第5話 魔法&秘密&魔道具
「さて、一気に行くか!」
全力でグローブに魔力を込める。
月影の尻尾がピンと逆立って、魔力を帯びて青白く光る。
「この魔力の量…」
エリルは驚いた顔で月影を見つめる。最初に会った時は魔力をほぼ帯びてなかったので月影の力を見て圧倒されるのも納得だ。
「オーケー相棒」
月影は俺を呼ぶと尻尾を振り合図を送る。俺はその合図を機に月影から少し離れる。
「ミーシャ、エリル、離れて」
「それじゃあ行くぜー」
________尻尾から炎が上がる。
青白い炎はまるで人魂のように不気味に輝く。
「[鬼火]!」
月影から放たれた炎は分裂しそれぞれがゴーレムの元へと襲いかかる。
炎はゴーレムを包み燃え上がる。
ゴーレムも再生しているが再生が間に合わない速度で燃やし尽くす。
「その炎は焼き尽くすまで消えやしねえよ」
ゴーレムが再生した部分から燃やしては灰にしていく。
やがて炎がだんだんと弱まり、完全に消えた頃にはそこは何も残っていなく、ただ消し炭になった後があるだけだった。
「よしっ..ナイスだ月影」
「朗報だ、発生したゴーレムはこいつらで全部みたいだ」
俺はひとまず自分たちの不始末を終えたと思い一息をつく。
「..すっごい!なんなの今の!ねえねえ!?」
さっきまで口を開けて眺めていたミーシャが我にかえったと思うと大はしゃぎで俺の体をゆする。
「いや今のは俺のというより月影の」
俺はあくまで月影に対して魔力を送り込んだだけなので褒められても素直に受け取れないというかなんというか。
「違うよ!いやそれもそうなんだけど、なんでそんなに召喚魔法が上手いの!?」
ミーシャがこれでもかというくらいに詰め寄ってくる。ちょっと待って近い、落ち着けこの子ほんと。
あ、ちょっといい匂いがする…ってじゃない!落ち着け!
「それは..こう、息を合わせるというかなんというか」
戦闘中に息が合うんだよなーなぜか。
普段はチャラいやつだから全然合わないんだけどな。
「私召喚魔法を使うことできないんだ。だから侑季君、私に召喚魔法を教えてよ!」
いきなりの提案に俺は思わず目を丸くする。
いや人に教えるほど俺は召還魔法なんてマスターしてないし。
あといい加減離れてこの子ほんと。
「いや、さすがにそれはちょっと」
「お願い、私どうしても使えるようになりたいの!」
はしゃいではいるが本気で懇願をしてくる。
理由ありなのだろうか。
「まあ、いいんじゃねえの相棒?教えてやれば」
横で俺たちの会話を聞いてた月影が口を挟んでくる。
人の気も知らず呑気そうにしているなお前。
そりゃ教えんのは俺だからお前関係ねえけどさ。
「あー..ほら、俺たちは旅人だから。すぐ離れ離れに」
「だったら一緒に行こうよ!ね?それならいいでしょ」
この子は本当に引くことを知らない子だな。
隣のエリルが俺たちを旅に誘った瞬間驚いた表情を見せてるぞ。
「それは今は出来ない相談だぜ相棒」
さっき一緒に行けばとか魔法を教えてやればとか言ってた月影が真っ先に反対した。
お前情緒不安定かよ。
「なんで〜。あ!さっきの私たちの態度が悪かったんなら謝るからさ〜。ほらエリルも反省してるから!」
そこにエリルを勝手に入れることはいいのだろうかと突っ込みたくなったがとりあえずは黙っておく。
あ、エリルも否定はしないんだでも。
「いやそういうことじゃないんだ。でも、このままじゃ俺たちと一緒に旅はできないな」
いや、俺決定権は俺にあるもんじゃないのか…
「得体の知れない旅人をむやみに信用するもんじゃない。だろ?」
「いや、私は君たちを全面的に信用するよ!きっと悪い人じゃないって」
ミーシャが言い返したが、そこにエリルが割って入る。
「ミーシャ、彼がいってるのは自分たちじゃなく、私たちの方です」
私たち?どういうことだ。
どうやら月影とエリルの方では意図が伝わっているようだが俺はまだ状況がつかめていない。
「そういうこと。俺たちみたいなのは旅人でいたってなんもおかしくはない、俺たちが善人か悪人かは二人次第だ、け、ど」
月影はそういうとミーシャとエリルに鼻先を近づける。
「ミーシャちゃんの方にはやっぱり同族の魔物の匂いがする。しかもかなり強い」
月影はミーシャに向けて優しく語りかけそして言葉を続ける。
「それにに、二人とも、生まれはかなり上の身分だな」
月影がそう語るとエリルは返す言葉もないといった風に黙り、ミーシャはかなり動揺している。
ここまできてようやく月影の意図を俺も察することができた。
ミーシャはわかったのか怪しいが、エリルはしっかりと月影の意図を汲み取っていたんだな。
つまりはこういうことか。
月影は二人が普通の人間じゃないことを初めから察していた。
だから、一緒に行くとなれば触れないで済ませるには大きすぎる問題だ。
だから、もし一緒に行くのなら二人の秘密を明かし、だめならここで別れようという提案だろう。
ついでにいうなら、この提案。初めから連れて行かないという選択肢はない。
月影はキザというかかっこつけというか、とにかく女の子にめちゃくちゃ弱い。
狐のくせに。
だからまあどうせ何かしら理由をつけてこの二人と一緒に行こうとするだろう。
「エ、エリル?」
ミーシャはこの場で自分が決めるのは不適だと判断してエリルに助けを求める。
ごめん、うちのクソ狐のせいだよな。
エリルはしばらく考えていたがやがて目を閉じて深呼吸をするとゆっくりと口を開く。
「ミーシャこ私の判断が間違ってたとしても、あなたの命は保証します」
エリルはそうミーシャに優しく語ると凛とした顔つきで俺と月影に向き直る。
何をするのかと思ったその時だった。
____________エリルは片膝をついた。
いきなり何をしたのかと思ったら、これはいわゆる忠誠の姿勢だ。
その体制のままエリルは喋り始める。
「私は、エルトリア王国、国王軍直属護衛隊長、"エリル=シルエスタ"」
「た、隊長だって?」
思わず口に出してしまった。
月影の嗅覚って本当にあてになるんだなまじで。
「現エルトリア王国王女"ミーシャ=エルトリア"様の護衛をしております」
「…え?」
エリルはまっすぐこちらを見つめて喋っている。
月影は驚いた様子もないが俺は驚きを隠せない。
まじで、え?まじでいってんの。
王女だよ、王女。
俺捕まったりしないよね。
たしかに月影がわざわざ身分を明かさせた意図はわかった。
この二人がこれほどの身分でありながら旅をわざわざしているのは奇妙にもほどがある。
いや、奇妙さで言えば異世界から転生してきた俺の方がよっぽど奇妙であるのだが。
俺はミーシャの方を見てみると彼女はなにも言わずただエリルを見つめている。
身分を明かすことはよっぽどの時でなければしないはずだ。もし明かす相手を間違えた時は殺されることもありうるからだ。
「エリルは、なんで身分を明かしたんだ?」
俺はエリルへと問いかける。さっき会ったばかりの俺たちに身分を明かすのはかなり危ないのはわかっているはず。
それなのにエリルは自分から身分を明かしたのだ。
よっぽど何か事情があるのかも知れない。
エリルはこちらを向いたまま、しかし俺たちに無防備であることは以前変わらない。
「私たちは王国から逃げ出してきました。ミーシャが命を狙われているためです」
エリルの体が小刻みに震えている。
「犯人は誰かはわかっていませんが、私たちは王国にいるときに、何者かに襲撃をされました」
ミーシャが顔を暗くする。この出来事を話すことが相当の覚悟からくるものなのだろう。
「襲撃されたとき、私たちは油断し、殺されるかと思いました。ミーシャの使い魔の"バロン"が私たちを逃がしてくれたのです」
おそらく月影が感じ取った魔物の匂いとはそいつのことなのだろう。
「ですが、私たちを逃すときにバロンは全力を出して、魔力を全部出し切ってしまったのです」
「あれ、でもそれならもう一回召喚すればいいんじゃ」
「あのね、私は魔法がうまく使えないんだ」
魔法がうまく使えない?じゃあ今まではどうやって召喚をしていたんだ。
「だから、いつもはこれを依り代にして使ってたんだ」
そういうとミーシャは手首につけるブレスレットのようなものを見せてくる。
割れていたが、金色に輝いて魔法陣の紋章が描かれている。この紋章はたしか魔法を補佐するためのもの。
「これはね、侑季君のグローブと同じ魔道具なんだ」
魔道具はかなり貴重なもののはず。
というか俺のやつはそもそも魔道具と言っていいのかわかんないけど。
魔道具というのは未だ多くが解明されていないが、それぞれに固有の魔法を補助する機能が付いている不思議な道具だ。
「でも、バロンが私たちを逃がしてくれた後。これが割れちゃって..使えなくなったの」
話を察するにおそらく限界を超えてこのブレスレットは壊れてしまったのだろう。
使い魔というのは種類にもよるが基本俺たちとは住む世界が違う魔界にいる。
この世界には魔力を通して現れているので、魔力を使い果たせばおそらく魔界へと帰るはずだ。
「私はね、バロンをもう一度呼び出すために召喚魔法をどうしても使えなきゃなの」
なるほど。それがさっきあんなに召喚魔法を覚えたがってた理由なのか。
ミーシャは震えながらブレスレットを握りしめる。
「このブレスレットに変わるものを私たちは探しています。この遺跡にいたのもそのためです」
エリルはミーシャのブレスレットに手をかざすと悲しそうな顔をする。
「バロンを呼び戻し、王国に戻ってミーシャを殺そうとしたものを捉えるためです」
そこまで語るとエリルは俺の方を向き、頭を下げた。
「あなたがこれほど召喚魔法を使えるなら、この道具がなくてもミーシャに魔法を教え呼び出すことが可能かもしれません、だから」
____________私たちを助けてください
「..話はわかった、助けるよ」
細かいことは抜きにして、目の前の二人は俺に助けを求めてる。これを助けないなんてことは血が通ってない人間か何かだろう。
「ほんとに!?」
ミーシャが顔をパッとあげると目をキラキラさせる。俺がほんとだよと答えるとさらに目を輝かせる。
「ほんとうに感謝します」
エリルは一言だけそういうと、ミーシャを見つめて微笑んだ。
なんだ、そんな優しそうな顔もできるんだなこの子。
月影を見るとニヤニヤした目で俺を見てくる。こいつ最初から俺が断らないのわかってたな。
なんかはめられた気がするけど…まあいいか。