第30話 リリー&4人目&天才
ガチャっとドアが開く音がした。慌てて振り向くとオウカがドアの前で困ったような顔をしながら立っていた。
「...うーんと、ごめんなさいね?」
「ち、違います!私は別にそんな」
慌てて手を離すとエリルは慌てながら必死に弁明をしようと必死になっている。
その姿がまた普段のエリルがなかなか見せないような表情で俺は思わず笑ってしまった。
「ゆ、侑季君!なんで笑うんですか」
「い、いや。笑ってないよ」
エリルでもこんな風に取り乱すこともあるんだな。これはいつかからかいに
「そのニヤケ顔ができないようにしてあげましょうか?」
「すいませんでした調子に乗りました」
「えっと..お取り込み中いいかしら?」
話にどうやって入ろうか迷っていたオウカが半ば無理に話を止めた。
「あ、すいません。えっと、それで何を話しに来たんですか?」
横から感じるまだ終わってないと言った顔のエリルはほっておいて話を進めることにした。
「この宿、うちの旦那が派手に壊してくれたようだから。建築屋に頼んで直してもらうのよ」
「「建築屋?」」
エリルと俺の声が重なる。本日二度目だが俺はわざとじゃないぞ、だからそんなに見るなエリル。
「ミーシャもエリルも初めてってことね。私たちと同じ、ギルドマスターの子が来るのよ」
「建築屋がギルドマスターなんて話は聞いたことありませんが」
「そうね、まあ会ってみれば分かると思うんだけど…もうすぐ来ると思うんだけどね」
「たのもーーー!!!!モラグの旦那はいらっしゃいますかーー!!」
突然宿屋の外から耳を突き抜ける大きな声が聞こえてきた。至近距離で怒鳴られたのかというくらいに大きな声だ。
「噂をすれば来たみたいね。さ、挨拶をしに行きましょう」
オウカが促すままに俺たちはとりあえず玄関へとついていった。
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「お、旦那!これはまた派手にやられていますなー?」
「相変わらずお前の声は耳に響いて溜まったもんじゃねえな」
「いやー!これが取り柄でしてな。おやおや?随分と見知らぬ顔が増えた模様で」
え?
目の前にいる人はぱっと見14歳くらいの元気な女の子に見える。服装は探検家といった具合の重装備で茶色い髪も帽子でほとんど隠されている。
あと…鼻につけている絆創膏がすごく目立ってる。
「これははじめまして!自己紹介を致しましょう!」
元気な少女はそういうと被っていた帽子を取って深々と頭を下げる。
「私の名前は"リリー アルキテクト"です!リリーって呼んでくださいね」
「り、リリーさんですね。わかりました」
めちゃくちゃ元気な子だ。
ミーシャもそこそこ元気だと思っていたがそのミーシャまでもがちょっと勢いに押されている。
「そんなリリーさんだなんて!リリーで良いですよ。どうせ私の方が年下なんですし」
「えっと、リリー?」
「はい!リリーです!建設屋アルキテクトのマスターことリリーです!なんつって、ほんとは私しかいないんですけどね、あちゃー!これは参った!」
「あ、あはは」
ミーシャが苦笑いをした。この子すげえな。それほどまでに手強い相手だというのか...なんて冗談は置いといても、この子異様にテンションが高いなほんとに。
「ま、私みたいな若造についてくる人なんていませんよね。というわけでリリーちゃんは絶賛一人で建設屋アルキテクトをもりもりと経営ちゅ」
「あ、あの!ちょっといい?」
「ほえ?」
このままだと永遠に喋ってしまってそうな雰囲気だったので無理やりにでも一度止めておく。
「さっきオウカさんから聞いたんだけど。リリーはギルドマスターって本当なのか?」
「おーっとこれはナイス質問!そうだよね〜私みたいな年の若い奴がギルドマスターなんて怪しいよね〜、まあ若さで言えば旦那の方がよっぽど〜なんつって!」
...この子、話が通じない。
いや話が通じないというか話が脱線しかしない。大丈夫かこれ。
「んん、まあ質問に答えるとイエスですよ。ちゃんと私は正真正銘のギルドマスターでしてね。色は茶色ですが」
「おいリリー、今日は仕事をしに来たんだろ。おしゃべりはその辺にしとけ」
「おっと失礼旦那。それじゃあ早速仕事を終わらせていただくんで少々お時間を」
「侑季達、こっちに来い。そこだと邪魔になる」
モラグが全員を宿屋の方向から遠ざけてリリーだけを宿屋の前に残す。
「モラグ?あの子がギルドマスターってほんとなの?」
「ん?あぁ、それに関しては本当だ。あいつは間違いなくギルドマスターだぞ」
「それにしてはあまり力がないように…気迫も感じられませんし」
エリルが言うように確かにあのリリーと言う少女には戦いの経験など全く見えない。どこにでもいる少女と同じくらいの強さであるように思える。
「あぁ、あいつは全く戦えないぞ」
え?
モラグはあっさりとそれを肯定した。当然とでもいうかのように。
「え?それじゃあなんでギルドマスターに」
「あいつが天才だから、だろうなぁ」
モラグはリリーの方を見たあと、呆れたようにため息をつきながらそういった。
「侑季君が使ってるその魔道具、それについてどれくらい知ってる?」
魔道具、これアマテラスに貰ったやつだしなぁ。どれくらい知ってるって言われても…
「あー、なんか召喚魔法を使いやすくしてくれてるなぁみたいな感覚しか」
「そう、魔道具は私たち人間にはその程度しか理解されてない代物ね。一説では神様の贈り物なんて説もあるけれど」
あ、たぶんそれ当たってます。全部が全部そうなのかはわからないけど。
「だから魔道具っていうのは私たちにとっては未知なものなのよ」
「?えっと、それとリリーになんの関係が」
「あいつはその魔道具を人工的に作った唯一の人間だ」
「「「...え?」」」
俺もミーシャもエリルも3人揃って声をあげた。
あの小さな少女が?と言うのは失礼なのかもしれないが、それにしてもいくらなんでも幼すぎやしないかそれは。
「モラグ?魔道具を作るってそんなことできるわけが」
「というかそれができるならもっと知れ渡っているはずです」
ミーシャもエリルも信じられないと言った表情でモラグの方を見る。もちろん俺も2人の意見に賛成だ。
「そんな信じられないんなら今からあいつを見ときな。規格外ってのがよくわかるからよ」
「..範囲はこれくらいで、..だから、よし。旦那!準備ができましたよ!」
「おーちょうどいい、やってくれ」
リリーはモラグに許可をもらうと、大きく深呼吸をし始めた。仕事って、今から?
「建築屋って…普通道具とか使って作るもんじゃ?」
少なくとも俺の知ってる大工という仕事は一人でやるものでないしましてや道具も何も持たずするものではないはずだ。
「まあ見てな」
「ふーーーー...[クリエイト]!」
リリーが魔法を唱えると壊れたはずの宿屋が一瞬にして再構築されていく。
壊れていた壁やドアは全て元どおりになっていき、綺麗な新品の状態に戻った。
「...ふぅ!終わりました」
「...まじ?」