★【拝啓、崇高な貴方へ】
声劇タイトルは【はいけい、すうこうなあなたへ】と読みます。
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♂2:♀0:不問1
鹿華 ♂ セリフ数:17
〈何処かで戦ぐ音。囁く声に耳を澄ます必要は無い。聞こえずとも其れに反応を寄越せば、人はそれ以上を求める様になるからだ〉
鹿嬭 ♂ セリフ数:14
〈中堅の語り部。囁く声すら聞き分けたい。けれど、聞きたい声はいつも快活で弱音は見えない。嗚呼、狡い人〉
ナレーション 不問 セリフ数:12
[あらすじ]《5分半程度》
風に追われる雲のように。ミツバチを誘う花のように。人々を魅了し、霧のように去っていく。語り部達は其の音を途切れさせぬよう、未来にタネを残してゆく―――。
【鹿華】
(伸びをして)
…さて、っと。寝坊助を起こすとすっか。
【ナレーション】
骨組みの粗い屋根の下。金色の首飾りをつけた男が、軽く伸びをしてから、傍らで眠る青年を見遣る。
【鹿華】
おーい、そろそろ移動すっぞ。起きろ、鹿嬭。
【鹿嬭】
……んん゛…。…おししょうさま…?
【鹿華】
よお、よく寝てたな。やっぱ疲れてたんじゃねぇの。
【鹿嬭】
(顔を顰めて首を振って)
…ん゛…、いえ、平気です。
…………ところで、…アレは。
【ナレーション】
鹿嬭と呼ばれた青年は、短い白髪をガシガシと搔きながら起き上がる。
青年を起こした男の名は鹿華。今はまだ、伝説ではない普通の中堅語り部である。
【鹿華】
華倖にゃぁ、ちょっとオツカイを頼んだんだわ。ヤビオク地方まで飛んでもらってる。
【鹿嬭】
そうですか、分かりました。
どこで合流ですか。
【鹿華】
フーラン地方の屋台通りで。こっからなら、三日で着くからな。途中で夜嘉瀬に会う予定もあるし、…準備できたか?
【鹿嬭】
お待たせしました。行きましょう、お師匠様。
【ナレーション】
立ち上がった鹿嬭の腰には、炎の模様が描かれた長剣が携えられていた。
伝説の男の二番弟子は、いつかの未来には『剣聖』と呼ばれるほどになるだろうと言われているのだ。
【鹿華】
―――そういやぁ、もうすぐ巣立ちか。
【ナレーション】
思い出したように言った鹿華に、鹿嬭の動きが止まるが、それに気付かない鹿華は言葉を続けた。
【鹿華】
長かったなぁ、鹿嬭。十年かー…。はは、でっかくなったなぁ…。
【鹿嬭】
………そう、ですね…。
【ナレーション】
鹿華の嬉しそうな声に、鹿嬭は胃の中からせり上がってきそうな空気を、無理やり飲み込んだ。
【鹿華】
(笑いながら)
…お前も華倖も喧嘩ばっかでなぁ。どっちが先に俺に呼ばれるかだ、野宿の見張りをどっちがやるかだ、ちっせえ事ばっかり。
これでも結構心配してんだぞ、独り立ちした後ってやつ。
【ナレーション】
ほら行くぞ、と固まる鹿嬭を促しながら、好き勝手に喋る鹿華。
こっちの気なんか、これっぽちも分かってないんだろうな、と未来の剣聖は少しだけ遠い目をした。
【鹿華】
なあ、鹿嬭。―――しっかり生きろよ。
【鹿嬭】
………………。……言われずとも。『鹿華』の名に恥じぬよう生きますよ。
【鹿華】
はははっ、相変わらず硬っ苦しいなぁ。
〈間〉
【鹿嬭】
そう言えば、夜嘉瀬殿の所へは何をしに?
【ナレーション】
歩き始めて数時間。
森の中を進んでいると、腹を空かせたらしい魔物に襲い掛かられたが、あっさりと鹿嬭が細切れにしてしまっていた。
一般人も安全に通れる、という文句を謳っている整備された山道のはずなのだが…、これは近くのギルドに寄って報告しておかないとな、なんて鹿華が考えていれば、剣を振って魔物の血を払っていた鹿嬭が思い出したように言った。
【鹿華】
ああ、妖術が掛けられてるらしい手鏡を見てほしいっつーんでな。
譲る云々も言われてたんだが、ンな素人目で見ても分かるような呪物要らねぇよってな。
そうしたら、とりあえず見に来てくれって話になったんだわ。
【鹿嬭】
なるほど。……まさか、対価もなしに受けたのですか。
【鹿華】
んあ? そう。
【鹿嬭】
……はぁーー……。そうですね、貴方様はそういう方ですよね…。
【ナレーション】
長く大きなため息を吐いた鹿嬭は、とりあえず目の前の死骸に、聖粉と呼ばれる、世界樹の枝を削って作られた粉を撒いた。
魔物の身体を分解し、土の養分に変える性質があるからだ。
【鹿華】
何だよ、夜嘉瀬からふんだくろうってか?
【鹿嬭】
っそうではありません、無償の働きなんて馬鹿がやる事ですよ。
夜嘉瀬殿だって、何もご用意されてないなんて事は無いでしょうが、そこらの事に貴方は無頓着過ぎるんです。
【鹿華】
んー…つってもなぁ、夜嘉瀬がその辺り、ぼったくってくる訳もねぇし、大丈夫だろ?
【ナレーション】
師匠の危機感のない発言に、鹿嬭は何度目かのため息を吐く。
きっとこの人は、相手が同期でなくとも同じ事をする、し続けるのだと知っている鹿嬭は、それ以上は何も言わずに息を漏らすだけに留めた。
【鹿嬭】
…一先ず、行きましょう。この先の町で語りをするのでしょう? …着物も汚れたので早く洗い流したいです。
【鹿華】
へえへえ。んじゃあ、早めに着いて腹拵えでもすっか。ギルドにも寄らねえとだし。
【ナレーション】
軽い足取りで先を行く鹿華を見つめながら、鹿嬭は自分の中のどす黒く、はしたない思いを、思わず、と言った風に零す。
【鹿嬭】
―――願うならば、生涯貴方様の傍に…。
【ナレーション】
その為ならば、何を敵に回そうとも構わない。
純情に見せ掛けた狂気を含んだ目は、鹿華がこちらを向いた瞬間、消える。
【鹿華】
…あー? 何か言ったか?
【鹿嬭】
…………いいえ、何も。
【鹿華】
何だよ、変な奴。ほら、置いてくぞぉ。
【ナレーション】
滅多に表情を変えない二番弟子の頬が少し緩む。
あれから数十年。
剣聖と呼ばれ、弟や妹に慕われ、静かに生きる鹿嬭は乞うように言うのだ。
【鹿嬭】
探すという愚かな選択をした兄も、
待つという馬鹿な事を選んだ僕も、
どうか、
笑ってください、鹿華様―――。
STORY END.
一人用声劇台本ページの語り部シリーズより。
それぞれ初登場台本を掲載しておきます。
語り部鹿華~猫万以々々編~
https://ncode.syosetu.com/n0087fo/78/
語り部鹿嬭〜異国編〜
https://ncode.syosetu.com/n0087fo/111/




