第46話 真相&協力&期限
「私達の国が…」
「乗っ取られる!?」
エリルとミーシャが驚いた表情でエースの方を見つめる。エースはなお冷静な口調で淡々と述べる。
「正確には、乗っ取られた。よ」
「パパは!ママは!」
「死んではいないから安心しなさい。少なくともあと10日は」
ミーシャが取り乱す。それは滅多にないことだからこそ状況がとてつもないことを物語る。
「あなたは…何故それを知っているのですか」
問い詰めるようなエリル。その目に見えるのは不安と戸惑い。
「ガルバドシアの目的がそれだもの。一部…デュースとトレイとケイト以外は知っていることよ」
「それを止める気は無かったのですか」
「残念ながら、ここまでは止めてはいけないことなのよ」
あくまで平然としているエースの答えに対して業を煮やしたエリルが詰め寄る。
「あなたは!一体何を考えているんですか!」
エリルが声を荒げる。なぜわかっていて止めなかったのか。なぜ事が始まってから自分たちに言ったのか。そんな思いがエリルを怒らせた。
エースはそんなエリルを見て当然だというような顔をしている。まるで自身が憎まれるべきだとでも言いたいかのように。
「理由を…聞かせてください」
両の拳を強く握りしめ、泣きそうな顔を無理に強張らせてミーシャが喋る。
エースが驚いた表情を見せた。
「正気?少し考えが甘すぎないかしら」
「全部聞いてから判断します」
ミーシャは悩んでいた。自分の今取っている行動は正しいのかと。
目の前にいるエースは自分の国を見殺しにしたと言っても過言ではないことをして来ている。さらにそれを今になって自分たちに伝えている。
しかし、それでもミーシャにはエースが敵とは思えない何かがあった。
「…そう、いいわ。じゃあ全部話しましょう。そのためには」
エースが一度目の前から消えた。
しかし、すぐに戻ってきた。
迅雷、侑季、トレイ、ケイトの4人を連れて。
「うぉ、何や急に」
「あれ?エリル、ミーシャ」
さっきまでこんなところにいたはずじゃなかったのに…どういうことだ。
「侑季君!迅雷さん!」
「無事で何よりです」
「ミーシャ、エリル?」
なんで二人がこんなところに?いやていうかなんでエースまで一緒に。とりあえず2人が無事でよかった。
「さて、予定が変わってしまったわ」
「エース、トレイを危険な目に合わせたこと。説明してもらうぞ」
「あなたもなのねケイト、何故皆私の話をわざわざ聞こうとするのかしら?」
「そうケイトが望んでるからだ。じゃなきゃ切りかかってる」
トレイがエースを睨む。エースは心底わからないという顔をしている。
エースがここまで皆んなを引っ掻き回した意味…それは俺も気になる。
「こうなった以上は話すしかないわね…そうね、ガルバドシアの目的から話しはじめましょうか」
エースはふぅ、とため息をついた後にゆっくりと話し始める。
「ガルバドシアは…以前はガルバドスを讃える団体に過ぎなかったわ、キングが来るまでは」
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そこからエースが語ったのはガルバドシアという団体の変遷について。
キングという男はガルバドシアに突如現れると、まず最初に一言'この国は腐っている'と言い放った。
次にやったことはガルバドシア内にいる自分と反対意見者の大粛清。これによって一時的にガルバドシアはほぼ崩壊した。
その後、キング自らのもとでガルバドシアの新たなメンバーが集められた。
「私もトレイもケイトもこの時のメンバーね」
「粛清って…一体なんでそんなことを」
「そうね、彼は狂信的なガルバドスの信者…自分では末裔であると言っていたわ」
「それはありえません、ガルバドスの神話の中に子供が出てきたことなんて」
「そうね、だから真偽はわからない」
「ねえエース、私とケイトはなんでキングに目をかけられたの?」
トレイが口を開く。ケイトもそれを知りたいと言った顔をしている。
「それは貴方達が魔力を強く持ってるからよ」
「魔力?それがなんで」
「…キングの目的は、国を依り代にした神の召喚。そして殺すことよ」
…国?
「ち、ちょっと待てエース!国を依り代って一体」
「そのままの意味よ、キングは国そのものに魔力を込めて神を召喚しようとしてる」
そんなことがあり得るのか…しかも神殺しってことは、アマテラス達が俺に手を貸してくれたのってもしかして。
繋がった気がする、色んな事が。
「今更突拍子のない話に驚いている時間はないので単純に聞きます。それを知っててなぜ止めないのですか」
「簡単よ、この魔法に止める術がないんだもの」
「止めれないって、それじゃあパパもママも…!」
「いいえ、それは違うわ」
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キングが使った魔法は[ゲファレナー]という魔法。神や天使といった人知を超えたものを人の世界まで堕とすために作られた魔法らしい。
これを使うためには一般の人の魔力の百万人が必要と言われるほど膨大な魔力を必要とする。
キングはその魔力を国全体に魔法陣を敷き、国民から魔力を搾り取ることで使えるようにする気だ。
「魔法陣は私達が来る前から敷かれていた、その時点でもう止めることはできなかったのよ」
「止めれないって言ったのはなんでだ?」
「仮にキングを倒して止めたとして、魔法陣はどうなると思う?」
それは…えっと。消えたりはしないってことだよな。
「術者が死んでも魔法陣は消えんし、その規模やと暴走して国ごと消し飛ぶ可能性の方が高いな」
「賢いわね、その通りよ」
消し飛ぶって…そんなことが。それじゃあもうどうしようもないんじゃ。
「でも、止める唯一のチャンスはここからよ」
「本当!どうやって!どうやって止めるの!」
「今日キングは[ゲファレナー]を使った。ということは魔法が完成するまで後10日」
後10日…この状況にしてはずいぶん猶予があると捉えるべきか。いやでも普通に考えたら少ないよな。
「それまでに、これをキングに向けて当てる必要がある」
エースが右手を開いて前に突き出すと、光った一本の杖が現れる。
「これは、一体」
「…あんた、魔女やったんか」
「あら、ずいぶん詳しいのね」
「これは…エリル分かる?」
「いえ、残念ながら私にも何かは分かりません」
迅雷さんを除いて誰もわからないといった感じだ。トレイもケイトも黙ってはいるけどわからないようだし。
「こいつは断罪の杖、魔女にだけ代々伝わる秘宝と言われとる」
「あら、別に秘宝でもなんでもないわ。ただの[クリエイト]で作り出したものよ。魔女以外には知らないからそう言われてるけど」
「…そいつは驚きや、知らんかった」
「ごめんなさいね、話が逸れたわ。この杖は向けた相手の魔力を無くすものよ」
魔力を無くす?
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エースの話をまとめると、断罪の杖というのは魔力を込めて相手に向けることによってその間だけ相手の魔力を杖の中に奪うことができるらしい。
それを利用してキングの魔力を奪うのが目的らしい。すでにエルトリア王国では[ゲファレナー]という魔法が発動しているが、これを使えば相手の魔法が完成する前に消せるらしい。
重要なことは、断罪の杖を使っている間はほぼ無防備になるらしいので例えキングに隙をついて使ったとしても仲間が来れば無駄になってしまうということ。
「貴方達を別々にエルトリア王国に向かわせて騒ぎを起こしてる間に私がキングを抑えるつもりだったのだけど、これじゃあ計画変更ね」
「エース、貴方ガルバドシアのメンバーでいつも何をしてるかわからないと思ったらそんなことをする気だったのね」
「そうよ。…ねぇケイト、貴方が手を貸してくれるならその後の生活を保証するわ」
「…僕にこの場で君に寝返れということか?」
「ええそうよ。選択は貴方に委ねるけれど」
エースとケイトの間に緊張感が走る。ケイトは黙ってエースを睨んでいる。
やがて、口を開いた。
「僕が望むのはトレイが安心して生きていけることだけだ。それを満たせるなら誰だっていい」
「そう、契約成立ね。貴方達はどうする?私と手を組むか…別々に動くか」
エースが俺たち4人に問いかけて来る。
エースの言っていることが全て本当ならば手を組むべきであるのは間違いない。しかし、全て信じるのがいいことなのか。他の皆んなが信用できると言うかもわからない。
「僕はこの三人の決定に委ねるで。乗りかかった以上どうなっても手伝うし」
「私も委ねます」
迅雷さんに、エリルまで。
決定を委ねるってことは…やっぱり。
「……」
ミーシャにってことだよな。
「…侑季君」
「俺も、ミーシャに従うよ」
国のことを、誰より考えて決断を下せるのはミーシャだろう。ミーシャの決断に全て従う。
「ありがとう。…エースさん、私達も貴方に協力します」
「そう、期待してるわ」
エースが初めて微笑んだ。
後10日、やれることは限られてるけど…エルトリア王国を救ってみせる。
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物語も終盤になってまいりましたがもう少し頑張っていこうと思いますので応援よろしくお願いします。
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