【宝石回路〜棄てる仏あり〜】
台本タイトルは【ジュエリーコード〜すてるほとけあり〜】と読みます。
宝石回路シリーズ 第六話
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♂2:♀1:不問0
コイオス・ルビー ♂ セリフ数:16
〈惑星調査隊副隊長。宝石回路に戻ってきてからも、度々別惑星へ出向いて調査をしていた。一族の中で一番ルビーの血が濃い〉
レアー・ダイヤモンド ♀ セリフ数:19
〈ゼウスの母。クロノスの妻。潔癖症でちょっとメンヘラが入っている。“あの子”の為に生きてきたけれど、やっぱり“あの子”はちょっと違うかもしれない〉
※※※※・※※※※※ ♂ セリフ数:17
〈姪のお陰で蘇った。今回はナレーションに徹するようだが…?〉
[あらすじ]《8分半程度》
“ウヴラ”の住まう惑星から数光年離れた、水を多く含む惑星へ降り立ったコイオスは、真上に広がる宇宙の星々を眺めながら溜息を吐いた―――。
【コイオス】
……、ここも異常なし…。
お前の言っていた事が杞憂に終わればいいんだがな。
【※※※※】
そんな事を言うコイオスの目の前に電子画面が映る。
どの惑星の画像にも、“NEGATIVE”に似た文字が交差して、バツを表していた。
【コイオス】
っ、
【※※※※】
不意にコイオスの目が揺れ、電子画面が閉じると同時に、彼の背後に“彼女”が降り立った。
【コイオス】
……レアー?
【レアー】
感謝しているわ、コイオス。
カイロスを殺してくれてありがとう。
【※※※※】
コイオスの訝しげな声に反して、ゼウス・ダイヤモンドの実母であるレアーは世間話を振るように話し始める。
コイオスは至極当然な疑問を全て飲み込んで、彼女に向き直った。
【コイオス】
……いつの、話をしている。
【レアー】
“アレ”はカイロスを裏切り者と言った。
だから“アレ”に属する者達は、カイロスを殺したくてたまらなかった。
【コイオス】
…レアー、聞こえているか。
【レアー】
“アレ”はカイロスが許せなかったの。だって自分を差し置いて、“あの人”の目に映るだなんて、正しく裏切り行為だもの。
まあ、カイロスが死んだのは、ソレを“仕方ない”、“そういうものだ”、で片付けられなかった“アレ”のせいでもあるのだけれど。
【※※※※】
淡々と紡がれる、分かるようで解らない話にコイオスの眉が寄る。
レアーの目にはコイオスが映っているだろうに、まるで彼が居ないかのように自分勝手に話している。
【レアー】
…だから、何にも属していなかった貴方が、コイオスが。“アレ”の、――クロノス・ダイヤモンドの癇癪に付き合ってくれて、良かったわぁ。
【コイオス】
(生唾を飲んで)
―――お前は、誰だ。
【※※※※】
そんなコイオスの言葉に、やっとこさレアーが反応した。ふふフふフフと、狂い始めのような笑い声を上げながら。
【レアー】
やだ、私を忘れてしまったの?
レアーよ。レアー・ダイヤモンド。
【コイオス】
…俺の知るレアー・ダイヤモンドは、決してクロノスの事を“クロノス・ダイヤモンド”だなんて呼びはしない。
…俺の知るお前は、フォボスやエウロペよりもクロノスを愛して止まなかった。
…俺達のレアーは、戦えもしないくせにクロノスの隣に居たがって、愛おしそうにクロノスを見つめていた女だ。
――少なくとも、そんな大きな武器を持つお前は、レアーではない。
【※※※※】
コイオスの言葉に、レアーは途端につまらなさそうな顔をする。
そうしてまた、好き勝手に話し始めた。今度は明確な殺意を滲ませて。
【レアー】
“あの子”が「お前は要らない」って言うの。
【コイオス】
(身構えて)
……、
【レアー】
だけれど、そんなの薄情な話じゃない。私ずぅーっと。“あの子”の為に動いてきたのに。
“あの子”が生きられるように、ちゃんと“シて”あげたのに。
なのに、今更。
酷いと思わない?
【※※※※】
長く深い溜息を吐いて、地に刺した大剣に凭れ掛かるレアーは、ふ、と笑ってからコイオスを見た。
【レアー】
でも、“あの子”は言ったの。
「コイオス・ルビーが居るから、お前は要らない」って。
だから―――
【コイオス】
っ……!? ぐ、ぁっ……!!
【レアー】
(悲鳴に近い声で)
お前の永久を壊せばいい…!!!
【※※※※】
大剣を抜き、コイオスの胸元を突き殴る。
強い力に押され、コイオスは吹き飛ばされた。
信じられなかった。コイオスの知るレアーは戦えないはずだ。クロノスが護身にと持たせた武器だって、レアーのマイルームで埃を被っていて、それをプロメテウスに揶揄われて……。
目の前の細身の女は、本当に―――、
【レアー】
“あの子”がクロノス・ダイヤモンドの為に動くというから…! “あの子”が“愛い子”の為に戦いたいというから…! 私は、身を粉にして働いてきたというのに…!
あ゛あ゛あ゛っ!!
全部全部全部!!!! ゼウスのせい! ゼウスのせいだぁッ!!!!
【コイオス】
…っ、待、て…! おい、レアー!
クソ、何なんだ、この強さは…!?
【※※※※】
まるで木の枝ように大剣を振り回すレアーに、防戦一方のコイオス。
ハルモニア辺りが見れば、「遊んでやっているのか」と笑いそうな光景だ。
【レアー】
あああああっ! 私だって“アレ”が正しいと思ってたっ!!!
【コイオス】
っ!? ぐ、ぁあ゛…!!
【※※※※】
レアーの大剣がコイオスの左手首に突き刺さる。
痛みにバランスを崩した彼の左目に、血に濡れた鋒が迫るが、それを寸での所で避け、コイオスは左手首を押さえる。
【レアー】
でも“アレ”は結局! 居もしない“神様”をいつまで経っても追いかけて、追いかけて、追いかけ続けて!!
ああ、馬鹿みたいな男! 本当に死んでくれて清々してるわ!!
【コイオス】
(痛みに悶えながら)
く、…クロノスは、死んだん、だな…っ
【レアー】
死んだわよ! ええ、ちゃんと! 殺してくれるって言っていたもの! “アレ”だって本望でしょう!? “偉大なる神様”に殺してもらえたんだもの!
【※※※※】
ボタボタと、赤色の鮮血が地面を染める。
圧倒的不利な状況で、だけれどコイオスはレアーの言葉に口角を上げ、こう言った。
【コイオス】
―――、…だとよ、ハデス。
【レアー】
…………………あ?
【※※※※】
目を彷徨わせたレアーの視界に映ったのは、音もなく現れた小さな電子画面。
通話中らしいその画面には、『ハデス・ダイヤモンド』と表示されていた。
【レアー】
……………ぁ、…………あぁ……あああぁ……?
【コイオス】
残念だ…はぁ、はぁ…レアー…。
お前の抱えた信念なんぞ…知りたくもないが…今この瞬間より…、はぁ…はぁ…お前――レアー・ダイヤモンドは宝石回路の敵だ…。
【レアー】
あああああああああああああっっ!?!?
【コイオス】
あ゛ぐぁ゛っっ!!
わ、るい…ハデス……、エウ、リュ、ノメに……よろし、く……つたえて、くれ……
【※※※※】
叫びながら放たれた大剣の鋒が、電子画面ごとコイオスの身体を貫いた。
【レアー】
ああああ! これじゃあ!! これじゃあ!! また“あの子”に棄てられる! 違う、違う違う!! 違うのよぉぉ!!
【コイオス】
あ゛っ…! う゛ぁ…! ぁく゛っ!!
【※※※※】
背から倒れ、口から血を吐くコイオスの胸目掛けて、何度も何度も大剣を突き刺すレアー。
ぐちゅり、ぐちゅり、と。
何度も何度も。
突き刺す。突き刺す。突き刺す。
【レアー】
はぁーっ。はぁーっ。
(静かな声で)
…オマエが、いけないのよ…、ゼウス。
オマエが生まれてしまったから、全てが狂ってしまったのよ…。
【※※※※】
夥しい血の海の中、もう動かないコイオスの上で、レアーがぽつりと呟いた。
そうして、コイオスの閉じた左目を無理矢理開け、ぐちゃり、と指を沈めた。
【レアー】
これが、あれば…私も、フォイべの神託を受けられるかもしれない…。
“あの子”がまた、私を必要としてくれるかも、しれない…。
【※※※※】
そう言って笑うレアーは、コイオスの上から退くと、大剣もそのままに何処かへフラフラと歩いていき、やがて姿は見えなくなった。
(間)
【※※※※】
「悪いなぁ、コイオス。ただ、死んでもらって感謝してんだぜ。お前が死んだお陰で、動く物語があるんだからな。
レアーが持ち去ったお前の左目に。
実の母を敵と見做したハデス。
それにほら、お前の可愛いエウリュノメも見物だろ?
………コイオス、向こうで待っててくれや。たんと土産話持ってくからよぉ…」
STORY END.




