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30.朱印

 


1550年 2月(天文十九年 如月)



 昨年、襲撃を受け刺客の兇手に倒れた西小路教康には娘がいた。名前は八重乃、年が明け十一歳になった。教康は父母と妻を早くに亡くしており、身内は娘の八重乃だけだった。


 初めは西小路家に仕える者が進言して、許婚を作り妙齢になったら婿に迎え西小路家を継ぐ予定だったそうだが婚姻するにしても相応の年齢になる者は嫡子が多く、それ以外では家格に釣り合いが取れる相手が見つからない。


 結果、今では女性武将として父の跡を継ぐ事を希望しているらしい。戦国の女性武将は巴御前を始めとして、板額(はんがく)御前、大祝(おおはふり)鶴姫、井伊直虎、成田甲斐姫・立花誾千代(ぎんちよ)など意外と多い。


 やってやれないことはないかもしれないが…… ただ教康は連枝衆の筆頭であったため、それも継ぐのかという話もあり、どうするのかは一先ず保留としてきた。


 まぁ、外見はどうであれ男装すればいいか。

 一条家では月代(さかやき)にしている者はいないし。


 今までは戦もほとんど無く、家柄が公家の出ということで中村御所では流行っていなかった。ただ、国人衆やその臣下達で月代にしているのは見たことある。そういった意味でも、男装であれば政所に女性武将が居ても悪目立ちはしない。


 ちなみに家臣で一番人気なのは宗珊だ。

 紳士然とした態度・礼儀作法の上、博識で奢ることがない。整った顔立ちで口周りと顎に髭を生やし年長者としての渋さがある上、鍛え上げられた体躯をしている。男女関係なく人気なのも納得だ。



 なんだかんだあり、年が明けて保留としていた名跡(みょうせき)を継ぐことを家中の者にも許されて、ここに新たな女性武将が誕生してしまった。婚姻が決まれば出仕するのは旦那に変わると思うけど。




 ◼︎◼︎◼︎




 一応、当主なのだから本来は文などに花押を書かなければならないが、なかなか難しく失敗することもある。長文を書かれた文や書で失敗したら大顰蹙(だいひんしゅく)だ。


 そんな思いもあり、朱印を作ることになった。


 朱印の文字は、縦横三列ずつで『百万一心一条万千代』と彫られている。どうでもいいが漢数字が六文字も入っているのは多い気がする。ビンゴなら三列も成立してしまう。


「『百万一心』これは一日・一力・一心と書く。日を同じうにし、力を同じうにし、心を同じうにするという意味である。同じ家内で相争う事が無いように、我ら一条家はこれよりこの言の葉を信条としたい」



 毛利元就の逸話で三本の矢に次ぐ有名な言葉を伝えた。誰からも文句が出ないと言うことは知られてはいないのだろうか?


 毛利からパクるなって抗議が来るかもしれん。




 ◼︎◼︎◼︎




 やはり、去年は色々と大変だった。

 秋くらいからようやく家中が一応の落ち着きを取り戻した様に思う。



 昨年の呂宋との貿易で仕入れてきた物の中にジャガイモとサツマイモは無かったが別の芋が含まれており上々だ。


 シンコンと呼ばれる芋、ヤム系の芋、コルク、馬、羊、あとは木や実など。シンコンは、ごぼうとサツマイモを足したような形で、ヤム芋は意外と太くて大きい。


 これ有毒の芋じゃないよな。

 毒の有無なんてどうやって調べるんだ?

 食べて判断するしか無いんじゃ怖すぎる。 

 とりあえず、上手くいくかは分からないが育ててみよう。


 馬も羊も増えたので繁殖してくれると有難いが、これもどうしたらいいかわからないので自然の成り行きに任せるしかない。



 コルクは瓢箪など吸筒(すいづつ)の栓に使えそうだ。


 あとは革靴を作る時に使う。

 革靴ができれば行軍が楽になるかもしれない。

 滑りやすいし手入れが大変だがどうだろうか。


 たわしも作った。

 綿糸で束ねただけの物だ。

 針金もなく作り方もよく分からなくて単純に紐で括られている。それでも使い勝手はいいらしい。


 秋には羽毛布団を追加で作り、今では家族全員分ある。女中たちには羽根布団で我慢してもらった。羽軸に松脂と漆を混ぜたものを付けて保護することで綿布を貫通しない。打ち掛けよりは暖かいため問題もなさそうだ。




 色々と作った物を量産化させて売れればいいのだが。売り出せばすぐに真似をする輩が出てくるだろう。むしろ出て来た方がいいかもしれん。


 そしたら、俺らは高級路線に切り替える。

 高貴な方々が使用する品物だ。


 これには他の者は絶対についてこれない。

 たとえ公家にツテがあろうとも、摂関家に近づける訳がないのだ。摂関家に対しては土左一条家が独占だ。その辺の公家と一緒にされては困るな。


 銭がある者や商人達は庶民と同じでは我慢できない者が出てくる。そんな者達から暴利を貪る。


 そして庶民向けの品は薄利多売として出来るだけ安くする。


 

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