戦闘3
黒い鎧の騎士は、蛇頭が小屋の外へ吹っ飛んでいったのを確認すると私に駆け寄ってきた。
「軍の特殊戦闘員だ、君を助けにきた。無事か?」
騎士は、私にそう問いかけながら手首を縛るロープを小型のナイフで切り裂き、自分の上着を私に被せてくれた。
「ありがとう、ございます…少し触られただけで、他には何も」
「わかった、この小屋の中に居てくれ、壁際からは離れて。外の敵を全て倒し、退路を確保する」
私がはい、と頷くのを確認すると、騎士は小屋の外へと出て行った。
あの人が勝てば私は助かる…まだ救われたと決まった訳ではないが、先程までの孤独な絶望に、助けの手が現れた事実が自分を安堵させた。
そして騎士の、勝利を祈った。
ビュオオオオ……
と寒風が鳴らす音を背景に、夜空の下、黒金の騎士と蛇頭は対峙していた。
「こんなに早く助けがくるとは思わなかったよ、夜の森の中をこんなに早く追跡出来るなんてな…」
「ふん、わざと少し殺気を飛ばしながら歩いたのさ、お前の部下のオーク種どもが嗅ぎつけて近寄ってきた、いい道案内になったぜ」
「あの知能の低い豚共め…連れてくるだけ邪魔だったか」
蛇頭はそうぼやくと、片腕を触手のように伸ばし、鞭のように騎士へと振り下ろす。
騎士は左手を胸の前に構えると、その腕からビキビキと黒色の鋼を生み出し、それを一瞬で盾の形に変化させる。
バチンッ!と音を立て、騎士の盾が蛇の触手を弾いた。
「能力者か!盾を…いや、おそらくその鎧自体も……!鋼を生み出す能力!?」
騎士は黙ったまま盾を解除すると、今度は右手を変化させる。
ビキビキと音を立て、右手を包んだ鎧の形が変化し、まるで獣の爪、それを人間の腕の太さに合わせて大きくしたような形となった。
右手からはバチバチと、明るい紫色をした電気のような物が迸っている。
そして、一瞬だった。
「っ……!?」
蛇頭は反応すら出来なかった、一瞬、騎士の姿がぼやけたように見えた、その次に騎士の姿を捉えた時には、既に騎士の右腕で胸部を貫かれていた。
「ぐぅ……キ、サマァ……」
蛇頭はそう凄むが、その口からは徐々に血液が溢れ出し、やがて体をビクビクと痙攣させると、だらんと、力なくうなだれた。
騎士はそのまま右腕を引き抜いた、ポタポタと、右腕から蛇頭の血液を滴らせながら、その手のひらにある物、つまり蛇頭の心臓を握りつぶした。
その時だった。
小屋の、騎士から見て反対側の死角から壁を破壊する音が鳴り響いた。
小屋の中から少女がこちらへ駆け出してくる、その後ろから3m程度の二足歩行の豚、オークが一匹少女を捕まえようと突進している。
騎士も少女の方へ駆け出した、鎧の重さを感じさせないほど速く疾った。
そして走りながら、右手の手のひらから鋼を生み出す。
メキメキと音を立てながら変形したそれは、右手に柄の部分を生み出し、その先に刀身を生成していく。
やがて2mはある、騎士の身長とそう変わらない『大剣』が、その右手に握られた。
走りながら、騎士は少女の腕を左手で掴み自分の懐へと抱き寄せる。
同時に、大剣を自身の左側に移動させ、構える、その大剣からも紫色の光がバチバチと音を鳴らしていた。
間一髪、振り下ろしたオークの拳が、少女が先程までいた地面を陥没させた。
騎士は大剣を水平に振り抜いた、グチュっとした嫌な音と、血しぶきをあげながら、オークの体は、上と下の二つに、真っ二つに切断された。
「もう大丈夫だ、今のが最後だろう」
返り血に濡れた騎士が少女に話しかける。
「た、助かったん、ですね……私」
「ああ」
「ありがとうございます!本当に、ありがとうございます!」
ぎゅっと、少女は騎士に抱きつきながら、何度も感謝の言葉を述べた。
「軍人が、民間人を助けるのは当然の事だ、だから礼はいらないよ」
間に合って良かったな、と騎士は背中を撫でながら、自分の能力を解除する。
黒髪に、紫がかった瞳をした、精悍な男だった。
少女は思わず見惚れていた。
「私は雅、真中雅と言います。あの、もしよかったら、あなたの名前も……その…」
「俺は大和、柊木大和、よろしく」