いつもの事
「どう?まだ居る?」
鬱蒼とした森の中、少女が聞いた。
「あぁ、まだ居るな。あれはまだ当分離れないな」
その問いに答えた声は男性的な声であるが機械的に作られた声だ。
「うーん、こっちの道が近いけど遠回りするしかないよね」
さして期待してなかったのだろう、予想通りだとも言いたげな返事をする。
それに対して機械の声は
「だな、無理やり突っ切っても良いけど弾が勿体ないし車体が傷付くのは嫌だ」
肯定する返事だったがしかし続けて
「もう少しは警戒すべきだったんだ、普通の旅人なら問題は無いだろうけれども、ノラ、君の見た目なら特に『襲って下さい』と言ってるようなものだ」
続いた言葉は怒ったようだった。
「ごめんって、でもその言い方はちょっと酷いよ…クロウ君…」
ノラ、そう呼ばれた少女は少々落ち込んだ様な声で返す。
「だってそうだろう?こんな時代に君みたいに鍛えてる訳でもない女の子が旅なんてしてて、あまつさえ次の街のルートまで教えてたら誰だって狙うさ」
クロウ、そう呼ばれた声は淡々と追い打ちをする。
「第一、何度も言ってるけど君はもう少し服装に気を使うべきだ、旅人なら旅人らしい服装があるだろう」
なんて当たり前のことを言う。しかし当然だろう、というのも少女の見た目だ、10代後半、人によっては前半と見られそうな顔立ちに低めの身長に白い肌、一目で鍛えてないと分かるような痩せた体型に更に服装もブーツに白のワンピースと旅人と言うより街中に居る様な服装だからだ、しかし―――
「服に関してのクレームは聞きません」
少女は耳を手で塞ぐ様な素振りでアピールをする。
もう何度も同じやりとりをして来たのだろう、クロウはため息をつき
「まぁ良い、いや良くないけど仕方ない、話を戻そう。」
これ以上は無駄だと判断したのだろう、クロウはすぐに話を変えた。
「ルートを変えるのは賛成、この森を挟んで進む、それで良い?なんなら目的地を変えても良いけど」
それに対しての返事は
「うーん、目的地は変えないでそれで行こ、向こうも街までは来ないだろうしそれに―――」
「それに?」
含みを持たせるよう言い回しに思わず聞き返すが
「良い加減お風呂に入りたいなって」
聞き返したのがバカバカしくなる理由だった。
「はぁ…」
「え?ダメだったかな?流石にこれ以上入らないのはどうかと思ったんだけど…」
思わず出たため息に対して困惑しながらもおかしく思っていない返事を返す。
「もう良いや、行こう」
諦めた様に返事をするとクロウはドルンッとエンジンをかけ車内に戻る様促す。
ノラはすぐに車内に戻りながらなんとなく提案する。
「そうだ!次の街まで私が運転するのは―――」
「絶っっ対に嫌」
「いつになったら運転させてくれるのさ!」
言い切る前に一蹴、しかしそう言うのを分かってたのかすぐさま言い返す。
「君がもう少し大人しくなったらね」
それに対する返事も早かった。
「またそれだよ…」
もう何度目だと言いたげな、すこし不貞腐れた声で答えながら二人は森を進み出しながらクロウが言う。
「やっぱり言っとく、服装とかどうより君はもう少し我慢を覚えるべきだ」
「3日で行ける街にもう7日たってるんだからそれは許してよ…」
…正確には一人と一台か、クロウと呼ばれた声は車自体から出されていたからだ、更に言えば車と言っても強化装甲に8輪タイヤ、大型の砲などの武装がされた戦闘車両だった事を除けば普通の会話だっただろう。