【宝石回路〜塗り潰された頁〜】
台本タイトルは【ジュエリーコード〜ぬりつぶされたページ〜】と読みます。
宝石回路シリーズ 第十話
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♂0:♀2:不問1
ペイリトゥース・ラブラドライト 不問 セリフ数:19
〈宇宙軍軍長。イクシオンの息子で、ヘリオドール姉妹の幼馴染。自らを馬鹿と卑下するが、実は有能〉
アポローン・ヘリオドール ♀ セリフ数:27
〈騎士軍副軍長。アルテミスの半身。馬鹿な養母にこれから気を遣わなくていい生活が来ると思うと嬉しくて堪らない。アルテミス命〉
アルテミス・ヘリオドール ♀ セリフ数:29
〈アポローンの半身。宝石回路の基地に併設されている研究室に籠っている研究バカ。頭は良いが人の話を聞かない〉
[あらすじ]《11分半程度》
死んだ死んだ! 格子の奥の木の枝が叫ぶ。嬉しそうに。狂ったように。
クロノス。と呼ぶ声がした。アア、一気に興醒めだ。お前達はどこまで。この世界に執着するんだ―――。
【アルテミス】
…んーと、この物質が結晶化するには、もう少し温度を下げる必要が…だけれど、この温度では結晶化保存容器まで凍りついてしまう。…んー、今更容器の改良を求めるのは、経費やら何やらでペルセポネーに苦い顔をされそうだな…。
かと言って、この温度で実行するには、些か材料が少な過ぎる…。これでは繰り返しの実験すら儘ならない。
【アポローン】
アルテミス! 朗報! 朗報! 朗報!!
【アルテミス】
(相手の声が聞こえておらず)
ん〜〜、どうするべきか。
いっそ核の保存実験なぞ置いておいて、分裂によって増殖する他惑星の生命体の細胞を、ウヴラの核にくっつけて同じ個体が生まれるようにしてやったらいいのでは。
そうすれば、個体差のない素晴らしい世界の出来上がり! ………そんな上手くいかないか。
【アポローン】
アルテミス! アルテミスってば! 聞いてる!?
【アルテミス】
おや、まあ。誰かと思えば、姉か妹か分からない、ワタシの大事な半身じゃないか。
いつから居たんだい? 声を掛けてくれたら良かったのに。
【アポローン】
声は何度も掛けたよ! って、違う! そんな事より朗報、朗報!
死んだってさ! アイツ!
【アルテミス】
アイツ? ……ああ、アイツか。
【アポローン】
そう! やっと自由だよ、アルテミス! オジサンが殺ってくれたんだ、きっと!
【アルテミス】
……そうか、死んだか。
だが、どうやって? 槍に突かれても死ななかった、強靭な個体だろう?
【アポローン】
でもでも、アスクレピオス先輩が通信をくれたよ。確かに絶命したって! アルテミスのお陰だって!
【アルテミス】
そう言えば、医者にアイツの核を教えたのはワタシだったか…。
そうか、………死んだか。
(震える声で喜び)
ふふ、ふふふふふ、…っあはははは! あはっ、あはははははっ!!!
生まれを望まれなかったワタシ達に金を出し、憧れ、あはっ、憧れた男の生き方を真似た、馬鹿げた女が。
アテナ・ヘリオドールがやっと死んでくれたか!!! あはははははははっっ!!!
【アポローン】
そうだよね、アルテミス! 嬉しいよね! アスクレピオス先輩から連絡が来た時、ぼくも同じ気持ちだったよ!
【アルテミス】
(落ち着く)
……、だがそうか。死んだか。
という事は、アテナ以外に誰か、死んでいるという事だな?
【アポローン】
ん〜? あ、そっか。アテナ・ヘリオドールが最初の一人なんて、くそつまらないもんね。
【アルテミス】
誰か、連絡の取れない奴はいないのか。
【アポローン】
ゼウスさんが消滅してから、みんな宝石回路に価値なんて見出してないから、殆ど連絡なんて取れないよ。
…ぼく達みたいに、気が付いている人達以外はね。
【アルテミス】
まあ、元々自分以外に興味を示さない生命体だからな、ワタシ達は。
誰がどこで何をしていようが、してなかろうが、…死んでいようが、自分らの日常に影響がなければ、さして気にもしない。
【アポローン】
んー…、ぼくの方でも調べてみるよ。
ほら、オニキスの次女が言っていた事も気になるし。
【ペイリトゥース】
朝っぱらから物騒な話してンねェ〜。
【アポローン】
あ、ペイリトゥース。軍の方は落ち着いた?
【ペイリトゥース】
マ、粗方なァ。
通信妨害されてたエリアも、ペルセポネーが何とか原因突き止めて、オレっちら宇宙軍と、そこら辺うろちょろしてた奴らとブッ壊して来た。
【アポローン】
原因?
【ペイリトゥース】
政府支部のある惑星にィ、防衛戦で使われるシールド張られてたっポイ。
ンで、近くにウヴラの欠片と、旧式の魔力増幅装置がぶっ壊れてた。
欠片はダイヤモンドのものみてェだ、テーセウスの調べがついてル。
【アルテミス】
ダイヤモンド? 宝石回路のか?
【ペイリトゥース】
いンや? 欠片を介さないといけねェほど魔法に疎くて、魔導具に頼らねェとシールドも張れねェようなダイヤモンドは、宝石回路には居ねェだろ。
【アルテミス】
目晦ましや、罠の可能性は?
【ペイリトゥース】
今んトコは何も分からねェけどナ。でもォ―――…
【アルテミス】
(相手の言葉を無視して)
もし、もしそうならば宝石回路内に、ワタシ達のような“気が付いている奴等”が居て、そいつらが意図的に、…そうだな、ワタシ達の視線を奪う為に、そういう事をしているのだとすれば―――。
【ペイリトゥース】
ステイ、ステイ、ステイ。落ち着けよ、アルテミスちゃん。
もしそうだとしたら、宇宙軍の副軍長が気付いてるサ。テーセウスは邪気を見分けられる。
【アポローン】
(苦い顔をして)
………すごぉぉく、嫌な予感。
【ペイリトゥース】
ンん?
【アポローン】
だってさぁ、ダイヤモンドってだけでブランドじゃん? 実際に宝石回路のダイヤモンドは、あの五兄妹含めて優秀そのものでしょ? ま、クロノス・ダイヤモンドは別だけど。
そうでなくとも、ダイヤモンドって言ったらさ、特別、特製、特待生って感じだしぃ、優秀じゃないダイヤモンドってアタシ、クロノス以外だったら、一人しか浮かばないなぁ。
【アルテミス】
レアー・ダイヤモンドだな。
クロノスが何処ぞから拾ってきた、何の才も無い女。
【ペイリトゥース】
クロノスが行方知れずになって、音沙汰も無くなった女の話ィ?
ハルモニアパイセンとか、コイオスパイセンとは連絡取ってたらしいケド、詳しい事は何も分からんのよなァ。
【アポローン】
でもでも、ほら。デメテル先輩が持ってきた情報あったじゃん。レアーがクロノスの部屋を片付けてるって。
これってもしかして、何かの伏線?
【アルテミス】
伏線というのなら、もう一つ。ハルモニア氏がレアーから言われた謎の伝言があったな?
確か、“もしクロノスから何かメッセージが届いても、読まずに燃やすか、中身を少し覗いてから破棄して”……だったか?
【ペイリトゥース】
……おいおい、ステイつってんじゃん。まだあの女が犯人って決まった訳じゃねェし。
【アポローン】
でもでも、現場に残されてた欠片はダイヤモンドのだったんでしょ?
欠片ってウヴラの元だからさ。隠す事も偽る事も出来ないし、感情が爆発したり、魔力が暴発すると出てくるものだから制御も簡単じゃないし。
…ま、出来る子は出来るけどさ。
でも、ダイヤモンドでその制御が出来ない子なんて聞いたことないしぃ。
それに今時、旧式の魔力増幅装置なんて闇市にも売ってなくなぁい? それこそクロノスがまだ生きてた時代なら、量産されてたカモだけどね。
【ペイリトゥース】
…もしそうだとして、動機は? オレっち馬鹿だから、よくわっかんねぇ。テーセウス呼べば良かったワ。
【アルテミス】
動機か。確かに不明瞭だな。
防衛戦で使われるシールドを張った動機か……他所の惑星からのちょっかいを防ぐ為に、認識阻害の結界が練り込まれている、我が宝石回路発案のシールド…。
まあ、簡単に推理するならば…何かを隠す為、だろうか?
【アポローン】
何か、…って…?
【アルテミス】
誰かの死骸。
【ペイリトゥース】
(慄いて)
オイオイ、穏やかじゃねェなァ…。
【アルテミス】
今や宇宙を股に掛ける犯罪組織様が何を怖がっている。
宇宙軍軍長が聞いて呆れるぞ。
【ペイリトゥース】
買い被るナヨ。前軍長がナンカ知らねェけど、オレっちが適任だぁ、とか言って押し付けてきた椅子だぜ? テーセウスが遠慮しなかったラ、喜んで明け渡してるッつーの。
―――ッと、通信? 噂をすれば、テーセウスからだ。…あいよ、どしタァ?
【アルテミス】
しかしまぁ、ここ最近は宝石回路内外が妙に騒がしい。
医者がそろそろ動き出す、やら何やら言っていたが、それにしたってもう少し静かにしないと勘付かれるぞ。
【アポローン】
ま、変な事に巻き込まれなかったらイイよ! あの女も死んでくれた事だし! これからは好きな事出来るよ、アルテミス! あ、いっその事名前も変えちゃう?
【アルテミス】
そうだな。いい加減研究室に籠もるのにも飽いていた所だ。
手始めにオリオンにでも連絡を―――
【ペイリトゥース】
はぁあ゛っ!?!? ソレ嘘じゃねェだろうな゛っ!?!?
【アポローン】
わあ! なになに、ペイリトゥース! 急にビックリするじゃん!
【ペイリトゥース】
(動揺しながら)
……あぁ……ウン、…ウン、………わ、…かった………とりあえず…、今アイツラと一緒だかラ……ウン、…伝えたら、すぐ行くワ……。
【アポローン】
ペイリトゥース…?
【アルテミス】
何か問題でも起こったか。
【ペイリトゥース】
イヤ、その………さっき話してたジャン? 防衛戦で、使われてるシールドが……張られてたって惑星……その、惑星サ、テーセウスが部下と一緒ニ、一応調べてたラシイんだけど………。
……………。
【アポローン】
ちょっと! 焦らさないでよ、ペイリトゥース!
【ペイリトゥース】
…ソノ……、アルテミス……
【アルテミス】
何だ。
【ペイリトゥース】
…お前の予想、大当たりってトコだな……。
……死骸があったラシイ…………
…………………………コイオスパイセンの。
【アポローン】
えっ…………!?
【アルテミス】
………。
なるほど、そういう事か。
【アポローン】
“そういう事”って、どーゆーコト!? アルテミス!
【アルテミス】
“アテナはコイオスの前に死んでいる”。
【ペイリトゥース】
あァ? ンでそんな事分かンだよ…。
【アルテミス】
(誰の言葉も聞こえておらず)
災いの書……最後がコイオス、そしてそれが最後だった。コイオスの次に死んだものは居なかった。
…違う、最初か。いや、待て。現時点で『コイオス氏』と『あの馬鹿女』だ。
ならば逆転している…? 確かにそうだ、コイオスの前に死んだのはアテナ、いや戦士ミネルヴァだった。………まさか、もう既に『誰か』死んでいるのか…?
災いの書に準えるなら、そうだ。戦士ミネルヴァは…アイツと相討ちになったはずだから…。
………そうか。そういう事か。
ペイリトゥース、お前はテーセウスに確認をしろ。コイオス氏の左目が有るか否かを。
ワタシの半身、お前はワタシに着いてこい。しなければならない事が増えた。ワタシだけでは荷が重い。
【ペイリトゥース】
ア? …ああ、分かっタ。すぐ確認してクルわ!
【アポローン】
う、うん…。あ、あのねアルテミス…。
【アルテミス】
何だ。
【アポローン】
ハデス先輩は…その、信用に足る者になら話して構わないって言ってたから……アルテミスはぼくの半身だから、話すね。
【アルテミス】
……?
【アポローン】
ハデス先輩は、ある日幹部達を集めて言ったの。
「今からボクは狂ってしまうかもしれない。父の存在をゼロに近くするために。だからその前に君達と話したくてね。
これから先、決して何者にも惑わされるな。ボクにも。身内にも。入り込まれてしまったのならば、惑わされているフリでもするといい。
不安ならば約束でもしよう。
全てが終わった時、ゼウスが消滅場所に選んだ、“あの洞窟”で落ち合おう」
って。
【アルテミス】
………………………………。
【アポローン】
あ、アルテミス?
【アルテミス】
嗚呼、馬鹿な半身だ。どうしてそんな大事な事を今まで黙っていられたんだ。
【アポローン】
ごめんね、アルテミス。
【アルテミス】
だが、最高の半身だ。ワタシの半身がお前で良かったし、あの馬鹿女がワタシ達を切り離さなかった事だけは、褒められるべき事だ。
行こう、アポローン。
世界を掻き乱すには、ワタシ達が適任だ。
STORY END.




