』
違和感ありまくりです。
ただ、もちろんツッコむわけにもいかないので普通に弁当箱を受け取る。
ツッコんだら小鳥遊の弁当が食べられなくなるかもしれないからな。
「場所は……屋上でいいよな」
「どこでもいいわよ!」
『立ち入り禁止の場所だから、悠斗くんと二人っきりになれる! やったー!』
そう思うと予想していたので、屋上を指定しました。
俺が立ち上がって歩きだすと、彼女も後ろから着いてくる。
それがさながら小動物のようで、少し可愛く思えてしまう。
時折振り返ってみると、ビクリと肩を震わせて、
「なによ!」
『どうしたの急に!? 私なにかしちゃったかな……』
と、あからさまに動揺するので面白い。 屋上に繋がる階段を上りきり、壊れた扉を無理やり押し開く。
「いい天気だ」
今日は雲ひとつない晴天だった。顔を掠める風が心地いい。
適当に場所を決めて、その場に座る。
小鳥遊は、一瞬悩みながらも俺の隣に座った。
壁にもたれかかっているわけでもないんだから、正面でもいいのにな。
「ほら、お弁当早く食べよ」
そう言いながら、そそくさとお箸を手渡してくれる。
「ありがとう」と受け取って、件の弁当箱に手を伸ばした。
正直、女の子の手料理を食べるのは初めてなので緊張している。
油断すれば手が震えて仕方がなくなるだろう。
褒めているわけではないが、小鳥遊は――俺の幼馴染は想像している以上に可愛い。
だから男である俺もドキドキしないわけがなく。
『わわわわわ……私のお弁当を悠斗くんが! 悠斗くんが食べてくれるんだ! どどどどどどどうしよう緊張する……お口に合うかな? 大丈夫かな?』
だが、彼女がこの様子なので少しだけ弛緩することができた。
弁当箱を開いてみると、ハンバーグだったりサラダだったり。
男の俺にとってはありがたいメニューが揃っていた。
それに緑もあるから健康的だ。
「うおっ、めっちゃ美味そうだな」
「そういうのはいいから、早く食べなさい!」
『うわああああああああああ! 美味しそうって言ってくれたぁぁぁぁぁぁ!』
まだ口にしていないのだが、何故か喜ばれた。
どんだけ裏ではデレデレなんだよ。
ともあれ、お腹は空いているのでありがたくお弁当をいただこうと思う。
まずは一番目立っているハンバーグから。
箸で食べやすい大きさに割って、口の中に入れる。
…………。
「美味しい。美味しいぞ!」
思わず興奮してしまって、叫んでしまう。
こう……心を読めてしまっている分冷静でいようとしているのだが、やはり女の子の手料理には興奮してしまう。
それも、めちゃくちゃ美味と来た。
一言でいうなら――最高である。
「うるさい! さっさと食べなさい!」
『キャーーーー!! お口にあったようで本当に良かったぁぁぁぁぁぁ!』
どうやら興奮しているのは俺だけじゃないらしい。
怒鳴った後も、ちらちらとこちらの顔を窺っている。
むすっとはしているが、やはり心が読めている分可愛らしく見えてしまう。
いや、事実彼女は容姿も可愛いのだけれど。
本当にいい幼馴染を持ったなぁと半ば感動していると、いつの間にかお弁当を食べ終えてしまっていた。
量は多かったように思えたのだが、あまりの美味しさに無我夢中で食べてしまっていたらしい。
「ごちそうさま。本当に美味しかったよ!」
弁当を片付けて、小鳥遊に手渡す。
すると、微かに彼女の口角が上がったように見えたがすぐに元に戻った。
「……お粗末さまでした」
ぼそりと呟きながら、受け取ったお弁当を袋に仕舞う。
さて、と俺は立ち上がってお尻を払う。
まだ昼休みの時間にも余裕があるのだが、屋上に長居して先生にバレたら後からが面倒だ。
なので早めに教室に帰ろうとした。
その瞬間、座ったままの彼女が手を握ってきた。
気を抜いていて、心を読んでいなかったものだから心臓が飛び跳ねそうになる。
「ど、どうしたんだ?」
尋ねてみると、少し緊張した面持ちで。
しかし意を決した様子で、
「これから一週間、わ、私のお弁当食べてみたいと思った……?」
想定外の行動だったので、すぐに意識を切り替えて小鳥遊の心を読んで見る。
『どうだろう、断られたりしないかな……』
内容から考えるに、ただ本当に気になっているだけのようだった。
もちろん答えは決まっていて、すぐに俺は声に出す。
「ああ、毎日食べたいくらいには好きだよ」
そう言った瞬間、彼女の顔がみるみるうちに真っ赤に染まっていった。
手は震えていて、顔は俯いてしまっている。
やばい、変なことでも言っちゃったか?
と、俺は俺で焦ってすぐに心を読むモードに切り替える。
『す、好きって言ってくれた……!』
「いや、別にそういう意味じゃ!」
慌てて訂正しようとするが、この訂正には意味がないことをすぐに気がつく。
彼女は呆けた顔で俺のことを見つめ、
「えっと……え?」
赤かった顔が更に真っ赤になっていく。
頬を触ってみたら火傷してしまうんじゃないかと思ってしまうほどには赤い。
やばい、ここで俺の脳力がバレてしまったら彼女を傷つけてしまうかもしれない。
それに面白くないじゃないか!
「あー……ともかく! 美味かった! ありがとな!」
「……う、うん。かかか、感謝しなさいよね!」
勢いよく立ち上がり、出口の方に走っていく。
その背中を見ながら、俺も早く行かねばと走ろうとした刹那。
小鳥遊は振り返って、
「明日も……頑張るから……」
と、ぼそっと呟いた。
やっぱり、ツンデレ幼馴染をからかうのが楽しすぎる。
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