戦闘4
その後、森を抜け出した二人は、人の手で舗装された道路へ辿り着いた。
道中周囲への警戒から自然と口数も少なくなり、夜の森の空気も手伝って張り詰めた空気が二人を包んでいたが、日常で見慣れた景色を前にすると緊張の糸も自然と解れていくのを二人は感じていた。
それと同時に、少女、雅は今の自分の状況の不安さを感じ始める。
柊木さんから借りている軍服の上着一枚で身を包んでいるだけ、しかも思い返すにあの蛇頭は、私を誘拐するよう依頼されたとか言っていなかったっけ。
「あの、柊木さん、私、服もなくて、それにあの蛇頭、私を誘拐するよう依頼されたって、言ってました、私何も心当たりがないんです、なのに襲われるなんてどうしたら……」
「……もうすぐここに俺の所属する部隊が来る。何故君が狙われたのか、この後君をどう保護するか、全て話し合って決める。このまま家に帰れとは言わないから安心して欲しい。」
柊木さんはそう励ますような口調で説明してくれた。
程なくして、その説明通りに一台の車がやってきた。
雅も何度か見たことのある、軍用の大型車だ。
車は私達二人の前で停車すると、中から一人の男が降りてきた、40代くらいの鍛えられた身体をした男である。
男はこちらに駆け寄ると、柊木さんの方を向き、大声で怒鳴りつけた。
「おい大和ォ!お前また一人で単独行動して!」
「一人と単独行動って意味被ってますよ、大門隊長。後騒がしいですよ!夜なのに」
「あぁ!?こっちは心配したんだぞ!民間人から連絡があったと思ったら飛び出していきやがって!…それでどうなった!?」
「少女は取り戻しました、この通り」
そこで大門は、バッと少女の方を見ると、再び顔を大和の方へ逸らした。
「お、おい何て格好させてんだお前!」
大和は、苦笑しながら答える。
「俺じゃないですよ!発見した時には裸にされていたんですって」
「お、おお…そうか。すまんお嬢さん、こいつに気を取られてお嬢さんに気が回ってなかった!車に入って、暖房ついてるし、周りから中は見られないようになってるから!」
「は、はい…!」
雅は勧められたまま後部座席、普通の車のそれではなく、二つの椅子が対面するように並べられている、四角いスペースの空間に乗り込んだ。
暖かい空気が全身を包んで、改めて自分が救われたことを雅に実感させた。
「俺は彼女を本部に連れて帰る、お前は後から来る処理部隊に立ち会え」
「了解、ああ雅さん!このおじさんと車で二人っきりになるけど、いい人だから、心配しないで大丈夫だよ」
命令を受けた大和は扉越しにそう声をかける。
雅も、この大門と呼ばれた隊長が、悪い人ではないのはわかっていた。
「隊長に向かっておじさんじゃねえよ!馬鹿!」
「早く本部に向かってあげてくださいよ、彼女を待たせたら可哀想でしょう」
「わかっとるわ!」
そう言い返すと大門は車に乗り込み、被害者、雅と共に去っていった。