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41.盟約

試しに三人称視点で書いてしまいました。

すみません。



1551年 5月(天文二十年 皐月)


 

 豊後水道に入り徐々に近づきつつある九州の陸地をぼんやりと眺めていたが、不意に侍女と佇んでいる母の様子を伺った。


 (()()()、お元気ですか?)


 などと、声には出さずに心の内で問いかける。

 もちろん、答えが返ってくることはない。



 詮もないことを思っていても仕方がないと、別の事を考え始めていた。考えていた事は、大内の守護館で知己を得た公家、三条公頼の話である。


 聞き及んだ内容からは、あまり耳よりな話とは言えない。

 

 ”大内家中に不穏な気配あり”



 大内家に逗留中は、相良武任などの文官達とは交流を持てていたが、武官となると交流どころか良くても軽く挨拶が出来る程度であった。厭われているのかと問えば、この時期の大内家中では文官と武官の派閥間で諍いが絶えず、とにもかくにも互いのすることが気に入らない有様。中には融和を図る者もいるのだが状況は好転していかず……と、なるほど家中に張り詰めた空気を感じたのは勘違いではなかったらしい。


 そんなところに一条家の者達が訪れて義隆に気に入られた上、公家衆とも親しくしたのだから元より公家を厭悪(えんお)していた武官達は益々不満を募らせた。武官を率いている陶隆房(すえたかふさ)に至っては視界に入るたびに鬼の形相で万千代達を()めつけていた。



 気疎(けうと)い空気ではあったが、それでもお家の話を聞くことができるのは有り難く、大内家に仕えていた者で一際に興味を惹かれる人物『龍崎道輔』の名があった。


 聞けば、大内家の歌集に撰者(せんじゃ)として名を連ねるほどの文人であり、三条西実隆が存命中には公卿や殿上人といった高位の者達の交名注文(きょうめいちゅうもん)を譲り受けているそうだ。


 この時代では誰がどれだけの官位に就いているのかを調べるだけでも一苦労する。伝手のある公家から更に高位の公家へと辿るためその分謝礼も必要であり、そうまでして態々調べる者はいない。故にこれまでは交名としては残されてこなかったのだ。


 これは大家である大内であっても大変貴重と言えるものであったに違いない。写しを見る事を許され確認していると、そこには例に漏れず一条家の名前も記されている。もし実際に会うことが叶ったのならば龍崎という文人は異彩を放っていたことであろう。



 その交名注文を送った三条西実隆という男の名は未だに耳にする事を思い出す万千代。


 生前は芸事に精通しており多岐にわたって交友関係があった人物である。大内義隆とはもちろんのこと、今川氏親、一条兼良(かねら)とも和歌や古典について話し合っていた記録が残されている。芸事を多く学べばそれだけ他者と親交を持つことを容易となる事だ。


 更に凄いのは千利休も師事したという武野紹鴎(たけのじょうおう)へ和歌や茶を教えたということであろう。


 寂敷(さびしき)を造った珠光、侘敷(わびしき)を造った紹鴎、茶道を完成させた利休。この三人はまるでホトトギスの短歌に例えられる三将のような関係に似かよっている。その茶道の原点に関わっているというのは感嘆に値する。


 大内家息女の珠光とは関係がないが、寂敷の珠光というのがまた凄い。


 それまでの高級品である唐物道具を使用し豪華に飾り付ける室礼(しつらい)を止め、四畳半の狭い空間で粗末な道具を好む『冷え枯れる』の境地を至上としたわび茶の創始者で、かの有名な一休宗純に参禅して印可を受けたほどの僧なのだ。


 


 ◾️◾️◾️




 万千代は考える。

 陶の謀反は今年起きるのかもしれないと。


 大家ともなれば家臣同士の諍いも多いのだろうが、武官と文官で派閥争いが生じているのは大きな問題だ。この外交で親密を深めた大内家が史実と同じく滅びてしまうのは悲しすぎる。しかし、謀反を覆すほどの武力を一条家は有していない。


 義隆にも遠まわしに解決へ向くよう促したがあまり気にした様子がなかったので、知己を得た者には万一のことあらば一条家を頼るようにと申し伝えた。それでも出来得るのであれば滅亡こそを何とかしたいという思いでいる万千代。希望があるとしたら、大友家に助力を願うことだろう。しかし、果たして同意を得られるのであろうか?




 兵部卿宮と話す機会があったにもかかわらず盟約の話は全くせずに守護館を後にした。今更ながらに不安となり顕古に相談する。



「大内とは盟を結び直す話が出やらなかったが如何したことか」

「はっはっはっ。万千代様、それは違いますぞ。兵部卿宮は万千代様を大層信頼しておるのです。そもそも『盟を結ぶ』というのは互いに信用しきれず、誓いを立てることで相手を縛るというものなのです。兵部卿宮が万千代様の心根を推し量った末に信用あらば盟を結ぶなど必要も無いとお決めになられたのでしょう。であればご心配は無用かと存じまする」



 顕古は年嵩のやわらかな笑みを浮かべ、こちらの心を落ち着けてくれる。信用していればこそ必要ないということかと得心がいった思いであった。



 そうこうする内に、気づけば豊後国の船着場が見えていた。


 

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