第11話 説明&登録&召喚士
やばいやばいやばい、いややばいのか?
ていうかバレるとやばいのか?
わかんないけどどうすればいいんだこれ。
どこまで知られているのだろうか。
「侑季君。あなたの記憶には私の知らない世界がある」
オウカは緑色に光っていた目を戻すとふぅ、とため息をついた。
「だめね、これもまた初めてよ。あなたの情報を探ろうとしても何かに阻まれる。こんなの初めてよ」
(アマテラスが隠したってことなのか...?)
「言いたくないことなら聞かないわ。でも、差し支えなければ教えてくれないかしら」
話すべきだろうか?しかしオウカさんの目でも見れなかったということはアマテラスが隠しておいてほしいことなのかもしれない。
勝手に喋るのはまずいかもしれないな。
(あー侑季君侑季君、聞こえてるかい?)
「えっ!?」
思わず驚きで声が出る。
「侑季君?どうかしたの」
「あ、いえ..なんでもないです」
どこからともなく聞こえて来た声の主は分かっている。今のはアマテラスの声だ。
(うん聞こえてるみたいだね。今この声は君にしか聞こえてないから安心してくれたまえ)
(それは今ので察しました。で、なんで俺に話しかけて来て)
(あーそれなんだけどね。異世界転移のことも私に出会ったことも喋っていいよってことを言いに来たんだ)
わざわざそれをいうためだけに俺にコンタクトを取って来たのか。
いやまぁありがたいな今回のことは。
(別段隠すことではないからねー。ただこの人が私と君の出会いの部分の記憶だけ見えないのは私が神様だからってだけなんだ。だから喋るかどうかは君にお任せするさ。それじゃあね!)
アマテラスはそれだけいうと一方的に電話を切るみたいにプツンと連絡が取れなくなった。
言っていいよといわれても...
(死んだと思ったら神様に助けられてこの異世界に転移されてきましたなんてどう説明するんだよ)
俺に起こった出来事を一から説明して信じる人など早々いるわけがない、自分がもし逆の立場なら間違いなく疑うだろう。
「侑季君?今度は難しい顔をして、やっぱり言いたくないなら私は特に聞く気は」
「いやその!言いたくないわけじゃないんです。ただちょっと表現方法に手間取ってるというか」
こうなったらやけくそだ、さすがに神様のことだけは言えないけど隠し事をしたっておそらくバレるし。
それに嘘をつくのも心苦しい気がするし。
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「異世界から来た...ねぇ。なるほど」
「信じてもらえなくても仕方ないですが、ほんとに俺は異世界から転移されて来たんです」
俺は神様から転移されて来たという部分だけをとりあえず隠して、元の世界で死んだことからこの異世界に来たことを話した。
「話を聞いた以上では不自然なところしかないけど、私が見た不思議な記憶についても納得がいってしまうわね」
オウカは唇にペンの先を当てて難しそうな顔をする。
「あの二人には..その様子だと話してなさそうね」
「はい、イタズラに言うべきことでもないと思ったので」
「そうね、それが正解よきっと」
オウカはふぅ、と一つため息をつくと深呼吸をした。
「素性は私の方でどうにかするわ。どうせミーシャもエリルも身分を偽装して書かなきゃいけなかったわけだし」
「信じてもらえるんですか?自分で言っててもかなり怪しいと思うんですが」
「そうね..かなり怪しい。でも、私人を見る目はちょっとだけ自信があるの」
オウカはそういうと俺の方を見つめていい目をしてるわ、と呟いた。
「それに、エリルやミーシャが信頼してるのよ。私がどうこういう問題じゃないわ」
「あの、ありがとうございます」
「どちらかというとこれからの作業の方が頭を悩ませるわ。異世界から来ましたなんて書けないし、身分から何まで全部偽装しなきゃね。イケナイことをしなくっちゃ」
なんというかすごく申し訳ない気分になる。ギルドに加入する上でそこまで厳しいチェックがあるとは思っていなかった。
「気にしないでいいのよ。主人の守りたい物を守れるよう努めるのが私のやること。それに、私もあの二人のこと大好きなのよ」
オウカはそういうとペンを置いて一言
______あの子達を守ってくれるんでしょ?と
「守ります」
迷いなくきっぱりと答えた。オウカの質問に半端な気持ちで答えてはいけない気がした。
「ならいいわ。じゃあ」
そういうとオウカは書類を書き終えて俺に見せてくる。
「あなたの身分は今から私が書いた通りにしておきなさい。そうすれば怪しまれることはないわ」
オウカはそういうと一つづつ書類の項目を説明してくる。
俺の出生地は"雅"という国になっていた。たしかミーシャと初めて出会った時にこの国の出身と勘違いされた気がする。
話を聞くとこの国の名前というのは俺の名前に近い名付けであるらしい。
たしかにエリルとかミーシャと侑季じゃ全然違うもんな。まず漢字ですらないし。
「私も元は雅の出身だったのよ。桜の花で桜花って書いたの。もう昔の話だけどね」
話を聞く限り雅の国というところは日本に近いのかもしれない。
その仮定が当たっているならたしかに偽装先としてはうってつけであった。
そして身分は俺もミーシャもエリルも旅人であるということにするらしい。
ミーシャもエリルも本当のことを書けるわけがないし俺も何を書けばいいかわからないので任せることにしよう。
「あとは..職業ね。あなたが得意な戦い方ならやっぱり"魔法使い"かしら?」
「いや..実はまだ俺そんなに魔法を使いこなせてないんですよ」
実際俺の魔力はとんでもなくあるらしいがそれを未だ使いこなしていないのでは魔法使いとは名乗れないと思い、俺はどうするべきか迷った。
「あら、そうなの。でもあなたのそのグローブ、依り代よね?」
「あぁよくわかりましたね、そうですよ。[サモン]」
俺は魔力を込めて月影を召喚する。
「相棒、そのためだけに俺を呼ぶのはどうかと思うぜ?」
「あぁ悪い悪い、ごめんな」
「..なるほど、そのグローブは随分と便利な魔道具ね。魔法のコントロールをかなりアシストしているわ」
「というわけで、普通の魔法とかはあまり得意じゃないんですよ」
軽く笑ってお茶を濁す。
使うことはできるけれど加減ができないので結局できないし。
「そうね..ならあなたの役職は」
オウカは思いついたようにペンを走らせて何かを書いたあと俺に見せてくる。
「"召喚士" これで決定かしらね?」
「召喚士..ですか」
たしかに俺の魔法のことも考えるとしっくりくる名前だ。
月影も悪くないと思うといった顔をしている。
俺はそのまま月影を戻してオウカにその名前で決まりですと伝える。オウカは軽く頷くと書類を完成させた。
「エリルとミーシャも登録が終わったわ。それじゃあ戻りましょうか」
オウカはそういうとここに来た時の魔法を使って再び銀の盾のもとに戻ってきた。
転移魔法ってこんなに簡単に移動できるものじゃなかったはずだと違和感を感じていたけど、わかった。
この[蜻蛉返り]という魔法は設定した二つの空間のみを行き来することを可能にする魔法なのだ。
通常[テレポート]や[ワープ]のような転移魔法は思い描いた場所ならどこにでも転移できるようになっているが、この魔法は転移先を絞ることで手間を削減している。
(こういう風な魔法の使い方もあるのか。俺も見習わないと)
俺は密かに魔法についてまた一つ学ぶことができた。
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「あ、侑季君とオウカさん帰ってきたよ!」
「随分遅かったじゃねえか、なんか面倒ごとでもあったか?」
「別に何もなかったわよ。ね?侑季君」
隠してくれるってことか。ありがたい。
「ええ、何もなかったですよ」
目でオウカにお礼をいうと俺は何事もなかったように振る舞う。
「明日になればギルドからギルドカードがここに届くはずよ。そうしたら晴れてあなたたち3人の目的も達成よ」
「そうですか、ありがとうございます」
「いいのよ、こういうのは私たちの仕事よ」
エリルは丁寧に頭を下げてお礼を言い、オウカも微笑みながら言葉を返す。
「ねえ侑季君、そろそろお腹が空かない?もう赤の六を過ぎて白の一だよ」
もうそんな時間かと驚く、たしかに言われてみるとだいぶお腹が空いている。
白の一と言うことは今はちょうど俺たちで言う13時くらいのはずだ。
この世界の一日は青→赤→白→黒の色があり、それぞれに1〜6までの番号がある。
地球の時間で換算するなら番号が1時間毎、色は6時間毎に変わるものと捉えればちょうどいいだろう。
「もうそんな時間だったか、たしかにお腹が空いたか」
ミーシャはだよね!と言って大げさにお腹に手を当てる。オウカが苦笑いをしている。
「ごめんなさいね。それじゃあお昼にしましょうか」
「やったー!私もうお腹が空いて大変だったんだよ」
「準備はもうできてるぜ、それじゃあ戻るか」
モラグの言葉をきっかけに皆地下から上がって食堂へと向かう。