第4話 ゴーレム&責任&助け
「それじゃ、えっと..侑季君!私たちはもう行くね」
「あぁ、それじゃあ気をつけてな」
お互いに戦う気がないことがわかったので別れを告げて別々の道を行く。
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「暗いな、月影。火」
「俺を松明がわりに使うんじゃねえよ」
文句を言いながらも月影は尻尾から火の球をぼっと出して明るくする。
「それにしても相棒よー、あんな可愛い子二人なんだから一緒に旅すればよかったじゃんか」
「うっさいぞ月影」
月影が別れてからすぐに不満そうな顔で俺に話しかけてくる。こいつとしてはあの二人と一緒に旅がしたかったのだろう。
「見ず知らずの旅人と急に旅をするほどあの二人もバカじゃないさ」
「いやでもよ。なかなか面白そうだぜ?あの二人な、実は」
月影が何か言おうとしたその時目の前から突然巨大な塊が現れる。
「っ!月影」
___________俺は咄嗟に月影に魔力を込めて戦闘体制に入る。
目の前には岩でできた人形のような物体..いや魔物だこれは。
「ふーん。相棒、こいつはゴーレムだ」
「こいつがゴーレムか」
ゴーレムというのは物質に魔力が宿って動く人形のような魔物だ。一般的には人間が魔力を込めて作り上げることが多いのだがこのように魔力と周りの物質から自然発生をするケースも稀にあるらしい。
などと考えているとゴーレムは俺に対して襲いかかってくる。
「おっと、そうはさせねえぜ」
月影がその攻撃を1つの尾で受け止め、別の尾で払い薙ぐ。
吹っ飛ばされたゴーレムは壁にぶつかって一部が崩れる。が、一瞬で元に戻ってしまう。
「こういう敵はめんどくさくて嫌いだぜほんと」
月影は少しため息をつきゴーレムの方を睨みつける。
ゴーレムは全身が魔力でできているので多少壊れようとも再生力が高い厄介な魔物なのだ。
対処法としては流れている魔力に別の魔力を流し込み破裂させたりするなど。
「月影、こいつのコアは腹のとこだ」
ゴーレムに存在する小さな魔力が溜まっているコアを破壊することで倒すことができる。
「言われなくてもわかってるぜ」
そういうと月影は狙いを澄ましてゴーレムに飛びかかる。
生物とは言い難いゴーレムは防御体制もとらずそのまま向かってくる月影に攻撃しようとする。
「遅いぜ」
だが、月影はひらりとかわしてゴーレムの腹部に右前足で爪を振りかぶる。
「[弧月]!」
俺は魔法を唱えると同時にグローブに魔力を込める。込められた魔力は月影へ伝わり、爪が魔力を帯びて光る。
「喰らいな泥人形!」
______爪が、ゴーレムの腹部を捉えて切り裂く
コアを失ったゴーレムはガラガラと音を立てて崩れ落ち後には岩の塊が残った。
「結構堅かったな。爪が欠けるかと思ったぜ」
にやりと笑いながら余裕そうに月影は呟く。
「何言ってんだ。てめえの爪が欠けることなんてあってたまるか」
「あ、やっぱバレた?」
「自然発生するゴーレムか..そんなに魔力がある場所には思えないんだが」
「おいおい、スルーかよ」
俺は疑問に思いゴーレムを調べてみると、微弱ながら残った魔力が感じられる。
この魔力はだいぶ拡散されて力を失っているがそれでもまだ中々の魔力を帯びている。
よほど強い魔力から生まれたゴーレムみたいだな。何かここで強い魔法でも…
そこで嫌な予感がした俺は月影を見ると、月影も同じことを考えたようだ。
「これ、アマテラスの魔力か?」
俺は一応月影に問いかける。
「残念だけどそうみたいだな。転生した時にここら辺にぶっ飛んじまったらしい」
月影はやれやれといった表情で俺の顔を見つめる。おい、俺のせいではないぞ。
そりゃたしかに場所をここに決めたのはある意味俺のせいだけど。
となるとここら辺にできるゴーレムは全て俺たちのせいになるだろう。さすがにまずいと思いどうしようかと思案してると月影が口を開く。
「この魔力がどこらへんに飛んだかなら調べられるぜ」
動物か魔物の習性なのか月影はかなり魔力の感知器官が優れている。
このままほっておいて誰かが怪我をしても悪い気がするので後始末で片付けて行くことにしよう。
「そこらへんのゴーレムより強いし倒すのは一苦労かもな。とりあえず月影頼んだ」
「ちぇっ、人任せな相棒だぜほんと。ちょいとまってな」
月影は先程倒したゴーレムのカケラの一部に鼻を近づけ、その後辺りを見回すと目つきを尖らせる。
「こいつはまずいかもな」
月影はさっきまでいた道の方を見つめて呟く。
そっちはさっき俺たちが来た道、てことはあの二人がこれから通る…
「俺らのいるこっち側にはほとんど魔力は来てなかった。問題は奥の方に魔力がだいぶ流れちまってる」
やばい…もしかしたらゴーレムと対峙してるかもしれない。
変な汗が出て来た。
「ちょっと危ないかも。相棒、急ごう!」
言われるまでもなく先程あったばかりの子に俺たちの魔力が原因で怪我を負わせましたとなっては最低な野郎だ。
俺は月影に飛び乗ると来た道を全力で戻り出した。
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洞窟の奥ではミーシャとエリルに10体のゴーレムが立ちはだかっていた。
「えいっ!って痛!エリル、これ無理!切れない」
ミーシャは剣を持ちゴーレムに斬りかかるがキン、という音とともに弾かれてしまう。
ゴーレムの硬さというのは体を作っている材質と流れている魔力に左右される。
ただの岩ならそれほど硬くはないだろうが拡散されてるとはいえ神の魔力が流れているのだ。
その強度はかなり高いことが予測される。
「ミーシャは下がっててください」
エリルはミーシャを後ろに誘導すると魔力を練る。
(ゴーレムはコアさえ破壊すればいい..それなら)
エリルはコートの内側から自分の指ほどの鉄の棒を取り出しゴーレムに向ける。
「..[ショット]」
魔力を込めて魔法を唱えると鉄の棒がゴーレムに向けて素早く射出され、ゴーレムのコアを撃ち抜いた。
「これで倒せるならなんとか..」
エリルは周りを見渡す。統率こそは取れていないが周りにはあと9体のゴーレムがいる状況。決して優しい状況ではない。
(この狭さだと逃げ回ることは難しい。ミーシャを守りながら倒すには...)
エリルが思考をする間にミーシャが動く。
「魔力さえ込めれば..これくらいの岩!」
ミーシャは剣に魔力を込めてゴーレムに斬りかかる。
ミーシャの剣は微力ながら魔力を帯びてゴーレムを切り裂きコアを破壊する。
と同時に近くにいたゴーレムがミーシャへと襲いかかる。
「ミーシャ!..[ショット]!」
咄嗟にエリルはもう一本取り出してゴーレムへ向けて的確に撃ち抜く。しかし
(しまった..囲まれた)
ミーシャの援護をしてる間に自分が囲まれたことに気づく。
(とにかく一体でも多く)
エリルは三本ほど鉄の棒を手に持ち襲ってくるゴーレムをかわしながら打ち込む隙を探す。
ミーシャも別のゴーレムへと斬りかかりもう一体斬り倒す
(どうにかして倒さないと..)
そう思って撃ち抜こうとした時、手から鉄の棒が滑り地面に落ちてしまう。
「あっ..!」
拾おうとしたのが失敗だった。エリルが手を出した瞬間、背後にいたゴーレムがエリルへと殴りかかろうとする。
「くっ..!」
痛みを覚悟して防御体制をエリルが取ったその時だった。
「女の子ってのは優しく扱うもんだぜ人形さん」
月影が飛び出して尾でゴーレムを払い飛ばす。
「今のは…さっきの人の」
「エリル!ミーシャ!大丈夫か!?」
上に乗っていた俺はすぐに二人の無事を確認するために声をかける。
「侑季君!月影!助かったありがとう!」
ミーシャはこちらに駆け寄って来て月影に抱きつく。抱きつくといっても今のサイズでは足に抱きついてる状態なのだが。
「よっと、エリル?だったよな。立てるか?」
俺は月影から降りてしゃがみこんでいたエリルに手を差し伸べる。
「あ..ありがとうございます」
エリルはお礼を行ったかと思うと俺の手を取ってすぐに立ち上がった。
「先程は失礼な態度をとってしまい申し訳ありませんでした。助力、感謝します」
「いや、出会いが出会いだったんだ。ああやって警戒することはごく自然のことさ」
事実俺もエリルの立場なら同じことをしていたと思うし彼女が気に病む必要は全くないのだ。
強いて言うなら今この状況を作ったのは俺たちの転生が原因でありむしろこちらが謝りたい状況である。
「相棒!悪いけど囲まれてるぜ?」
辺りを見渡すと残っていたゴーレムは俺たちを取り囲んでいる。すっかり囲まれてるなこれは。
「とりあえず、まずはこいつら蹴散らすぞ月影!」
「おうよ相棒!」