第9話 お金&魔法&試験
話し合いの内容は主に三つに絞った。
1つ目はミーシャに魔法を教えること。
これは俺が一番考えなきゃいけないことだな。
魔法を使う感覚は人それぞれだしミーシャに合わせてうまく教えれるかどうか。
2つ目はミーシャに合う魔道具を探すこと。
バロンを召喚するためにはミーシャが召喚魔法を使いこなせるまで上達させなければならないが、ある程度でも魔法の補助をしてくれる魔道具があれば一気に楽になる。
しかし、魔道具がどこにあるかなんて全く見当もつかないしこれに関してはどうしたものかという感じだ。
俺たちが行ったサマルの遺跡はすでに魔道具はなかったらしいのでどこかの冒険者がとっていったのか、情報がデマだったのか。
3つ目は金銭のことについてだ。
ありがたいことにこの宿はモラグさんのおかげでただで使えてるらしい。
理由はミーシャの父親には返し切れない恩をもらっているのでこれくらいは返してやりたいとのことらしい。
だからある程度までは金がなくても生活できるのだが。
遺跡を見つけた場合は遠い旅に出る可能性も出てくるのであるに越したことはない。
というか俺はそもそも現在無一文であるのでミーシャとエリルに養ってもらっているようなものだしちょっと稼いでおきたい。
ちなみにこの世界の通貨は世界全部共通でギルという通貨を使っているようだ。
共通の通貨というのはここで稼いだ金がどこでも使えるという事なので非常にありがたい。
「お金と遺跡の情報とミーシャの稽古か..とりあえず最初の2つをどうするかだよな」
ミーシャの稽古に関しては3人で話すより俺一人の問題に近いので他の2つを話し合うべきだよな。
「今回のサマルの遺跡へのために多少は装備を揃えたので、私たちもそれほど余裕があるわけではないですね」
ミーシャは小袋を取り出すと金色の丸い玉のようなものを出してみせる。
これがこの世界の通貨であるギルなのかな?さすがに聞いたら不審な顔されそうだし。
「やっぱりじゃあ正式にギルドに加盟しちゃう?」
ミーシャがエリルを見ながら問いかける。
ギルドとは様々な町にある冒険者組合でこの町だと中心にあるあのでっかい建物だったな。
冒険者は情報の提供や、モンスターの討伐報酬などをもらって生計を立てたりする。
ギルドには誰でも受けられるフリーの仕事から、ギルドが信用した人じゃないと受けられない仕事があるらしい。
話から察するにミーシャとエリルはフリーで仕事をしていたんだな。
「ギルドにはどうやって加盟すればいいんだ?」
「えっとね、毎年1回各場所でギルドの選定試験が行われるんだ」
「ちなみに次回の選定試験は3ヶ月後ほどですね」
それじゃあダメだな。現状入るすべはないってことか。
「あくまでそれは一斉の話なので、他にも入る方法はあります」
「そうなのか?どうやって」
「例えばフリーで仕事をこなせばギルドから推薦状が来たりします。他にはギルドマスターから認められた人はギルドに入ることができます」
「なるほど、二人は推薦状とかは来てるのか?」
「いえ、残念ながら私たちはここに来てからあまり依頼を受けていないので」
「となるとギルドに入る方法はギルドマスター?に認めてもらわなきゃなんだよな?」
「はい、そうなりますね」
「といってもギルドマスターなんてどこにいるかとかわからないんじゃ」
「ギルドマスターの一人はモラグですのでその点は問題ないです」
__________ん?
「今まではなかなか認めてくれないんだけどね、侑季君がいればもしかしたら認めてくれるかも知れないね!」
「はい、もしかしたら。ということで侑季君、交渉に行きましょうか」
「交渉する必要はねぇぜ」
恐る恐る振り返る。
そこにはやはり威圧感ある、どうみてもおっさんのモラグが立っていた。
「こいつを試験してやるよ、俺のお目に適ったらお前ら全員ギルドに入れてやる」
「いやあの、俺はまだやると言ってないんですが」
「あ?どうせこうなるんだ。今のうちに腹くくっとけって」
モラグは俺の肩をバシンと叩くととそれじゃ行くかといいながら部屋を出る。
「え、あの!どこに行くんですか」
「ん?試験するんだったらそれにふさわしい場所がないとな。地下にご案内するぜ」
__________________
宿屋銀の槍に入って右にある厨房。その厨房から下へと続くハシゴを降りるとそこはいわゆる闘技場のような場所だった。
半ば強制的に連れてこられたような状態の俺はエリルとミーシャの方を向いて助けを求めるが頑張れと声をかけられた。
これは確定事項なんですねもう。
「エリル、大丈夫かな?」
「加減はもちろんするでしょう。怪我はないと思いますよ」
二人がなんかいってるけど遠くて聞こえないや。
さて、目の前には筋肉ダルマ。
いやさすがに失礼か?でも実際そうだしなぁ。
「まあ試験だしな。手っ取り早いのはこいつがいいだろ。ほらよ」
モラグは近くにあった刀を取ると俺に投げ渡してきた。
「あぶね!」
キャッチし損ねたら怪我するじゃねえか!
ってあれ?あ、これ刃がなくなっているタイプの剣か。
これもしかして剣でやるパターンか。
俺剣術は神さまのとこでやってたけど、対人戦はやってないぞ…
「シンプルに一対一の剣技だ。魔法もなにもなしでやってみろ」
刃がないなら本気で斬り合っても大丈夫そうだな。
魔法なしはかなりきついけど、やれるだけやってみるしかないか。
ついあの1ヶ月の地獄の日々を思い返した。
大丈夫だ、できる。そう自分に言い聞かせる。
「…フーーーー」
(構えは力を抜いて自然体で..相手に隙を与えずに)
「よし、そんじゃあ。かかって来てみろや」
モラグが挑発めいた声を出しながら剣を構える。
隙は当然ながらほぼ見当たらないが、向こうから斬り込む気はないようだ。
(それなら..こっちから)
俺は足に力を入れると一気に距離を詰める。
隙がないモラグに一撃喰らわせるためにはとにかく一瞬で攻撃する。
狙いを定めて、剣は一番早い突きで食らわせる!
「お、なかなか速いな」
だが、モラグには顔色を変えずに最小限の動きで躱される。
(まだまだ、攻撃の手を緩めるな)
すぐに構え直してとにかく打ち込んでいく。
突きで通じないなら斬り込んで、どれか一発でも通せれば。
____________だが、一つとしてモラグの体には通らなかった。
(まじかよこれ、打ち込んでる俺より早くその場所に剣を構えてやがる)
俺が攻撃をしようと構えたところにはすでにモラグが剣を構えて防御の姿勢に入られている。
まるで動きが全部読まれてるみたいだ。
(これくらいじゃ諦めねぇぞ。まだまだ!)
半ば強制的に決められたこの試合とはいえなにもできず無様に負けては立つ瀬がない。
それじゃあギルドにも入れないだろうし。
というかあっさり負けたら剣の修行をつけてもらったアマテラスにすごい怒られそうな気がする。
(この速さじゃまだ足りないなら。もっと、もっと速く剣を届かせる)
「ハァ!」
身体を限界まで力を込めて全速力の一閃は、それでもまだ届かない。
だが、先ほどより確実にモラグの身体に近づいた感覚があった。
「お?今のは良かったな侑季」
依然として余裕そうだがモラグはニヤリと笑った。
(今のを決まるまで何度でも)
俺は一度呼吸を整える。
「おい、それで終わりじゃねえよな?」
もちろん終わってたまるか。
「…よし!こっから!」
その余裕そうな顔、歪ませてやる!