第21話 別れ&予定&練習
翌日
現在の時間は赤の2の刻。まだ日が出てそう経っていない時間だ。
迅雷さんがもう旅に出発すると言うので俺たちは見送りをすることにした。
魔道具の話は見つかる時期がわからないのでいつ頃連絡するかはわからないらしい。まぁ気長に待てばいいかな。
そういえば俺との戦いの後何かあったのかわからないけど迅雷さんの顔つきが少し変わった気がする。
「ほんじゃまあ、ちょっとの間お世話になりましたわ」
「もう行くのね。もう少しゆっくりしてくれても良かったのに」
「僕は旅人やから、そう1つのところに留まるわけにも行かんのですよ」
いや別に留まることは悪くないんじゃないのか?
まぁ野暮かそんなことは。
「あの、迅雷さん。私たちのために魔道具を探していただけること、感謝します」
「かまへんかまへん。どうせ目的もない放浪だったんや。何か1つくらい目的持つんも悪ない」
「だってさエリル、よかったね」
目的か…俺も旅人みたいなもんだよな?
今は、ミーシャのお手伝いが俺の目的かな。
「どうしたの侑季君?私の顔になんかついてる?」
「いや、なんでもないよ」
うん、やっぱりそれが一番いいだろう。
「あ、そや。侑季君」
「あ、はい?何ですか」
「君は強いけど、まだまだ危なっかしいところがぎょーさんある」
「うっ」
最後にお説教ときたか。
まぁ言われるまでもなく俺に危なっかしいところがあるのはよくわかってます。
「パートナーとの息の合わせ方、一番大事なのはお互いが信頼しあってることや」
「信頼…ですか」
漠然としすぎててなぁ。
信頼…ねぇ。
「そんじゃまあ、最後に」
向き直ったかと思うとモラグの方へと近づいていく。
「昨日言うたこともし忘れおったらしばくつもりやからな。覚悟しとき」
「…分かったよ、肝に銘じとく」
昨日?迅雷さんいつモラグと話なんかしてたんだろう。
「そんじゃまあ、次会うときは屍やあらへんことを」
「死んだらてめぇに取り憑いて呪ってやるよ」
「おー怖っ。呪われんように早よ去りますわ」
お互いにわざとらしい悪態をついたかと思うと迅雷は最後にそれだけ言い残して去っていった。
「ねぇあなた。迅雷と昨日何を話したの?」
「ん?そうだな。…強いて言うなら人生についてだな」
「なにそれ、変なの」
人生って…一体なにを話したんだほんとに。
グギュルルルルル
「お、お腹空かない?」
ミーシャ…今のはないと思うぞ。
「ミーシャには難しい話より今日のご飯のことの方が大事なようです」
「ちょ、ちょっとエリル!そんな言い方したら私が食いしん坊みたいじゃない!」
「ふふっ、ごめんなさいね。お腹空いたわよね?ご飯にしましょう」
「そうしましょう、行きますよ侑季君」
「あぁ、まずは飯食べるか」
「ちょっとエリル!まだ話は終わってないよ!だいたい私よりエリルの方が〜…」
俺の目の前でガヤガヤ言い争ってるけど放っておくことにしよう。
シリアスのような雰囲気がミーシャの声から一転していつものやかましい日常に戻ったのであった。
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町を出ると、眩しい朝日が迅雷の顔を照らす。
「うーん、新しい門出にはぴったりの綺麗な光。旅の始まりって感じやな」
迅雷は朝日の登る方向へと歩き出して行った。
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「てことは、3人は同じギルドでギルドマスターとして働く前から知り合いだったんですね」
「そうね。私は彼がギルドマスターとしてギルドに来た時とても驚いたのよ?」
雅の国というのは鎖国をしているわけではないし、他国の人間についても寛容的だ。
しかし、なぜか外の国に出ることはあまりしなく、自国で一生を終えるのが多いらしい。
迅雷さんはそんな国を飛び出して、旅をしてギルドマスターになったのか。
「なんというか、すごい人なんですね」
「あいつが旅をした理由はよくわかんねえがな。いつからか急にギルドに顔を出しはじめたんだよな」
「へーそうなんだ」
「…」
「モラグ?どうかしたの?」
「…いや、なんでもねえよ」
今日はモラグがよく何かを隠そうとしてるな?
どうしたんだろう。
「まぁあいつと話すのも久々だった気がするぜ。侑季のおかげだ、感謝してるぜ?」
「いや、俺は何にもしてなんか」
「何言ってんだ、あいつが紫の称号を与えたやつなんてお前しかいねえぞ。お前が何かを変えたってことだ」
「え!?侑季君、いつのまにそんなことがあったの?」
「私は聞いてますが」
「えええ!?なんで!私だけなにも知らないんだけど!」
いや、それは俺に言われても…ていうか。
「紫の称号が俺だけってどういうことですか?」
「なんだ聞いてなかったのか。あいつは基本的にいろんなところほっつきまわってるからな、誰かに称号を与えるような奴じゃねえんだよ」
紫の称号ってそんな貴重なものだったのか…迅雷さん、言ってくださいよ。
「そういえば侑季君、今日は特に予定もないのですがどうしましょう?」
「どうしましょうって言われても…うーん。ミーシャはなんかあるか?」
「私はもう少し魔法の練習が必要かなー?そうそうエリル!私[サンダー]を撃てるようになったんだよ!」
あ、そういえばその話エリルにしてなかったな。
「電気系の魔法ですか。急に練習する魔法を変えたのですね」
「うん!侑季君がね、バロンと似た系統の魔法の方が使いやすいかもしれないって言ってくれたんだ」
「電気系ですか…自分の魔法で感電してしまいそうな気がしますね」
「またまたそう言って〜ほんとは嬉しいくせにー」
「...侑季君、冗談が通じません」
いや素直に褒めてあげればいいんじゃないのか…
「すごいって言ってやれよ」
「素直に褒めたら今の数百倍めんどくさくなるのがミーシャなので」
…確かに。
でもまあそれだけ魔法を使えたのが嬉しかったんだろうな本当に。
「魔法の練習となると今日は侑季君も手伝うのですか?」
「いや、俺はしばらくは手伝わなくていいと思ってる」
これからミーシャがすることは使えるようになった魔法を何度も使うことで体に使う感覚を染み込ませることだ。
何度も使えば使うほどに体に刻み込まれていき、より無駄のない魔法の使い方ができる。
まぁある程度まで行ったら今度は[サンダー]以外の魔法を使う必要があるのでその時はまた俺も何か手伝った方がいいのだが。
「となるとどうしましょうか。私も特に何かする予定がないのですが」
「ちょうどいい、それならエリル。侑季に剣を教えてやれや」
「..なるほど。悪くないかもしれませんね」
剣か…自分が強くなるためにも確かに必要かもしれない。
「お前の剣は侑季に教えといて損はねえだろうかな」
「では侑季君、今日はそうしましょうか」
「あぁ、俺も是非おねがいするよ」




