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第四章


 

  絢爛豪華

 夢の世界のような輝きを放つ夜会

 

 独特の華やかな熱に浮かされ、踊り笑う

 心の奥底に潜む醜い存在を隠しながら

 

 きらびやかな空間を背にした少年が一人

 喧騒を背にバルコニーの手すりの立っていた

 

 夜の濃紺に当たりは染められ、

 煌めく星々、目映い月明かりが差し込む

 

 優雅な演奏のメロディーと華やか喧騒を背にタキシードに帝国の紋章が施されたローブを肩に引っ掛けた少年は、グラスを揺らしながら浮わついた熱を夜風で冷ます。

 


 

 

 『こんばんわ』

 

 鼓膜がビリっと電気が走ったみたいに震える。ぼんやりとしていた思考は、シャキッと覚醒していき顔を上げると花のような香りが鼻孔を擽る。

 

 『!』

 その人物を視界に入った瞬間、反射的に体が動いて頭を下げた。

 

 (な、なんだ……体が勝手に)

 一瞬だった目の前の人物が自分よりも年上の少年で高品質のものだけで仕立てられた正装が彼がただならぬ存在だと示している。

 プラチナブロンドの艶やかな髪を整髪剤で整えられている。

 まるで造り物のような美しい(かんばせ)。彼の妖艶な雰囲気は、まるで人ではない“何か”を思わせるような畏怖を感じる。

 

 

 『……ああ、すまない。顔をあげよ』

 まるでその声は脳にまで響いてくる。

 そう言われ、恐る恐る顔を上げると爽やかな笑顔が見えた。 

 

 優しく細められる真紅の瞳は、まるで我が子を見つめるような暖かな微笑み。

 

 『ニコラスがなかなか連れて来ないから、私、自ら出向いてやったぞ。ほんとにマーティスといいあの双子は困った者だな』

 そう言ってため息をつく少年が言った二人の名前に目を丸くする。

 年は十代後半だろうか。

 私よりも背の高い彼は見下ろしながら話しかけてくる。

 

 

 『……なぜ、私の父を?』

 『なぜと言われてもな……まだ名乗って無かったな』

 困ったように肩を竦めた。  

 

  『初めまして。私の名はゼノ、だ』

 

 

 

 

 

 

 第四章

 

 

 

 

 

 国の中心に、白き城が聳え立つ。

 それは、凛とした女性のように気品を兼ね備えた美しい城だ。

 

 正門ではなく西門。正門とは違うといえど豪華で重厚な鉄の城門が開く。

 

 門番に通され中へ。

 

 白いタイルに灼熱の日差しに照らされてる。

 三つの影が伸びる。

 ラファエルと弟子であるディルクとレオナルド。顔をローブですっぽりと覆い隠し、師匠の後に続く。 

 

 「ふーローブ、暑いよー……」

 あのだらしなく身分なんて気にしない師匠でも登城の際は、王から賜ったローブを引っかけ、その下は正装をしている。

 立て襟のホックを緩めようとしていたので弟子二人がかりで止めた。

 (師匠……)


 なんとも涼しげな水音がする。美しい彫刻が施された噴水を通りすぎ、目の前に見える重厚な扉。

 

 執事が出迎えていて、視線が会うと頭を下げた。

 

 「ようこそ、いらっしゃいました。賢者様」

 

 「あ、おはようございます」

 そう言ってにへら顔で手を振る師匠。二人の弟子は、恥ずかしくていつもより深めに頭を下げる。

 執事の方は、気にしていない様子で中へ招き入れてくれた。

 

 

 扉が開かれると、すぐに視界に入る仁王立ちの少女。不機嫌な表情で師匠のラファエルを見る。少女は、レオナルド達と変わらない背丈のせいか迫力は半減している。

 幼くとも人形のように整った可憐な美貌。

 艶やかなプラチナブロンドの髪を後ろで纏めてその頭に宝石でできた花の冠が乗せてある。

 

 大きな可愛い真紅の瞳は、威厳に満ち溢れていた。彼女の白い肌に映える真っ赤なドレスが本当によく似合ってる。

 この国には王子と姫がいると聞いていたが、彼女の見た目からも分かる。この国のお姫様なのだろう。

 (それにしても、昨日といい仁王立ちの女の子に出迎えられることが多いな……)

 

 にやり、と。

 シニカルに嗤うその姿が幼くて可愛い顔のせいでイマイチ迫力に欠ける。

 「久しいのう、役立たず。貴様が妾の城へ踏み入れるとは……あやつは何を考えておるのか」

 

 誰に対しても態度を変えないあの師匠が珍しく“あの少女には”恭しく頭を下げて、紳士の礼をした。

 「お久しゅうございます。ミラ様」

 頭を下げたラファエルに返事を返すこともなく不機嫌そうにフンと鼻を鳴らした。

 

 

 そんな事も気にする様子もなくラファエルは言葉を続ける。

 「お戯れが過ぎますよ。ミラ様、その姿は」

 身分なんて気にしない師匠だが、彼女には言葉遣いに気を付けながらも少女を嗜めようとする。

 

 「貴様ごときが妾のすることにいちいち口を挟むな……」

 愛らしい目は、怒りをにじませて、その目を見開く。一瞬で空気が凍りついた。

 

 少女の体は、重力なんて感じさせない軽やかさでふわりと浮上する。あたかも、そこに椅子が有るかのように腰掛けて赤い扇を広げて口許を隠した。

 「妾は、ローズの事を許しておらぬからな!……あの“灰かぶり”もそうじゃ。あの聖霊のお陰で生き延びられてる事を分かっておらぬ」

 違う、彼女は姫ではない。この方は精霊だ。

 感覚的に目の前の存在を理解する。

 

 「……」

 少女は、師匠の後ろで頭を下げていた小さな二人に視線を向ける。海底を泳ぐ人魚のようにレオナルドの方へ近づくと目を丸くする。

 

 「貴様……ニコラスの……」

 ピンポイントで言い当てられドキンと心臓が跳ねる。だらだらと背中に冷や汗が流れていくのが分かる。

 

 「妾の手を離れた子、レオナルド・リアム・ロックハート。本当に聖龍の加護がない……」

 悲しそうに憐れむような弱々しい声。


 「……っ」

 「聖王!」

 低い男の声が響く。

 

 プラチナブロンドを揺らして振り返ると、溜め息を吐いてレオナルドから離れる。

 

 純白にゴールドがあしらわれた騎士服姿の男は焦ったような顔で立っていた。

 腰に携えた真っ白な美しい剣が輝く。

 レオナルドと同じ白銀の髪を後ろへ撫で付けて、クールな雰囲気に見合うつり目に気品漂う整った顔をしていた。

 (伯父上……)

 レオナルドの父であるニコラスの双子の兄。

 マーティス・グリンデルバルド。双子と言えど、レオナルド父、ニコラスとは似ていない。伯父の方が、外見も中身もかっこいい。

 

 あの腹黒の実父とは、全く違う。

 

 

 「マーティス~」

 少女は別人のように猫なで声で名を呼び、近づいてぎゅっと後ろから抱きつく。マーティスは鬱陶しそうにあからさまに顔を歪める。

 すぐに切り替え、僅かに微笑みながら師匠の方を向く。

 


 「久しぶりだな」

 白い手袋に隠れた右手を差し出す。

 「うん、久しぶり。マーティーくん」

 師匠は、にへら顔で笑いながら差し出された右手を掴み握手をする。

 「弟子の二人もよく来てくれた。ここからは私が案内する」

 そう言ってから、側にいた執事に目配せした。執事は静かに頭を下げる。

 マーティスにしがみついた少女に気にも止めないで歩きだす。細いががっちりした男の首に引っ掛かる少女がプラプラと揺れて、シュールな絵がとても気になる。

 

 「王の謁見はいい、公務が忙しくてな。またの機会にしてほしい。

 来てすぐに申し訳ないが先ずは王子に挨拶してもらう」

 

 「うん。忙しいのは分かってるんだけど、ちょっと残念だなぁ」

 「そういうならちょくちょく顔を出せばいいものを」

 「えー外は暑いんだもーん」

 級友と言えど、このような場で砕けた口調なのは師匠の良いところだと思いたいが弟子の身では注意されるのではないかとヒヤヒヤしている。 

   

 「フッ……相変わらずだな」

 

 

 

 それから、通されたの謁見の間ではなく応接室だった。さすがと言うべきか応接室もきらびやかで豪華だ。それだけでより緊張してしまう。謁見の間だったらどうなるのだろう。心底、ここに案内すると決めた方にお礼を言いたいくらいだ、と暢気に考えながらマーティスとラファエルの後を着いていった。

 

 聖王と呼ばれたあの少女は、扉の前で黒い騎士服の男性がやって来て首根っこ掴んで連れていかれた。師匠はウィル君と呼んでいた。年代的に二十代後半。レオナルドの父、ニコラスや伯父のマーティスと年が近いように感じる。マーティスやラファエルはウィル君にし親しげで砕けた口調だった。

 (師匠は友人の前だとこんな顔をするんだ……)

 

 

 伯父のマーティスに言われて師匠は長椅子の真ん中に座る。後ろで控えようと思ったが、すぐに声をかけられた。

 「レオナルド、ディルク殿下もお掛けください」

 そう言われ、返事をして言われるがまま席を座る。思った通りもふかふかで長時間座っても疲れなさそうだ。

 

 師匠は笑顔で「早くお座り」と言いたげな顔で両サイドの座面をとんとんと叩く。

 一礼し「失礼します」と断りを入れてから席につく。

  

 壁際に一人、廊下側のドアの近くに二人、純白の制服姿の騎士が控えている。

 少しすると玄関で出迎えてくれた執事がお茶を運んでくる。

 

 「それにしても、ラファエルが仕事を引き受けるなんて珍しいな」

 マーティスはそう言うと、運ばれた紅茶が入った白いカップを手に乗る。そのカップは、白い百合の花が描かれていた。美しい所作でそれを飲む。

 

 改めて、マーティスを見る。

 白銀の髪と同じ色の眉毛と睫毛。

 赤い瞳は、レオナルドの父ニコラスより鮮やかで宝石のような色。

 短いストレートの髪を後へ撫で付け、キリッとしたつり目、小さいが尖った美しい鼻、色素の薄い唇。

 どのパーツも、父とは違う。

 双子なのに似ていない。

 美しい彼の目の下はクマが出来ていて、顔色が悪い。

 この繰り返しの中で、五歳の夏に伯父の屋敷に遊びに行く事があったその時、伯父はこんな顔をしていたのは九十八回だった、か。


 

 (伯父上、お疲れなのか……)

 

 ニコラスが言っていたことを思い出す。

 繰り返しの過去で何度も起こった。

一緒に伯父の屋敷へ行ったのだ。

久しぶりにみた伯父は少し疲れているようだった。


なので、少し挨拶をして早々にロックハート家へ戻った。


 予定外のとんぼ返りで、家の者は慌ただしかった。

ニコラスが外でお茶が飲みたいと言って中庭にでたんだっけ。


 よく晴れた日で、東屋でテーブルでお茶とお菓子が置かれていた。


草花の緑が日の光で鮮やかで、喉かだった。

 親子水入らず、レオナルドが好物のモンブランに夢中になっていた。




 ニコラスは、ぼんやりとよく咲いた向日葵を眩しそうに眺めていた。

 ただ、その空間には風の音とレオナルドがモンブランを食べているときに出る食器の僅かな音だけが聞こえる。

 

 ニコラスは、ポツリとぼやいた。

本人も声が漏れている事を気づいてないだろう。


 『片割れ、それでは繋ぎ止められない』

 風の音に掻き消されそうな小さな声。

 

 ふと顔を上げるとその目は悲しそうな憐れむようなそんな目。

 

 そのあと、従妹は行方不明になった。

 

 

 

 伯父はその後、亡くなった。

 その原因を誰も教えてくれなかった。

 ひっそりと身内だけで葬儀が行われた。

 

 

 伯父とこうして逢えるのも片手で数えられる程しかない。皆は、口々に従妹が殺したと言っていた。それは祖父、伯父の家族、伯父の兄も、ニコラスを覗いて。

 

 当然、行方不明の従妹の姿はない。

 

 

 祖父は一人。皆から離れて廊下で煙草を呑んでいた。窓を開けて、外を見ていた。

 煙管を吹かし、空を眺めていた。

 『ああ……運命には逆らえなかった……』

 

 がっしりとした筋肉のついた鋼のような肉体を持つ強さの象徴のような祖父の姿は小さく弱々しく見えた。

 

 

 ふいにガチャリと扉が開かれる。

 その音で現実へ引き戻される。

 

 ラファエルもマーティス、ディルクも立ち上がっていた。

 慌てて立ち上がって、扉の方へ視線をを向ける。和やかだった部屋の空気は少しピリッと張りつめる。

 

 ニッと口角が上がって、笑っている。

 

 凛として、十代の少年は幼さに似合わぬ威厳があった。

 「待たせて、すまない」

 

 耳障りのいい声。心地いい、すっと耳へ滑り込んでストンと腹へ落ちていく、そんな声。

 そして、その次の声を聞きたくて、鼓膜を研ぎ澄ませている。

 

   

 スタスタと歩いていき、奥の一人掛けの椅子に座る。少年の後にラファエル達も席につく。

 艶やかなプラチナブロンドの髪は窓から漏れる日光で輝いて彼を神々しく魅せる。

 作り物のような美貌は、相変わらず。手すりに両手を置いてまるで、その椅子が玉座のようにみえた。

 

 「いえ、そんなに待ってませんよ」

 「そうか、ならいい……呼び出しに答えてくれて感謝する。ラファエル」

 「殿下のお願いですからね。飛んで参りますよ」

 おちゃらけたように言うラファエルにフッと笑う。その笑顔は穏やかな顔だった。

 「……ディルク殿下、貴方にも付き合わせてしまって申し訳ない。本来ならそれ相応のおもてなしをしなければならないが、今回は貴方には窮屈な思いをさせてしまうだろう」

 

 「私も立場上、目立つことは出来ないので、その方が助かります」

 「それでも、申し訳ない。貴方が快適に過ごせるよう出来る限りのことはさせて頂くつもりだ。何かあれば遠慮なく仰ってください」

 

 「ありがとうございます」

 

 「……申し遅れた。私はゼノ・ディローレンティスだ」

 その名前を聞いて、どくんと心臓が跳ねる。

 頭の中にディルヴィーユ帝国の城で行われたパーティーを思い浮かべた。確か、あの時は国家魔術師の称号を賜ったばかりの頃か。

 

 今よりも、しっかりと身なりを整えられた少年を思い浮かべた。

 (只者ではないと思ったが、まさかあの方は……この国の王子だったのか。なるほど、なら、父の事を知っててもおかしくな)

 

 レオナルドの白銀の髪は、一族特有の色で珍しい。それは、この国のみならず他国にも知られている事だ。

 

 ディルクは、フードを外し立ち上がる。

 「ゼノ王子殿下、お初にお目にかかります。私、ディルク・デルヴィーユと申します」

 

 

 「うむ、ディルク殿下。よろしく。殿下のお噂はこの地にも届いています。ですか、今回はいつもと違うようですね」

 

 

 すると、ディルクの肩の辺りがグニャリと蜃気楼のように歪み、オレンジ色の猫が姿を現す。猫らしくないニヤリと不敵な笑みを浮かべていた。ビクッとディルクの両肩が跳ねて、目を丸くして肩の猫ーー魔神グリフォンを見つめた。

 

 「王、お久しゅうございます。まさか人に転生しておられるとは……ですが」

 

 グリフォンの瞳はきらりと輝き、懐かしそうに目を細める。

 

 「そのお力、そのお姿……あの頃より遜色なく」

 

 「そうだね、まぁ……人としては、まだ子供故、まだあの頃の力は完全には戻っておらぬ」

 

 「王がご健在で何より」

 

 (王……?)

 

 ゼノ殿下は、ちらりとこちらを向くとまるで我が子でも見るように此方を見つめてレオナルドに声をかけた。

 「……ああ、魔王の事だ。私はこの国が出来る前は昔、魔王だったのでな」

 

 「え?」

 しっかりと彼の真紅の目が合い、頭の中のモノローグに返事をされたことに驚いた。

 だが、何故だろう。不快感がない。


 

 「失礼、私は耳が良くてな。聞こえてしまうのだ。……確かあの子が虚ろだったから、九十八回目の繰り返しだったか……ディルヴィーユ帝国の夜会に赴いたときに会ったな」

 

 「………は、い。………覚えて、おられるのですか?」

 そう言って、レオナルドもフードを外す。

 「あぁ、私は普通の人ではないからな。精神体は魔王の頃を継承しておる故、普通ではない。寧ろ、レオナルドのタイプの方が珍しい」

 

 「左様で御座いますか……」

 

 「……まあ、僕の加護があるらね。久しぶり、魔王」

 真後ろから聞き慣れた声が耳元で聞こえる。振り返ると間近にアイテールの顔があった。背凭れの縁に肘をついてゼノ殿下を見つめる。

 

 ゼノ殿下は、懐かしそうに目を細める。

 

 「ああ、久しぶり。ユラが私のところ来た以来か……アイテール殿」

 

 「……それにしても、僕達……貴方の体たらくに怒ってるんだ」

 「……」

 「最強の魔王だった貴方が、人間にしてやられるし……何より貴方の妹なんて酷い……お陰であの子は人の体に戻れなくなった。……それに比べてあの子が選んだ後継は優秀だよ」

 

 「こちらの落ち度だ。弁解のしょうがないな……そうだな、私も彼女に助けられた」


 「あと、人間達(お前達)は勘違いしてるかもしれないが、二人も、ローズ達も精霊(私達)の為に存在してるし、あげないよ。」

 

 「ゆめゆめ、()()()()()()()()()()()()()」 

 アイテールは、じっとマーティスの方をじっと見つめる。まるで、その視線は責めるような攻撃的な目。同時に「欲しければ、護ってあげなよ」と挑発してるようにも見える。

 

 マーティスはぴくりと肩を揺らし、目を丸くした。すぐに怒ったように眉間にシワを寄せる。

 

 胸焼けみたいにムカムカする。

 『まぁ、お前には出来ないだろうね』

 頭の奥で声が響く。

 キッとアイテールを睨み付けると此方に気付いて優しく微笑む。

 

  

 「私共の不甲斐なさで貴方がお怒りになられるのも重々承知しております……ですが、」

 

 「()()()()()()()()()()()()()

 ラファエルには珍しく強い、口調。


 アイテールは、ホッとしたように僅かに口元が緩むと瞼を一度閉じた。開いたその目は、悲しそうな疲れたような目。

 「フッ……そうだ。だが、それを分かってない者がいる……私達はあの子を護る義務がある。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。……もう、人の手に余る事態に至ってしまった」

 

 「……我々の王は、僕達に人との契約を許可した。月の王は、臨戦態勢に入るよう我々に命を下した。……聖霊クラスの者達も何れ人の世界に下りてくるだろう。我々は人を利用してでも、こんな事は早々に終わらせなければならない」

 

 「……そうだね。私も嘗められてばかりでは示しがつかない。サクッと父上には玉座を下りてもらうことにしょうかな~」

 ふざけたようにゼノ殿下が言うとマーティス頭を抱えていた。

 

 不穏な会話についていけず、ちらりとアイテールを見る。

 (臨戦態勢……俺は弟子のことで手一杯なのに誰かも分からない怪物とやらと戦わせるつもりなのか……?)

 

 今度は此方を見ようとしない。

 

 (そもそも、大聖霊が私と契約するなんて普通ではないんだ……)

 

 

 勝手に相棒のように思っていたいたが、アイテールには目的があった。

 

 (アイテールは人嫌いだと、言っていただろ)

 

 自分が選ばれたのは理由があるに決まってるだろう。だが、契約と言うものを交わした覚えがない。

 

 何か置いてけぼりにされたような

 

 

 もやもやとネガティブな言葉が次から次と沸いてくる。

 

 (忘れよう……)

 

 

 

 

 

 それから、ゼノ殿下は話を本題に戻した。

 「名目上は、私の家庭教師としてだが……護衛として、ずっとではないが……私の傍にいてもらいたい。それから、ラファエルには不届き者を見つけてもらうと有難い。私達には警戒して本性を出さぬからな。

 給金以外にも1人に付き報酬を出そう」

 

 「ご要望にお答えできるかわかりませんが 、ご助力致します」

 

 「ああ、頼む。ディルク殿下とレオナルドには窮屈な思いをさせてしまうかも知れぬが、協力してほしい」

 

 「「……承知いたしました」」

 ディルクとレオナルドは戸惑いながらも返事をした。師であるラファエルについて来たからには何かをさせられる覚悟をしていた。

 

 ゼノ殿下のようなレオナルドよりも能力的にも強い人の護衛なんて不思議に思っていたが良く見ると、ゼノ殿下の詰め襟の隙間から金属製のチョーカーをしているのが見えた。

 

 それは、どうみても()()()()()()

 

 この国の人間は魔力回路は強く、暴走する事は滅多にない。

 現にレオナルドも暴走したことがない。

 

 

 王子がこんな者を付けさせられてる事に得体の知れない恐怖を感じた。

 

 

 

 何度も言うが、この国の子供は魔力は高いが暴走することは本当に稀だ。半世紀、そのような事例が起こってない。

 魔力が暴走するのは、四歳から六歳くらいまでが通例。王子はもう十二、三歳くらいになる。

 

 

 この国の人間は、枷の存在すら知らない者が、多い。それくらい珍しい。

 

 それから、もう一つ―――枷を付けられるのは罪人などの危険人物に、だ。

 

 

 前世は魔王だとしても、ゼノ殿下は理性的で何よりマーティスやラファエルに信頼されていると思う。

  どうみても、殿下が危険人物には見えない。

 

 自国の王子に、このような扱いするものなのだろうか。ゆくゆくは彼が王になるかも知れないのに。

 

 この扱いは、王族に対して無礼では無いのではないか。

 

 

 

 ふと、嫌な考えが顔をだす。

 (まさか、王が?……あり得ない自分の息子に?)

 

 

 「今日は疲れたであろう。部屋に案内させるから、ゆっくり休んでくれ」

 「ありがとうございます♪」

 ラファエルはご機嫌な声で返事をする。

 笑顔で感謝の言葉を口にしたが、レオナルドは内心もやもやと嫌な気持ちが湧いてくる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 案内された部屋の窓際の椅子に腰掛けて外を眺めていてもこの気持ちは晴れてくれない。



 

 

 

 

ここまで、読んで頂いてありがとうございます。

良ければ、感想や評価など頂けると有り難いですm(__)m

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