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第三話

――かつての私には、男の子の幼馴染がいた。

 あの頃の私は、貴族教育にうんざりしていた。来る日も来る日も家庭教師と習い事ばかり。どこかの誰かと政略結婚する将来からは逃れようもなく、侯爵令嬢として相応しい振る舞いを見につけなさいと四六時中監視されていた。

 家柄を鼻にかけでもしなければやっていられない。

 それでも、窮屈だと思うことは止められなかった。


 そんな私の唯一の癒しが、彼――アルフォンス・トレイルだったのだ。

 気弱で優しくて、いつも自分より誰かを優先してしまう……そんな子だった。


 彼の家であるトレイル伯爵家と私のシャミーニ侯爵家は領地が隣同士だったこともあって仲が良く、一緒にダンスの練習をしたりするほどだった。

 子供だからね。身長の問題で、大人では練習相手にならなかったのだ。

 彼は昔からお人好しで、怒るところなんか見たことない。私がステップを間違えて足を踏んでしまった時も、

「次はちゃんとリードするから」

 なんて言ってくれるほどだった。

 その優しさに甘えてしまいたくなるのも、無理からぬことだと思う。


 ……つ、辛かったんだもん。いいでしょ、少しくらい。

 実際には少しくらいじゃすまなかったんだけど。そんなことだから悪役令嬢になるんだぞ、私!

 例えば、二人でこっそり屋敷を抜け出して裏山に入ったり。

 困り顔で微笑む彼を引っ張って、幼い私は我が物顔で練り歩いた。

 当時を思い返すと、よくもまぁ怒らなかったものだと感心する。普通だったらいい加減にしろと怒鳴り散らされても文句は言えない。

 私があの頃を耐え抜けたのは、彼がいたおかげだと言っても過言ではない。

 そのくらい、幼い私にとって彼の存在は大きかった。


 ……変な具合にワガママになってしまったことも否めないが。それは私のせいなので。

 裏山で見つけた白蛇を二人で飼ったりして。餌は何を食べるのかとか話し合って、蛇がリンゴを食べる神話があったからきっとそうだと思い込んだり。

 ネズミを食べるって知った時は泣き喚いて困らせたっけ……苦手だったから。

 幼い日の思い出には必ず彼がいる。ずっと一緒にいると、何の疑問もなくそう信じていた。


 別れはいつだって突然やってくる。

 何が理由かはわからない。トレイル伯爵家が、突然の領地転換を命ぜられたのだ。

 急な引越し。彼がいなくなるという現実に、私の心は追いつけなかった。

 別れの挨拶をしにきたアルフォンスとご両親に顔も見せず、部屋に引きこもった。

 最後に彼を見たのは、部屋の窓から。

 馬車の前で佇む彼の横顔を見つめていたら、こちらに気がついて振り向いた。

 今にも泣き出しそうな私に、彼はいつもみたいに微笑んだ。


 胸が苦しくて、息が出来ない。彼は、私と離れても平気なんだろうか。こんなワガママ娘の相手をしなくてせいせいするって思ってないだろうか。

 泣き顔を見せたくなくて、カーテンを閉じた。

 その日は、一日中部屋にこもって泣いた。

 彼との思い出が次から次に浮かんできて、体中の水が流れ出るんじゃないかってくらい涙が止まらなかった。


 分かっていた。多分、もう会えないって。

 領地転換なんて、よっぽどのことだ。現代風に言えば、左遷に近い。どんな理由があったとしても、私の両親はきっともうトレイル伯爵家と交流を持とうとしない。

 思い出なんか、全部なくなっちゃえばいいのに。

 涙と一緒に全て捨てようとした。


 翌日、裏山に入って彼と一緒に育てた白蛇を連れて屋敷に戻った。

 それからは親の言うことを聞いて、侯爵令嬢として相応しい振る舞いと教養を身につけた。

 そうすれば、白蛇――リリィを連れていても何も言われなかったから。


 数年が経って、彼との思い出も薄れて、婚約者が出来た。

 現実を受け入れて、新しい恋に向かおうとして――私は悪役令嬢になった。

 当時の異名は『白蛇姫』。

 蛇のように冷たい女として、婚約者の心を奪ったヒロインを追い詰めた。


 どう足掻いても取り返しのつかない、前世での話だ――



 花梨に何も聞かれないまま、五時間目と六時間目が過ぎて放課後になった。

 ありがたいんだけど、ちょっと怖い。聞かれてもなんて答えればいいかわからないけどね!

 もし、花梨が春史くんに気があるんだとしたら。これって抜け駆けになるんだろうか……あの子はそういうの気にしなさそうだけど。

 私は気にするんだよぉ! 特に花梨相手だと!!

 もやもやした思いを引きずっていると、

「ひーちゃん、行こ~」

「あぁ、うん」

 内心慌てまくりながら、表面上はなんとか普通に返事ができた。

 この状況でいきなり話しかけないでよ! びっくりするでしょ!?


 鞄に必要な分の教科書とノートを詰めて立ち上がる。何が嬉しいのか、花梨はにこにこと笑っていた。

 癒されるなぁ、もう!

「撮影場所変わったんだよね?」

「そう。峯野(みねの)さんの車で行くって」

 頷き返して、確認がてらスマホをいじる。朝から変更の連絡がきたっきりで、他には何も聞いていない。うん、大丈夫。

 峯野さんというのは、私達のマネージャーだ。未成年の読モ相手なのにだいぶ親切してくれる。遅くなったら必ず車で送ってくれるのはほんとありがたい。

 私はいいんだけどね。花梨は変な虫を引き寄せかねないから。


「事務所行って、そこから峯野さんの車」

「は~い。今日はどんな服着られるのかな~?」

 楽しそうに話す花梨を見ていると、肩から力が抜けていく。

 色々と考えすぎな気がする。前世の初恋の人に会えて舞い上がってたのかもしれない。

 間違いなく春史くんはアルフォンスだけど、前世は前世。今世で私とどういう関係になるかはまだ何も決まっていない。

 未来は無限大。転生万歳。


 花梨と連れ立って教室を出る前、ちらりと春史くんの方を盗み見る。

 相変わらず好奇心旺盛なクラスメイトに囲まれて、愛想の良い笑みを浮かべていた。

 あの時と違って、私の視線には気付いてくれなかった。


 いいんですけどね! あの時と違って明日も会えるし!


 もやもやした思いを引きずって、教室を後にした。



 自分の分の撮影が終わって、私はぼうっとカメラに撮られる花梨を眺めていた。

 モデルの仕事は嫌いじゃない。ただ、向いているかどうかで言えば、花梨の方が圧倒的に向いていると思う。

 思わず見惚れてしまう表情は、あの子だけの特権だ。


 ……お昼に見た春史くんの笑顔も、同じくらい魅力的だったなぁ。心が清らかな人だけが持つ力なのかもしれない。

 物思いに耽っていると、横から有名コーヒー店のカップが差し出された。


「お疲れ様です」

 人の良さそうな笑みを浮かべるこの人は……名前忘れた。

 何度か現場で一緒になったことがあるイケメンモデル。俳優もやってるらしい。ラルフでイケメンを見慣れている身としては、へーそーなんだ、くらいだけど。

「……お疲れ様です」

 私はこの人が苦手だ。理由は色々あるけど、一番は――


「今日も花梨ちゃんはリテイク多いねぇ」

 ――花梨を狙っている節があるからだ。


 せいぜい知り合いってぐらいなのに名前で呼ぶな! 馴れ馴れしいんだよ!


「その分、仕上がりで一番褒められるのもあの子ですから」

 本当はこんなヤツに敬語なんて使いたくないんだけど。そこは前世で培ったブ厚い面の皮が役に立ってる。

「確かに。才能って怖いね」

 苦笑しているのが雰囲気で分かるが、絶対にそっちは見てやらない。

 こいつの絡み方は面倒で、相手を下げてから持ち上げる。狙ってないってポーズかもしれないが、こちとら貴族社会で腹の探りあいを嫌になるほど繰り返した身。

 その程度のカモフラージュなんて、何の意味も成さない。


「いいことじゃないですか」

「俺は昼子ちゃんが一番才能あるって思ってるけど」

 将を射んと欲すればまず馬を射よ。

 ことわざの通りに、気安い笑みを向けてくる。今まで何度もあったことだ。

 残念ながら、私は簡単に射られる馬ではないぞ。


「何の冗談ですか?」

「本気だって。リテイクほとんど出さないでしょ? 求められてるものをしっかり出せてるってことだよ」

「無難なだけですよ」

「俺もそれなりに知り合いいるけど、昼子ちゃんの評判いいよ? 『うちでも使いたい』ってよく言われる」

「花梨の次くらいに?」

 私の返しに、苦しそうに笑ってごまかす。魂胆見えてるっつーの!

「あー、ところで、俺はいつまでカップを二つ持ってればいいのかな?」

 話の流れを変えて、私のほうに向けたカップを軽く揺らす。

「スタッフさんに差し上げたらどうですか? 喜ばれると思いますよ」

 薄く笑いかけると、苦虫を噛み潰したような顔をした。せっかくのイケメンが台無しだ。


「ひーちゃん、お疲れさま~」

「ん、花梨もお疲れ様」

 撮影の終わった花梨を迎えている間に、彼はどこかに消えていた。

 そうして花梨と直接話さない根性の無さも、苦手な理由の一つだ。

「お邪魔しちゃった?」

「いいよ、気にしなくて」

 イケメンモデルが消えた方を目線で追う花梨に首を振る。

 ……こういうことをするから、花梨に彼氏ができないんだろうなぁ。かといって変な虫をくっつけるわけもいかないし、悩ましい。


 二人して楽屋に戻って軽くメイクを落として着替えを済ませる。峯野さんが車を持ってくるまで、少し待機。

 花梨と二人きりの空間で、このタイミングを待っていたように話しかけられた。

「ねぇ、ひーちゃん」

「なに?」

 制服姿の花梨が、両手をひざに揃えてまっすぐに私を見る。


「暮石くんのこと、どう思ってる?」


 冗談で流せるような雰囲気じゃなかった。

 心臓が破裂しそうだ。なんでそんなことを聞くのか。やっぱり、

 やっぱり、花梨は春史くんのことが気になっているんだろうか。

 胸が痛い。ズキズキする。どう、答えればいいんだろうか。


「別に。なんとも思ってないよ」


 ウソじゃない。

 アルフォンスは初恋の人だけど、春史くんとの関係はまだ未定だ。

 それに――


 ――花梨に気を使わせたくない。


 もし、花梨が春史くんに気があるとして。ここで私が気にしているといえば、彼女は身を引いてしまうだろう。

 そういう子だ。前世からよく知ってる。

 今世では彼女の恋の邪魔はしたくなかった。

 視線をそらす私をしばらくじっと見つめ、

「そっか」

 と愛しい幼馴染は頷いた。


 会話が途切れ、沈黙が満ちる。何か話さなきゃ、とは思うんだけど言葉が出てこない。

 花梨と一緒なのに息苦しいのなんて、中学二年以来だ。

 何もできずにいる私を救ってくれたのは、峯野さんのノックの音だった。



「ただいまー」

 普段の倍くらいは疲れて玄関を開けると、弟がポーズを取っていた。

「フッ、遅かったな『白蛇姫』。今日の“仮面舞踏会”は盛況だったと見える」

 謎のポーズで格好をつけているのは、恥ずかしながら実の弟だ。中学二年生。

 黙っていればV系っぽく見える自慢の弟だが、ご覧の通り残念な中身をしている。

 ……私のせいも、半分くらいあるけど。


「朝に撮影場所が変わって、大きいとこで撮ったからね」

「“夜会”の奴らには気付かれなかったろうな?」

「峯野さんに送ってもらったからストーカーも補導も心配なし」

「フッ、さすが我が姉。全ては“預言書”通りということか……」

 慣れればこうして普通に会話もできる。……用語の解説、いる?


 お母さんにただいまを言って、部屋に入って鞄を置いて着替える。お父さんはまだ帰ってきていない。

 一応言っておこうと思って、リビングでくつろぐ弟に声をかけた。

「夕太、いい加減『白蛇姫』って言うのやめて」

 白蛇姫。前世での私の異名。

 それを何故弟が知っているかというと――


「ならば真名で呼んだ方がいいかな? 我が姉ヒルダ・シャミーニ」

 ――私がうっかり口走ったからだ。


 三年前、中学二年の頃。いきなり前世の記憶がよみがえって、色々とやらかしてしまった。

 そのうちの一つが、弟にそれらを知られてしまったことだ。


「それに、オレは夕太じゃない。ユーリ・シャミーニ。氷を司る闇の侯爵家の次期当主だ」

「……こないだまで枕をもって私のベッドに入ってきたりして可愛かったのになぁ」

「姉ちゃん! それ絶対誰にも言うなよ!?」

 血相を変えて叫ぶ弟に、姉の余裕というものを見せ付ける。

 軽く頭を撫でてやると、嫌そうに離れられた。

 中学二年生。反抗期にもなれば中二病にもなる、多感なお年頃である。


 ……私のも、そういうことにしてもらえませんかねぇ!?


 帰ってきたお父さんにおかえりを言って、夕飯を食べてお風呂に入ってストレッチしてお手入れをして髪を乾かす。

 ベッドに寝転べば、思ったより自分が疲れ果てていることに気付く。

 今日はほんと色々あった。アルフォンス――春史くんに振り回されっぱなしだ。

 いや、違うか。振り回してるのは、私の前世の記憶だ。

 なんで思い出しちゃったんだか。三年ぶりにそんなことを思う。忘れていたほうが、絶対に今世を気楽に生きられた。

 前世。私を縛り付ける、罪の記憶。


 でも、それがあったから彼と再会できた。


 春史くんには迷惑かもしれないけど。やっぱり、嬉しい。

 明日も彼に会える。そう思うだけで、胸の奥がぽかぽか温かくなる。

 前世の記憶があって嬉しいなんて、人生で初めてだ。

 どうしたら彼と自然に話せるか考えている内に、私の意識は暗闇に落ちていた。




 翌朝。いつも通り花梨を迎えに行って、一緒に登校する。

 夜更かしをしなかった幼馴染と教室に入り、適当に挨拶を、


 私達を見て、一瞬クラス中がざわついた。


 ……なに? なにもしてないんだけど?


 思わず足を止めて困惑していると、

「あの、白峰さん。ちょっといい?」

「……なに?」

 話しかけてきたのは、お団子頭のクラスメイトで……確か名前は、榎本さん。

 クラスでも社交的なグループに所属している、いわゆるリア充の一人だ。

 その彼女が一大決心でもするように口を引き結んで聞いてきた。


「昨日、暮石くんを保健室に連れ込んだってほんと?」


 ……どう膨らんだらそういう話になるんだ。

 いや、間違ってるとは言い切れないんだけど! 行動だけ見ればそうだけど! ニュアンスまで含めたら違うから!


 なんとか頭の中で言葉を組み立てて、誤解のないよう伝える。

「怪我してたから。手当てしただけ」

 よし、簡潔かつ正確に言えた。

 隙の無い返事をしたにもかかわらず、周囲はますますどよめいていく。


「おい、マジかよ!?」

「白峰さんが男子の手当て……!?」

「ウソだろ、『白蛇姫』が!?」

「小町以外にかける情があったのか……」

「よかった、私てっきり……」

「暮石に口止めしてたわけじゃないんだな」


 聞こえてんぞ! どんな評判なんだ、私は!! ……自業自得の気もするけど!

 周囲を一睨みすると、モーゼの十戒みたいに人垣が割れる。


 その先には、椅子に座って愛想の良い笑みを浮かべている春史くんがいた。

 周囲の視線が突き刺さる。微妙に何かを期待しているような感じ。

 逃げ出すこともできずに、私は春史くんの前に立った。


「……おはよう」

「おはようございます」


 彼が笑いかけてくれる。皆に向けているものと少し違って見えるのは……私の目の錯覚だ、うん。

 裏表のない笑顔に、胸がきゅっと締め付けられる。前世の頃と変わらない、柔らかな表情。

 私のどんなワガママも許してくれた、優しすぎる笑み。


「怪我、大丈夫?」

 声が上ずらないように短くしか喋れない。

「はい、おかげさまで」

 そう言って右手を見せてくれる。真新しいガーゼが貼ってあった。

 ……そりゃ、一日経てば換えるよね。残念とか思ってないんで!

「そう、良かった」


「あの、白峰さん」

 長い前髪の向こうから春史くんがじっと見つめてくる。

 なに!? 何事!? ていうか、花梨といいなんで人の目をじっと見るの!! 緊張するでしょうが!!

 微妙に視線をずらしつつ、春史くんの言葉を待つ。


「昨日はありがとうございました。お礼を言うのが遅れてすみません」

 深く頭を下げられた。

 いいから! そんな大したことしてないから! 周囲の視線のことも考えて!!

「別に。大したことじゃないから」

 ぶっきらぼうにしか言えない私に、顔を上げた春史くんが微笑んだ。


 昨日のお昼に見たのと同じ、大切なものを慈しむような笑顔だった。


「優しいんですね」

「……普通よ」

 顔が熱くなる。目をあわせられない。

 優しいのはあんたでしょ、と言ってやりたい気持ちをぐっと堪える。たかが手当てをしたくらいで、大げさなのだ。


 さっきの笑顔が目に焼きついている。初めて春史くんから私に向けられたもの。

 横目で彼を見れば、にこにこと嬉しそうに私を見ていた。

 あっち向け!! いつまで見てんの!! マトモに顔を合わせられないでしょうが!!


 鼓動の音がうるさい。あぁもう、朝から最悪だ。

 今日一日ずっと、何をしてても彼の笑顔がちらついてしまう。絶対の予言だ。夕太の中二病が移ったかもしれない。

 混乱してマトモに考えられない頭で、ただ立ち尽くしていた。


 止まった時間を動かしたのは、最愛の幼馴染だった。

「よしっ! 暮石くん、連絡先交換しよ!」

 何がよしなのか分からない。

 花梨はやる気満々の表情で取り出したスマホを春史くんに突きつける。


 なに? なんなの? やっぱりそうなの、花梨!?


 私が動けずに戸惑っていると、

「ほら、ひーちゃんも!」

 珍しく押し強く花梨が催促してきた。

 まぁ、実はこの子は相当押しが強いんだけど。こうと決めたらてこでも動かないしやり遂げる。私とは正反対だ。


「あぁ、うん」

 ほぼ反射的にスマホを取り出す。

 なんだかよく分からない流れで春史くんと連絡先を交換してしまった。しかも、何故か私と花梨とラルフのグループチャットにも招待されてる。

 招待したのは花梨で、さっそくラルフに説明しだした。

 ふと目線を上げれば、春史くんが困り顔で微笑みながらスマホを見ていた。


 魂ってのがもしあるなら、それは生まれ変わっても同じなのかもしれない。

 強引な花梨に振り回される春史くんの姿は、在りし日の私にひきずられるアルフォンスとよく似ていた。


 ――って! それじゃダメじゃん!?


 心の中で突っ込んでみるも、楽しそうにフリック操作する花梨に何も言えず。

 周囲の奇異と好機の視線にさらされながら、ただただ流れていくチャットを見つめていた。


 神様!! 今世こそ幸せになりたいんですけど!?

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