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38.結界

 


1551年 4月下旬(天文二十年 卯月)



 四万十川を下り土佐清水を廻り日向灘から豊後水道へ、右手に伊予と左手に豊後国を眺めながら周防国に入った。


 椹野川(ふしのがわ)を上っていくと四衢八街(しくはちがい)の賑わいの城下町が見えた。様々な装いの人が大勢行き交い活気に満ちており、さざめきからは棒手振(ぼてふ)りの野菜や魚を売る声が聞こえてくる。


 前もって大内領に入ることを連絡したためか、船着場で船を降りると案内役という男二人が待っていた。



「ご一同は一条家のお方々で御座いまするか?」

「如何にも。一条家臣の飛鳥井曽衣と申しまする。お手前方は大内家の方で御座いますな?」

「如何にも。大内家家臣で名を内藤興盛(ないとうおきもり)と申しまする」

「同じく大内家臣で名を冷泉隆豊(れいぜいたかとよ)と申しまする。母方が冷泉家に連なる者に御座います」



 今は冷泉家と一条家は直接関係は無いのだが以前は交流があったようだ。それというのも土佐一条の祖である教房の正室は冷泉家の息女であったのを家系図でも確認している。


 それにしてもこの男達のしゃべり方はイントネーションに訛りが出ているが、曽衣はよく動じないな。下向に行ったりして慣れているのかもしれない。



「これを機に冷泉家とも、教房卿の代と同じゅうに親しい間柄でありたいと思いまする」

「わしもええ機会を得て有難う思うちょり申す。何卒、宜しく願いまする」

「こちらに居られるは、土佐一条家を継がれた万千代様で御座います」

「至らんたぁ思うるが、ご容赦下さるよう伏してお願い申し上げまする」



 俺も一言挨拶をする。



「宜しゅうに」



 大内氏の守護館に行くのは二日後となるため、これから城下町を案内してくれるらしい。


 始めに向かったのが瑠璃光寺だった。驚いたことに、境内には朱に塗られた美しい五重塔があった。どうやらこれも京を模して建立されたらしいが、かなり立派に見える。


 大内家には多くの公家も下向しており、城下町にも京文化も少しずつ浸透してきているようだ。道行く童子の言葉遣いも何処となくお祖母様や房通と似ている。




 ◾️◾️◾️




 有尚が言うには土佐を守護する結界のひとつに五芒星による結界があるらしいのだが、その五芒星による結界が西の京と呼ばれる大内氏の守護館にも施されていたようだ。結界を施す過程にも土御門家が関わっていると言っている。


 もしや、何らかの力を感じ取れるのか?



「なにゆえ、関わっていると分かる?」

「陰陽師というものは、その家々で氣の流し方や護符の書き方が違っていたりするものなのです。そして何より護符に土御門家の印と家紋が御座いました」

「さようか」



 家紋で分かったのか、期待して損した。少し興味を持ったのがいけなかったのか、更に詳しい説明を聞かされることになった。



「五芒星とは陰陽五行法で使用される印または呪のことで、木・火・土・金・水の五行からなりそれぞれに陰陽の十干(じっかん)甲乙丙丁戊(こうおつへいていぼ)己庚辛壬癸(きこうしんじんき)がありまする」



 順位をつける際に『甲乙付け難い』と表現されるのは十干の順番に(なぞら)えて表現されたことが始まりみたいだ。



「この十干は天干、十二支は地支と言いまして双方を併せて干支(かんし)と呼んでおりまする。二十八宿の星座・方位の四神・天干と地支の干支・五行法は行動や物事の時期・方角の吉凶を占う際に全てが必要となるため密接な関係にあると言えるので御座います」

「……」

六壬神課(ろくじんしんか)太乙神数(たいいつしんすう)奇門遁甲(きもんとんこう)・雷公式と呼ばれる小法局式が多用され、これらを総じて四式と呼んでおりまする。式占には渾天儀(こんてんぎ)や天地盤などを礎にした、その時々で必要な式盤を作って用いられております」

「…………」

「六壬神課では二十八宿・干支・四門・八卦・十二神・十二天将から構成される六壬式盤りくじんちょくばんが、奇門遁甲では干支・九星・八門・八神から構成される坐山盤を使用しておりまする」

「………………」

「陰陽師が占いと称しているものはいずれかの式占を使用することが多いのですが、その中でも六壬神課については占事略决という解説書を我が祖先である安倍晴明が残しているのです」



 奇門遁甲といえば孔明、六壬神課といえば晴明というくらいに有名みたいだ。それよりも、俺の無言の圧力にも屈することなく説明しきった胆力に驚く。話の内容はまったく理解できなかったし。




 以前に有尚が言っていた土佐に施された謎の結界というのが、どうやら星辰の……もっと言えば北斗七星と南斗六星における星の配列を象った大規模なものではないかと言っていた。


 何通りかの配置があるようで、北斗七星の配列が『土佐・周防・伯耆・淡路・京・尾張・信濃』を結ぶものと『土佐・讃岐・淡路・京・志摩・駿河・飛騨』とがある。また、配列を裏返してみると土佐にとってはあまり良くないらしいが『安芸・土佐・海(紀伊水道)・淡路・京・尾張・駿河』を結ぶ配列となる。


 南斗六星では、『土佐・讃岐・京・志摩・遠江・美濃』を結ぶ配列と『土佐・周防・安芸・讃岐・京・加賀』の配列。これも配列を裏返しさせると、『土佐・海(紀伊水道)・京・若狭・加賀・美濃』を結ぶ配列となる。


 どちらにしても裏配列にて紀伊水道の一点を示していることから、その海に何かがあるらしいが何なのかまでは分からないとのことで、分からないのに何かがあると言うのは矛盾している気がする。


 配列と完全に重なるわけじゃないだろうし、ただのこじつけやも。その内、一条と大友・大内を結ぶ夏の大三角形が出来上がっている的なことも言い出しそうだ。


 もはや都市伝説の領域に足を踏み入れてしまっている。


 

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