第6話 1日目&これから&練習
「とりあえず、まずはここを出てどこか街に行こう。ある程度準備を整えてから魔法を教えるでもいいだろ?」
月影の視線は放っておいて俺は二人にまずはこの遺跡から出ることを提案する。
二人とも賛成したし、月影に乗せてもらって…
「あー悪い。無理、流石に休ませてくれ」
そういうと途端にサイズが小さくなり始め、体が光ったかと思うとそのまますぅっと消えた。
「そういえば今日連続で魔力だいぶ詰め込んだっけ」
思い返すとかなり月影には無理を強いてたなと反省する。
そもそも転生してきた時あいつ平然としてたけどあれも絶対負荷かかってたよな。
仕方ないから歩いて出ようと二人に言った。
拒否されなくてよかった。
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遺跡から出るのには30分ほどかかったかな?
外は夕焼けがかろうじて残っているくらいですぐに暗くなりそうな雰囲気をしていた。
ミーシャとエリルの会話は聞いていてかなり面白い。
というか、意外と元気だこの二人。
状況が暗いからこそ元気でいようとしてるのか二人とも冗談もいうし笑うこともある。
旅を続ける上でこれはとても大事な要素だろうからしっかりしてるんだなと感心した。
ついでに言えばエリルが顔を動かさずにミーシャに対して冗談を言うのはなかなかシュールな光景でありミーシャの反応もいちいち面白いのだ。
そんなてんやわんやを見ながら、わずかな時間ではあったが俺も二人とそれなりに打ち解けることができた。
「これだとすぐに日が沈むな。一番近くの町でどれくらいなんだ?」
「んっとね、私たちはロンダの町から来たんだけど半日くらいかなぁ?」
ミーシャは地図を見ながら腕を組む。
「ミーシャが半日というならおそらく三刻もあればつくでしょう」
横から見ていたエリルが口を挟む。
「エリル、いくら私だってそんなにいい加減じゃないよ」
「いえ、ミーシャのいう6刻は私たちがここにくるのにかかったおおよその時間です。ミーシャが道に迷ったりしなければすぐに半分くらいでこれたでしょう」
エリルが言葉を返すとミーシャはバツが悪そうに引っ込んだ。
なるほど、ミーシャは方向音痴と。
「ち、違うんだよ!その、見てる地図が違うやつだったの…」
「侑季君、今のうちに行っておきますがミーシャに先頭を行かせるのはお勧めしません。六刻どころか永遠にさまようことになりますよ」
「エ、エリル!私のことをなんだと思ってるの」
「私が気づかなかったらいつまでも別の地図でさまよっていたわけですが?」
ミーシャがまたバツの悪そうな顔をする。
諦めろ、この話題は間違いなくミーシャに分が悪いぞ。
「ほら、それは…そのぅ」
「ちなみにいつ気づくのか待ってましたがとうとう気づかなかったので私が諦めました」
「え...うそ?」
「冗談です」
エリルはさらっと答えたがミーシャは心底安心したようでほっとしている。
「そ、そうだよね。いくらエリルでもそんなことするはずないよね」
「その言い方には違和感が残りますが…まぁいいでしょう。では地図は私が持ちます」
「う、うんどーぞ」
「それでは侑季君、これからどうしましょうか?夜中を歩くことになりますが町に早く着きたいなら歩いた方がおそらくよいですね」
エリルは俺の方に顔を向けるとこれからの方針を聞いてくる。
んー、まあ確かに早く着くに越したことはないが。
「いや、3人でいるとはいえ夜中は危ないだろう。この辺で野宿ができそうな場所を探そう」
「そうですか、では野宿ということで。ではミーシャは気をつけてください?」
「え、なんで私?」
「ここには飢えた狼がいますので、くれぐれも襲われないように気をつけてください」
こちらを見ながら言ってるのは他意があるのかな?
煽られてるよね?これ完璧に俺今バカにされてるよな。
「誰が狼だ誰が、だいたいそれならお前も気をつけるべきことだろ」
「おや?私も襲われる可能性があるということですね。ですが心配ないですね。その場合は私はミーシャを盾にしますので」
流れ弾を食らったミーシャはエリルの方を向く。おーすっげえ振り向きの速さ。
エリルは冗談ですと言うと野宿の準備をしようと言い動き出す。
いや俺の狼の話はスルーかよ。
まぁいいや、いやよくはないけど。否定したらもっとめんどくさそうだし。
ミーシャはエリルをみてほっぺを膨らませて不服そうにしているけど、まあそれはそれ。
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準備といっても周りにある木を集めて火をつけただけでほぼ準備は必要なかったので俺の用意はすぐ終わった。
ちなみに火をつけるために[ファイア]を使おうとしたのだがほぼ調節が効かないため結局エリルにつけてもらった。
さすがにもうすこし調節できるようにならないとな俺...
エリルとミーシャは簡易の質素なテントを立て終わっていた。
思ったより時間がかかったらしくあたりは暗くなっていた。
「これで準備はできましたね。今、ミーシャがご飯を作ってきますので」
「あぁ、ありがとう。お腹すいてたからちょうどよかった」
「侑季君も飢えていたようですね」
飢えたという言い方が引っかかるな。さっきの引き継いでるだろ絶対。
「そうだな、お腹が空いてるよ」
「スルーされましたか、では興味を引く話をしましょう。ミーシャの料理を食べる時は是非とも死なないように気をつけてください」
不穏な単語が聞こえてきたので俺はミーシャの方に目を向ける。
本人は楽しそうに料理をしている。
え、死ぬって何。
「砂糖と塩が間違っているくらいならいいかもしれませんね。もしかしたら毒草が入ってるかもしれません」
「間違えるって次元じゃないよな?あからさまにそれは殺意を持っているよな」
「ミーシャならあり得ることです。料理を食べて命を落としたとしても不思議はないです」
「エリルもそれを食べるんだよな?今まで生きてきたんだよな?」
「私は胃袋が丈夫にできているので大丈夫です。毒でもなんでも消化できます」
「それは丈夫ってレベルじゃねえ」
「冗談です、…一部は」
どこまでが冗談なんだじゃあ!
「エリル〜?聞こえてたよ。料理で失敗なんて私はしないよ!」
そういいながらエリルは俺たちに串に刺さった肉の焼き物と数種類の野菜が入ったスープを出した。
見た目は問題ない。ていうか普通にうまそうだ。
「では、いただきます」
「あ、あぁ。いただきます」
あれ?
食べてみると普通に美味しかった。特になにかを間違えたような形跡もなくちゃんと食べることができた。
「だから言ったでしょ?私料理は得意なんだ」
「一部冗談というのが冗談でした」
心配した俺の時間を返してくれ全く。
得意げにしているミーシャに謝り食事を続けていると、頭に急に声が流れ込んでくる。
「相棒ー?いい匂いするじゃん。俺も出してくれよ」
月影の声だ。お前なんで匂いが届くんだよ、どこだよ今。
「[サモン]」
このまま放っておくとずっとうるさそうなのでとりあえず出してやる。
「んー、いい匂い。こいつはうまそうだ」
月影に俺の分の料理を少し与えてやる。
ペットとかは人間の食べ物ってダメらしいけどまあ大丈夫だよなこいつなら。
月影は満足そうに食べるとミーシャの方にお礼を言ってまたすぐにスッと消えた。
「あいつ、食べるためだけに出てきたのかよ」
どんだけ食い意地はってんだまじで、なんていう奴だよほんと。
「やはり侑季君のそれは魔道具なのですか?」
俺のグローブを見ながらエリルは問いかけてくる。
「やっぱりそうとしか思えないよねー。ねぇ、それを依り代にしてるんだよね?」
ミーシャも興味を示したのか見つめてくる。
基本的に召喚魔法の依り代はなんでもいいのだが、やはり依り代に使うものによって強さはかなり変わる。
「んー..魔道具って言えばそうなのかな?でもこれを依り代にしてるのは確かだよ」
どう説明すればいいのかわからず適当にお茶を濁す。実を言うと俺もこれが何かはよくわかっていないし。
まあ神様がくれたもんだし俺がわかるはずもないんだけどさ。
調整が大雑把な俺でもうまく魔法が使えてるのはこいつのおかげもかなりあるのは間違いない。
「まあ、俺もよくわかってないんだ。分かったら話すよ」
俺はそう約束だけすると残ってたのを食べ終える。
火が消えかかっていたので薪だけくべておいた。
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ご飯も食べ終わってしばらくして火の番をしている真っ最中なのだが、こういう時ってなかなかやることなくて暇なんだよな。
流石に女の子二人にしてもらうわけには行かないし休んでもらってるわけだ。
それにしても、これが異世界転生1日目ってとんでもなく密度が濃いな。
(召喚魔法を人に教えるか...俺ができるのかな)
なんとも弱気な話であるが正直な話俺は魔力の量と質に似合った調節力を持っていないのは明らかだ。
拳銃を持った赤ん坊?
最高級の用具を持った素人?
まぁそんな例えは別に問題じゃないか。
…召喚魔法についてあらためて俺もちょっと考えておこう。
あと召喚魔法以外もある程度練習しとこうまじで。
エリルに[ファイア]打ってもらったのちょっと恥ずかしかったし流石に。