【俯く雫】
声劇タイトルは
【うつむくしずく】と読みます。
こちらの台本は兼役があります。
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♂1:♀2{3}:不問0
目の光がない青年 ♂ セリフ数:32
★影のない少女 ♀ セリフ数:19
青年の妹 ♀ セリフ数:15
★青年の母親 ♀ セリフ数:9
[あらすじ]《10分半程度》
恋人が死んだ。活発で賢い人だった。歳上で、でも少しドジな所もあって。交通事故、即死。そんな訃報は僕の誕生日の翌日に届いた―――。
【青年の妹】
お兄ちゃん、おはよう。
【目の光がない青年】
おはよう…、母さんは?
【青年の妹】
父さんの忘れ物届けに行ったよ。
これ、お兄ちゃんの朝ごはん。
【目の光がない青年】
あぁ、うん。ありがとう…
……今日さ…、散歩に行こうと思って…
【青年の妹】
そなの? どこまで?
【目の光がない青年】
……決めてない、かな。
【青年の妹】
そかそか。じゃあ帰る時はLIMEしてね。あと気が向いたらお土産もね。
【目の光がない青年】
……うん。
◎
【青年の母親】
…ただいまー…。はぁ、もうお父さんったら昨日あんなに要るってうるさかったのにいざって時に忘れちゃうんだからっ
【青年の妹】
母さんおかえり〜。お兄ちゃん、散歩だって。
【青年の母親】
あら、大丈夫かしら…。
【青年の妹】
大丈夫だって。母さんは心配しすぎ。
帰る時にLIMEするように言ったし、…それに今日は何だか大丈夫な気がするの。
【青年の母親】
そんな確証もない。
お父さんにメールしておかないと。
【青年の妹】
もう、心配性だなぁ。
お兄ちゃん、自分から散歩なんて言い出したの初めてでしょ? 行かせてあげたいじゃん?
【青年の母親】
全くもう、この子は…。
◎
【目の光がない青年N】
流れる景色をなんとなく見ながら海が見えるのを待った。
電車に乗るのは久々だ。いや、そもそも。外に出るのが久々だった。玄関から出た時、窓から覗くのとは違う太陽の光に目を細めた。
あの人が死んで。よく分からない感情に苛まれる毎日だった。葬式も通夜も何も分からないまま泣き続けた。
今日も引きこもっていたら三ヶ月目に突入してた。このままではいけないだとかそんな事を考えたんじゃない。ただ、こんな僕を見ても顔を顰めるでも落ち込むでもなく、いつもと同じようにご飯を用意してくれる母親を見たくなかっただけなんだ。
◎
【青年の母親】
ハルカちゃんが亡くなって三ヶ月ね…。
…早いわね。つい先日みたいに感じるわ…。
【青年の妹】
……。お兄ちゃんさ、ずっと泣いてたもんね。お葬式もお通夜も。ずるいよ、神様は。いっつもお兄ちゃんの大事なもの奪ってく。
【青年の母親】
……………、…………そうね。今回ばっかりはもう駄目かと思ったけど…。
【青年の妹】
アタシも。次お兄ちゃんの部屋のドア開けたら首吊り死体でもあるんじゃないかと―――
【青年の母親】
こらっ、滅多な事言うんじゃないわよっ
【青年の妹】
母さんも大して変わんないじゃない。
【青年の母親】
っまぁ!
◎
【目の光がない青年N】
波の音。なぜか懐かしい潮の香り。
きっとこれは。何かの始まりなのではないか、なんて。電車を乗り継いで来た名前も知らない海辺。砂浜の砂は少し湿っていてザラザラしている。
【影のない少女】
なあ。飯握り食べないかっ!?
【目の光がない青年】
………あ―――?
【目の光がない青年N】
唖然とした口から勝手に漏れた声。葉っぱに包んだ何かをこちらへ差し出した少女は不自然に影がなかった。
多分これは。
すごく不思議な初めての海で。
すごく不思議な影のない少女と出会った話になるんじゃないかと思う。
出来れば、少し。付き合って欲しい。
◎
【影のない少女】
美味いだろ? 私が握ったんだ。炊きたての米をちょっくらもらってな。
【目の光がない青年】
………、……ん。美味しい…。
【影のない少女】
…。やけに元気がないな。ここらでは見ない顔だし。…何だ、死ににでも来たか!?
【目の光がない青年】
何で嬉しそうなの…。今日は散歩。死ぬ気は無いよ。
【影のない少女】
何だつまらん。お仲間が増えるかと思ったのに。
【目の光がない青年】
……。
【影のない少女】
何だ、気付いてなかったのか? ほら、見てみろ。影が無いだろ? 私はこれでも一応『幽霊』ってやつなのさ。
【目の光がない青年N】
ほら、という声とともに宙へ手を翳した少女には影がなかった。翳した手の影が顔に落ちるかと思ったが、少女の顔に手の影はなく、満遍なく太陽に照らされていた。
【影のない少女】
まぁ。でも。死ぬ気がないのは本当だろうな。お前から生気は感じられないが死臭もしない。
それに私の握った飯を食っても何ら変化も無いということは、そういう事だっ。
【目の光がない青年】
…………? どういう意味?
【影のない少女】
意味なんか無いさ。ただ、『そういう事』って事だ。…何にでも意味を求めてしまってはつまらない人生になってしまうぞ。
【目の光がない青年】
何それ…変なの。
【影のない少女】
変でもいいのさ。幽霊だからな。
【目の光がない青年N】
ふふん、と得意げに笑った少女はグイ、と伸びをして膝に置いた葉包みからおにぎりをまたひとつ手に取った。
【影のない少女】
どこから来たのだ。
【目の光がない青年】
隣町。トンボの坂よりもっと向こう。
【影のない少女】
ふーん、随分遠出の散歩だな。ワケありと見たがどうだ?
【目の光がない青年】
……幽霊に比べれば訳なんてあってないようなものだよ。
【影のない少女】
まぁな! これほどまで“いんぱくと”のある存在もまぁ無かろうよ。……まあ、はぐらかしなど興味は無いのだ。
私の姿が見えて今にも野垂れ死にそうな青年が一人。事情を聞かぬはただのお人好しよ。
【目の光がない青年】
…………、恋人が死んだんだ。三ヶ月くらい前に。
【影のない少女】
病か?
【目の光がない青年】
交通事故。即死だ、って。
今でも半分くらい夢だと思ってるんだ。
葬式も通夜もしたってのに。散々、…泣いたってのに…。
【影のない少女】
……、ツラいのだな。
【目の光がない青年】
…。そりゃあさ、ツラいかツラくないかで聞かれたらツラいさ。…結婚、間近だったんだ。…指輪も買ってさ。式場も…、あんまり高くないとこにしようって、二人で選んでた所だったんだよ…。
ツラいよ…、もう一度会いたいよ…一度じゃない…事故なんか無かったことにしてっ…あの人に、ずっと…ずっと会ってたいよ…。
【影のない少女】
…。…、私はな、自殺なんだ。
【目の光がない青年】
は―――。
【目の光がない青年N】
少女が突然そう言った。
真っ直ぐ海を眺めてそう言ったんだ。
【影のない少女】
ただの好奇心だったよ。
死んでみたい、なんて。
ポケットに石を詰めてな。海へズブズブと入っていったさ。……ああ、ここの海じゃない。もっと汚くて、誰も泳ぎにこないような場所さ。
死ぬ瞬間ってのはな、例え自殺であっても怖くて仕方なかったさ。
…ツラかったろうさ。事故なんて。
死ぬ覚悟なんて用意してなかったろうに。
ツラいだろうな。…遺された方も。遺した方も。
【目の光がない青年】
……………。
【影のない少女】
……、青年。一つ、頼まれてくれないか。
【目の光がない青年】
…何を。
【影のない少女】
おつかいってやつをだ。
【目の光がない青年】
はあ?
◎
【青年の妹】
………あっ! お兄ちゃん、遅ぉぉい!!
帰る時はLIMEしてって言ったでしょ! もう! 母さーん! お兄ちゃん帰ってきたよー!
あんまりにお兄ちゃんが遅いから母さんってば警察呼ぼうとか騒いでるんだからね! って、あれ…? お兄ちゃん、何持ってるの?
【目の光がない青年】
……あーっと、お土産? かな。
【青年の妹】
何これ、お饅頭…?
◎
【目の光がない青年N】
少女の突然の発言に僕は戸惑って彼女を見た。相変わらず影のない気味悪い少女はニッコリと笑って遠くの駅を指差した。
【影のない少女】
ここから少し行くと無人駅がある。その近くに青い屋根の家があるんだがな。そこへこの葉包みを持って行ってくれ。
【目の光がない青年】
何で僕が。というか誰か居るんじゃないの。無理だよ、僕。人見知りだから。
【影のない少女】
大丈夫、大丈夫。ボケた爺さんが居るだけだよ。
◎
【目の光がない青年N】
少女に言われ、僕はなぜか素直に従ってその青い屋根の家へ向かった。
そこには少女の言う通り、縁側に一人のお爺さんが座っていた。
やけに響くチャイムを鳴らすとお爺さんはゆっくりこっちを見た。先程まで惚けていた顔が驚きに染まるのを僕は不思議な気分で見つめて、それからお爺さんがオイオイと泣き始めたのを見て漸く慌てた。
お爺さんは暫くして泣き止んで僕に何も言わせないまま、手の中にあった葉包みを引っ掴んで家の中へすっ飛んで白い箱を持ってきた。
戸惑う僕にお爺さんはありがとう、ありがとうと何度もお礼を言うとそのまま縁側に戻っていった。
僕は何だかそこに居るのがとても悪い気がして急いで海へ戻ったけれど、もう少女の姿はどこにも無かった。
◎
【青年の妹】
お兄ちゃんにしては気が利いたお土産じゃない? ヤズヤのお饅頭だなんて。
【青年の母親】
隣町まで行ってたなんて…。全くもう心配させないでよね…。あ、お父さんにもメールしておかないと…。
【目の光がない青年】
ご、ごめんなさい…
【青年の妹】
全く過保護なんだから…。ちょっとやそっとじゃ死にはしないよ。
でもホントに美味しい。しかも箱買いなんてお兄ちゃんやっる〜!
【目の光がない青年】
食べ過ぎだよ、虫歯できても知らないからね。
【青年の妹】
大丈夫、大丈夫! あ、お仏壇にもお供えしとこうねっ!
【目の光がない青年】
…うん。そうだね。
STORY END.




