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第一章


これは、異世界転生なんですが主人公のレオナルドは転生者じゃありません。百回目のループで登場する弟子ちゃんが転生者ですけど、まだ出ません(^o^;)どんな子なんでしょうね……

今回は人によれば強烈な登場人物が出るかも知れませんね~。




 

 

  『……、……』

 誰かの声、聞き取れない

 分かるのはそれが男の声だということ

 真っ暗でここがどれくらいの広さなのか何処なのかそれさえもわからない

 

 白い骨ばった両手が伸びてきて、無意識に自らも両手を合わせるように重ねる

 大人の手と紅葉のように小さな手を合わせる。

 その瞬間、火花が弾けるような閃光で目を閉じた。恐る恐る瞼を開くと、 その光景に目を疑った。

 

 「!!」

 あまり健康には見えない白い肌、少しつり目気味の赤い瞳、ストレートの背中まで伸びた長い銀髪。

 そこには嫌というほど見た自分の顔があった。十六歳前後の少年が目の前にいる。

 その服は、ディルクと作り上げた新しい国、アトランティッド共和国の制服。

 ディルクの好きな紺色に染められたコートに黒いシャツに白いネクタイをしていた。

 

 アトランティッドは、王族と貴族制度を廃止した国民が主権の新しい国。

 国を追われた者、自ら出ていった者、主君と未来を共にするためについてきた者、様々な理由でここに来ている。

 

 代表になれるのは選挙で決められる。私が死ぬ前に未だに代表の名前が決まらなかった。

 皆、創始者のディルクを敬愛と嫌味を込めて親しい者も国民も笑って彼を()()と呼んでいた。この国で最初で最後の()()だ。

 

 建国したてということもあり、領主的な役割を担うものは元貴族だったりするがなぜか不満を抱く者は居なかった。集められたのはまともな人ばかり。

 

 そんなことより、なぜ当時の自分が目の前にいるんだ。驚きで言葉を失い自分を見つめる。


 この制服に袖を通したのは十五歳。死んだのは十七歳。

 

 『…………』

 薄い色素の薄い唇が動いて発せられていた声はなく口の動きだけでは言葉をうまく読み取れないが何となくそれが分かる。

 

 《気を付けろ》

 

 

 

 一体、何を?

 

 

 




 

 


 

 「っ!!」

 最初に見えたのは白い天蓋。その屋根から垂れる青いベルベットと白いレースのカーテン。

 幼い子供とみられる呼吸が聞こえる。

 

 (なんだ、今の……)

 

 「はぁっ……はぁっ」

 まるで、マラソンでもした後ような疲労感と倦怠感に加えどくんどくんと痛いくらい強く鼓動を続ける心臓。

 

 (こんなこと、初めてだ……)

 

 全身に大量の汗が吹き出して流れ落ちるのがわかる。少し腕を開けると夢で見たような紅葉の葉くらいの小さな両手。

 開いたり握ったり繰り返してると、頬に冷たい冷気が当たり落ち着き始めていく鼓動。空腹過ぎて逆に吐き気を催すくらいの気持ち悪さを感じながら息を吐いた。


どうやら、今回は、赤ん坊ではないらしい。



 子供一人では持て余す広いベッドから起き上がり、汗で張り付く前髪を片手でかき上げた。

 白い夜着は汗が張り付いて気持ち悪い。



 周辺を見渡す。澄んだ青空のような壁紙やチェスト、サイドテーブル、それに乗った水差し。窓の大きさ、位置や数といい懐かしさと居心地の良すぎるこの空間。ここは実家の私の寝室だ。

 窓の外は明るみ始めていたが、まだ朝日は上って居ないみたいだ。

 

 (とにかく、着替えよう)

 

 掛け布団を退けて、胡座をかき大きなそれを畳んでベッドに置いた。それから、ベッドの端まで、四つん這いで移動して飛び降りた。上手く着地してから、衣装部屋まで歩く。

 

 (なんだ?上手く歩けない)

 体に上手く力が入らず、体がふらつく。


 

 

 

 衣装部屋になんとか到着すると、近くにあった踏み台を使いワードローブを開けて適当な着替えを選んだ。

 

 踏み台を下りると体の力が抜けて膝と手をつく。

 「はぁ……はぁ……」

 (まるで、修行時代の時みたいだ……)

 魔力切れで呼吸が苦しくて肺が痛くて、エネルギー切れで動けなくなった事か何度かあった。これはその時の状態に似ている。師匠曰く魔力の強度を向上させる修行とか言っていたが何度か死が頭を過った。

 

 《鑑定》というスキルで自分の情報を確認した。そして、想定内の事と予想外のことでレオナルド目を疑った。

 

 

 

レオナルド・リアム・ロックハートLv.723(New)

 HP:172/175698 MP:0/7958535856

 年齢:三歳 クラス:賢者(New)

 

 称号:最高位魔術師(New)、最高位錬金術師(New)、中位薬師(New)・大聖霊の契約者(New)、時を繰り返す者(New)、聖なる者(New)、剣の達人(New)、槍の達人(New)、最強ちびっこ(New)

 

 

 スキル:【神の目】(New)―――最上級鑑定。

  見破れないものはない

  【魔術創作】(New)――特殊スキル。

自由自在に魔術を産み出せる

【魔術編集】(New)――特殊スキル。

既存の魔術を自由の変更が可能

【身体強化】(New)――防御力が上昇

更に強度、パワーも変化する

【月属性魔法強化】(New)――特殊スキル。

月属性の魔法の威力が向上する

【月光】(New)―――特殊スキル。

神官を越える聖属性魔法が使える

【スピリチュアルオーラ】(New)――特殊スキル。

穢れを寄せ付つけない。

【多次元移動】(New)――元《空間移動》

世界の果てでも精霊の世界でも魔界でさえ

らくらく移動可能

【完全遮断】(New)――遮断の最上級

  音、気配をアサシン並に消すことが出来る

 

 等々、読んでる方が疲れてくる容赦ない文字の羅列に小さな体をだらしなく床に俯せになって脱力気味に息を吐いた。

 

 

  「あー……なんだこれ……」

 (おかしい……いつもならLv.5の普通の子供なんだが!なんだこれ……おかしいだろ!なんだこれなんだこれ!何でMPがゼロなんだよ!こんなこといつもと違う!しぬー!!)

 

 床の大理石のタイルがひんやりと冷たくて火照る体が覚めていくのを心地よく感じながら、開いたままのドアを見た。

 

 すると、半ズボンで膝小僧を剥き出しにした七、八歳くらいの細い子供の足が見える。

 白いハイソックスに光沢のある黒の革靴。

 慌てるようすもなくこちらに近づいてきてしゃがむ。心配しない薄情な使用人の顔を見てやろうとレオナルドは疲労困憊な顔を上げた。


 

 「!」

 その少年は、レスリー・カザン。まだこの家に入ったばかりの下人のはずだ。

 無閉じた太腿に両肘を置き、両手に顎を乗せて頬を赤く染めて無邪気にニヤリと笑う。

 「やっと、レオナルド様と結ばれました」

 恋する乙女のようにうっとりとした顔をするレスリー。

 「!」

 なんとも、誤解を招きかねない発言にレオナルドは眉を潜める。不快に思いながら、【神の目】を使った。

 「フヒヒヒ」

 

 【アイテール】

 元素の大聖霊。聖霊王にも匹敵する特殊な精霊。全ての月属性の力を使え、さらに幻想の魔法を使う。人間に紛れて生活するのが趣味で、それは同族さえ気づかれなかったりする。

 レオナルド・リアム・ロックハートが初めての契約者。

 

 「アイテール……」

 (そんな大聖霊……書物にも載ってない精霊)

 

 「僕みたいなのがいると知られるとますます僕ら月属性は毛嫌いされるんです。これでも、聖霊王の秘蔵っ子なんですよ」

 

 にこにこと笑いながら顔を可愛らしく傾けて淡いオレンジのおかっぱ頭の髪が揺れ、翡翠色の瞳を細める。

 「え……」

 「とりあえず、主を床に寝かせたままなのは、長く仕えてる僕としては、許せないので後程お話致しましょう」

 そう言ってレスリー・カザンことアイテールはレオナルドの体を起こし衣装部屋にある1人掛けのソファーにゆっくりと座らせ満足そうに微笑む。

 そして、ポケットからHPとMPが同時に回復する万能回復薬・中瓶を取り出すと蓋を取ってそれをレオナルドに飲ませた。

 冷えていて、熱い体に染み渡る。最後にはハンカチまで拭ってくれる。

 (まじぃ……この味どうにかならないかな……)

 

 だんだん苦しいのは無くなり、楽になった。ホッとして息を吐く。 

 

 「ありがとう、ございます。……アイテール様」

 オレンジ髪の見慣れたおっとりした顔の少年は、にっこりと蠱惑的に微笑む。

 「レオナルド様のお世話をするのが僕の生き甲斐なので、お気になさらず」

 胸を張りながら言うアイテールを見て以前のレスリー・カザンの面影をみた。面影と言うのもおかしいけれど、いきなり大聖霊とカミングアウトされて別人に見えたがいつもと変わらぬ彼に安堵したのだ。

 

 「レオナルド様」

 「はい?」

 「アイテールとして話して頂けるのは大変嬉しいのですが……僕は以前と同じように接して欲しいです。犬を呼ぶみたいにレス!行くぞ的な」

(確かに口癖のように呼んでたけど)

 大聖霊アイテールは両手で顔を覆い恥ずかしそうに言う。そんな彼にレオナルドは怪訝そうに眉を寄せる。

 「いや、おれはお前を一度でも犬なんて思ってない!」

 バシッと言い放つと頬を真っ赤にして、嬉しそうな顔をする。

 「あー、すきっ!」

 初めての反応にレオナルドは戸惑う。

 「え!?」

 「失礼しました。フヒヒヒ」

(なんだその笑い方……精霊って皆こうなのか……?)

 

 

 「さて、風呂はいるか」

 付き合ってられなくて、レオナルドはソファから飛び降りる。

 「お手伝いしますっ!」

 目をらんらんと輝かせて声を上げるアイテールに一抹の不安を覚えながらも今までの彼を信頼して了承する。

 「……あぁ」

 

 

 アイテールは、床の落ちた服を拾い近くのスツールに纏めて置いて、人間とは言えない動きで最速で着替えを選んで息切れ一つ見せずにっこりと微笑む。

 「お待たせしました~」

 

 

 

 

 

 

 「ふぅー」

 ソファに腰掛ける。

 寝室の隣にあるソファセットと机がある部屋。

 ことりと置かれるティーカップ。レオナルドは驚いて目を見開く。

 

 白いカップの表面は青く塗られて、ゴールドで縁を塗り、鳥と花が描かれた変わったデザインのカップ。しかも、紅茶を入れると模様が浮き出てくるお気に入りのティーカップだ。

 「これは……」

 アイテールは天狗にでも、なってしまいそうなくらい誇らしげな顔で鼻を鳴らして胸を張る。

 「レオナルド様の為なら、過去でも未来でもお持ち致しますよ」

 

 「ほう……すごいな」

 「はいぃ」

 幸せを噛み締めるように顔を手で覆うアイテールに戸惑いつつも微笑ましくてレオナルドは口角が緩む。

 

 

 レオナルドは、小さな手には大きなカップを器用に持って優雅にお茶を楽しむ。

 ふあっとオレンジの香りが広がる。

 

 子供なのを考慮して好物のオレンジの果汁を混ぜたのだろう。その気遣いに思わず笑みが溢れる。

 「お前の入れる紅茶はさいこうだな」

 「はいぃ……有り難き幸せですぅう」

 涙声で歓喜するアイテールを見て見ぬふりする。

 

 二口目を含んだときにノックの音が響く。

 カップをソーサーの上に置いて返事をする。

 「はい」

 「おはようございます。レオナルド坊ちゃま、もうお目覚めでしたか……メリッサでございます」

 扉の向こうから、少女の声が聞こえる。まだ三歳のレオナルド専属メイドのメリッサだ。たしか今は九歳くらいか。子供だが優秀なメイドである。



 「はいれ」

 お仕着せ姿のメリッサがいつものように中に入ると丁寧に頭を下げる。その度に焦げ茶色の三つ編みにした髪が揺れる。そして顔を上げると一瞬珍しく破顔したが、持ち直して真顔に戻る。

 理由は言わずもがなレオナルドはちらりとアイテールことまだ下人のレスリー・カザンを見た。

 

 アイテールは素知らぬ顔で側に立っている。

 「レオナルド様、お食事の時間です。参りましょう」

 「ああ」

 最高のお茶を飲み干し、急かさずアイテールは手を出してきたので、カップを渡す。ソファを飛び下りて、メリッサの元へ向かう。

 近くに来るとレオナルドの為にドアを開けて俯く。レオナルドとすれ違った後、メリッサはアイテールを警戒心剥き出しで睨みつけるのをレオナルドは見逃さなかった。まるで威嚇する猫みたいだった。


 「レス、おまえも来い」

 そう言うとポーカーフェイスだが、僅かに嬉しそうな顔をしたアイテールが返事をした。彼の手元を見ると、いつの間にかあのティーセットは無くなっていた。

 「はい!」

 「え?」

 メリッサは余程驚いたのか、彼女の赤い目を真ん丸にして口をあんぐりと開けて、レオナルドとアイテールに視線を行き来する。それが、ツボに入ってレオナルドは笑ってしまう。

 

 (もう無理、笑いが)

 

 

 笑いを堪えながら歩くレオナルドと後ろで呼ばれて喜びを噛み締めるアイテールとアイテールに敵意剥き出しのメリッサという謎の三角関係を築きながら食堂を目指して歩く。

 

 すると、前方に長い銀髪を後ろで纏めた兄の後ろ姿が見えた。侍従を従えて、歩く凛とした後ろ姿。目頭が熱くなって込み上げていく沸き上がる喜びを押さえきれずレオナルドは走り出す。

 溢れていく涙なんて構わず小さな手足を懸命に動かした。

 

 フェリクス・レイ・ロックハート。

 今は、十歳。優しくて強くて可愛い兄。

 

 (うーん、遅い……)

 

 スキル【身体強化】で走るスピードを上げる。子供故なのか感情が押さえきれず飛び付こうとジャンプした。

 フェリクスはそれに気づいて振り返った瞬間、その動作がスローモーションのようにレオナルドにその動きがはっきりと見えた。振り返った彼の拳がぽっこり幼児体型の鳩尾にクリティカルビットして勢いよくレオナルドの小さな身体は後ろへ飛ばされていく間際にフェリクスとレオナルドの目が合う。

 



 フェリクスの殺気を孕んだ赤い瞳は、見開かれていく。何が起こったのか分からず身体は真っ直ぐに後ろへ飛ばされていくレオナルド。ただ理解できたのはお腹が凄く痛い。

 彼からだんだん遠ざかっていく。姿が小さく見えた辺りで落下していく。

 (え……何が起こった……)

 ショックで放心状態のレオナルドの何者かに受け止められ無事に着地する。

 

 顔を上げるとアイテールが耳元で「ふー間に合ったぜ」とぼやいているのが聞こえた。

 

 「レス……」

 「はい」

 「……おれは夢を見ているのか」

 「あ……今のは事故ですよ。でも、強くて良かったじゃないですかぁ!普通の幼児なら死んでますよ」

 そうフォローするアイテールにレオナルドは小さな手を額に乗せ顔をしかめる。

 

 「カクジツに、強さ(それ)が原因だ」

 「そう言われましても、繰り返しでリセットされていたものが、契約した事で一部反映されたんですよ。まぁ百回頑張ったんですから、これくらい特典あっても、いいと思いますけどねぇ」


 まぁ正確にプラスしてくれたらいいけど、そこは世の中(まま)ならないですよねと誰に聞かせるでもなく心の中でぼやく。

 その理由を冷静に説明するアイテールの姿は、以前と変わらないとレオナルドは暢気に思った。



 「……そうか」

 「それにしても、お兄様凄いですね」

感心したように呟くアイテールにいつもなら「だ

ろ?兄上は凄いんだ」って同意しただろうが腹パンされたレオナルドとしては返事をするのを躊躇う。

 「……」

 

 

 レオナルドを抱えたまま離れた距離をフェリクス達のいる場所へ《空間移動》という魔法を使って移動した。

アイテールは確か《多次元移動》だったか?



突然現れたレオナルド達に三人は驚いて凍りついたように硬直した。レオナルドは気まずすぎて、食堂の方角を指差して一言。

 「行け、レス」

 「畏まりました!」


 

 三人からは離れるとレオナルドは尋ねる。

 「なぁ、レスの事。父上に話していいか?」

 「ええ、もちろん。旦那様のご実家は、精霊に理解のある家系なので分かって頂けますよ」

 「そうなんだ」

レオナルドでも知らないことを何故こいつは知ってるんだと疑問に思いながらも返事をする。

 「とはいえ、履歴書を偽装したのはバレますけどね」

 とんでもない爆弾発言に苦笑いした。

 「……そうか。まぁ、一緒に謝ってやるよ」

 

 


 そんな話をしていると大あくびをする銀髪の成人男性と眠そうな顔の成人女性が向かいから歩いてくるのが見える。

 食堂前に止まり、アイテールに下ろしてもらう。

 両親と目が合ったレオナルドは胸に手を当て会釈するこの国主流である紳士の挨拶をした。

 「おはようございます、ちちうえ、ははうえ」

 二人は眠気が吹っ飛んだのか目を丸くした。先に沈黙を破ったのはレオナルドの母、エレノア・イルゼ・ロックハートだった。

 

 「ど、どどどどどうしょーパパ!パパ!レオちゃんが挨拶したわ!まだ教えてないのに!しかも完璧だわ!天才じゃない!!うちの子!」

 エレノアは、興奮した様子で一息で言う。

 「本当!凄いな!流石、ママとパパの子だね!」

 エレノアの肩を抱きながら感動を共有するニコラス・メル・ロックハート。ニコラスは婿養子でロックハートとは遠い血縁のある異国の貴族でこんな緩い人だが、騎士家系の一族でこれでもかなり強い。

 馴れ初めは、貴族にはよくある許婚同士だ。

ロックハート公爵家は、魔力持ちをどんな手を使ってでも欲しかったようだ。レオナルドは両親が幸せならそれでいいと思っている。

 


 にっこり笑ったままのニコラスは、落ち着いた声でレオナルドに尋ねた。

 「いつの間にこんなに強くなったんだい」

 確信をつく言葉にビクッと肩が跳ね、顔は青ざめていく。

 

 「あ……父上。なんと言いますか……いつの間にか大聖霊とけいやくいていて、私もよく分からないですけどーーそれで強くなったんです」

 (説明しにくい……母もいるところで、人生何度もやり直してるとは、さすがに言えないし)

 ニコラスは、赤い瞳でアイテールの方を見た。



 「あーやっぱり、人間じゃなかったんだ。何となくクソ親父様の聖霊様に気配似てると思った」

なんてことの無いようにそういうニコラス。この世界は、人間が精霊なんてなかなか視覚出来ないし、ましてや大聖霊なんて出会う人なんてレアケースなのに当たり前のように言うニコラス。

 「え?」

 「旦那様、隠していて申し訳ありません。私、元素の大聖霊のアイテールと申します。実は人に紛れるのが趣味なんですが、正体を知られると良くないことを考える輩が現れるので隠しておりました」



 ニコラスは納得したようなスッキリした顔をした。

 「アイテール様かなるほど、知ってるよ。母が話してくれた事がある。それにしてもなかなか大物がうちのレオナルドを気に入ってくれたみたいだね」

 なかなか恐ろしい情報にレオナルドはギョッとした。エレノアはキョトンとした顔でアイテールを見つめる。

 

 「あの……ちちうえ……」

 「分かってるよ。アイテール様……いや、レフリー・カザンをレオナルドの侍従にするよ。その代わり、アイテール様……うちの子よろしくお願いしますね」

 「承知いたしました。旦那様。改めてまして、精一杯勤めさせていただきます。改めましてよろしくお願いいたします。旦那様、奥様」

 そう言ってアイテールは深々と丁寧に頭を下げる。

 

 「あぁ、よろしく。アイテール様」

 ニコラスは頭を下げるのに続けて、笑顔でエレノアも頭を下げる。

 (私の両親ちょろいな……)


 「我が家に聖霊様がいらっしゃるなんて嬉しいわ」

 「そうだね」

   

 すると、ニコラスはふと何かに気づいてレオナルドが通ってきた廊下の向こうへ視線を向けすぐに笑顔になる。

 「……フェリクス、おはよう」

 フェリクスと聞こえたレオナルドはピクリと肩を震わせて、後ろへ振り返った。レオナルドもあれは事故だとわかっているがどうにも気まずい。

 「……お父上、お母上、おはようございます」

 「フェリちゃんおはよう」

 フェリクスは丁寧に紳士の礼をして両親に笑顔を見せる。けれど、今日は少し笑顔がぎこちない。




なにが原因か分かっているレオナルドは兄を見上げていつも通り振る舞う。

 「兄上、おはようございます」

 あからさまにフェリクスの顔は強張る。突然ぶわっと涙が溢れてきて崩れるように膝をついてレオナルドを抱きしめた。

 「ごめん!レオナルド!痛かっただろう!ごめんなぁ!」

 あまり見たことのない兄の取り乱しっぷりに驚いたが、それでもホッと胸を撫で下ろす。

 「……驚きましたが、大丈夫です」

 そう言っても、フェリクスは納得しているようには見えない。無理もない幼い弟に鳩尾パンチを食らわせたのだ。気にしないで欲しいなんて言うのは酷なことだ。なにせLv.93の兄に殴られたんだ洒落にならない。とはいえ、洒落になったのはレオナルドの高いレベルのせいだろう。今思い出しても頭が痛くなりそうだ。

 「そうは、言っても……お腹痛いだろう?」

 「大丈夫ですよ」

 

 眉が下がって滝のように流れ落ちていく涙と鼻水。フェリクスの父譲りの爽やかで甘いご尊顔がどろどろに崩れていく。

 しっかりしてるように見えてフェリクスは、何処か抜けていて家族には特に、こう言った緩い一面を見せてくる。

 

 ぷっくりとしたレオナルドの頬に合わせてすりすりと頬擦りするフェリクスの頭を撫でながら思い出していた。

 レオナルドがフェリクスと過ごせる時間は短い。5歳になる年にはニコラスの故郷の国へ修行に行かなければならない。戻ってきた頃にはもう、フェリクスの病気はかなり進行していて殆ど寝たきりでレオナルドが九才には亡くなってしまう。精霊世界にしか咲かないという【幻の花】さえ見つかれば、フェリクスは死ぬことはない。



 聖霊世界は三つの領域に別れていて、【幻の花】は月の領域に咲いていると繰り返しの中でニコラスが話していたが、聖霊世界の扉は何故か閉じられて人間が自由に行くことは出来ない。レオナルドは、そうゆうものと見切りをつけるしかなかった。当時の自分に精霊の繋がりが無かったからだ。だが、今は違う。

 

 レオナルドは、ちらりとアイテールに視線を向ける。レオナルドの中でぽんぽんと嫌な感情が思い浮かんでくる。視線を頬擦りをやめないフィリクスに視線を戻し、考えないよう瞼を一度閉じた。

 (理由は、後で聞こう。疑わしきは罰せず、だ)

 

 「兄上。もう大丈夫ですから、ちょうしょぉく食べましょう」

(うん、この呂律が回りにくいのも何とかしたい。恥ずかしい……なんだよ。ちょうしょぉくって……)

 

 

 

 

 

 

 朝食をすましたレオナルドは、私室に戻ってソファに座っていた。

 「……アイテール様、貴方に確認したい事があります」

 「なんですか?」

 「貴方は繰り返しの中で俺と何度も同じ時間を共にしていたんですよね?」

 「はい」

 レオナルドは、ちらりとアイテールを見るとにこにこと笑っている。

 

 「もちろん、覚えていますよね?」

念のため記憶の有無を確認する。

 「はい」

 緊張しながら尋ねるレオナルドとは逆に余裕そうな様子でアイテールはポットからカップに紅茶を注いでいる。

 

 「兄上の病のことなんですが……」

 聞きづらくて、口ごもる。

 「花のことですね」

あっさりと核心に話題がゆき心臓がどくんと跳ねる。

 「え?そうだけど……」

 

 アイテールの翡翠の瞳は悲しそうに目を細める。

 「あの時、レオナルド様にあの花をお渡し出来ていたら貴方様の私への好感度は、さぞ爆上がりだったのでしょうね……ですが、今、あの花は咲いていません」


 「え?」 

 「正しくは、ある原因さえ取り除ければ花は再び咲くでしょう。……現在、私の故郷は、人間の世界とは比べ物にならないくらい悲惨な環境にあります。怨念といいますか……人の言葉で言えば、闇に魅入られた怪物が暴れまわっています。その怪物は精霊を殺し、精霊にとって毒とも言える高い濃度の穢れ――瘴気を振り撒いております」

諦めたように感情のない瞳がどこか空を見つめる。

「この瞬間も、()()()()()()()()()()()()

 

精霊世界の穢れを祓うために人間側から一人派遣されているとニコラスが過去に話していた。

 「聖女が……お祖母様が巫女として穢れを祓いに行かれていると……」


目を伏せ、落ち着いた声色で語るアイテールにレオナルドは胸が痛くなる。仲間が死んでいるのに悲しまない者はいない。レオナルドは少なくともその一人だ。

 「ええ。最後の血統アリア・ノルンリードは頑張ってくださってます。ですが、彼女は自分の拠点と生き残った精霊を守護することで精一杯です。根本的な解決は、ただ一人の巫女だけしか出来ません」

 

(とんでもないことを話させてしまったな……)

 「……」

 「貴方の従妹の……()()が精霊世界とこちらの世界の希望なのです」

 レオナルドはその言葉に目を丸くし眉を寄せる。希望、未来を知るレオナルドにとって従妹にそれは似合わない。

 

 未来の彼女は、この世界を絶望へと陥れる悪なのだ。何度も繰り返したレオナルドでも未だに信じられないが、人身売買、麻薬密輸、殺人、殺人教唆等の多くの罪を犯し魔王を復活させた()()()()()()() ()。父の故郷では、それが周知の事実で彼女の死後“凶悪の血染め姫”として歴史に刻まれた。

 でも、従兄弟達はそれを否定していた。彼女の訃報を聞いて、すぐに領民達を連れて国を捨てた。

 

 「でも……」

 「……こうして、時を巡る方が幸せなのかもしれません。歴代の巫女の最期は悲惨な死でした。……けれど、十人目はもっと残酷で惨たらしかった」

 翡翠の瞳が哀しく潤んでいく。それでも、アイテールは言葉を続ける。

 「運命に逆らえられず彼女達は、多くの人ため未来を護るために何かを残して大切な誰かを護るために恐怖に戦きながらも、心を奮い立たせてその命を犠牲にしました」

(大聖霊が無実と言っている……彼女を信じないわけにはいかない)


 「!」

 「レオナルド様の従妹も同じです。彼女も精霊が居なくても結界が機能するようにと“ 聖剣”や“神剣”を残してくださった」

ちょうど、レオナルドが従妹の訃報を聞く前だったか、姿は見えないが夢で()()?が現れて“神剣”を渡された。いまだにアレが誰だったのか分からない。手が隠れたひらひらとした長い袖をした子供のような小ささだった。

その子は女の子の声で「ごめんなさい」と一言誤って去っていた。


 

 「え?あれは精霊が生み出したんだろう?」

 「なぜ私達が?この身を犠牲にしてまで人のために?私達は人を憎んでいます。中には私がレオナルド様を慕うように特定の誰かを慕う者もいます。基本、私達はこの原因を作った人間もそれを関係ないと放置してる者も嫌いなんです」

 低い強弱のないその声音には、彼の底知れぬ怒りが垣間見えた。その凄みに圧倒され言葉を失う。

 「……」




 「人間は、都合よく事実をねじ曲げる。最後の巫女様は、人に惨い仕打ちを受けても耐えて内に秘める方でした。それを最期まで家族や友人に話すことありませんでした。けれど、最後に助けを求めたご友人……だった方達に助けを求めたのに信じてもらえませんでした」

 「!」

 

 「彼らのために身を削って守ろうとしたのに信じてもらえなかったです。そりゃ巫女の行いが悪いと言われてしまえば、それまでなのですが……私達は巫女だけは生きていて欲しいのに、それでも最期に私達に彼らを護って欲しいなんて……あの方は愚かです」

 

 「……」

 「人間達は巫女の想いを無下にする。今ある平和だって巫女がいるからこそあるものなのにすぐに壊そうとしてしまう。今回の巫女は今までとは次元の違う聖女なんです。精霊世界だってあっという間に浄化してしまうほどの力を持っています」

 

 「じゃあ……彼女に頼んで」

 「聖女が本当の力を発揮するのは十五才からです。幼い巫女様でも出来るでしょう。ですが、マナ……人間は魔力と呼んでますね。成長途中の脆弱な身体で精霊世界と怪物の浄化をすれば、どこかに異常がくるでしょう。レオナルド様ならご存知ですよね。魔力を暴発した子供が魔力回路を磨耗し破裂して命を落とすことがあることを」

 

 魔術師を呼べない庶民の子供は、それで命を落としている。魔術師のレオナルドは誰でも受けられるように“調律”には、お金を取ってなかった。定期的に各地の診療所や役所に顔を出すようにしていた。助けられた子供もいるし助けられなかった子供もいる。

 「……」



 「力になれず申し訳ありません」

 アイテールはそう言って頭を下げた。レオナルドは慌ててソファから飛び降りて頭をさげた。

 「アイテール様は悪くないです。こちらこそ大聖霊様に無理を言ってしまい大変申し訳ありません」 

 「レオナルド様……顔を上げてください。現状どうにもならないのは、人も精霊同じです。私も出来ることなら、手を付けなければならない問題なんです。とはいえ、私は諦めて居ません。半身を向こうに残してますから」

 「え?半身?」

 「出来る者は少ないですが、私は体を分離することが出来ます」

 レオナルドはスライムが二つに別れるイメージで分裂するアイテールを想像して気持ち悪くなった。

 「フヒヒヒ。私、万能なので朝飯前です」

 無邪気に自慢して笑う彼にレオナルドは呆れて笑う。

 (その笑い方なんとかならないのか……)

 

 

 「……うん、人任せは良くないよな。俺、まず最年少記録を塗り替える。そのために、ししょうのところへ行く」

 「え……」

 キョトンとするアイテールをまっすぐ見つめ、ニヤリと笑う。

 「俺も少しは聖魔法が使える。及ばずとも役には、たてるかもしれない。

 身の安全くらいは護ってやれるかもしれない。俺が手伝えば少しは、負担は減るかもしれない。俺の望みを他人任せにしないと誓う」

 

 決意に輝く赤い瞳かアイテールを見つめ、悲しそうに笑う彼が気になるが決まった心は変えられない。


 

 

 

 

 レオナルドは、百回目にして初めて“弟子のためじゃない”決意をした。

 



 

 

 

長々とお付き合いありがとうございます。


よければ感想、ブックマーク、誤字連発しまくりかもしれないのでこっそり教えてくださると幸いです。







アイテール様がレオナルドを慕う感情は愛とか恋ではなく“推し”を崇めるのと同じです。


BとLじゃないです。


もうひとつ、これのお話はレオナルド主人公なので、彼が認識が誤ってます。


レオナルドには「巫女」と認識してますが、アイテールは「神子」と言ってる場合があります。ややこしくてごめんなさい。


「巫女」も存在するのですが「神子」は特別なやつですね。



補足致します。


【表五大元素】→火、水、風、木、地


レオナルドのお父さんの故郷ではこれが基本魔法なので特に貴族は使えて当たり前のエグい国。因みにレオナルドもフェリクス、侍女メリッサも使えます。表五大元素の総称を太陽属性




【裏五大元素】→)月、雷、闇、氷、聖


こちらは、あまり使える者が少なく稀少。


不思議なことに?レオナルドやニコラス、フェリクスは使えます。


裏五大元素の総称は月属性と呼んでいます。


アイテールは月属性の大聖霊。




※因みに五大元素と纏めてありますが、一般的に扱いが難しい属性は省かれてます。アイテール以外にもまだあるんですけど、此方のお話は登場しないかもしれません。


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