★【拝啓、陽気な貴方へ】
台本タイトルは【はいけい、ようきなあなたへ】と読みます。
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♂1:♀0:不問2
瞳鏃 不問 セリフ数:16
〈中堅の語り部。元気な声が聞こえた気がした。振り返った先には何も無かったけれど、“こっちも元気にやってるよ”と口の中で呟いた〉
蟻蝉 ♂ セリフ数:14
〈既に途切れた音。おーいと呼ぶ先で返ってくる声がある事が、当たり前でない事を知っている。弟子も知らぬ間に消えた金の行方は誰も知らない〉
ナレーション 不問 セリフ数:8
[あらすじ]《6分程度》
風に追われる雲のように。ミツバチを誘う花のように。人々を魅了し、霧のように去っていく。語り部達は其の音を途切れさせぬよう、未来にタネを残してゆく―――。
【蟻蝉】
あーあァ…雨止まねェなァ…。
【ナレーション】
ザアザアと降り頻る雨に、うんざりとした様子で口を開いたのは、中堅の語り部、蟻蝉だ。
紫色の目を、す、と横に向ければ彼の弟子である、語り部見習いの瞳鏃が寝息も立てずに眠っていた。
語り部の蟻蝉と言えば、有名な訳ではないが、さして無名な訳でもない。偽物と自由を愛している、ニヤリと笑う顔が似合う奴だ。
【蟻蝉】
雨ん中移動すんのは、ヤなんだけどなァ…まあこれも修行か。
オーイ、瞳鏃ぃ〜。そろそろ行くぞ、起きろよォ。
【瞳鏃】
んん…。何…、せんせー…。
【蟻蝉】
ナニじゃねぇよ、発つんだよ。寝惚けてないで、支度しろよォ。
【瞳鏃】
うげ、まだ雨降ってるじゃん…。
【ナレーション】
つん、と蟻蝉に小突かれた瞳鏃は、もそもそと身支度をする。
覚醒し始めた耳に届いた雨の音に顔を顰めて、師である蟻蝉を見上げた。
【蟻蝉】
そろそろ雨ん日の移動手段も覚えとかねェと。ほれ、合羽。
【瞳鏃】
(欠伸をしながら)
…は〜…い。
(間)
【瞳鏃】
ところでさ、先生。
【蟻蝉】
んぁ?
【ナレーション】
身支度が終わり、雨宿りをしていた廃屋を出た二人は、目的地であるシオド地方へ向けて歩いていた。
【瞳鏃】
この前さぁ、財布の金無くなってたけど、また誰かに貸した?
【蟻蝉】
あー? あァ……いやぁ…?
【瞳鏃】
誤魔化し方ヘタか。
ボクは何も使うな、貸すな、って言ってんじゃなくてさ。
使うなら用途を、貸すなら返してくれる保証のある奴に、………………ちょっと、聞いてる?
【ナレーション】
“また始まった”と、弟子の正論から目を逸らす蟻蝉は、反対方向を見て、そのままそちらへ興味を持つ。
この蟻蝉という語り部は、自分に都合の悪い話には、スッパリと聞く耳を持たないのである。
【瞳鏃】
……はぁ…。
で、誰に貸したの。
【蟻蝉】
………。
【瞳鏃】
だ・れ・に・か・し・た・の。
【蟻蝉】
沌徘…
【瞳鏃】
あの借金男!? また? 返ってくる保証が一番無い奴でしょ。
【蟻蝉】
しかしよぉ、困ってるっツーから……。
【瞳鏃】
嘘に決まってるでしょーが! 何でアンタはそう、安安と―――!
【ナレーション】
これは長くなる。そう悟った蟻蝉は、弟子の声を完全に耳から遠ざける。
この術は蟻蝉が語り部になる前、貴族の末席に名を連ねていた頃からの得意技である。
一方、瞳鏃は自分の小言に耳を貸さなくなった師匠に、ため息を零す。この人はいつもそうだ。
金が無い、と泣きついてくる相手には滅法弱い。のに加えて、金を貸した相手がその金を返そうが、返さまいが、まるで興味が無いのだ。
【瞳鏃】
…はあ、いつもの事だから、これ以上煩く言うつもりもないけどさぁ。
【ナレーション】
詰め寄ったにも関わらず、すぐに諦めて蟻蝉の後ろを歩く瞳鏃。この弟子も存外、人には興味が無い。
師匠が金を貸そうが、貸さまいが、その日一日生きれるだけの路銀が残ってさえいればいいのだ。
何とも、似た者同士である。
【瞳鏃】
ところで先生、シオドに何しに行くの。
【蟻蝉】
んー…語りもすッけど、知り合いに会いにな。
【瞳鏃】
“知り合い”。
【蟻蝉】
そ。会う約束はしてねェんだけどな、シオドで語りやってるって噂聞いたし、足も速くねェし、追い付くだろッてな。
【瞳鏃】
会いに行くんなら、手紙でも書けばいいのに。
【蟻蝉】
いいんだよォ。そういうの好まねェ奴だし。
【ナレーション】
飄々と言ってのける師匠に、瞳鏃はため息を吐く。
いつも無計画で、あちらこちらに足を向けては、失敗しただの、もっと調べておくんだっただの言っては、何でもないようにからから笑う師匠が、たまにとてつもなく、無性に腹が立つ。
いつか何処ぞで、誰かに刺されたって文句は言えないぞ、とその背中を睨み付けた。
【瞳鏃】
…先生、
【蟻蝉】
ア? ンだよ。
【瞳鏃】
シオド着いたら、ご飯にしよ。誰かさんがお金貸しちゃったせいで、軽くしか食べれないけど。
【蟻蝉】
オイ、そんな褒めンなって!
【瞳鏃】
褒めてねーよ。
【ナレーション】
・・・何はともあれ。
少し弱くなった雨に打たれる語り部師弟は、目的地に向けて足を速める。
あと半年もすれば、この弟子は独り立ちの頃合いだ。一度教えれば応用まで出来てしまう優秀な弟子に、蟻蝉は悔しくも寂しくもなく、ただただ誇らしかった。
同世代の羽弥芝や鹿華の様に、弟子に対して特別な思いがある訳ではないけれど、“どうだ、俺っちの見る目は確かだったろう!”と。そんな風に“誰か”へ笑ってやりたくなるのだ。
いつか。
そう。いつか。
瞳鏃が独り立ちして、暫く経ったら会いに行こう。そうして一緒に酒でも飲んで、あの時はああだった、こうだったと、語らうのも悪くない。
そんな未来にニヤリと口角を上げて、歩を進めた。
(間)
どこかの廃屋。ザアザアと降り頻る雨の足元で。
雨宿りをする語り部が、ぽつりと嘘を一つ。
【瞳鏃】
…嗚呼、そろそろ雨が降りそう。
STORY END.
一人用声劇台本ページの語り部シリーズより。
それぞれ初登場台本を掲載しておきます。
語り部瞳鏃〜与太郎編〜
https://ncode.syosetu.com/n0087fo/40/
語り部蟻蝉〜偽物編〜
https://ncode.syosetu.com/n0087fo/58/




