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異世界への輪廻転生  作者: アークセーバー
ガルバドシア編
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第52話 復活&進化&成長



「さぁ、ここがあんたらの目的の一つだ。王様と王妃様が縛り付けられてるはずだ」



この城には、重要人物や重罪人を秘密裏に閉じ込めるための牢屋が城の地下に存在している。本来ならばこんなところに用があるはずはないのだが、現在ここに収容されてるのはミーシャの父と母、つまり王国のトップである。



「こんなに大人数で攻め込んで来たせいで本当はここまで酷いところに閉じ込めるつもりはなかったんだけどね。無理やりここに置いておいたんだよ」


「随分と優しい処置をしたもんやな」


「まさか?全てはメリットとデメリットを天秤にかけただけの利己的な考えだよ、ちょっと待ってな」



迅雷たちがついた牢屋には頑丈な扉が重々しく行く手を阻んでいる。鍵はかかっていてあげることもできない。扉の向こう側の様子は何があるのか全く分かっていない。



迅雷とリリーに少し下がるように指示するとセブンは怪しげな瓶に入った薬品を取り出す。



「時間がかかるのは嫌だから、ちょいとズルをさせてもらうよ」



小瓶の薬品を扉の鍵穴に垂らすと、ジュウウと音を立てて扉が溶けていく。危なげに煙がたったあとには、人の手が通るくらいのそこそこの大きさの穴が出来上がった。



「随分と雑な仕事やな」


「文句を言うんじゃないよ、これが最短なんだ」



扉を押すと、重々しくギイと音を立てて開く。その音に2人の人間が驚いてこちらを向いてくる。



「君たちは…」


「あんたらで間違いなさそうやな。顔つきがミーシャちゃんそっくりや」


「ミーシャを知っているのですか?」



迅雷の言葉に女性、セレーナは驚きながら顔を上げる。見知らぬ人から自分の子供の名前が出たことについて戸惑いを隠せないようだ。



「知ってるというかまぁ、知り合ったみた」


「友達です!」



リリーが迅雷の話に割り込んで来て自信満々に答える。一瞬イラっとした迅雷だったがそこはスルーをした。



「そうか、ミーシャの」


「友達にこんなところで出会えるなんて、感謝ですね」



リリーの発言にローザとセレーナは嬉しそうな顔をする。話の流れを黙って見届けていたセブンだったがやがて口を開く。



「さ、これでいいだろう?とっととここから逃げた方がいい」


「逃げるって…迅雷師匠、私たちどこに逃げればいいんですか?」


「ん?そんなん決まっとる。どこにも逃げ場なんかないで」



あっけらかんとして言い放つ迅雷にこの場にいた全員が驚いた。



「アンタ、何を言ってるんだい?」


「セブン、よう考えてみい。僕らはキングの首を取りに来たんや。今更引き返す時間なんて残っとるわけないやろ」


「はぁ!?国のトップを取り返したんならそれで逃げれば勝ちじゃないのかい?」


「そんなん僕らの誰も許すわけがないやろ、僕とリリーの役割がこれであって本来の目的は別や」



セブンと迅雷の言い合いを周りはただ黙って見ているしかなかった。



「それじゃあ何かい?せっかく見つけておいてこのままお仲間と心中しようっていうのかい?」


「誰もそんなことは言ってへん、だから僕らのやることはまだ別のことなんやって」


「たったここにいる5人で何をしようっていうんだい」


「5人どころか、一人で十分や。こいつが居ればな」


「ほえ?」



迅雷はリリーの頭をポンと叩く、リリーは話の流れにイマイチついていけてない中でさらに何やら重大な役目をまかされていることを察した。





________________________________





「なぁ、あとどのくらいで一番上にたどり着く?」


「んーと、もうすぐ大広間があって…その後はもう何もないよ」


「クイーンとキングは上にいるでしょうから、恐らくはそこの大広間にいるのはナインね」



一人一人が戦うと考えてももう誰一人欠けることができない。やっぱり俺もどこかで加勢をしていた方が良かったんじゃ…



「余計なこと考えてるわよ」


「…別に考えてないですよ」


「そう?魔力を温存せずにどこかで手を貸しておくのもよかったとか思ってるように見えたけど」



何から何までお見通しされてる、不気味を通り越してこええよむしろ。



「全員やるべき役割を果たしているだけ、自分の役割を自覚しなさい」


「わかってるよ、言われなくてもちゃんとやる」



…扉が見えてきた、多分あれが大広間の扉だ。ここにおそらく待ち構えてるのがナイン。相手の実力も素性もわからないけど、ここで止まってる暇はない。



ドアを蹴飛ばして開けると、広間の中央に一人の男が目を閉じて立っていた。おそらく…こいつがエースの言っていたナイン。



「どいつもこいつも役立たずだったというわけか」


「初めましてナイン、私はエース…面と向かって会うのは初めてだったかしら?」


「今更挨拶を交わす意味もありはしない、どちらかは死ぬのだから」


「あら、随分な言い方ね」



顔を合わせただけでわかる…この肌に張り付くほどのピリピリした空気、ナインによるものだ。エースの時にも感じたこれは…実力がとてつもなくあるってことだ。



「でも、別に私が戦うわけじゃないからね?」


「…これはこれは、魔女と魔女の戦いがお望みか」



ナインがクククと不敵に笑う。エースはナインのことを相手にせずそのまま通ろうと考えている。



「あなたの実力はわからないけど、こちらもちゃんと用意はして来てるのよ」



エースの言葉の後、ミーシャが前へと出る。本来ならば止めているような状況、しかしもうミーシャは誰かに守られながら生きていくのではなかった。



「私が…止めればいいんですね」


「ええ、そうよ」



ミーシャが懐から取り出したのは指輪。刻印がしてあるのはそれが魔道具である証である。ミーシャはそれをそっと左の小指にはめる。ビリビリと身体に電気のような衝撃が駆け巡る、魔力が身体に満ちて行く。



(うん…この場所、この魔力、きっとできる)



エースは、ミーシャにすでに魔道具を渡していた。しかし、さくら村で使うことはさせなかった。



理由は、魔道具があるだけでは足りないかもしれない可能性があるから。魔法を使うときには当然リラックスして、ミスしないように繊細なコントロールが求められる。そのために魔法の練習というのは通常一定の場所で行われることが多い。



ミーシャにとって、常に魔法を使って来た場所、それは王国から逃げる前にはずっとこの城で行なっていた。



「ほう…これは面白そうな子だ。これならば一対一でいいだろう」



ナインが嬉しそうな顔をして、侑季とエースに後ろに行けとジェスチャーをする。



「さぁ、通りましょう」


「あ、ああ」



ミーシャ、大丈夫かな。ここで助けたら全部今までのが無駄になることはわかってる。でも置いて行くなんてことは今までで初めてのことで…



「ミーシャ!」


「侑季君?」


「すぐにまた会おうな」


「…うん」



なんの意味がある声かけだったかはわからない、でも言わずにはいられなかった。きっとミーシャなら大丈夫だって思おう。



「…行ったか、では戦わせてもらおう」


「…ナインさんって、戦うのが好きな人だよね?」


「愚問だ、私がキングに手を貸しているのは簡単なことだ。ここにいればだれか強いものが私の目の前に現れるのでな」



ナインにとって戦いは自分の欲求を満たすもの、そのためにはどんな犠牲も厭うことはない。


対して、ミーシャにとっての戦いは誰かを守るため。守れるもの、守りたいものすべてを自分で守るため。




__________ミーシャは左手を高く上に掲げた




「[サモン]!」



バチバチと音を立てて閃光が起こる。雷のように雄々しく光り、あたり一帯に電撃を走らす。



やがて、光がおさまると、一匹の魔物がそこに立っていた。



「お久しぶりです、お嬢様」



凛とした藍色の瞳と貴族のような立ち姿、それでいて体は雄々しく力にあふれている。この魔物こそがエルトリア王国を支える者にふさわしいとでも言わんばかりの姿をしている。




_____________彼の名前はバロン




「同じ剣使いか、心が躍るな」


「お手柔らかに、ご指導ご鞭撻のほどをお願い致します」


「猫の皮を被って余裕そうだな」



ナインは目をつぶって剣をゆっくり構える、見えてないはずなのにどこにも隙が見当たらない。バロンは少し感心した後、足をトントンと鳴らす。



「行くよバロン。[ライトニング]!」



ミーシャが叫ぶと、バロンの体がイナズマのように光る。その場を動くと、地面には通った跡が黒く焼けこげる。そのままのスピードでナインに向かって突撃する。目にも見えぬ速度で斬りかかるが、キィンと音がたったかと思うとナインの初撃はしっかりとガードされた。



「随分速いようだ」


「なるほど、手強い」



ナインとバロンは共にニヤリと笑うと、バロンは攻撃を止めることなく何度か攻撃を繰り出すが、すべて受け止められる。



「これでは速さが足りないようですね」



バロンが一度後ろへ下がろうとしたそのときだった。ナインの目が開いてバロンを捉える。そしてナインの剣が黒く光り始めた。



「[カースブレイド]」



真空を切り裂いたナインの斬撃は、剣圧によって前へとはじき出され、バロンへと飛んで行く。



「これは…!」



下がろうと足を上げてしまっていたバロンは避けようとするが間に合わない、何とか剣を正面に構えて飛ぶ斬撃を受け止めて、上へと弾く。弾いた斬撃は天井に当たると、易々と天井の壁を切り裂いていた。



残念ながら直撃をしなかったのでナインはミスをしたと悔しそうな顔をする。バロンは黙って剣を構えている。今度はバロンの剣が電撃を纏い、バチバチと音を立てる。



「バロン、[サンダーボルト]」



バロンの剣から放たれたイカズチは地面を通ってナインを狙う。一瞬あっけにとられたナインはわずかに反応が遅れて避けきれない。ギリギリのところで直撃は避けたが、ナインの頬を雷撃がかすめ、切り傷をつくる。



ナインは自分の頬からでた血を手で触ると、ニヤリと笑う。



「まさか、遠距離の攻撃を返された上にカウンターも喰らうとは…これは死ぬ可能性が高まってきたな」


「随分と嬉しそうですね、自殺志願者か何かでしょうか?」


「そうと取れなくもないな、自分より強いものに殺されることは本望だ」



ナインにとって喜びはすべて戦いの中にある。強い者と戦うことに喜びを見出し、戦いの中で死ぬことを辞さないどころか喜ぶほどの戦闘狂である。



「なるほど、これはまた大変そうな仕事です」



バロンはナインのことをじっと見つめた後、厄介な戦いになるであろうことを察する。ちらりとミーシャを見るとミーシャも黙ってうなづいていた。



それを合図にバロンはナインへ素早く近づく。ナインはかすり傷は負ったもののまだまだ身体は十分に動く、バロンの剣は受け止められると思っていた。



「[スパーク]!」



バロンとナインの剣が互いに触れたときだった。バロンの全身が放電をはじめ、剣にも電気が伝わる。バロンから放たれた電気は剣を伝って、ナインを痺れさせる。



「ぬおお!」



反射的にナインは後ろへさがり、電撃から逃れるが体は痺れたままだ。してやられたとナインは思ったが、同時に憤りも覚えた。



「加減をしたな?どういうつもりだ」



本来ならば今の攻撃でナインの体は焼け焦げていてもおかしくないはずだった。それは分かっているナイン、だからこそ今自分が身体の痺れこそ感じるものの生きていることに手を抜かれたのだと屈辱的な気分になる。



「申し訳ありません、電撃の出力は私の是非では決められませんので」


「ということは、そこの小娘か」



ナインはミーシャをギロリと睨みつけた。ナインにとってバロンとの戦いは甘美な気分に浸れる最高の戦いであった。長くは続かないすぐに決着がつく戦いであるとも思っていた。その最高な気分をこの小娘によって邪魔されたことにやり場のない怒りがこみ上げる。



「血が湧き踊る戦いに水を差して…バカにしてるのか?」


「バカにしてるのは貴方の方でしょ!」



ミーシャの予想外の返答にナインは頭を悩ませる。この小娘は一体何を言っているのか?



「召喚士との戦いの定石は何?」



ミーシャが問い詰めるような声で聞いてくる。召喚士の多くは召喚魔法に日頃の訓練や努力を注いでるため、剣術やその他の魔法は人に比べてあまり上手くないというのが一般的な見解だ。そのため、召喚士はまず真っ先に相手から身を隠すことを考える。裏を返せば、召喚士との戦いでは召喚された魔物よりも召喚士自体を狙った方が良い。



「真剣勝負か何か知らないけど、私はバロンの力は誰かを傷つけるためじゃなく誰かを守るために使いたいの。だいたい自分の勝手で私を狙わないでバロンと戦ってる人にバカにしてるなんて言われたくない!」



ミーシャの言葉にバロンは黙っているが異論はないように見える。バロンにとってミーシャは心から仕えたいと思っている主人だ。通常、召還された魔物は自分の力を生かしてくれるものや、強い者を望むことが多い。しかしバロンはたとえミーシャ自体の強さはそれほどでないとしても、その人柄について行きたいと思わせる何かを感じていた。



「ちっ、何をいうかと思えば。まずは小娘を動けなくしてからゆっくりと楽しむとするか」



ナインは標的をバロンからミーシャへと変えて、先ほどのように剣を黒く光らせる。光は先ほどよりも禍々しく、強く光っている。



「[カースブレイド]」



先ほどバロンを襲った攻撃が今度はミーシャに向けられる。当然ミーシャは避けられるはずもない。しかし、ミーシャは臆することはなかった。なぜなら、自分の目の前にバロンが来てくれるから。



「ありがと、[サンダーボルト]」



互いに先ほどと同じように遠距離からの攻撃を仕掛けた。ナインの放った飛ぶ斬撃はバロンの電撃に触れたすぐに、バシュッと音を立てて消し炭になる。電撃はなお勢いを止めずに、ナインへと向かう。



ナインがさっき受けた時の威力だったならば、今の[カースブレイド]で相殺できていたはず。それができなかったということは先ほどよりも強い攻撃だったということだ。身体が痺れているナインは避けることができず、どうにかして剣に電撃を集中させて身体に流れるのを防ぐ。



「…ここまでか」



しかし、バロンはその瞬間を逃そうとはしなかった。地面に黒い焦げを作るほどに素早くナインの元に近づくと、自分の武器を投げ捨てて、ナインの肩に自分の手を置く。バロンはそのあと、少し笑った。



「お嬢様が、加減はしてくれますので」


「[サンダー]!」



バロンの両手から青白い電気が光ったかと思うと、ナインへと電撃が伝わり決定打となる。避けれないことを悟っていたナインは逃げようとせずただ電撃を喰らった。電撃はすぐに止むとナインは身体を動かせずにその場に倒れこんだ。



「手加減をされても負けるほどとはな、何故貴様のようなものがデュースごときに負けたのか…」


「あの時は、実は彼一人じゃなかったのですよ」



バロンの実力はナインを圧倒するほどの強さを持っていた。それを持っていてなぜバロンは一度ガルバドシアに、さらにいうならデュースに負けたのかナインにとっては不思議でならなかった。



「なぜか今は味方のようですが、自分を犠牲にしてギリギリ逃がせるかどうかの実力の方がいたので仕方なかったのです」


「エースか…それなら納得だ。それでも貴様なら勝てると思ったがな」



バロンはにこりと微笑んだ。あの日ミーシャとエリルを逃がすために自らを犠牲にした時、バロンは自身の弱さをひどく後悔した。そして、いつか自分が戻ってくるかもしれない時のために彼は自分を何度も見つめ直していた。



「お嬢様がお強くなられたので、私も強くなったのですよ」


「ふん、…行け。そろそろ向こうではキングとクイーンに出会っている頃だろう」



ナインの問いかけにバロンは答えなかったが、一礼をしたあと、その場を去ってミーシャの元へ戻る。



「お強くなられましたね」


「へっへーん、私のことを見直したでしょ〜」



バロンが最後にミーシャに会った時は、魔法なんて全然使えない人間であった。その少女が少し見ない間に成長している。



当然ながらミーシャは大きく成長していた。何がミーシャをそこまで成長させたのかは多くありすぎてわからない、しかしその成長はこれからもミーシャの糧になることだろう。

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