第12話 進歩&初仕事&一角熊
「ふぅ〜..うまかった」
昼飯はモラグが作ったらしいのだがあの豪快な見た目からは想像もつかないほど美味しかった。
特にこの火喰い鳥が一番好きだなー俺。
チキンステーキみたいでこの肉がまず柔らかい上に噛めば噛むほど味が出る。
かかっているソースは森で取れるベリーなどで作られているらしくちょっとした酸味がアクセントになりまた美味しさを高める。
「喜んでもらったけど俺よりほんとはオウカの方が美味しいんだぜ?」
「またあなたは..私もそんなに変わらないわ」
「いーや、俺よりオウカの料理の方が何倍も美味いぞ!それは断言する」
モラグがあまりにきっぱりと言うのでオウカが少し照れくさそうにしている。
ミーシャとエリルが流しているのを察するにたぶんこういうことがよくあるんだろうな。
こういう仲睦まじい光景は見てて意外と楽しかった。
「ごちそうさまでした。美味しかったです」
さて、今は白の2か3くらいか?てことは14時くらいだよな。これからどうしようか。
魔法の練習をしてもいいんだが、宿で練習してもし加減を誤ると悲惨なことになりそうだし。
「ミーシャとエリルはこれからどうするんだ?」
ひとまずこの2人についていくのもありかもしれないし2人の予定を聞いてみよう。
「んーとね私は本屋に行こうかなって思ってるよ」
「私は..そうですね。剣の練習をしておこうかと」
2人は別行動をとるのか。
「私はとりあえず魔法についての本をもっと買っておきたいと思ったからね。今回買ったのはよくわからなかったんだよ」
そういうとエリルは俺に本を手渡してくる。
"魔法学の探求と解明" と書いてある。中を少しはぐって見ると基礎系の魔法の名前や用途から魔法の応用についてびっしり事細かに書かれている。
…これは、なかなか。
「...ミーシャ、これ今日借りてもいいか?」
「うんいいよ。私にはまだ早かったみたいだからねこれ」
確かにこれは半分辞書みたいなレベルで魔法について細かに書いてある。
でも、俺はこの本に書かれている魔法の調節について書かれているページにかなり興味が出た。
「モラグさん、ちょっと魔法の練習したいんでこの後に地下を貸してもらってもいいですか?」
「ん?おういいぞ。まあ派手にやりすぎて壊さないでくれよ」
モラグも快諾してくれたし、午後からは魔法の練習をするか。
「では3人とも別行動になりますね。私は白の6程に帰ると思いますので」
「私は白の4くらいにはもう帰ってくると思うな。それじゃ、また後でね」
エリルとミーシャは時間だけ俺に告げて出て行く。
さて、それじゃあ俺も動くか。
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[魔法の調節について]
手記、アルベルト
恥ずかしながら私は魔法を使うことが苦手だった。
というのも魔力が高すぎて制御できなかったのだ。
私の打つ[ファイア]は普通の手のひらほどの火の玉より大きく、自分の体くらいの火の玉が打ち出されてしまう。
私が[ナックル]を使えば、強化された拳は力を入れると数十メートルの岩肌を貫くことも可能だった。
つまり私は魔法の制御というものがてんで出来なかったのだ。
この本の読者の中にいるかは分からないがもし同じ悩みを持っている人がいるならば私の経験がきっと助けになることだろう。
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思わずここにいますよと言いたくなった。
まさに魔力が強すぎて魔法の制御ができない迷える子羊がここにいるのだ。
「渡りに船っていうか、これが助けになるといいな」
この本に書かれていることをひとまずやってみよう。
1、自分の中に通っている魔力を心臓の一点に集中させる。
一点...一点..意外と難しいな。でもなんとかこれで全部集まったかな。
2、集めた魔法の1割ほどを分離させて、自らの親指に集中させる。
(1割か、だいたいこのくらいかな)
おおよその目分量でとりあえず分離させた魔力を言われた通りに集中させる。
3、最後に分離させた魔力のみを使って魔法を発動させる。
魔法の指定もないのでとりあえず[ファイア]を唱えてみる。
指先から火の玉が上がったがいつもの大きさよりは小さく自分の顔ほどの大きさで止まる。
…うおおおお!できた!できてる!調節できてる!!
仕組みがわかったぞ。自分は特に今この場で急に魔法の扱いがめちゃくちゃ上手くなったわけでもない。
扱う魔力の量を変えることでできるようになったんだ。
魔法は物によるが大抵のものは自分の中に流れてる魔力を使って行う。
今までは多い魔力を使って、調節が難しく自分からしていた。
でも、そうじゃない。初めから使う魔力を絞ることで調節しやすくしてるんだ。
例えるなら…蛇口だ!
水を流す時には出過ぎないように蛇口を絞って出る量を調節するのと同様に、魔法も調節することにより出しすぎないようにする。
言うなれば俺は元々の蛇口が大きすぎて調節がうまく行かなかったんだ。
今みたいに元から使う魔力の量を絞れば使えるようになる。これは使えるぞ。
(えーっと、今まで俺の使えなかったやつは)
魔力の制御ができないので使わずにいた魔法はかなりある。
特に一個も使えないのは創生魔法だ。
もしかしたらこれも使えるかもしれない。
「よし、あれだ。[クリエイト]」
とりあえず、剣でも。
「よいしょ。…ってあれ?」
一瞬形作れていけるかと思ったけどすぐに消えてしまう。
大きさがダメだったかな?
「さっきのはでかい剣だったから、ナイフくらいで…[クリエイト]」
…よし!今度は成功だ。
「よっっしゃあ!」
初めて成功したぜ創生魔法!
「[サモン]」
「どうした相棒?なんか用か」
「月影!創生魔法が使えるようになった!」
いきなり呼び出してごめんな月影、でも誰かに言いたかったんだ。
「お、ようやく苦手なことが克服できるようになったのか」
「おう!これで戦いの時に俺も足手まといじゃなくなったぜ」
「いやーそれはどうだろうな?あんま変わらねえんじゃねえか」
「そんなこと言うなよ月影ー」
「ただいまー!」
この元気な感じはおそらくミーシャが帰ってきた。
もうそんな時間だったか。俺も訓練を終えて上に戻るか。
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「ただいま帰りました」
やがてしばらくするとどこかに行っていたエリルも戻ってきたみたいだ。
自室に戻っていた俺にもエリルが帰ってきた声が届いてきた。
「明日からはどうするか、ミーシャにも魔法を教えれるようになっとかないと」
これからするべき指針もある程度立ったのでそれに向けて頑張らなきゃな。
コンコン
ん?俺の部屋にノック?
「誰だ?」
「あなたの大好きなミーシャちゃんだよ」
「.....」
返ってきた声の主は明らかにミーシャの声でも喋り方でもないぞ。
「どうしました?絶世の美女、ミーシャちゃんだよ?」
「…いや、違うだろ」
「私のことを忘れちゃったんですか、ひどいなー侑季君」
「無理があるだろ...なにしてんだエリル」
ひとまずドアを開けてエリルを招き入れる。
「バレていましたか。なかなかに自信があったんですが」
「今のが自信あるっていうんならミーシャ本人の前でやってこい」
「嫌ですよ。侑季君は私に殺されてこいって言うんですか」
「それくらい怒られるっていう自覚はあるんだな」
割とマジで今のは悪意がありすぎる真似だったぞ、似てないし。
「しかし、侑季君も侑季君ですよ。分かってたんなら早く開けてくれればよかったものを」
「あまりの出来事に思考が停止したんだよ」
「まだまだですね、そんなんでは私とミーシャが入れ替わった時に驚いて心肺停止してしまいますよ」
「ごめんそんなシチュエーションは一生来ないと思うから安心してもらってもいいかな」
ていうかたぶん入れ替わったとしたらエリル絶対楽しむだろ。
「はぁ..で、そもそも何しにきたんだ」
「明日の予定の話をしようかと、すでにミーシャには伝えてきたので」
そういうとエリルは手に持っていた地図を開いて指を指す。
「今私たちがいるのがこのロンダの町ですね。ここから東に少しいくと"キリルの森"というところがあります」
「そんなに遠くはない場所だな」
「はい、行って帰ってくるだけなら半日も必要がないくらいです」
「なるほど、それで?」
「普段は整備された場所なのですが、最近森の奥から一角熊が降りてきてしまったそうです」
「一角熊?なんでまたそんなところに」
「理由は不明です」
一角熊とは全長は3mほど。
全身を覆う黒い毛皮には喧嘩旺盛な気性からか傷が入ってることが多く、その傷の多さが強さの証になるとも言われている。
人を襲うことはこちらから刺激しない限りはあまりないと言われている魔物だ。
しかし、一角熊の角はとても硬く加工も難しいためコレクターにはお目が高いとか。
「という話を、ギルドによって調べてきましたのでこれの討伐を引き受けてきました」
「いや一角熊って...少し危なくないか?」
入りたての新人が倒す魔物としてはかなり荷が重いように感じる。
もちろん、倒せるか倒せないかで言えばおそらく大丈夫ではあるのだが。
「一角熊は角がいい値段になります。それに強いのを倒せばランクも上がって情報が入りやすくなります。私たちとしては事は早い方がいいので」
「多少の危険は承知の上でってことか、でもやっぱり」
「ミーシャを心配しているなら不要です。あの子はここに来るまでだって何度も危険な事はありました」
下手な気遣いは逆に失礼ってか。
2人の方が一緒に長く旅をしているんだ、エリルがそういうなら信じよう。
「それに、危険なら守ればいいんです」
「わかった、それなら特に口出しはしない。で、明日それを討伐しにいくのか?」
「その予定です。それでお金のあてはかなりできるのでその後魔道具の情報とミーシャの魔法の訓練を並行してやろうかと思っているのですが、どうでしょうか」
「特に問題はないんじゃないかな。俺もその意見に賛成だ」
「そうですか、ありがとうございます」
よし、それじゃあ明日は一角熊討伐か。
間違っても殺されないようにしないとな。
ギルド初仕事、頑張りますか!