◇【曇った窓の向こう側 前編】
声劇タイトルは
【くもったまどのむこうがわ ぜんぺん】と読みます。
こちらの台本にはボーイズラブ、ガールズラブ(同性愛)要素が含まれます。以下の配役を異なる性別で演じる行為は禁じていますのでご理解ご協力のほどよろしくお願い致します。
【レイヤ】【キク】 必ず男性(男声)
【ハルナ】 必ず女性(女声)
表劇、裏劇に限らずの規約ですので必ず遵守下さい。
台本ご利用前は必ず『利用規約』をお読み下さい。
『利用規約』を読まない/守らない方の台本利用は一切認めません。
※台本の利用規約は1ページ目にありますので、お手数ですが、『目次』をタップ/クリック下さい。
♂2︰♀1︰不問0
レイヤ ♂ セリフ数:28
〈大人しい青年。親の望んでいた大学に入れず落ち込んでいたが、キクとの出会いでそれが少しずつ変わっていく〉
キク ♂ セリフ数:23
〈お調子者の青年。思ったより頭の良い大学に入れたので安心しきって単位を落とし気味。レイヤの事を親友と思っている〉
ハルナ ♀ セリフ数:12
〈レイヤの姉。同性愛者。異性恋愛の考えしか持っていない母親と相容れず恋人と駆け落ちした〉
[あらすじ]《7分程度》
「レイヤ、どうか…“普通”であってちょうだい」母はそう言った。ちょうど、姉が『彼女』を家に連れてきた時期だった。まだ子供だった僕は訳も分からずソレに頷いて。僕は今、その頷きに随分頭を悩ませていた―――。
【キク】
よぉ、レイヤ。はよ。
【レイヤ】
おはよう、キク。寝坊?
【キク】
電車が人身事故だってさ。タクシー使おうにも駅前は人ばっかでさ。どうせ必須科目も無かったし、二限くらいまではサボろっかなって。
【レイヤ】
そんな事言ってるから留年の危機なんて言われちゃうんだよ。
【キク】
げっ、お前までンな事言うなよ…。
ただでさえ教授の目が厳しいんだから。
【レイヤ】
それこそ知らないよ。
あ、そうだ。この前言ってたカラオケ、今週末って言ってたけどさ、来週にしてくれない?
【キク】
あ? 何で?
【レイヤ】
母さんが一週間出張でさ。
その間に姉ちゃんが帰ってくるの。5年ぶりだし色々話したくてさ。
【キク】
ああ、『彼女さん』と駆け落ちしたっていう?
【レイヤ】
……………、…そう。
母さんの居る時に帰ってくるとさ…、絶対喧嘩になるっていうから…。ちょうどいいかなって
【キク】
ふーん。…それってさ、俺も居ちゃ駄目か?
【レイヤ】
え、何で? いいとは思うけど。
【キク】
いや、何かレイヤの姉ちゃんってめちゃくちゃ破天荒なイメージあんだよなぁ。だって小学生ん時、中学生男子投げ飛ばしたんだろ? ぜってー面白い人じゃん!
【レイヤ】
姉ちゃんに聞いてみるよ。多分大丈夫って言うだろうけど。
【キク】
いつ帰ってくんのっ?
【レイヤ】
だから今週末。…まあ、母さんの仕事の都合にもよるから…早くなるかもしれないけど。また言うよ。
【キク】
おうっ!
――――――…
【レイヤN】
昔から姉は普通とは違っていた。男になりたいと言っていた時期もあった。恋愛対象は全て女性だったし、買ってくる恋愛マンガは全て女性同士の恋を描いた『珍しい』もの。
僕は幼い頃から人の波に流されて生きてきたからそれに逆らって生きている姉をとても、とても尊敬していたし、…嫉妬もしていた。
だから姉がいよいよ『彼女』なんてものを連れてきた時、母が僕にあういう事を言うって理解出来た。
でもいざ言われてみると。
子供ながらに思ったのだ。
“普通”って何だろうって。
――――――…
【ハルナ】
へえ、キク君って言うのか〜! レイヤの友達なんて初めて〜! 大学はどう? ちゃんと勉強してっか?
【キク】
大学は〜…まあ、ぼちぼちって感じっすかね〜…?
【ハルナ】
あははっ、目が泳いだ〜! いいの、いいの。大学生は馬鹿やって遊んでな〜。
【キク】
あれ、ハルナさんも大学出てんすか?
【ハルナ】
アタシは中退。途中で母さんと大喧嘩しなきゃ、ちゃんと通えてたと思うけどね〜。
まあでも、いいの! アタシは今、ミゾレと一緒に居れて幸せだし!
【レイヤ】
ちょっと、キクに変な事言わないでよ…?
【ハルナ】
おかえり、我が弟よ〜! あ、これちっちゃい頃食べてたヤツ〜! 母さんが好きで買ってたっけ。今も好きなの?
【レイヤ】
今は甘いもの、食べなくなったよ。
はい、キクは麦茶。姉ちゃんはココアで良かった?
【ハルナ】
おお、よく分かってんじゃん。さすがレイヤ!
…でもそっか、レイヤももう20歳か…。早いなあ。…成人式は? 行ったの?
【レイヤ】
行ったよ。母さんが煩くて。もうスーツも注文してるなんて言われたらバックレられないし。
【ハルナ】
ああ〜、やっぱり? アタシん時もそうだったわぁ…懐かしい〜。
『馬場さんとこのヨシヤさんが晴れ着用意してくれてるんだから早く起きなさい』
って。当日に言われるっていうね。つーか、馬場さんとこのヨシヤさん誰だし。
【レイヤ】
変なって言うとアレだけど、どういう繋りか分かんない知り合い多いよね、母さん…
【キク】
何か、さあ。
【レイヤ】
ん?
【キク】
大喧嘩したって割に母親の事とか普通に話すんすね?
【ハルナ】
ああ〜、それね。
アタシは別に母さんの事許せないわけじゃないんだよ。普通に好きだし。気持ちはうんと理解出来るし〜。
ただ、母さんにはね。うん、あの人は多分一生理解しないんじゃねぇかな、うん。一生。
わざわざ喧嘩しに来るのも面倒だし、レイヤに迷惑かけたくないし、帰ってくるのは母さんがいない時ってだけ。
【レイヤ】
…………。
【ハルナ】
母さんは別にな、悪い人じゃないんだ。
アタシとかミゾレとか、同性を好きな人とかを理解出来ないだけで。
アタシがカミングアウトする前は良いお母さんだったぜ。いっぱい、感謝してんだ。
【レイヤ】
…ね、姉ちゃ
【ハルナ】
だからさ、仕方ないんだ。
母さんと会えないのも話せないのも。
アタシがミゾレを好きになったのも。
それを母さんが理解出来なかったのも。
【レイヤ】
…………っっ。
【キク】
ふーん、そういう風に考えてんすね。
【ハルナ】
こんな風に考えられるまで随分掛かっちまったけどな。
許容の範囲が違っただけ。狭い事は悪い事じゃないし、広くあればいいってもんでもねぇ。
……、ちょっと寂しいけどなっ。
――――――…
【レイヤN】
良くない事を、言ってしまいそうだった。
だから必死に奥歯を噛み締めて俯いていた。
……………。
“仕方ない”?
仕方ないって、何だ。
姉ちゃんが、ミゾレさんと駆け落ちしたのも、母さんがそれらを許せなかったのも。
仕方ない事だったなら。
母さんが『普通でいろ』と僕に願ったのも。姉ちゃんが母さんにとってどれだけ愚かだったのか延々と聞かされたのも。
『姉ちゃん』を諦めた母さんが僕にしてきた事も。
全部、『仕方ない』の…?
――――――…
【ハルナ】
じゃあ、レイヤ。また連絡するわ!
次はアタシとミゾレの家に来いよ、歓迎するぜ!
【レイヤ】
覚えてたらね。ほら、もう電車の時間でしょ。着いたらメッセージ送ってね。
【ハルナ】
ああ! じゃあまたな!
【キク】
………。
何か、台風みてぇな人だったな。
【レイヤ】
言い得て妙過ぎる…。
まあ、忙しい中、時間縫って来てくれたんだし文句も付けてられないけどね。
【キク】
こん後どうする?
【レイヤ】
ああ、ごめん。姉ちゃんが来てた痕跡消さないと。こういう時、母さん鋭いから。
【キク】
浮気の証拠消すクズ男みたいな発言するな。
【レイヤ】
多分そこまで差異は無いよ。
だからごめん、今日はこれで解散って事で。
【キク】
いいぜ、逆に俺が無理言って会わせてもらったようなもんだし。つーか、すげえな。お前の姉ちゃん。ちゃんと自分の母親の事、分かってんだな。分かり合うことは無理かも知んねえけど。
【レイヤ】
………、
【キク】
レイヤ?
【レイヤ】
…………え、あっ…な、何?
【キク】
いや、こっちのセリフ。…大丈夫か?
【レイヤ】
…うん、大丈夫。……何でもないよ。
【キク】
ホントに?
【レイヤ】
……っえ。
【キク】
ホントに、『何でもねぇ』の?
【レイヤ】
………………うん。…本当に、…何でもないよ。
【キク】
…そっか! じゃあまた明日、大学でな!
【レイヤ】
…うん。また明日ね。
STORY END.




