第7話 見張り&会話&お礼
「...はぁ、もうこんな時間か」
気づくと日は完全に落ちてあたりは真っ暗だ。
とりあえず消えかかってる火に薪をくべておいてと。
このまま夜の見張り番を続けるか。
「そろそろ寝たほうがいいのではないですか?」
うわっ、後ろからはビビるからやめてくれよ。
「エリルか、背後から急に声をかけるのはやめてくれ。心臓に悪い」
「そうですか。では、次回から気をつけることにしましょう」
エリルはそういうと焚き火に近づいて[ファイア]を唱える。
「あれだけの召喚魔法をしてもこんなに簡単な魔法ができないとは…不思議な人ですね」
うっ、それを言われると弱い。
「うっさいな、だいたいまだ起きてたのかよ」
「いえ、焚き火に向かって息を荒くしている方の音で眠れなかったので」
「そんな大きな音を立ててたまるか」
「冗談です。ですが、本当に不思議ですね」
エリルは軽く咳払いをすると俺に向けて炎を消したりつけたりしてくる。
挑発でもしてるつもりか。
「人には得意不得意があるんだよ。お前は人より魔力の扱い方が優れているんだろうよ」
「いえ、私は正直魔法より剣技のほうが得意ですが」
嘘だよな?だってあの時おまえ魔法使って剣使ってなかったよな。
「私には魔力があまりないんですよ。全力で使おうとすればおそらく[ファイア]も10発ほどかと」
「じゃあなんで剣を持ち歩かないんだ。その方がいいはずだろ」
「いえ、剣はちゃんとここにあるんですよ。[ビッグ]」
そうエリルが魔法を唱えるとエリルの懐から剣が出てくる。
なるほど隠し持ってたってわけか。
「私が魔法使いであると考えれば相手は接近戦を狙ってくるので、この方が都合がいい時もあるんです」
たしかに最初から剣を見せるより効果的であり苦手な遠距離戦を封じやすいなと感心する。
「それに、魔力の量には恵まれなくても魔法は使うことができます。そのためにかなり練習はしましたが」
「元から剣が得意なら魔法を使わなくてもいいんじゃないか?」
「いえ、剣で守れるのは相手が少人数の時だけです。敵が多くなればなるほど魔法がないと私はミーシャを守りきれません」
これもまたなるほど。ミーシャの護衛を第一に置くなら剣だけでは接近戦しか対応できない。
結果ミーシャを危険にさらすことが多くなるし、そこをカバーするために魔法を使っているのはいい考えだと思う。
「そういえば、エリルはミーシャの護衛なんだよな?かなり仲がいいようだけど」
「ええ、そうですよ。昔からこの関係というわけではなかったですが」
「てことは、昔は違ったってことか」
「私は物心ついた時にはミーシャの使用人として仕えていました。親の顔もわからないですし、なんで私が使用人をしているのかも知りませんでした」
いわゆる…捨て子ってやつだったのかな。
いやでもそれにしては王国で使用人っていうのもかなりの身分だよな?
「私とミーシャはお互いに同年代の子が近くにいなかったので唯一の話し相手だったんです。私も一人の友達としてミーシャと接していました」
「じゃあミーシャとエリルはその時から仲が良かったのか」
「そうですね。しかし、ミーシャが14を超えてからは王女としていろいろなところに出向いたり仕事をしなければならなくなりました」
「14って、そんなのまだ十分子供じゃないか」
「王族なら14を超えればもう立派な大人です。その後、私は志願して国王軍に入りました」
ここまでエリルはミーシャのために動くのか、それだけ大切に思ってたんだな。
「王国軍の隊長だったって言ったよな?それだけ強くなるって一体どうやって」
「いろんな方に教えを請いました。私の剣技もその時に磨かれたものですね」
元からの才能がなければいくらなんでも隊長になることは不可能だっただろう。
ただそれ以上にミーシャのために頑張れるそのひたむきさは見習うべきだよなぁ。
「エリルは隊長になった私にも変わらずに接してくるよう言ってきました。私も元から変える気もありませんでしたが」
「そっか、それだけ二人ともお互いが好きなんだな」
「ええ、ずっと昔から」
やっぱりミーシャのことを話してる時のエリルは少し笑顔が見える。
もっと笑えばいいのに、可愛いんだから。
「火の番と見張りは俺がやるから気にしないでいいよ。二人とも今は体を休めておきな」
「いえ、普段は私がやっていたのでおきになさらず」
「だったら尚更休まなきゃだめだ。それにミーシャのそばにはエリルがいた方がいいだろ?」
エリルは少しだけ納得のいかない顔をしたが俺が引かないと察してくれた。
「はぁ..出会ったばかりの私たちに親切で、本当に不思議な人ですね」
「気まぐれだよ、ただの」
「ミーシャが、いつもより元気で楽しそうにしていました。それだけでもあなたには感謝したりません」
ミーシャは俺と言うより月影のおかげなのではないかと思ったが、それでも元気になれるならいいことだしまあいいか。
「私も、いつもより元気になれました。では」
それだけ言うとと頭を下げてテントへと戻っていった。
まだ何も解決していないことに変わりはないし、俺は二人のこともこの世界のことも知らないことが多い。
だけど、今日二人の少女の力になれたことを俺はちょっとだけ誇りに思った。
適度に休みながら俺は夜が明けるまで目の前にある火を自由に動かせるように練習していた。
火がちょっとだけ思うように動かせるようになった。ちょっとした進歩だがそれでも確実に進歩はしていた。
これからちょっとずつ成功させていこう、旅はまだ始まったばかりなんだ。
俺はそう思いながら自分の手を軽く握りしめた。