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12.洗濯板

 

1548年 3月(天文十七年 弥生)



 昨年の十月、塩田における人手不足の対策をした。鉄釜にしたり、淡水化装置を作ったり。


 一月末に設備が整い、二月から塩づくりをしてもらった。現状では上手くいっているようだ。鍋に入れる海水の量を調整したり、かん水の濃度の限界を確認なんかも出来たらしい。


 日照時間が短い冬に試験した為、暖かくなるにつれて塩が作れる量も増えるだろう。


 一条が道具を貸し与えているから、最適な海水量などの記録が献上された。上手くいく見込みが出来たので、他の村でも順次整える予定ではあるが、淡水化装置を大量に作らなければならない。


 装置は一条家からの貸し出しとしている為、勝手に作らせる事も出来ない。携わる職人さんは暫くは安定してお金が入ってくるのでありがたいと言ってくれているが材料も用意しなくてはいけないから大量に作るには時間がかかる。




 それよりもいま悩ましいのが芸事の笛だ。

 この時代の笛は吹くのがメチャクチャ大変だ。

 手が小さく穴を上手く塞ぐことができないのもあって、いい音が出ない。


 それに、先生の手本を聞かせて貰っても「プッピーー」という失敗したかと思うような調子の音で余計に難しい。まぁ、慣れるしかないのだろう。



 たまに長い休憩があり日向で休んでいると、陰陽師の有尚が横に来て説教じみた事を言ってくる。


 穢れがどうの、方角がどうのと「五と八の数字には良い事と悪い事どちらも起こり得ますから特に気を付けて下さい」って普通の事言ってない?


 そりゃ、何か起きたら良い事か悪い事のどちらかでしょ。


 話していても、どうも胡散臭い気がしてならない。一応、安倍晴明の末裔みたいなことも言ってたけど、自称だと思ってる。


 康政とは違うタイプの説教をしてくるし。

 子供に向かって何を本気になってるのか。




 ◾️◾️◾️



 いつも使ってる所から離れた井戸で何やら話し声がする。少し覗いてみると女中さん達が着物を洗っていた。



「この墨汚れは落ちそうにないです」

「墨汚れが目立つ白服は仕方ないねぇ」



 おそらく今洗っているのは、俺の服だろう。

 昨日、うっかり服に墨をこぼしたのだ。

 本当に申し訳ないと思う。


 やはり墨汚れは大変か。石鹸も無いしな。

 洗濯は手で着物同士を擦り合わせる事で汚れを落としている。足踏みで洗っている者もいる。


 いや、足で洗われるのが嫌なわけではないが。

 むしろ踏まれたいと思わなくもない。


 知らないところで呪いの言葉を吐きながら、踏みつけるように洗われてたりしたらどうしよう。


 何か心配になって来た。

 これは女中からの信頼も、得る必要がありそうだ。


 でも洗濯に役立つものか。

 うーん、こう言う時は世紀の祖父の家を思い出せ…… おっ、そういえば洗濯板があったな。


 風呂場に置いてあって何に使う板か聞いた事があった。ギーコ、ギーコと楽器のようにして遊んだりもした。だからある程度、形も分かる。


 ふっふっふ、今回も勝ったな。




 洗った服がシワになるとも言ってたな。

 シワ伸ばしといえばアイロンだけども。

 これは『火熨斗(ひのし)』なら間違いない。


 小学生の時に、昔の生活を体験する授業で使ったから。柄杓と同形状で鉄製の重くて頑丈なものだった。


 水を汲む(ごう)の部分に炭火を入れて温めてから、アイロンと同じ様に布地にあててシワを取る。


 ちょっと合の部分は難しいし大変かもしれない。まぁ、いつもの通り丸投げだな。




 それからもっと大事な事を思い出した。

 無いならしょうがないかと半分諦めてたけど、石鹸を作れるのでは無いだろうか?


 油は、牛脂か豚脂をもらってくれば良い。

 あとは灰を混ぜれば出来るんだったかな。


 いや、待て。

 油を火にかけるとかなり臭いが出るって何かで見た気がする。そんなことしたら康政がうるさくてしょうがない。


 …… 康政は戦に行ってて、今は居ないな。

 でも、やっぱりダメだ。

 お祖母様が不快な思いをするかもしれない。

 そんなことは、決して許されるべきではない!


 ここは木の実かなんかの植物油で試すしたほうがいいのでは。ただ、すり鉢とすりこぎ棒で潰すのは大変そうだ。


 やるのは俺ではないけども。

 濾し布も必要だな、反物として置いてある綿布で代用できるやも。


 今後の事を考えると搾油機を造るのもいいかもしれないな。油を限界まで絞るなら圧搾が一番いいと思う。だが、この時代でネジ加工なんて出来るだろうか?


 やってみるか。


 いや、やってみるのではない。

 やるかやらないかだ。


 

洗濯板は、洗剤や石鹸を溶かした水が凹部分に溜まり布を擦り付けることで汚れを落とします。主に綿布を洗うためのものであり、麻や絹には不向きです。麻や絹は、手もみや足踏み、石へ叩きつけたりして洗っていました。


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