★【拝啓、佳麗な貴方へ】
声劇タイトルは
【はいけい、かれいなあなたへ】と読みます。
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♂1:♀1:不問1
麒麟 ♂ セリフ数:20
〈中堅の語り部。傭兵として中途半端に生きて死んでいくものだと思っていたら、予想外な所に拾われた。時々大剣を背負っている事を忘れる〉
羽弥芝 ♀ セリフ数:24
〈既に途切れた音。弟子を作ろうとは考えていなかったけれど、詰まらなさそうな彼を見てビビッと来た。ずっとずっと大好きな子だ〉
ナレーション 不問 セリフ数:13
[あらすじ]《7分程度》
風に追われる雲のように。ミツバチを誘う花のように。人々を魅了し、霧のように去っていく。語り部達は其の音を途切れさせぬよう、未来にタネを残してゆく―――。
【羽弥芝】
麒麟くん! おはよう! 起きて起きて! 朝だよー!
【麒麟】
叩っ斬るぞ…
【羽弥芝】
やだ、麒麟くんったら物騒! じゃなくて、イトの里着いたよ! 起きて起きて!
【ナレーション】
ガタゴトと揺れる馬車の中。髪の赤い青年は、腕を組んで眠っていたようだ。そんな青年を叩きながら起こすのは黒色短髪の女性だ。
【羽弥芝】
ほら、早くぅ! あ、すみませーん! 此処で降りまーす! ほら麒麟くん起きてってばー!
〈間〉
【ナレーション】
突き刺すような日差し。少し泥臭い風に、溢れんばかりの人、人、人。
赤髪の青年は背中に大剣を携えて、その光景に顔を顰めた。その後ろでは、御者に支払うよりも、多めの金を握らせている黒髪の女性が居た。
【羽弥芝】
いいの、いいの。ガルア地方からここまで乗せてもらってたんだもの! これで何か美味しいものでもどうぞ。またね〜!
【ナレーション】
思ったより重みのある小袋に慌てる御者へ手を振って、青年の元に走り寄る女性。
彼女は語り部の羽弥芝。中堅としては、珍しく古参と並ぶほどに有名な語り部だ。
【麒麟】
またお人好しかよ。
【羽弥芝】
やだなぁ、麒麟くん。お布施だよぅ。
【麒麟】
意味違えだろ。
【ナレーション】
そんな羽弥芝に苦い顔をするのは、弟子の麒麟だ。元は金さえ積めばどんな依頼も受ける血も涙もない傭兵だったが、羽弥芝の押し売りのような誘いに押し負かされ、弟子として今に至る。
【羽弥芝】
そんな事より! 麒麟くんは初めてだよね? イトの里。ここで語りは御法度だから観光しちゃうよ!
麒麟くんは何処から見て回りたい?
【ナレーション】
羽弥芝はイトの里の門番に入国料を払い、観光客用のリストバンドを付けると、それを麒麟にも渡した。
【麒麟】
つーか、何があんのか分かんねえ。
イトの里っつったらアレだろ、「アズマ」の起源。
【羽弥芝】
わあ、麒麟くん知ってるの? そうだよ。この一色山から生まれた妖怪が人間に惚れて結婚して、いーっぱい子供を作ったんだって! それが「アズマの一族」。
【麒麟】
アンタもだろ。
【羽弥芝】
うーん、私は「アズマ」の遠い親戚みたいな感じ。あー、えーっと森波瀬知ってる?
【麒麟】
中堅の一人だろ。アンタより一世代上だったか。
【羽弥芝】
うん、そうそう。よく勉強してるね。森波瀬は「アズマ」の血が濃いから、一緒に居るとぽかぽか〜って落ち着くんだ。
森波瀬も「アズマ」についてはよく分かってないみたいだけどね。
【麒麟】
この大陸を繁栄させた一族だってのに、歴史に残るのはその名と、残す迄もねぇ小さい出来事のみ。
正直言ってきな臭ぇよ、「アズマ」なんて。
【羽弥芝】
(苦笑いして)
あはは〜。…同意見かも。
あ、麒麟くん! アレ! あのお菓子オススメなの!
【麒麟】
あ゛っ!? おい、こんな人混みで走んなッ!
【ナレーション】
人混みを縫うように目的の店へ直行する羽弥芝を怒鳴る。
興味あるものを見つけると、見境なく突撃してしまう困った師匠にため息を零す。
やがて追跡を諦めた麒麟は、近くの日陰に凭れて彼女が戻って来るのを待つことにした。
〈間〉
【羽弥芝】
一色山の山頂にある家々はイトの里でも強い権力を持った「上級官人」が暮らしてて、今でも特別な招待状が無いと中には入れないようになってるんだよ。
【麒麟】
所謂王城ってところか。
【羽弥芝】
まあ、そんな感じかな。語り部が仕事をするのを禁止したのは何代か前の上級官人だったみたいだけど…、何で禁止にされたのかよく分かんないんだって。
【ナレーション】
アレもオススメ。コレもオススメ、と。
あっちだこっちだ動き回る羽弥芝の襟を掴んで、一先ず落ち着かせた麒麟は暑苦しい人混みを抜けた。
いつの間にか彼女が買い込んでいた軽食やら菓子やらを、彼女が持つ、籠箱という名の魔法道具の中に放り込んで、適当に取り出した軽食を二人で食べていた。
【羽弥芝】
とりあえず今日はいっぱい食べていっぱい遊んでイトの里を堪能しよぅ!
【麒麟】
………はぁ、暑苦しい…。
【羽弥芝】
ちょっとー! そこは「おおー!」って言うところでしょー!
【ナレーション】
・・・まぁ、何はともあれ。
一色山の麓から山頂へ続く家々、観光客向けの屋台や店に溢れるイトの里をめいいっぱい楽しむには、一日だけでは足りないだろう。
麒麟は隣で軽食を頬張る師匠を見遣って、これから連日振り回される事になるんだろうと予想してため息を殺したのだった。
〈間〉
【羽弥芝】
(囁くように)
麒麟くーん。起きて〜、そろそろ行くよ〜
【麒麟】
…ぁ゛? 行くって何処に。
【羽弥芝】
もう発つんだよー? まだ太陽も出てないから眠いだろうけど急いでね〜。
【麒麟】
・・・はあ?
【ナレーション】
あの後も結局、あちらこちらに興味を引かれて燥ぐ羽弥芝に振り回された麒麟は、彼女がいつの間にか取っていた宿屋の一室で眠りについたはずだ。
「まだ太陽も出ていない」、その言葉を聞いて麒麟は窓の外を見遣る。鳥も鳴いていない、静まり返った夜が広がっていた。
【麒麟】
おい、何だってんだよ。
嫌いな語り部でも来てんのか。
【羽弥芝】
ううん。でもちょっと調べが足りなかったみたい。今の時期、一色山の山頂で上級官人達の会議が行われてるんだよ。
気にしなくてもいいんだけど、ちょっと心配だから今の内に里を抜けようと思って。
【麒麟】
・・・ふーん。
【羽弥芝】
あ! 昼間に買い込んだお菓子とかお土産とかは籠箱に入ってるから、そこは心配しないでね!
【麒麟】
最初っからしてねぇよ。
【ナレーション】
麒麟のツッコミに「えー」と不満げな羽弥芝だったが、帰り支度の手は止めず、麒麟が伸びをし、大剣を背負うと同時に部屋を出る。
誰も居ない受付に、部屋番の書かれた札と、お代にしては少し多めの金を置いてそそくさと宿屋を出た二人は、そのまま門番にリストバンドを返して里を出た。
【麒麟】
名が売れるってのも良い事ばっかじゃねぇのな。
【羽弥芝】
……ふふ。そうだね。でも、良い事の方がずっと多いよ。
【ナレーション】
上級官人達の会議。
気にする事は特に無いと言っていた羽弥芝だったが、もし、有名な自分の名がその会議まで届いてしまったら。
もし、この里で語りをしてはならない理由に何らかの形で触れてしまったら。
そんな少し臆病で情けない考えなぞ伝わらなくて良いと思っていたのに。
麒麟は、この優秀な弟子はしっかり分かっていたらしい。
【羽弥芝】
隣の村まで行ったら宿を取ろっか。寝足りないでしょ?
【麒麟】
(大あくびをして、伸びもする)
ふぁあぁ。…〜だな。ぁぁ――…! 師匠が耳目を集める奴だと苦労するぜ…。
【羽弥芝】
ふふ。麒麟くんもいつかこうなるんだよ。
【麒麟】
ならねぇよ、面倒くせぇ。
【羽弥芝】
――ううん! 絶対なる! だって、
【ナレーション】
もう、彼女との思い出は殆どが霞んでしまってよくも思い出せないけれど、この時の笑顔だけは何故か、今も鮮明に覚えているのだと麒麟は言う。
【羽弥芝】
だって私のだーい好きな自慢の弟子だもん!
【ナレーション】
太陽すら顔を出していない夜更けの刻。
今でもたまに思い出しては、ああ、あの時の事だ。と、懐かしく思うのだと語るのだ。その時の彼はいつもの彼とは違い、ほんの少しだけ優しげな顔をしている気がする。
【麒麟】
…………そうかよ。
【羽弥芝】
あ、麒麟くん今照れた? 今照れたでしょ!?
【麒麟】
るせぇ、さっさと行くぞ。
STORY END.
一人用声劇台本ページの語り部シリーズより。
それぞれ初登場台本を掲載しておきます。
語り部麒麟〜遭遇編〜
https://ncode.syosetu.com/n0087fo/39/
語り部羽弥芝〜落馬編〜
https://ncode.syosetu.com/n0087fo/42/




