始まりの朝
よろしくおねかいします〜
目が覚める。
『ジリリリリリリリ!!』
騒々しくベルを鳴らしまくる目覚まし時計を目を擦りながら止める。
はあ……。
「あと1秒ぐらい寝れたか」
まあ、大して変わらないが。
〔〕
俺、皐月小豆の朝は普通よりちょっと早いぐらいだ。
だいたい5時45分ぐらいに起床する。
そして、眠い頭を無理やり動かしながら朝食と弁当を作り始める。
「くぁ……」
欠伸を漏らしながらフライパンの上で熱せられている卵をかき乱す。ある程度熱を通しながら混ぜると丁度いいぐらいのスクランブルエッグができる。
皿に盛り付け、今度はソーセージとベーコンを焼き始める。
ガチャっとドアが開いてリビングに妹である千夏が入ってくる。
「ほぉはぁよー……」
「欠伸噛み殺しれてねぇぞ……おはよう」
顔を洗いに千夏は洗面所に向かう。
その間に俺も料理を淡々と進める。
「お兄ちゃん、私着替えてくるねー」
「おう、はよパジャマから着替えてこい」
「わかったー」
洗面所で顔を洗って少しはシャキッとした千夏が部屋に戻る。
「さて」
弁当箱に詰めようと思った時に気づいた。
忘れてたことを思い出してしまった。
弁当箱を見つめ思案する。
「……妹には育ってもらうか」
〔〕
「ねぇ、お兄ちゃん。私のだけすごい多くないかな?」
「気のせいだ」
「いや、絶対多いよ」
ほら見て、と俺の皿と妹の皿を並べ比べるように促してくる。
うん、多いな。
「ね、絶対多いよね」
「兄の心遣いだ」
「認めるどころか開き直ってきたね!?」
「恥ずかしいから言いたくなかっただけだ」
目を逸らしながら答える。
明らかに妹がむーっ、とむくれる。
「嘘でしょー?」
「うん」
「そこは普通否定しないかなぁ!?」
「いや、嘘つく意味無いし」
「じゃあ、最初から嘘つかなきゃ良いじゃん!」
ぷんすか!と怒りながら言ってくる。
ベーコンをひと切れ食べる。
うん、美味しい。
「どうせ、学校だから弁当作らなきゃとか思ったんでしょー?」
「ご明察、妹よ。大当たりだ」
「やっぱりー」
「という訳で景品としてお兄ちゃんのソーセージとベーコンやるよ」
「やったー!って増えたー!?」
ごちそうさま。
何気に食べ進めていたのでそう言って俺は皿を片付け始める。
千夏はもっもっとハムスターのように食べている。
その様子がとてもかわいく愛らしい。
珈琲を入れて食卓に戻る。
「お兄ちゃんー」
「なんだ」
「高校にはメガネつけてくの?」
「当たり前だろ、あれがないと落ち着かない」
「えー」
千夏が残念そうな声を上げる。
「つけない方がかっこいいよ?」
「モテたいわけじゃないからな?」
「なんでー?男子高校生だよ、今日からさ?」
「彼女の一つや二つ作るでしょとでも言いたいのか」
「二つとは言わないけど1人ぐらいは作るのかと思ってたー」
というか、千夏は知っているのだろうか。
「男子高校生には彼女が出来るのは当然だと思ってるのなら間違いだぞ」
「違うの?」
「というより出来ない奴の方が圧倒的に多い」
「へー、でもお兄ちゃんには当てはまらないと思うんだけど?」
「残念、俺はモテない系男子なんだ」
「お兄ちゃんは身内贔屓の目を除いてもかなりカッコイイよー?」
そこで手を休め真顔で言われた。
そんな事言われても俺はナルシストではないので全然嬉しくなかった。
というかこいつ食べながら喋るとか器用だな。……行儀悪いけど。
「メガネぐらい外したらー?前髪で結局顔の半分は隠れるんだし」
「さっきも言ったけど、つけた方が落ち着くんだわ」
「そんなもんなの?」
「そういうもんだ」
「そっかぁ、じゃあメガネだねー。ごちそうさま〜」
「あいよー」
妹が今度は皿を片付け始める。
あれだけの量をよく食えたな。
「洗うぞ?」
「いや、いいやー。お兄ちゃんは先に制服に着替えてきなよ」
「そうか、割るなよ?」
割らないよ!という千夏を置いてリビングから出る。
階段を上がり、奥の右手の部屋に入る。
ここが俺の部屋だ。
シンプルな部屋だ。
パッと見はだが。
机の引き出しに頭から外した男性用のカチューシャを入れる。
その途端に小豆色の前髪が垂れ下がってくる。
それは俺の視界を覆う。
引き出しからメガネを出し装着する。
「よし」
鏡で確認してからクローゼットの中にある真新しい制服に袖を通す。
再び鏡で自分の姿を確認する。
「なかなかの陰キャじゃん」
〔〕
「うわぁ……なんというか、流石だね」
「だろ?」
千夏は俺の姿を見てドン引いていた。
「俺は出来るだけほかの人には関わりたくないんだよ」
それを聞いて千夏はますますドン引きしていた。
「それだけのために尊厳を捨てるあたり本当に流石だね……」
「まあ、お前も流石だな」
「ふえ?」
唐突に話を振られて千夏が狼狽える。
「いや、今日も可愛いなって」
「〜っ!そういうことは簡単に言わない!嬉しいけど!」
「恥ずかしいもんな」
「そ、そう!」
顔を赤くしながらコクコクと頷く千夏。
まあ、俺はこれっぽちも恥ずかしくないんだがな。
「そろそろ行くぞ。忘れ物ないか?」
「ないよー!」
リビングから廊下に出て玄関へと向かう。
「千夏」
「んー?」
「俺が居なくても頑張れるもんな?」
「もっちろん!」
輝くような笑顔で言ってくれる。
1ミクロンもシスコンではないが本当に可愛いと思った。
家の外に出る。
暖かな陽射しが俺らを包んだ。
「頑張れよ」
銀髪の頭を撫でる。
嬉しそうに頬を千夏は緩めた。
「うん!」
「それじゃ行ってくるわ」
「私も行ってくるー!」
ぴょこぴょこと跳ねるように千夏は歩いていく。
ツインテールがその度に振り回されていた。
「さて、今日からも陰キャ頑張りますか」
そう、俺は呟いた。
更新ペースは遅い
( ˘ω˘ ) スヤァ…