戦闘2
「やあ、丁度目が覚めたところだったみたいだね、オレ達って相性いいみたいだね!おはよう、いやこんばんはかな?お嬢さん?」
小屋に入ってくるなり開口一番、顔に違わないガラガラ声で蛇男は語りかけてきた。
人間ではない異形の見た目、それが意味するのは、人類が長い歴史の中で幾度も争いを続けている異形の生物。
『魔族』だ
本来、魔族はこの国の境界線より先からしか侵入してこない。
このあたりの地域は治安も良い、軍が私達を守ってくれているはず、何か戦いがあってこのあたりの駐屯軍が負けたとか、魔族の侵入を許したとか、そんなニュースは流されていない。
私を襲ったのは人じゃなかった、何故、こんな所に魔族が。
私が黙って考えている様をひとしきりニヤニヤ眺め満足したのか、蛇頭が再び話しかけてきた。
「ま、恐怖で声も出ないか、そうだよな」
私も恐怖をなんとか抑え込みながら口を開く
「こんな所に連れてきて、なんのつもり?」
「何、ちょっとした仕事でね、君を攫えと依頼されたんだよ。次の段取りまでまだ時間があるし、生け捕りであれば状態は問わないとのお達しだから、君で少し楽しもうと思ってね」
「た、楽しむ?」
「わかってるくせになぁ、なんのために裸にしたと思っているんだ?」
ぐへへ、と下品な笑いをあげると、蛇男は自分ににじり寄ってくる。
誘拐犯の思わぬ小隊に面を食らって忘れていたが、自分は今、裸、なんだ。
裸を見られているという恥辱と、あいつの言う『お楽しみ』が示す意味、その内容への恐怖とで全身が震え上がる。
(この、ロープを外さないと…!)
自分の両手を縛っているロープを外そうと手首をうねうねと動かし、それに合わせ全身も揺らしてみる。
とにかく少しでも体を動かし、ロープと手首との間にスキマが出来ないか、あるいはロープそのものが天井から外れないか試してみる。
全身から嫌な汗をしっとりとかき、体に合わせて胸も揺れる、その逃げようとする姿が、余計に相手の欲情をそそっているのだが、彼女はその事に気付かない。
いや、気づいたとしてもなりふり構ってはいられないのだが。
そうしているうちに、蛇男は私の目の前まで来ていた。
口から、まさに蛇らしい、蛇の舌をチロチロと伸ばしてきて、それが顔をねっとりと舐め回す。
「いや、いやぁ!助けて、誰か!」
「暴れても、ムダだ。外には手下もいるし、お嬢ちゃんの力でその縄は外れやしないさ」
下品な笑いを浮かべながら蛇男はそう言うと、舌をゆっくりと首筋、そして鎖骨へと動かす。
舌を動かされる度に、気持ちの悪い、ゾクっとするくすぐったさが皮膚から全身に走る。
目の前の蛇男はその反応を面白がっているのか、下品な笑みを一層深める。
(気持ち悪い!嫌だぁ!嫌!助けて!)
必死に歯を食いしばり、せめて声をあげまいとする
、たとえ泣き叫んでも、こいつを喜ばせるだけだ。
「ひっ…んんんっ…!ふっ、うぅ…」
せめてこいつを喜ばせるような反応だけはするものか、舌に触れられるぞわぞわとした感覚に悶えながらも、必死に声をあげまいとする。
しかし、彼女の抵抗をよそに舌はさらに移動し、胸の先端にたどり着こうとしていた。
「やめろ!そこは、ん、ふぅぅ…!そこはやめてぇ!」
しかし抵抗も長くは続かなかった、まだ誰にも許したことのない胸にまで舌が伸びると同時に、彼女の恐怖へついに絶望へと変わってしまった。
(許してって言えば、許してくれるかな、そうだよね、こんな酷いこと、謝ればやめてくれるよね…)
自分は何も悪くないのに、許して、と言ってしまおうか。
そう考えるのは、もう心が屈服した証だ。
やめてくれるハズもないのに。
私の気持ちを察したのか、蛇男が話しかけてくる。
「諦めちまえよ、楽になるぜ、いろんな意味でな」
「ゆ、許しーーー」
その時だった、黒金の鎧を纏った騎士が、後ろから蛇男の頭を掴み、小屋の外へと投げ飛ばしたのは。